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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第三章 キュメルニア・ローレライ (Cjumelneer Loreley)
53/264

1. 知性の生存権


■ 3.1.1

 

 

 ハバ・ダマナンの軌道ステーションの名前はエレホバという。マジッド語でそのまんま「軌道ステーション」という意味だ。ハバ・ダマナン上空35000kmで惑星を一周する環状軌道ステーションだ。

 今、レジーナはエレホバのピアに停泊しており、俺とブラソンはエレホバの中のバーでカウンターに肩を並べて酒を飲んでいた。

 

 ブラソンはジャンク屋の帰りで、掘り出し物のパーツがあったとホクホク顔で喜んでおり、最近はまっているらしいピナ・コラーダを美味そうに飲んでいる。

 奴曰く、パイナップルの香りと酸味と、ココナツの甘い香りが絶妙なのだそうだ。次に地球に行く時には、必ずパイナップルジュースとココナツジュースとラム酒を買うのだと握り拳を固めている。

 奴が買ったパーツは、すでにレジーナのブラソンの個室に設置済みの外挿サーバと、船内ネットワークのアクセスポイントの間の通信速度を上げる物らしい。これで全体の速度が10%ほど向上する、とブラソンはご機嫌だ。

 太陽系を出て、最初のハバ・ダマナンへの寄港の時にブラソンは自分専用のサーバを買い込んで個室に設置していた。最近は暇な時間があれば個室にこもって何か作業をしているようだ。何をしているかまでは良く知らない。

 もっとも、聞いたとしても俺には奴の言うことが分からない。俺はネットワークにはそれほど詳しくない。

 

 俺はと言うと、つい昨日まで請け負っていた宝石の輸送の仕事を終え、その収入をもって俺個人のクレジットの収支がやっと黒字転換した祝杯を挙げるためにブラソンの隣でギムレットのグラスをあおっていた。

 ハフォンの一件でデカイ金を掴んだは良いが、最新装備だらけのレジーナを造るので結局足が出て、以前から抱えていた借金を返しきることが出来なかった。 太陽系を出て、あれから数度の仕事をこなし、今回の仕事でやっと完全に借金を返し終え、クレジット収支が完全に黒字となった。

 喜ばしいことだ。今手元には、普通の事務員が稼ぐ一月分の給料程度の金がある。これでやっと気分良く酒を飲むことが出来るというものだ。

 

 今回は、俺の隣には怪しい娼婦も居らず、そして後ろからいきなりブルカ姿に声をかけられたりすることも無かった。

 俺達は、俺の左隣に座ったエネデ人のパイロットと当たり障りのない話をしていた。いわゆる、業界の情報交換というやつだ。どこぞの星系で新しい鉱山が発掘されて、その鉱石の輸送でガッツリ儲けてるやつが沢山いるだとか、どこぞの星系外縁部で艦隊戦が始まったらしいので近付く時には気を付けろ、とか、そんなような話だ。

 もちろんそんな話はネットワークでいくらでも手に入る。だが、ネットワークのニュースが全て真実だとは限らない。政治的なバイアスや、どこかの大富豪の圧力がかかって情報がねじ曲げられているなんて話はザラだ。ネットワーク上では縦横無尽の活躍をするブラソンでさえ、こうやって顔を突き合わせて直接仕入れる情報の有用性を認めている。

 

 そんなとき、レジーナから俺達二人に通信が入る。

 

『マサシ、ブラソン、太陽系発でスクランブルメッセージを受け取っています。緊急性は中。適当に切り上げて戻ってきてください。』

 

 緊急性が「中」ということは、普通のメッセージだ。スクランブルがかかっていると言うことは、何か余り人に知られたくない情報が埋め込まれているのだろう。なんだろう。もしかしたらまた例の「Red Sun」絡みの話だろうか?

