原因
翌日、夕方私は公園にいた。もう着いてから20分がたっているのにまだ来ない。といっても15分早く来たので5分遅れているだけだけど。
『ごめん!待った!?』
ゆうりが焦った顔で自転車から降りてきた。
「ううん、大丈夫だよ。」
『よかったぁ。昼寝してたらそのまま寝ちゃってたよ…』
ゆうりは困り顔でそう言ってからベンチを指さし、とりあえず座ろう、と促した。二人には少し大きくて、両隣には一人ずつ人が座れそうなベンチだった。
座ってから少しの沈黙が続いた。何をすればいいかわからず、ずっと自分とゆうりの靴をながめてぼーっとしていると、ゆうりがお〜い、と私の顔の前で手をひらひらさせてきた。その手は女の子とおなじくらい細くスラッとしていた。夕日の光の結晶と共に見るゆうりの指先は、まぶしくてぼやけているけどどこか鮮明だった。
「綺麗な手…。」
自然と出た言葉だった。そして気がついたらゆうりの手を握っていた。自分で握っておいてあれだが、何も言わないゆうりに少し安心した。安心感と共に涙が出そうになった。
なんだか心が不安定だ。ただ手を見ただけなのに感動して、ひとりで静かにそれに浸っている。そしてほんとに何も考えずただ無心に手を見つめていた。
そんな状態が続いて2分くらいだろうか。
綺麗な手が私の手を握り返し、グイっと引き寄せ、私の体が綺麗な手の持ち主の体に包みこまれた。
「ちょっ、ゆうりどうしたの…?」
さすがにびっくりした。だが、ゆうりは答えない。
ゆうりはあたたかくて、いいにおいー且つ大人な香りーがした。
私はことの状態が把握できず、ほぼ何も考えられなかったが、今はこのままでいたい、それだけは強く思っていた。
「ゆうり、私…。ふられちゃった。すぐるの彼女になりたかった。手を繋いでハグもしたかった。キスだって…。」
ゆうりは何も言わない。だが、私に言い聞かせるかのように決して前向きとは言えない言葉が自分の口から次々と出てくる。
自分の気持ちを言葉にできない。私の目からは涙がひとつぶ、こぼれ落ちてしまっていた。
「でもふられることなんて最初からわかってた。ただちょっと変な期待をどこかでしていただけで、幸せになれないことなんてわかってた。」
違う…。こんなことが言いたいの訳ではない。
でもわがままな口は止まらない。
「こんな自分勝手でわがままな子が彼女なんて誰だって…」
嫌だよね、と言おうとして、ゆうりの声に遮られた。
『それ以上何も言わなくていい。あささんの気持ちはわかるよ、わかってるから…。つらかったね。頑張ったね。もう大丈夫だよ。』
そしてまた、ゆうりはぎゅっと私を抱き締めた。潤んでいた私の目から今度はひとつぶどころではなくおおつぶでたくさんの涙がこぼれおちた――…