3話①
久々の投稿!
クリスマスに投稿せずしてなにが聖夜の物語か!
いやすいません!
コタツという物は素晴らしい。
これは人間が発明した色々な物の中で、特に画期的な代物だとボクは思う。
野良だった頃は知らなかったけど、ひとたびこの温もりに触れてしまえば、世の猫たちはもれなく骨抜きにされ、この場所から一歩たりとも動くことが出来なくなるだろう。
そこはまさに至上の楽園。神が与えし、ボクの、ボクだけの居場所だ。
よって、侵入者は……こうだ――
「――いてっ!」
ボクの右ストレートが火を吹く。
殆ど反射的に放たれた一撃は、コタツの中無遠慮に侵入してきたそいつを容赦なく打った。
「ホーくん! いないと思ったらそんな所に……」
ガバッと布団がめくり上がり、侵入者が顔を覗かせる。
そこにいたのは、とても見覚えのある青年――というかヒデだ。
夜ご飯の後片付けを終えて、寛ぎに来たんだろう。
「あーもう、びっくりした……」
ボクが打った足の甲を擦りながら、恨みがましそうに言う同居人。
それに対してボクは「ごめん」と言うように一声鳴いた。
でも、分かって欲しい。驚いた時や慌てている時、突然の事態に対して猫がとる行動なんて、逃げるか攻撃するかの二択しかないんだ。そしてボクは大抵後者を選ぶ。野良暮らしが長かったが故の防衛本能、それはどうしようもない。
とにかく、悪気はなかったんだ。一応僅かな理性でもって爪は出さずにおいたんだから、そこは評価してくれ。
などという言い訳が通じたのかどうか、
「猫は炬燵で丸くなる……本当だったんだ」
そう言いながら、今度はボクを避けてコタツに足を伸ばすヒデ。
まあ、いいだろう。
本当なら独り占めしたいところだけど、外は(家の中とはいえ)少し冷える。この季節、同居人への配慮は互いの良好な関係のために大切なことだ。
「やっぱ買ってよかったなー。中古だけど全然動くし。去年まではホントに……」
地獄だった、と愚痴るヒデの声に耳を傾けながら、ボクは去年のことを思い出す。
ボクらが出会った季節。確かに、ヒデにとっては辛かったかもしれない。人間にはボクみたいにフサフサの毛が生えてる訳でもないし、そもそも当時は部屋に暖房器具の類が一切なかった。そんな感じだったから、毛布に包まってなにかの蛹みたいになってるヒデをボクは何度も見た気がする。ある時なんて、あまりの寒さで執拗にボクを抱きしめようとするもんだから、全力で逃げ回った。あのうっとおしさは忘れない。ボクは暖房器具じゃないぞ。
(ま、これからはそれもなくなりそうだけど)
そのことにちょっとした寂しさと安堵を感じながら、ボクはコタツで丸くなる。
『――明日は全国的に寒さの厳しい一日となるでしょう』
ヒデがテレビを点けたらしい。
温かな薄暗がりの中に無機質な女の人の声が響く。
「うへー、今日より寒くなるって。明日出掛けるのに……しんど〜」
ため息混じりの声。見なくてもうなだれているヒデの姿が頭に浮かぶ。
そういえば、明日はヒデがいないんだった。
なにやら人と会う予定があるらしい。”がしょう”さん……とか言ったっけ? なんだか大事な用みたいだけど、ボクにはあまり関わりのないことだ。
そんなことより、出掛けるならお土産は期待していいんだろ?
そんなボクの思いが伝わったのかどうか、
「あ、ちゃんとお土産買ってくるから、留守番よろしくねホーくん」
うん、期待して待っててやるから、こちらこそよろしく!
さっき夜ご飯食べたばっかりだけど、もうヨダレが出そうだ。
まあ、寒くなるみたいだし、気を付けて行ってこい。
「……ぁ〜あ」
声にならない声。ドンと、軽く倒れ込む音が聞こえる。ヒデが横になったんだろう。
「雪、降るかなー?」
独り言のような呟き。多分答えは求めてない問いが暗がりに響く。
まあ、どうかな? 分からないけど、降ったらいいなと思うよ。
なんたって、
「……明日で、ちょうど一年か」
そうだ。
ボクらが出会ってから、明日でちょうど季節が一周して、二度目の聖夜が来る。
二人とって記念すべき日。どうせならあの日と同じ雪の中で、あの日とは違う景色を見れたらいいな。
(……なんて)
そんなことを思う自分がちょっとだけ可笑しくて……きっとボクが人間だったなら笑っていたに違いない。
同じだけど、同じじゃない明日。
待ち遠しい。
(楽しみだな)
勿論、お土産がね?
という訳で、
「お? どしたのホーくん」
その場から身を起こしてコタツから出たボクは、そのまま寝転がるヒデの腹の上に乗っかって身を預けた。
「うわ〜、ホーくん温かい!」
ボクの頭を優しく撫でながらヒデがはしゃぐ。
そうだろうそうだろう。コタツで蓄えた熱をそのまま持ってきてやったんだ。ありがたく堪能しろ。
だから、代わりに明日のお土産は一つ、豪華なのを頼むよ!
「ふぁ〜、眠……」
ボクとコタツのダブルパンチが効いたのか、大きな欠伸をするヒデ。
お疲れ、みたいだな。
まあ、最近はなんだか大事なお仕事だって言って、いつも以上に集中して絵を描いてたもんね。頑張りすぎてこっちが心配になるくらいに。
だったら、今日は早めに休んだらいい。明日出掛けるなら尚更だ。
ボクも、今日はもう寝る。
去年の今頃には想像すらしていなかったようなその手の温もりに安心しながら目を閉じる。
きっと、こういうのを人は幸せだって言うんだろう。
ヒデも、そう思ってくれてるかな?
そうだったら、嬉しいな。
そんなことを考えるくらい、ヒデという存在は、いつの間にかボクにとって大きいものになっていた。
「おやすみ〜、ホーくん……」
ああ、おやすみ。
繰り返すけど、明日は気を付けてな。滑って転んだりするんじゃないぞ。自分じゃ気付いてないだろうけど、アンタちょっと鈍臭い所あるからな。
そしてなにより、絶対にお土産を忘れるんじゃないぞ! 他のなにを置いても、それだけは承知しないからな!
と、言うように一声鳴いて――
「…………」
――って、もう聞いてないか。
ま……いいや。
明日はアンタが帰ったら宴会だ。きっといい日にしよう。
既にいびきをかき始めたヒデの寝顔をちらりと見て、ボクの方も再び目を閉じる。
この幸せが、いつかボクが旅立つその時まで、ずっと続くようにと。
我ながららしくないことを願いながら……。




