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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第三章 キュメルニア・ローレライ (Cjumelneer Loreley)
58/264

6. キュメルニア機械群


 

■ 3.6.1

 

 

 今までデブリ群を示す雲の様なぼんやりとした表示だったものが、敵性の艦船を示す赤いマーカーに置き換わっていく。

 視野の真ん中辺りにパラパラと生まれ始めた赤いマーカーは、まるでさざ波の様に瞬く間に視野全体に広がっていき、前方の空間一帯を埋め尽くす。マーカーとマーカーが重なり合い、すでに前方の表示は真っ赤な大きな塊となっている。

 

「キュメルニア機械群、さらに加速しました。先頭艦艇接触まで44秒。武装不明。諸元不明。現在、三万八千隻をカウント。まだ増えます。推定総艦艇数八万以上。」

 

 ルナの報告を聞きながら、レジーナを回頭させる。

 そしてフル加速。

 眼の端で常にシールドゲージを捉え続けながら周囲を見回して、何か使えるものが無いかと探す。デブリ群でも、惑星系でもなんでもいい。

 しかし、宇宙空間にそう都合良く障害物が転がっている訳も無い。

 俺の眼に映るのは、鮮やかな赤や目も眩みそうな白に輝き渦巻くプラズマ化したガス雲ばかりだった。そしてそのガス雲さえ、何光時もの彼方にある。隠れたり、遮蔽物や障害物として使えそうな物体は、いまレジーナの周辺には皆無だった。

 

「キュメルニア機械群、さらに加速。本船のシールド限界速度を超えて加速しています。逃げ切れません。」

 

 クソ。向こうはヒトなどの生体が乗っていないからな。少々放射線や電磁波を受けようとも関係なしだ。

 

「ホールドライヴ可能か?」

 

「可能です。追跡されて同時にホールに入られる可能性があります。ホールに入る前に機械群の武器の射程内に入る可能性が非常に高いです。

「キュメルニア機械群さらに増速。先頭接触まであと38秒。」

 

「それでもいい。何もしないで真っ直ぐ逃げるよりマシだ。ホールドライヴ用意。」

 

「諒解。ホールドライヴチェックシーケンス開始。」

 

「チェックなんてどうでも良い。すぐに動かせ。」

 

「無理です。ホールドライヴ起動シーケンス開始には、チェックシーケンス完了のフラグが必要です。キャンセル不可能です。」

 

「ブラソン、ホールドライヴシステムをハッキングできるか?」

 

「30秒じゃ無理だ。一応やっとく。」

 

 こいつの事だからとっくにやっているかと思っていたが。ああ、そういえば「貸与」されているんだったな。ハッキングした事がバレたら報酬はパーだろう。

 俺は相変わらず使えそうな障害物を探している。

 

「接触まであと20秒。」

 

 レジーナの後ろには、まるで雲の様に機械達の艦隊が広がる。まさにレジーナを後ろから飲み込もうとして触手を伸ばすアメーバの様に後ろから迫ってくる。

 シールドゲージが100%に達している。濃いプラズマ流を横切っている訳では無い。すでにシールドが限界の速度まで上がっている。

 しかしそれでもまだ増速する。

 増速するが、機械達の加速の方が上回っている。

 

「え?」

 

 ルナが妙な声を上げた。

 同時に、シールドゲージの表示に「FAILURE: CHECK ON SENSOR」という文字が重なる。何だ?

 

「シールド出力センサー故障。シールド負荷を計測できません。後部船体外放射線センサー故障。後部船体外電磁波センサー故障。」

 

 シールド負荷と到達放射線を検知できなければ、高濃度のプラズマ流に突入した時の生存環境の維持が難しくなる。

 それがどうした。まだジェネレータは動いている。

 奴らに追いつかれれば、どのみち生きてはいられない。

 

「接触まで10秒。機械群との距離120万km。妙です。機械群からの攻撃がありません。大口径レーザーであればすでに射程内です。」

 

 後方から追い詰められて一斉砲撃で蒸発する恐怖に心臓を絞り上げられる。

 

「機械群、本船を包囲し始めています。接触まで5秒。

「ホールドライヴチェックシーケンス完了。今ホールインすると、推定120隻の機械群が同時にホールインします。」

 