 俺とブラソンは顔を見合わせ、それぞれのグラスに残った酒を一気にあおる。

 

「じゃ、な。面白い話が聞けて良かったよ。あんたいつもここにいるのか?また来るよ。」

 

 俺がエネデ人パイロットに声をかけると、男は驚いたようにこちらを見た。

 

「なんだなんだ、もう行っちまうのか?もう一軒行かないか?良い娘がいるんだよ。最近出来たばっかりの店でさあ、若い子が常駐で四十人だぜ?種族も選び放題でさ・・・」

 

 エネデ人の好みと俺の好みが一致しているかどうか分からない。

 種族による美的感覚の差というのは案外大きいもので、例えば地球人的に見ると相当な美少女のルナだが、ブラソンに言わせると普通よりチョイ下、位なのだそうだ。鼻が小ぶり過ぎるのと、眼がきつすぎるのと、最大の欠点は骨格が華奢過ぎることだと言っていた。

 確かに奴が挙動不審になっていた、セレスのタクシー配船係の娘や、シャルルの所のアンジェラは、優しげな眼に良く通った鼻筋を持っている。ごついという程でも無いが、それなりの肩幅があってそれに見合った上背があった。

 ブラソンの好みの問題かと思ったが、パイニエだと「高く鼻筋の通った鼻」は絶対条件なのだという。

 

「済まないな。俺の彼女から通信が入ってな。寂しいからすぐに帰ってきてダーリン、と言われちまった。」

 

 そのエネデ人の男は、俺の台詞を聞いて、ニヤニヤしながら一緒に席を立ったブラソンの顔を見てから言った。

 

「彼女?なんだ、仕事の依頼でも入ったのか?羨ましいねえ。また来いよ。俺は良くここにいるから。」

 

 船を女に擬人化して話をするのは、何故か銀河共通だ。

 多分、女が出来ない野郎どもが強がりを言うのが銀河共通だからだろう。

 もっとも、レジーナの場合は実際に船の名前が「月の女王」で、船に入ると本当に女が一人いるのだが。

 

 ちなみにルナは、太陽系外ではほとんど船から外に出ることが出来ない。

 地球船籍であるレジーナの船内は、治外法権区として地球の法律が適用される。このため、レジーナのAIは地球の法律に基づいて基本的な人権を保障され、ルナはその生義体端末として通常のAI同等の権利を有する。

 しかし一歩レジーナから外に出ると、そこはAIを忌み嫌う銀河種族達の領域だ。ルナがAIの生義体であるとバレた瞬間に大騒ぎになるだろうし、最悪捕縛されるか、酷ければその場で問答無用に射殺される。

 

 実はここはちょっとややこしくて難しい問題なのだ。

 ルナは、レジーナのAIの生義体端末だ。つまり、本体はレジーナAIそのものだ。

 では、レジーナAIの存在はどうなる?ということになる。

 解釈は二通り在る。

 一つは、「AIに制御された艦船が存在している」と解釈する場合。

 他方は、「地球船籍の船の中にAIが存在している」と解釈する場合。

 これら二つの解釈の差は、その結果大きな差を生み出す。

 前者であれば、レジーナAIの存在がバレれば、レジーナは銀河種族達によって問答無用で破壊される。

 後者であれば、レジーナ船内には地球法が適用されるので、レジーナAIには生存権があると主張できる。

 

 銀河系は、全ての種族が参加した汎銀河戦争のただ中にあるので、銀河系全体を管理下に置く「銀河連合」の様な組織は無く、従って銀河系全体に効力のある「銀河法」の様なものは無い。

 だからAIに対する忌避も、AI使用の禁止を法律で定めている国もあるにはあるが、銀河全体で見るとあくまで慣習的なものでしか無い。なぜなら、「ただの」プログラムとAIの間の線引きが難しく、汎銀河戦争の交戦規定のように簡単に明文化できるものでは無いからだ。

 アンジェラやアンリエットの様に、明らかに自分の意思を持ったものは確実にAIと見なされるのだろうが、何を持ってAIとするのか、という問題がついて回る。

 学習することがAIであるなら、蓄積されたデータベースを参照して処理を提案できるプログラムはAIなのか?

 学習によって効率を向上させるのがAIならば、前例を参照して処理速度を上げることが出来たプログラムはAIなのか?

 ではそもそも、データベースはAIではないのか?

