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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第二部 マノウ編(ロボット骨格の章)
13/83

12 二足歩行ロボット、その技術的諸課題。

  四十二、


 マノウの工場へ案内される。

「どうぞ、お入りください。土足のままで結構です」

「失礼いたします」

 マノウの後にロタは続いた。


 地面と建物の床は、ほぼ同じ高さ。手前に、間仕切りとして大型のビニールカーテン。半透明。

 めくって、中へくぐると、うっすら涼しい。冷房が入っている。

 広い部屋は、途中までが二階への吹き抜け。見上げると、天井から下がる蛍光灯も、壁の換気扇も巨大で迫力がある。

 部屋の奥は、二階との間に低めの天井。

 そこには部品の整理棚が並んでいて、すらりとした若者が一人、目録らしき紙を手に、順番に棚と見比べていた。在庫チェックだろうか。

 若者も、マノウと同じ青い作業着姿。


「当社も今は夏季休暇でして、本日出勤しているのは私とあの者だけです」

 と、マノウ。

 やや距離もあり、若者は特にこちらを気にする様子もなく、しゃがんだり立ったりしながら作業を続けていた。


 室内の床は、固いコンクリート。格子状の金網ふた(グレーチング)がかぶせられた排水溝が、隅を長く横断している。道路で見る物より太い。

 辺りには、大中様々な作業用機械が設置されていた。

 歯車やハンドルの付いた旋盤。ドリル。天井から垂れ下がるコードやワイヤー。例えるなら、縮小版の自動車工場といった雰囲気。

 床には工具、部品が転がっていて、造りかけのロボットアームやドローンも置かれている。


 やや奥に、打ち合わせ用らしき簡易なテーブルと椅子があった。二人は向き合って座る。

 挨拶や前置きの後、話は本題へ進む。

「まずは、イリカさんの基本構造についてなんですが、」

 と、テーブル上の書類の束を並べ替えつつマノウが言った。ちゃん付けでなく「さん」付けなのが面白いな、丁寧でいいなとロタは思った。


 続けて、

「やはり、二足歩行を御希望されますか?」

 と、マノウが質問してきた。

 ロタは若干面食らった。えっ、そこからなのかと。そんなのは言わずもがなだと思っていたのだが。

 おずおずと、

「ええと、はい。人間に近い方がいいですし」

「そうですか」

 予想通りという反応ながら、マノウは少し笑顔を弱めて、一瞬、テーブルの書類へ目を落とした。

 それは明らかに、「でしょうね。でも、それなら、こちらとしても、言いにくいことを今から言いますよ」と、覚悟を迫るような表情であった。


(なんだなんだ。初っぱなから良くない感じだな)

 ロタは、背筋を伸ばして次の言葉を待った。



  四十三、


 五秒ほど沈黙した後、マノウは口を開いた。

「先日、海外のロボットが宙返りをする動画も話題になりましたよね。あれを見て、今やロボット技術はここまで進んだのかと思われた方々もいるでしょう。

 しかしながら、あれは世界最先端、資金も人材も豊富だからこそ可能なのであって、私たちがあれを参考にするわけにはまいりません。

 二足歩行のロボットには技術的な課題が多く、特に今回のような一体限り、個人向けの製作ですと、様々な制約がかかってしまうのです」

「例えば、どのようなことでしょうか」

 ロタは、やや身構えるように先を促す。マノウは続ける。

「大きく分けて二点です。第一に、消費電力です。重たい体を二本脚で支えるのはバランス的に難しいため、歩くどころか、ただ立っているだけで多大な電力を使います。まして歩くとなると、更にエネルギーを要するのです」


 ロタは黙って聞いている。

 が、良くない話の流れだという予感は早くもわいてきた。なぜなら、心当たりがあったからだ。

 ここで、マノウはテーブル上の書類のうち一つを手に取る。冊子。最初の方のページをめくり、ロタにも見えるように、互いの中間へ置いた。非常に見覚えのある書類。

(ああ、やっぱりね。そのページの件か。そうだろうな)

 ロタの予想は当たった。


 それは、最初にドワキが作成した見積書であった。

 前半にある、依頼者ロタの「ロボット完成後に叶えたい願望、希望」を記述した箇所だ。

 マノウはロタと目を合わせ、次に見積書へ視線を移し、

「この記述によれば、ロタさんは、完成したイリカさんと街なかや公園を一緒に散歩したい、とありますよね」

「はい。女の子とデートし、肩を並べて歩くのが昔からの夢ですので」

 今さら恥ずかしがっても仕方ないので、ロタは正直に答えた。

 だが、マノウは、この件についての恥ずかしい部分には特に関心もない態度で、あくまで事務的に、

「しかしですね、」

 と、ソフトな口調のままプロとしての意見を述べてゆく。

「その場合、二足歩行ですと、一回のデートで一緒に歩ける時間は、せいぜい十五分程度となりますよ」

「十五分。それはつまり、」

 ロタも考えながら尋ねるので、言葉を慎重に区切って、

「今お話しのように、電力の関係でしょうか。十五分歩いたらバッテリーが切れてしまう、と」

 マノウはゆっくりうなずいた。

「おっしゃる通り、そういうことなのです。十五分も歩けば、バッテリーが切れ、充電をしなければならなくなります。又は電池を入れ換えるか。いずれにせよ、大がかりな設備が必要ですし、時間もかかるでしょう。

 誠に申し上げにくいのですが、余り現実的とは思えないのです。そこでなんですけど、」

 マノウは、見積書の下から別の書類を引っ張り出す。

 今度はマノウが用意したオリジナルらしく、ロタは初めて見る。

 イラスト状の図面で、人間の形をしたロボットが三パターン描いてあった。


「あっ……」

 ロタは思わず声を上げ、続いて、重苦しいため息をついた。

 太い針で心の内側をぶすりと突かれたかのような、鈍い痛みが胸に走る。

 説明を待つまでもなく、一目でマノウの言わんとしていることが分かったからだ。

 三種類のイラストは、上半身は共通していた。コピーであろう。

 しかし、下半身、脚の部分の造りが、三つともそれぞれ大きく異なっていたのだ。

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