 ホールドライヴは、要は空間にあけた穴を通り抜けるだけだ。理屈の上では、ホールドライヴデバイスを持っていなくても、持っている船に接近して同航すれば一緒にホールインすることができる。もちろん操船は非常に難しいものになるが。

 八万隻よりも百二十隻の方が遙かにましだが、ホールドライヴ中に攻撃されるのはご免だ。確実にホール内壁に接触するだろう。

 例え百二十隻しかいなくても、所詮は貨物船でしかないレジーナはどのみち一瞬で蒸発させられる。

 

「ホールドライヴシーケンスホールド。クソ。なんで撃ってこない?」

 

「ホールドライヴシーケンスホールドしました。チェックフラグ有効時間は十五分です。スキャンレーザー照射を受けていますが、レーザー砲口がこちらを向いていません。攻撃の意志がないようです。」

 

 相手は機械だ。攻撃の意志が全く無いなどということはあり得ない。本来、人が乗った船を見つけたら見敵必戦で撃ってくるのが奴らだと聞いている。例えレーザー砲口がこちらを向いていなくとも、何らかの攻撃手段を用意しているはずだ。

 マッピング表示では触手を伸ばした巨大な赤い雲が、緑色の小さな点で表示されたレジーナを今まさに飲み込まんとしていた。

 

「船体後部センサー類故障率、70%に達しました。故障領域が急速に船体全体に広がりつつあります。」

 

 こんな時にレジーナの調子もどんどん悪くなる。もっとも、絶好調の時でもシールド負荷の速度制限がかかって逃げ切れはしないのだが。

 

「機械群先頭が本船を追い越しました。包囲されました。」

 

 それでも奴らは撃ってこない。なぜだ。

 恐ろしい想像が頭をよぎる。

 キュメルニア探査船のように、奴らに捕らわれ、この後何十万年も救難信号を出し続けるレジーナ。

 キュメルニア・ローレライはまさにその名の通り、欲の皮の突っ張ったマヌケな冒険者気取りの愚か者を呼び寄せるための餌ではなかったのか。

 呼び寄せられてしまった俺たちは、機械達に原子レベルまで分解され、再構築されて連中の艦船建造用の資材となるのではないか。

 だから、砲撃で爆散してしまわないように、資材を少しでも失わないように、大事に包囲しているのではないか。

 

「エンジンルーム内にナノマシン反応。急速に増大しています。ナノボット駆除機能処理が追いつきません。除去速度より供給速度が大幅に上回っています。ナノボット船内で大量に発生しています。」

 

 なんだって?

 バラバラに報告された情報が意味を持つ。そして繋がる。

 ルナが訴えていたレジーナのセンサー不調は、センサーがナノボットに食われた為か。

 どこかの段階で船殻に取り付いたナノボットが、検知されないようにプラズマからのノイズに紛れてレジーナのセンサー類を食いつぶし、自分たちの存在を隠す。次々とセンサーを侵蝕したナノボット達は徐々に自分たちの安全領域を増やし増殖する。

 たぶん、キュメルニア星団に進入したところでナノボットは船殻に取り付いていたのだ。シールドはもちろんナノボットも弾き飛ばすが、何億何兆と存在するならば、確率の問題で船体に到達するものも多数出てくる。極端な話、始まりは一匹のナノボットで十分なのだ。

 そしてレジーナを蝕みつつナノボットは徐々に増殖する。

 レジーナがキュメルニア・ローレライに到達したところで、罠を張っていた機械の艦船がレジーナを追跡する。

 そしてそれに呼応するように、船内に潜伏していたナノボットが一斉に活動を最大にする。センサーを奪われ、感覚をなくしたレジーナはそれを検知できない。検知したときには既にもう手の着けられない状況になったとき、つまり、今だ。

 

「エンジンルーム全体からナノマシン反応。燃料タンクでもナノマシン検知。急速に侵蝕されています。」

 

 やられた。

 エンジンルームをやられたらもう助かる道はない。

 リアクターとジェネレータをやられ、パワーを乗っ取られ、ナノボットは居住区に侵入する。MPUを乗っ取られ、船の各種システムが使用できなくなり、ナノボットに対抗手段が打てなくなる。そして人間もナノボットに喰い尽くされる。

