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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第一章 危険に見合った報酬
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38. ハフォン軍第八基幹艦隊所属第3156陸戦小隊

 Section new 1: 危険に見合った報酬

 第三十八話

 title: ハフォン軍第八基幹艦隊所属第3156陸戦小隊

 

 

■ 1.38.1 

 

 

「戦わないのか?」

 

 脇道にそれ、少し飛んで落ち着いたところでビルハヤートに並び、訊いた。

 

「バカ言うな。てめえ等脳筋のテランと一緒にすんな。戦えば、弾は無くなる、装備は壊れる、怪我人は出る。こんなトコから戦ってたら後が保たねえ。戦わずに済むなら、それに越した事は無えんだよ。」

 

 なるほど。

 脳筋隊長と思っていたが、案外色々考えているらしい。一部かなり不本意な発言もあるが。

 どうやら地球人は、事あるごとに暴れたがるバーサーカーか何かと思われているらしい。

 お互い様か。

 

 先ほどのスモークとEMP弾で、この周辺の電磁的回線は大混乱をしている。

 その混乱に乗じて距離を稼げるだけ稼ぐつもりらしい。

 狭い通路を抜けたり、逆に広い通路で一気に進んだりを繰り返して40Km近くを踏破した。

 確かネットワークを使っていないはずだった。良くこれだけ巧く敵を回避できるものだと驚嘆する。

 多分、ミリやブラソンも同じで、その道のトップレベルの連中はそういう本能的な何かを持っているのだろう。

 

 とは言え、通路内にはあちこちにカメラやセンサーが仕掛けてある。

 いわゆるセンサーリダクションや光学迷彩を使用しているので、はっきりと特定されることはないのだろうが、それでも「大体この辺にいる」というのはばれてしまうだろう。

 ジャマーでセンサー信号を攪乱しているという事は、つまり信号が攪乱されているところに俺達がいる、ということに他ならない。EMPで信号が大混乱している範囲から外に出ると、そのうちには確実に見つかる。

 

 広い通路で、前方数kmの所に反乱軍陸戦隊が展開し、防御陣地を作っているのが見えた。

 ズームで見ると数十機のHASやビークル、移動砲座などで、相当に武装度の高い部隊だと分かる。

 ビルハヤートの手信号で、小隊全員が止まり、散開して遮蔽物に身を隠す。

 こちらは前面ステルスを掛けているので、向こうからは見えにくいはずだった。

 もちろん、「見えにくい」だけで、この辺りに散っている事はすでにバレているだろうが。

 

 後ろから見ていると、ビルハヤートがまた手信号で何か指示している。

 こんな敵の真正面で電磁波を発生する訳にも行かないのだろう。前面ステルスなので、味方側からだとうっすらと姿が見える。

 六人の兵士がいきなり通路に躍り出る。

 一人がミサイルをぶっ放す。ミサイルにはステルスはかかっていない。白い弾体が、凄まじ勢いで加速していく。

 三人がレーザーで周辺を掃射する。

 二人がニーリングの姿勢から、実体弾を撃っている。

 さらに六人が通路に出て、正面に向けて実体弾射撃を開始する。

 ミサイルが着弾。通路一杯に巨大な火球が広がる。

 おい。なんかとんでもない威力のミサイルを使ってないか?

 

全員(レップナー)前進( ドゥラ)! 前進(ドゥラ)! 前進(ドゥラ)! 急げ(エスバ)! 急げ(エスバ)! 急げ(エスバ)!!」

 

 ビルハヤートの号令が音声で辺りに響く。

 周りにいる兵士達が全員空中に浮き上がり、まだ爆炎が収まらない前方の部隊に向けて猛然とダッシュする。

 ニーリングで射撃していた兵士達は、銃を構えて連射しつつそのまま宙に浮かび、敵陣に突っ込んでいく

 HASは、爆発の衝撃のような面の圧力や衝撃に強いが、高速の徹甲弾は貫通する。

 実体弾をバラ撒きながら突っ込んでくるHASは、相当な脅威になるだろう。敵側のスーツが右往左往して遮蔽物に飛び込むのが見える。

 

 俺も皆の後に続く。

 遮蔽物に逃げ込んだは良いが、俺の側からは丸見えになっている敵のスーツ四体に向けて弾をばらまく。

 空中を飛びながら振り向きざまに斜め後方への射撃。

 宇宙船で対向砲撃やるときの要領だ。民間パイロットでも、海賊船相手にこれくらいの経験はある。

 戦力として期待はされていはしないだろうが、出来る事はやらないと、な。

 

 800km/hで10km程飛んで全員着地した。

 すぐに狭い脇道に入って、全員点呼がかかる。被害はゼロだった。

 