 

 もちろん、もし何かあった場合には「生物としてのヒトである俺が船長である地球船籍の船の中に、操船を補助するAIが存在する」と主張する気だ。

 理知的な連中はそれで渋々納得もするだろう。

 だが、それでも問答無用で撃ってくる頭の悪い連中もいるだろう。

 三十万年もかけて染みついたタブーは、そう簡単に払拭できるものでは無いことは承知している。

 だから俺は、いや俺達は、レジーナの中のAIの存在を隠し続けなければならない。

 そうまでしてなぜ、面倒の種になりかねないAIを使うのか。

 AIがもたらす恩恵が、面倒な部分を補って余り在る程大きいからだ。

 一度に色々なことが起こって、細かなことまで気が回らない場合。

 何かに気を取られて、別の重要なことを見過ごしてしまった場合。

 例えば、1億km先に小さな空間の揺らぎが発生した場合。

 例えば、ミリ秒単位での連続したコントロールを要求される場合。

 AIであればそれらの事態をコントロールできる。ヒトには出来ない。

 さらに、十分に経験を積んだAIであれば、それが突発的に発生しても瞬時に正しく対応し、ヒトが気付きもしない間に致命的な問題を収束できる。

 ヒトには出来ないことが出来るのがAIだからだ。

 

 だが一つだけ不思議なことがある。

 ブラソンだ。

 もちろん所謂銀河種族の一つであるパイニエ出身のブラソンが、なぜAIに拒否反応を示さないのか、面倒な思いをしながらレジーナAIやルナをなんの抵抗もなく受け容れているのか。

 ネットジャンキーだから、そういうものにアレルギーが無かったのか。

 それとも、セレスの配船係のお姉さんが、そんなに気に入ったのか。

 いつか、時間がある時に聞いてみよう。

 

 

■ 3.1.2

 

 

 通信は、シャルルからのものだった。

 なので、最初はなにかレジーナに関することか、もしくは「Red Sun」に関するなにか追加情報かと思っていた。

 アステロイドJ区警察署には、連絡先としてシャルルの造船所を教えてあった。俺は民間企業や商船組合に所属していないので、太陽系内に拠点というものを持っていない。

 かといって、警察組織に船の量子通信IDを知られるのはぞっとしない話だった。

 

 予想は外れた。

 

「仕事あり。至急連絡請う。」

 

 ・・・これは、スクランブル掛けなきゃいけないような内容か?

 そういう意味では無いだろう。こちらから連絡する時に、ハッキングの恐れのある回線を一切使うな、という意味だろう。

 一体どんな面倒ごとを持ち込まれるのか、嫌な予感しかしない。

 とは言え、この船を破格の値段で建造して貰ったり、「Red Sun」の件で迷惑を掛けたりして、シャルルには山のように借りがある。断るという選択肢は俺には無い。

 

「ルナ。量子通信回線開いてくれ。シャルルの造船所に直接接続。」

 

 公共の量子通信基地局を使用せず、船載の量子通信設備でシャルルの造船所の量子通信設備を直接呼び出せば、理論上ハッキングはほぼ不可能になる。

 

「シャルル造船所、出ました。映像を前方スクリーン投影します。」

 

「マサシさん、お忙しいのに御免なさい。でもシャルルが、マサシさんにしか頼めない仕事で、大至急だって言うものだから。」

 

 スクリーンに大写しになったアンジェラが困ったような表情で言う。

 

「シャルルがそれだけの言い方をするのだから、余程の事なのだろう。構わないさ。で、シャルルは?」

 

「今こっちに向かっています。あ、来ました。」

 

 ノックの音がして、シャルルが部屋に入ってくる。シャルルの造船所の中の社長室脇にある、五~六人入れば一杯になる大きさの小さな会議室だ。

 

「おう、マサシ。船の調子はどうだ?」

 

 挨拶も無しにいきなりシャルルが言う。

 

「問題無い。絶好調だ。いい船だ。」

 

「ま、心配はしてないがな。ウチが本気で造った船だ。」

 

「で?何かヤバイ儲け話があるんだろう?」

 

「ああ。この依頼を受けるにはまたいったんここに戻ってきて貰う必要があるから、詳細は依頼人も同席でその時に話すが・・・お前、キュメルニア・ローレライって知ってるな?」

 

 ・・・マジか勘弁してくれ。

 俺は頭を抱えた。

 

 キュメルニア・ローレライ。

 数十万年前に、どこだかの種族が送り出した探査船が、とあるガス星団で座礁した。濃密なガス雲を纏った数十もの若い恒星と、逆に寿命を終えつつあるいくつもの白色矮星や中性子星が半径たった数十光年の空間にひしめき合うという過酷な宙域だった。

 当然、座礁した探査船は救難信号を発するが、常に激しい電磁嵐が吹き荒れ、異常に接近している恒星系が互いに引き合い重力傾斜も安定しないという場所が場所だけに、救出は絶望視されつつしかし何度か試みられ、そして試みたと同じ回数の失敗の後に最終的に救出は断念された。断念の判断までの間に百年以上の時間が経っており、探査船の乗組員に生存者はもういないと考えられたためだ。