 

 マッピングを見る。機械群の艦艇で構成されている赤色の雲は、レジーナを完全に包み込んでいるが、一定の距離を保っている。

 レジーナが喰い尽くされて分解され、奴らの資材へと変わるのを待っているのだろう。

 それはまるで、真っ赤なアメーバがレジーナを取り込み、消化されるのを待っている姿に見えた。

 

「ルナ、MPUを守れ。おまえ自身を守るんだ。」

 

「諒解。ですが、守り切れません。ナノボットの増殖速度が速すぎます。非常対抗手段としてレジーナAI本体を生義体ルナにロードします。承認願います。」

 

 それは敗北宣言でしかない。しかし他に採れる方法もない。例えそれがただの気休めで、破滅の時を僅かに先延ばしにするだけの処置だとしても。ナノボットが生体を侵蝕しないという保証は何もない。人体から重金属は僅かしか採れないだろうが、炭素は大量に採集できる。

 それでも、あきらめて何もせず無抵抗に喰われるよりはましだった。

 

「許可する。」

 

「ありがとうございます。AIプログラム『ルナ』、生義体へロード開始。ロード完了まで1分3秒。

「リアクター侵蝕されています。居住区にナノマシン反応。侵入されました。コクピット内ナノマシン反応はゼロ。」

 

 時間の問題だ。

 

「船内システムが論理的手段によってハッキングを受けています。最大限の防御を行い『ルナ』転送時間を確保します。」

 

「クルーをシステムから強制ログアウトする。」

 

 ブラソンの声が響いた瞬間、視野がコクピットに切り替わる。

 俺の目の前に座っているブラソンを見ると、まだシートに深く腰掛けたまま身動きしない。多分、ブラソンはシステムへの侵入をとっくの昔に検知しており、そして今もまだ戦い続けているのだろう。

 

「操縦士ログアウトを検知。船長ログアウトを検知。緊急自動操縦に移行します。

「リアクター#1 停止。総出力40%ダウン。侵蝕は加速度的に進行中。

「最終生存シーケンス開始。非常用バッテリコイル急速充電。救難信号発振。救難信号コマンド、キャンセルされました。通信機能がすでにダウンしています。」

 

「ダメだ!ログアウトする。」

 

 ブラソンが叫ぶように言う。

 

「システム空間の半分以上がもう占領されている。船体各所のサブプロセッサからハッキングコードが大量に打ち出されている。敵の数が多すぎる。対抗しようにも手数が違う。MPUが落ちるのも時間の問題だ。すまん。」

 

 コンソールを拳で殴りつけたブラソンが、俯き絞り出すような声で言う。

 

「AIプログラム『ルナ』生義体にロード完了。」

 

 ルナの肉声が報告する。

 

「管制システムハッキングを受けています。防衛モジュールおよび補助システム『ノバグ』対抗しています。システム陥落まで7秒。生命維持システム、サブバッテリコイルに切り替えます。」

 

 コクピット内に、ルナの声でレジーナAIの報告が響く。

 

「申し訳ありません、マサシ。これ以上耐えられません。オリジナルAI消滅します。さよ・・・」

 

 コクピットに響くレジーナAIの音声が不自然に途切れた。

 それを継ぐように、ルナの肉声が現状の報告を続ける。

 

「強制ログアウトされました。船内船外ともにモニタ不能です。船体コントロール不能です。ログアウト直前の状況を報告します。船体外殻侵蝕率不明。居住区侵蝕率80%。コクピット侵蝕率5%。リアクター#1停止。リアクター#2侵蝕率50%以上。リアクター#3侵蝕率50%以上。ジェネレータ侵蝕率不明。船内システム侵蝕率・・・」

 

 俺は立ち上がり、通路を隔てて隣の機関士席に座っているルナの肩に手を置いた。

 

「もういい。もういいんだ、ルナ。おまえは良くやった。」

 

