14 ロボットとのデートは、容易ではなく。
四十六、
マノウは、ロボットデザイン三案のうち、あとの二つをロタに解説する。
「二つ目の図は、御覧の通りキャタピラーです。クローラ型とも呼ばれます」
「まるで戦車のようですね。あるいはブルドーザーか。ぬかるみに強そう。安定しそうですね」
マノウは、
「そうです。まさしくそれが特長でして。メリットは斜面や荒れ地、段差に強いこと。先ほどのオムニホイールは小さな段差も苦手なのですけど」
ロタは合点が行き、
「ああ、そうか。言われてみれば、オムニホイール型の接客ロボットは、平面フロアーでしか見たことがない気がします」
「はい。また、警備ロボットのような車輪式も、不整地や段差は
苦手です。
もっとも、クローラも完璧ではございません。デメリットは重量があるため電力を使うことです。
最後が、ヘビ型と呼ばれるタイプです。普通は、ヘビの部分のみで独立しています。レスキューや工場の点検に使われます。くねらせて前進します。
ひとまず、御説明は以上です」
「あの、まあ、二つとも斬新だとは思うんですけどね。恐らく、二足歩行よりは安定するのでしょうし」
ロタは言葉を選んで、しかし同意の意思は伝えぬよう注意しながら感想を述べた。
もっとも、マノウも既に十分自覚はしているようで、
「ありがとうございます。私も、プロの立場として、御予算と技術的に可能な選択肢をお示しいたしたまででして」
「はい。例えば、これがペットロボットや、掃除とかを補助してくれるロボットならば、こういうデザインもアリだと思うのです。
でも、イリカは私の恋人になるわけで、やはりその、なんといいますか、もう少し人間に近いものを求めたい気が、私にはするのです」
続きはマノウが引き継いでくれた。
「承知しました。そうなりますと、やはり、私たちが当初は推していた一案目も含めて、ロタさんとしては三案とも余り前向きでない、ということでよろしいでしょうか」
ロタは少し驚いた。
「一案目も含めて」は、自分の口から言わねばならないのだろうと覚悟していたのに、マノウが先に言ってくれたからだ。
「ええ、そうですね、」
と、ロタは数秒の間をあけて、よく考えた。マノウの心遣いに応えるために、じっくり言葉を組み立てて話す。
「先ほどマノウさんがおっしゃったように、二足歩行は電力を使うので数分間しかもたないのでしょう。確かに、それだと、肩を並べて散歩するのは無理ですよね。正直、それは寂しいです」
と、ロタは一呼吸置いて、あとは区切らずに締めくくる。
「しかし、やっぱり、それでも二足歩行は譲りたくないです。一度につき数分しか歩けないのなら、行き帰りは自動車に乗せてもいい。そして、一番歩きたい場所だけを歩いてもらう。夜景の見える丘とか、桜並木の下とか。
私はやっぱり、イリカと肩を並べて一緒に歩きたいです。たとえ十五分であろうと、です。いや、もしか三分でも一分でも。女の子と二人きりで外を歩くのは、ずっとずっと、子供の頃からの長年の夢なのです」
この言葉をしゃべりながら、ロタの頭の中では、今まで思い描いていた「イリカとのデート」シーンが根底から崩れ去っていった。
二人並んで、近所を何時間も散歩するロタとイリカ。
広いお店を一日中歩き回り、買い物かごや紙袋を下げ、ショッピングをするロタとイリカ。
どうやら、これらは実現しそうにないようだ。
あっけないものだ。しかし、
(いいではないか、それでも)
ロタは心の中でそうつぶやくのだった。
(基本的には家で過ごせばいいのだし、外出は車だ、な。何なら、イリカ用の替えの電池を車に何本も積んでさ。そのために、でかい車を買ってさ。はは、大変そうだなあ。忙しい老後になるぜ)
などと考えながら、ロタは密かに少し笑うのだった。