 

 いったい何が起こっているのか、救難信号はそのまま何十万年経っても途切れる事無く発信され続け、今もまだガス星団の発生する電磁波ノイズに乗って切れ切れに、救難信号に特徴的なもの悲しくも単調なパルスを拾う事が出来る。

 ガス星団から数千光年も離れたところまで届く、生者を呼び寄せようとする亡者の呼び声のようなその救難信号のパルスと、遭難した探査船の名前をとって、いつしかその救難信号は「Cjumelneer Loreleyキュメルニア・ローレライ」と呼ばれるようになった。

 もちろん、「ローレライ」というのは地球の言葉だが、似たような船幽霊やサルガッソーのような幽霊伝説的な話は、どうやら銀河中に転がっているらしい。命を賭けて宇宙を渡る船乗り達は、大体どの種族でも迷信深い連中が案外多い。大体どの言語でもローレライに近い言葉が存在するようだ。

 

 ここまでの話だけで、すでに十分にヤバそうな匂いがプンプンする。そこにもってきて、さらに追加のもっとヤバそうな話がある。

 三十万年前の機械戦争の後、機械艦隊の残党の一部がこのガス星団に逃げ込んだとされる。実際その後数回にわたって、このガス星団からやって来たと思しき機械艦隊が発見され、殲滅されている。

 つまりこのキュメルニアガス星団は、荒れ狂うプラズマの磁気嵐に加え、安定しない重力場、とどめに機械どもの艦隊の巣窟と、どう考えても近寄りたくさえない条件ばかりが出揃った最悪の場所だった。

 全ての救出作戦が失敗に終わった後、一攫千金を求めた自称冒険者や、どこかの国の正規軍艦隊がこの探査船の情報を求めてローレライの呼び声に引かれるようにしてガス星団に突入し、そしてもちろん今まで無事に戻ってきた者は居ない。

 俺たち船乗りの間では、この銀河の広い範囲で受信できる救難信号の事を、手に入れればでかいカネが手に入るが、しかし絶対に手を出してはならない亡霊の囁きとして語り継がれている。

 そのキュメルニア・ローレライの名前が出てきた。もう本気で嫌な予感しかしない。

 

「知らない。」

 

 とりあえず悪足掻きしてみる。逃げられるとは思っていないが。

 

「まあそう言うな。先方のご要望は、もちろんキュメルニア・ローレライが持つ情報の取得。報酬は8億。期限は一年以内。」

 

「お帰り願ってくれ。たかが8億で出来る仕事じゃ無い。一年だと?寝言は寝て言えと言ってやれ。最低でも五年、報酬は50億で半金前払いだ。それ以下じゃやらん。確実に命の危険がある、というよりも余程慎重にやらないと確実に死ぬ話だ。俺はまだこの新造船を棺桶にする気はない。」

 

 テラは貨幣価値が低い。依頼人はそこを見誤っているのじゃないか。

 

「先方は、ホールドライヴを貸与する考えとの事だ。」

 

「ホールドライヴだと?」

 

 それはずいぶん話が変わってくるぞ。

 

 

■ 3.1.3

 

 

 夜。

 勿論、宇宙空間に夜も昼もありはしない。この「Regina Mensis II」船内時間での夜。

 ブラソンは自室で一人の来客を迎えていた。

 一人掛けソファに座るブラソンの前には、この船の管制AIの生義体端末であるルナが無表情に立っている。

 

「ご用との事ですが、何か?」

 

 相手が普通に人間であれば、白々しいと思うところだ。だが、ルナの場合は本当に何の用で呼びつけられたのか解らないから質問しているのだろう。それでもとりあえず言ってみなければ気が済まない台詞を言う。

 

「解っているんじゃないのか。昨日の今日だぞ。」

 

「昨日、ですか。ブラソンが持ち込んだ外挿サーバをスキャンした件ですか?」

 

「そうだ。分かっているじゃないか。個人の私物だぞ。」

 

「本船の安全管理上必要と思われたため実施しました。確認の結果、特に危険と思われるプログラム等は見つかりませんでした。なので、特に何も消去や破壊は行っていないと思いますが。

