13 オムニホイール型等、マノウ三案。
四十四、
三パターンのイラストは、デフォルメされた少女型ロボットの図で、上半身は同じ絵だが、その下が違っており、それぞれ、
・胴体がそのまま下までまっすぐ伸び、木の根のように下部、プラットフォームが「平べったい円い板」状に接地
・脚の部分がキャタピラー状
・脚の部分が竜の尾のような形状
となっていた。
「……」
マノウにとっても気まずいだろうし、言い出しにくかったに決まっている。それを察したロタは、とりなすようなコメントをしようとして、二回、口を開けたが、二回とも失敗した。まともな声が出ず。
ロタは無言で、食い入るようにイラストを見つめた。
生身の人間に似た、なるべくリアルな美少女ロボットを期待していたロタにとっては、精神的にこたえる絵であった。
場が静まり返る。
部屋の奥では、作業着姿の若者が、黙々と整理棚のチェックを続けている。引き出しを開け閉めするその音が、やけに鮮明に響く。あとは、扇風機の音とセミの声だけ。
マノウの顔からも笑みは消えていた。気遣うような真顔で、ロタを見ている。
そして、ロタが現実を多少受け入れるまでしばらく沈黙を保ったあと、ぽつり、ぽつりと解説を始めるのだった。
「本当に済みません。ショッキングなイラストですよね。しかしながら、現実的な選択肢として提示させていただきました。
確かに、ニュース報道などを見ておりますと、災害対策や軍事、あるいはショーの展示で二足歩行ロボットをよく見かけますし、長時間、歩き続けている事例もあります」
一旦、話を区切るマノウ。
うつむいていたロタも、顔を上げて目を合わせ、しっかり聞いてますよ、の表情を作ってうなずいた。
マノウは少しだけ早口になり、
「でも、そういったものは、政府機関とか大学や企業が手厚いチーム体制を組み、付きっきりでサポートしているからこそ可能なのであって、今回の私たちのような、個人の方への開発の場合には、」
「まあ、確かに難しいかもしれないでしょうな」
ロタは、あえて積極的に口を挟んだ。黙ったままでは気を遣わせると考えたからだ。
四十五、
マノウも首を縦に振った。
ロタの相づちに、若干ほっとしているようだった。
「はい。申し訳ないのですけど、やや厳しいと言わざるを得ません。そこで、私どもの御提案なのですが、技術的、予算的に実現できそうな物が、主にこの図面の三パターンなのです」
「一番上の物は、よく見かけますよね」
と、イラストを指差しながらロタが言う。胴が下へ伸びて、平らな円形の台で接地する物。
「はい。既に接客用として、あちこちで使われています。まあ、アンドロイド型は、余り出ていませんけど。
人と交流するロボットとしては最もポピュラーなタイプでして、今回、私もこちらをお薦めしたいのです。正式にはオムニホイール型と申します」
「オムニホイール。動力は車輪ですかね」
「いえ、内蔵されているのは車輪ではなくボールです」
ロタはふと思い出し、
「そういえば、いつだったか、海外で警備ロボットが話題になりましたね。池に落ちたり、ホームレスの人たちに破壊されたり、プライバシーの侵害だとか言われたり。
でも人気はあるそうで。レンタル料がガードマンの時給より安いらしく」
マノウは表情を和らげてうなずき、
「よく御存じですね。確かに、あの警備ロボットは車輪内蔵タイプです」
「あっ、そうなんですね。あれはまた、違う仕組みなんですね。
で、済みません、脱線して。オムニホイールの解説、どうぞ続けてください」
マノウはむしろ、ロタが口を挟んだことを歓迎している様子であった。先ほどの重苦しさが薄らいだからであろう。
解説を続けるマノウ。
「はい。オムニホイールですが、メリットといたしましては、小さなボールが複数埋め込まれておりますので、どの方向へも床を滑るようにスムーズに移動できること、消費電力を抑えられるため長時間の外出やデートも可能であることです」
「なるほど。ううん、まあ、悪くはないですかね」
必ずしも社交辞令ではなく、少し心が動いた。あくまで少しだが。
そして、マノウもまた、思慮深く慎重な男であった。ロタの本心を正しく把握したらしく、押しを強めるようなことはしなかった。いや、むしろ引き返した。
「何となく、ロタさんのお気持ちは既に固いようにも思われますけど」
「えっ、いやまあ、そんな。その、どうぞ、続けて下さい」
ロタは不意を突かれ、言葉を濁した。
マノウはほほえんだ。この話題に変わってから初めての笑顔だった。
「はい。それでは、ひとまず最後まで御説明だけはいたしますね」