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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第二部 マノウ編(ロボット骨格の章)
17/83

16 若手メカニック、リモリ登場。

  四十九、


「男だと思ってた?」

「あ、いや、あの、」

 聞かれたロタは言葉が出ない。図星だったからだ。

 まさか女性だったとは。

 服装も男性用と同じ作業着だし、髪も短いし。

「こらこら、さっきから。言葉遣い」

 社員の口調を聞きとがめ、マノウが叱る。


 工場一階の、仕切りのない広大な部屋。床はコンクリート。作業場の向こうの端まで見渡せる。

 その一角に置かれた、机と幾つかの椅子。ちょっとした打ち合わせや事務作業を行うスペース。

 そこへ、今この工場にいる三名全員が集合している。


 机を挟み、座っている男性二人。ロタはワイシャツとネクタイ、背広用ズボン。

 対するマノウは青い作業着。腕まくりの長袖、下は頑丈そうな長ズボン。ブルゾンとカーゴパンツである。

 傍らに、同じ作業着姿の若者が立っている。

 今、突然、二人の会話に割って入ってきたところだ。


 マノウは、椅子から少し腰を浮かせて、済まなそうな困惑顔で、

「申し訳ないです、突然。監督不行き届きといいますか」

「いやいや」

 ロタは二人を見比べ、とりなすように首を振る。

 マノウは、

「娘のリモリです。弊社の見習いをさせています。年は十九です」

 と、横に立つ若者を紹介した。



  五十、


「ああ、親子でしたか」

 道理で互いの態度に遠慮がないわけだと、ロタは納得する。

「似てますか?」

 と、茶色い大きな瞳でロタを見下ろすリモリ。

 染めているのか、アッシュブラウンのショートヘア。耳も完全に露出しており、後ろ髪も上着の襟にさえ届いていない。父親のマノウより短い。


(おっ、ちゃんと敬語も使えるんだな)

 と、これは口に出さず、ロタは軽くせき払いをし、

「うん、似てますよ。目元とか。言われてみればですけどね」

 ロタは、職場でもプライベートでも、よほどの仲良しでない限りは、年下にも敬語で話す。リモリのような十代相手でも同じ。昔からの習慣である。


 リモリはへへっと照れ笑いをした。親子の仲はいいようだ。

 第一印象はきつそうだったが、笑うとかわいらしい。

 学校のクラスとかでは、男子人気の一位は正統派の美少女に譲るとしても、二位か三位の、影の人気者タイプ。そんな感じがした。

 女性だと判明してから、改めて全身を眺めると、確かに首や肩はほっそりしている。ただ、服の生地が厚いためか、胸元や腰のラインははっきりしない。体型はやせており、身長は、街なかで見かける女子に比較して標準くらい。

 作業着はレディースなのだろうか。父親が着用している服と、デザインは違わぬように見えるが。

 アクセサリー類は着けていない。


 無邪気に笑ったリモリへ、マノウの言葉がとがる。

「まず、その前に、いきなり会話に入ってきたことを謝るのが、」

「ごめんなさい。興奮しちゃいました。あと、話を勝手に聞いちゃったことも」

 父親の注意へかぶせるように、リモリは積極的に謝罪し、頭を下げた。既に笑みは消えている。お育ちは良いのだろう。

 ロタは、

「いや、お気になさらず。驚いただけだから。

 私はロタといいます。よろしくお願いします。

 さっきの言い方だと、リモリさんも事情を御存じのようで」

 言う途中で視線をマノウへ移すと、目が合ったマノウは、

「はい、全部ではありませんが、今回のイリカさんの件、概要は話してあります。もし、我が社で正式にお受けする場合は、手伝わせる予定でしたから。でも、」

 マノウは再び顔をしかめ、リモリを軽くにらんで、

「済みません。まだ、娘に話すのは早かったかもしれないですね。まったく、今みたいなことになるんだったら」

 リモリはばつが悪そうな顔になり、またもや謝りそうだったため、ロタが引き取った。

「もう、いいんですよ。全然構わないです。お若くてもプロでしょう。気づいた点は言ってくださいね」

 マノウはホッとしたように、

「そのようにおっしゃっていただけるのでしたら」

 合わせて、リモリも神妙な顔で会釈した。


「これはね、社交辞令で言ってるわけじゃないんですよ」

 そう言って、ロタは改まった表情でリモリを見上げ、

「さっき私があなたに驚いた理由は、突然話しかけられたから。あと、失礼ながら、女性だったこと。でも、それだけじゃなくて、実はもう一個、大きな理由があるんです」

 それは本当だった。

 リモリもマノウも、真剣な眼差しで黙って聞いている。


「もう一つの理由、それは、」

 たった今、存在を認識したばかりの相手、しかも、自分よりはるかに若い女の子に対して言うべきことかは疑問もある。

 だが、これほどまでにぴたりと符合したのだ。隠す意味もあるまい。

 ぐっと奥歯に力が入る。言おう。ロタは続ける。

「昨日、まさに、イリカ自身にそれを言われたからです。

リモリさんは今、イリカと同じことを言ったのです」

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