「ようし。残り100kmだ。そろそろ向こうさんもこっちが何を目指しているのか気付いた頃だろう。派手に抵抗してくるぞ、気合い入れていけ。」

 

 ビルハヤートが全員の顔を覗き込みながら歩き回って、発破をかけている。

 もちろん、全員ヘルメットを被っているのでお互い生身の顔は見えない。しかし、隊長が一人ずつ声を掛けて回ってくれるというのは、確かに落ち着く。

 俺の前に来た。

 

「無理するな。地上戦力としてアテにはしてねえ。それより遅れないように付いて来い。」

 

 よく見ているな。

 

「分かっている。前進が先だ。あれは通りすがりの駄賃だ。」

 

「ふん。駄賃、な。分かっているなら良い。」

 

 そう言ってビルハヤートは俺のHASの胸部装甲をガツンと殴っていった。

 

 そうやっている間にも、兵士達は装備をチェックし、破損部分などの相互確認を行っている。

 ビルハヤートや、副官の誰かが指示した訳ではない。一人一人が、生き残るために必要だと思うから、誰に命じられる訳でもなくやっているのだろう。

 俺の素人目にも、この部隊の熟練度の素晴らしさが分かる。

 

 次の曲がり角まで斥候に出ていた兵士が戻ってくる。

 

「大通りでは、10kmほど先にまた防衛陣地があります。ざっと見ただけで、移動式砲台四、移動式ミサイルランチャー四、シールドジェネレータ二、それとHASが六十以上。」

 

 兵士の報告は音声だった。

 

「ち。シールドジェネレータまで持ち出しやがったか。面倒だな。迂回して脇からやるか。」

 

 ビルハヤートが渋い声を出す。

 シールドジェネレータの容量にも依るが、大きなものなら戦艦の艦砲射撃を耐えるほどだ。アサルトライフルの弾やレーザー程度では、シールドを揺るがす事さえ出来ないだろう。

 

「ビルハヤート。3分貰えないか?」

 

 俺の隣でブラソンが声を上げる。

 

「貴重な3分をおめえにくれてやると、何か良いことが起こるのか?」

 

「ハッキングする。もうEMPの範囲外に出ている。ちょうどここに制御盤がある。ここから入る。」

 

「いいだろう。かっきり3分だ。とにもかくにもまずシールドだ。次に砲台。それからスーツの歩兵だ。」

 

「いくら俺でも3分じゃそこまで手が回らん。まずはシールドを何とかしてみる。」

 

 言うと、ブラソンはHASの手で制御盤の蓋をむしり取り、胸の脇のツールボックスからケーブルを引き出して制御盤のコネクタに繋いだ。

 それを脇目で見ながらビルハヤートは仁王立ちになり、全員を見回しながら言う。

 

「よおし、野郎ども。オタク野郎がクソシールドを落としている間に装備と手順の確認だ。

「シールドが落ちている事が前提だ。まずレイハンシャール班が前方7kmにスモーク六発展開。その後ヴェイダーテリ班はミサイル三発を敵陣で爆発。それから全員横列で実体弾徹甲斉射十連二回。すぐに天井に張り付いて全速前進。敵の反撃でスモークが晴れたら手近な遮蔽物に入る。スモークが保っていたら、そのまま敵陣地を強襲。標的優先度は、砲台、スーツ、ミサイルランチャーだ。」

 

 ビルハヤートはそこでいったん言葉を切った。誰も質問などしない。

 シールドが落ちている事を前提に話しているという事は、ビルハヤートなりにブラソンの腕を信用しているのだろう。

 

「一番拙いのは、俺たちに占拠されない様に、奴らがメンテナンスルームを破壊する事だ。これをやられたら全ての苦労は水の泡だ。10km先にいる奴らを蹴散らしたら、その後は班毎に全速でメンテルームを目指せ。ルートは任意。武器の制限無し。スピード命だ。いいか、とにかくメンテルームを取れ。」

 

 ビルハヤートが、仁王立ちのまま全員を眺め回す。発言者はいない。

 班毎に自分たちで判断して勝手に目標を目指せなどと、無茶苦茶いい加減も良いところの指示だと思うのだが、抗議の声を上げる兵士はいない。

 多分、そんな指示はいつもの事で、そして多分、連中はそれをやってのける力があるのだろう。特殊部隊次点は伊達じゃ無い、という訳か。

 

「運転手とオタク野郎は俺の後ろだ。レイハンシャール、付いてこい。で、銀ネフシュリ、アンタはどうする?」

 