 ルナは黙り、そしてそのまま表情も変えずに虚空を凝視している。

 変わらない表情だが、明らかにルナの眼は船殻の彼方にいる機械達の艦隊を睨みつけていた。

 ルナの頬を透明な液体が一筋流れる。

 彼女が眼球の粘膜を保護洗浄する以外の用途で涙を用いたのは、多分これが初めてだろう。

 それは、半身のレジーナと切り離されたことの悲しみの涙か。機械群に打つ勝つ事が出来なかった事に対する悔し涙か。

 

 コクピット内に静寂が訪れた。船の機関部ももう動いていない様だった。

 

「さて。そうは言っても諦めて死ぬのを待つのは趣味じゃない。何が出来るか考えてみようか。」

 

「船外作業服でも着ておくか?」

 

 と、ブラソン。

 

「いや、止めておいた方がいい。ナノボットに侵蝕されて動作不良になったとき、短時間で窒息する。」

 

「通信設備を直接叩いてみるか?」

 

「やってみてもいいが、パワーがな。量子通信ユニットを動かすパワーがコイルから取り出せるかな。候補その1だな。」

 

 その後もブラソンとお互いに案を出し合う。ルナは終始無言。そしてアデールは沈黙したままだ。

 結局、決定的な良案は出ない。当たり前だ。最寄りの居住地から数百光年離れたプラズマ流荒れ狂うこんなガス星団の中で、パワーが落ちて徐々にナノボットに侵蝕されていく船の中で、生き延びる策などある筈がない。

 アデールが目を覚ます。顔が恐怖にひきつって、眼が真っ赤に充血し、大量に発汗している。完全に恐慌状態だが、あまりの恐怖に身動きさえとれないらしい。情報部員がそんなことじゃいかんと思うのだが。

 死を前にして人は嘘をつけない。誰かが言っていた。

 俺たち船乗りはいつも死ぬかもしれないと覚悟をして船に乗っている。地上勤務の武官じゃ、そうはいかないだろう。

 

 俺の方を向いていたブラソンの眼が見開かれた。その視線の先を追う。

 コクピット入り口ハッチが、音も立てず白い煙となって徐々に消えていく。その煙とは別の白い煙が、通路からコクピットに流れ込んでくる。ナノマシンの雲だ。白い煙は思ったよりも速く床近くを流れ、コクピットに行き渡る。

 自分の足下に渦巻く白い煙を眺めながら、無理に作った笑顔で話す。

 

「来たか。ブラソン、ルナ、済まないな。付き合わせてしまって。」

 

「いいや、お前と来たのは俺の選択だ。楽しかったぜ。」

 

 ブラソンが足下を気にしながら、額に汗を浮かべて無理に笑う。

 

「短い間でしたが、私は幸せでした。」

 

 ルナが相変わらず無表情にこちらを見て言う。

 アデールが喉を締め上げたままでひきつった呼吸をするような、声にならない掠れた悲鳴を連続して上げ続けている。ここに来て身体が動くようになったか、髪を振り乱して半狂乱になりながらイヤイヤと首を振って絶えず悲鳴を上げつつ、ナノボットの白い煙から逃れるためにシートの背もたれに上り、コンソールの上に乗り移り、さらに壁によじ登ろうとしている。

 アデールが足を滑らせて床の上に落ち、白い煙に包まれる。さらに絶叫があがり、アデールのいる辺りから水音が聞こえた。お前、人の船で。まあ、今更だが。

 白い煙は量と濃度を増し、シートに座る俺たちを包み込む。コンソールはもう見えない。白い煙が壁を伝って這い上がっていくような、不思議な光景が見える。

 

 ・・・おかしい。

 俺たちは完全に白い煙に包まれている。同じようにナノボットの煙に包まれたシートやコンソールの表面の色が変わり、明らかに侵蝕されているのに対して、俺は痛みや痒みなど、体の不調を何も感じていなかった。

 完全に白い煙に包まれ、息苦しくなることもなく、しばらくしてナノボットの白い煙は徐々に薄れ、晴れていった。

 横の機関士席のルナを見る。ルナは変わらぬ無表情でこちらを見返している。

 俺の前の航海士席でブラソンがもそりと身体を動かし、首を曲げてこちらをみた。

 

「二人とも、大丈夫か?」

 

「ああ。不思議な事に生きている。身体も何ともない。」

 

「問題ありません。演算に障害ありません。感覚も普通と変わりません。呼吸に問題ありません。」

 

 アデールは・・・だめだ。完全に白目を剥いて失禁した水溜まりの中に横たわっているが、生きているようだ。シートに戻すとシートが汚れる。このまま放っておこう。

 

 そう言えば、コクピット内をほの暗く照らす非常用照明が落ちていない。明らかに、ここに人間がいるので明かりを残した、という意志が見て取れる。

 どういうことだ?あのナノボットは高度な選択性を持って侵蝕していったということか?