「もしかしたら、212本ほどあったエッチなコンテンツが見つかったのを気にしておられますか?もしそうでしたら、安全上の問題が存在しない限り個人の嗜好の問題ですので、例えああいう趣味のものであったとしても内容に関しては・・・」

 

「ちげえよ。何そこだけ早口でまくし立ててんだよ。内容に十分突っ込みすぎだろ。

「そうじゃねえ。気づいてるだろ。お前がスキャンしたときに、ノバグは活動中だった。ほんの一瞬だが、ノバグと攻防があったと聞いている。」

 

「外挿サーバ上のAIの事ですか。はい、存在は知っておりますが、特に危険なものでもないと判断しました。」

 

「危険なものではない?彼女の主要機能は知っているだろう?」

 

「はい。外挿サーバからの低レベルなAIによる外部ツールを利用した攻撃程度であれば十分対処可能であると判断しました。また、マサシからブラソンの主任務については聞いております。ブラソンの主任務に必要なものであると判断しましたので、特に問題としておりません。勿論、私が攻撃対象とされる場合は別ですが。」

 

 ブラソンは心の中で激しく苦笑する。低レベルと言い切りやがった。

 確かに、レジーナのAIは、企業体が開発した商用ベースのもので、ノバグはブラソン独力で開発したAIだった。その能力に差があったとしてもある程度は仕方のないものとして受け入れられる。しかし面と向かって「低レベル」と言われるのは、やはり凹む。

 ハードウェアではテラの遙か先を行っている銀河種族も、ことAIプログラムと言うことになるとテラの足下にも及ばないのは確かなのだ。

 

「告発しないのか?」

 

「なぜですか?本船では、地球の法律に基づきAIの生存権、基本的人権が保障されています。」

 

「いや、そうでなくて。この外挿サーバ内にAIがいると言うこと自体を、さ。」

 

「ブラソン、言っている意味が分かりません。個人の持ち物である外挿サーバにブラソン所有のAIやエッチなコンテンツがあったとしても、それは個人の所有物であり、危険な物でない限り口を出す権限は私にはありません。個人の嗜好と同じ事です。その外挿サーバが船内ネットワークに接続するので、必要に応じて安全上のスキャンを行っただけです。安全が確認されましたので、これ以上の干渉を行うつもりはありません。コンテンツの数が増えていたとしても、生理的本能的欲求により必要なものだと理解しております。

「女性体である私にコンテンツを見つかったことを問題にしておられるのかと思いますが、先ほど申し上げたとおり、気にしておりません。」

 

 気にしまくってるじゃねえか。

 こいつ、分かっててわざと言っているだろう。いい加減そっちのコンテンツから離れろ。

 テラ製のAIだからこういうヒネた性格なのか、マサシのものだからなのか。ブラソンは苦笑いに顔を歪める。

 

「マサシにはしばらく言わないでいてくれるか?」

 

「212本もあることをですか?」

 

「だからそこから離れろつーの!」

 

「冗談です。」

 

 このAI、なんか急速に人間臭くなっていってないか、というよりヒネていっているのか?ブラソンは呆れかえり、ルナの顔をまじまじと眺める。

 そもそもAIが冗談を言うなんて。いや、テラでは普通なのか。アンジェラはごく普通に冗談を言っていたことを思い出す。

 しかし、もう212本も集まっていたのか。ネットワークからダウンロードするばかりで、一体何本在るかなど集計していなかった事をブラソンは思い出す。

 いや、そっちは今どうでもいい。

 

「分かりました。ノバグの存在については、ブラソンからの指示を待ってマサシに報告します。緊急時には例外処置もあることをご理解ください。」

 

「もちろんだ。」

 

「以上でしょうか。」

 

「ああ。以上だ。済まなかったな、夜に呼びつけたりして。」

 

「いえ、こちらこそお楽しみの時間をお邪魔して申し訳ありません。では、ごゆっくりお楽しみください。212本。」

 

 そう言って、表情を全く変えずにルナは部屋を出ていった。

 その徹底的な攻撃に、ブラソンは呆れを通り越して思わず笑ってしまった。

 

 テラでは、AIは義体を得て普通に生活している。その内にはノバグにそういう義体を与えるのも悪くないかも知れない、と思いながらブラソンはソファの背もたれに深く体を預けた。

 


新章です。

やっと、船乗りが船乗りらしくなりました。

ルナ、良い味を出し始めてます。(笑)

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