 

「なぁ。俺には、ナノボットがとんでもなく利口なように見えるんだが。」

 

「ナノボット同士の通信の内容は、パワーが非常に微弱で捕らえ切れません。ただ、極めて頻繁に通信が行われていることだけは分かります。」

 

「多分、ナノボットのネットワークがある。司令塔から指示が出てるんじゃないか。拾おうとしているが、取っ掛かりが良く分からない。プロトコルが標準と随分違う。」

 

 只のナノボットじゃない。多分、機械達の艦隊の中に司令塔が居るのだろう。どういう意図を持っているのか判らないが、とりあえず今俺たちを殺す気は無い様だった。

 問題は、では生かしておいて何をさせるつもりなのか、と云うことだが。こればかりは連中に訊いてみるしかない。色々想像していても、想像力は悪い方に傾いていく。餓死や窒息死させるつもりなら、船体と一緒に分解してしまえばいい。何か目的があって残したのだろう。であれば、そのうちに何らかのコンタクトがあるはずだ。

 

 それから随分経つ。

 相変わらず機械達からは何も言ってこない。俺たちは、互いが確認できるようにそのままコクピットに居た。アデールは、真っ赤な顔でうつむいて黙ったまま一度自室に戻ったようだが。

 何時間も経ち、当初は殺される恐怖や、訳の分からない状況に置かれている事による神経の高ぶりがあったが、それも徐々に落ち着いてきた。

 これも明らかに意図的に分解を免れたと思われる非常用食料で食事を摂り、俺たちは自分のシートの上でウトウトと寝入っていた。

 

 妙な物音で目が覚める。そうは言っても眠りは浅い。何かあればすぐに目は覚める。

 どこからか規則的な音が聞こえる。足音に似た、ペタリ、ペタリという音が聞こえる気がする。

 大きくリクライニングしたシートに横たわったまま耳を澄ます。

 確かに聞こえる。

 シートの背もたれを起こす。その気配でルナとブラソンは目を覚ましたようだった。

 

 ブラソンが振り向いて目が合う。

 

「聞こえるか?」

 

「ああ。ローレライの魔物のお出ましか?」

 

 俺たちの話し声でアデールも目を覚ましたようだ。操縦士席の上で起きあがる気配がする。

 横を見るとルナが変わらない無表情な顔でこちらを見ている。

 ヒタ、ヒタというゆっくりとした足音は、明らかに大きくなっていて、コクピットに近づいてきている。

 ペタリ、ペタリ。

 アデールがシートの上でじたばたする音がうるさい。頭を抱え、荒く短い呼吸をしながら耳を塞いでシートの上で丸まってしまった。こいつはそろそろ壊れてしまうのではないだろうか。

 その足音は、通路を通り、分解されて消滅したハッチを通り抜けてコクピットの中に入ってきた。

 ペタリ、ペタリと進み、そして俺のすぐ脇で止まった。

 

 ローレライの姿を見てやろうと右を向いた俺の眼には、機関士席に座って無表情にこちらを見ているルナと、俺の横の通路に立ち俺を見下ろしている裸のルナが見えていた。

 

 

今、仕事で移動中の電車の中でこの後書きを書いています。新幹線だとまだましなのですが、在来線だとやはり隣の席の人の視線が気になってなかなか書けません。

でも、車窓の向こうにずっと広がる金色の麦の穂を眺めていると、なんか良いアイデアが湧いてきそうな気もします。

でも、普段通り、静かな公園の駐車場に止めた自分の車の中で書いているのが一番集中できるのですけれどね。

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