 そう言ってビルハヤートは俺の横に立っているミリを見た。

 もちろん俺とブラソンはお荷物だが、そのお荷物を連れて行くのはビルハヤートの隊で、ミリは遊撃手的に好きなようにしていい、というこれまでの流れだった。

 

「私の仕事は彼らを働けるようにする事よ。彼らの後ろにいるわ。」

 

 特に反応せずにさらりと答えたミリを見て、本当にそのあだ名で呼ばれているのだな、と間抜けな事を考えた。

 

「諒解した。良いケツ持ちがいてくれて助かる。」

 

 その後、ビルハヤートは何をするでもなくその場に立っていた。ブラソンを待っているのだろう。

 そしてブラソンが動いた。

 

「シールドを使用不能にしておいたぞ。もうすぐ移動砲台も使用不能になるはずだ。」

 

「ほう。充分だ。本当にシールドを無力化するとはな。砲台もか。これで随分楽になる。そこの陣地は確実に突破できるな。」

 

 ビルハヤートはブラソンの右肩を拳で叩いて、後ろを向いて歩き去った。

 

「やるな。ろくに機材もないのに。」

 

「なに。このステーションは政府公認で攻撃して良いんだ。ってことは、攻撃の痕跡を消す必要もない。とにかく力業で次々ブッ壊していけばいいだけだ。デバイスの何個かをシステム落ちさせる程度なら楽なもんだ。」

 

 ヘルメットの奥で見えないブラソンの顔がニヤリと笑ったような気がした。

 その時、兵士たちの向こうからビルハヤートの声が聞こえた。

 

「ようし野郎ども。クソなシールドはオタク野郎が黙らせた。野郎にばっかりいい格好させる訳にゃあいかねえ。テメエ等も使える奴だと言うことを見せる必要がある。幸いオタク野郎はクソ鬱陶しい砲台もついでに黙らせてくれたらしい。あとはトロくさいミサイルと、地べたをゾロゾロ這ってるスーツどもが一個中隊だ。祖国を裏切るようなクソッタレどもはブッ殺しちまえ。全部ブッ殺して、奪えるようなら装備をむしり取れ。弾はいくらあっても困らねえ。ただし絶対無理はするな。そこを突破するのが仕事じゃねえぞ。メンテルームを奪い取って、部屋にオタク野郎を蹴り込んで、野郎が仕事してる間守り抜いて仕事の終わりだ。こんなところで無駄に人数減らしてんじゃねえぞ。わかったか。」

 

「「おう。」」

 

 小隊の兵士たちの声が応える。

 

「ようし。次に会うのはメンテルームの前だ。テメエ等絶対たどり着け。途中で脱落しやがったら、後で俺がケツを蹴り飛ばしに行ってやる。第一目標、前方10km敵防衛陣地中隊。レイハンシャール班、出ろ!」

 

 レイハンシャールとタグの付いているHASともう二名が、ステルスを掛けて半透明になるやいなや、素晴らしい加速で路地から滑り出る。

 大通路に出たところで三人横隊になり、ハンドランチャーを構えて二連射。

 すぐさまヴェイダーテリとタグの付いたスーツとあと二人がレイハンシャール達の後を追い、レイハンシャール班の間にニーリング姿勢をとり、同じくハンドランチャーからミサイルを一発ずつ撃ち出した。

 

「小隊突撃! 殺して、奪って、突き抜けろ!」

 

 ビルハヤートの声が響く。

 正規軍と言うより、ほとんど海賊だなこいつら。

 

 全員がステルスを立ち上げ、半透明の姿で幅100mほどの大通路に躍り出る。

 先に通路に出ていた六人の両脇を固めるように全員で横隊を作り、ニーリング姿勢をとる。

 勿論俺達も通路から出てすぐのところで同じようにニーリング姿勢でアサルトライフルを構える。

 ミサイル爆発の衝撃が床を伝わる。スモーク弾のスモークが衝撃波を受けて震える。

 ライフル十連射。

 先にレイハンシャール班が撃ち出したスモーク弾で、遙か前方の通路が煙っていて敵陣は見えない。

 だが、二十四人で十連射、230発の徹甲ライフル弾は10km先の防衛陣地に少なからぬ被害を発生させるはずだ。

 

 実弾体はバレル内で重力によって加速されるため、火薬式の銃のような派手な音は出さない。

 だが重力焦点の発生は重力波を発することになり、光の速度で伝播する重力波は、どれだけステルスを掛けていても容易に敵に探知される。

 しかし、携行型の銃砲で実弾体初速30km/secに達する威力と、重力加速レールガンであることによる無反動射撃は、その欠点を補って余りある強みだ。

 

 一呼吸おいてさらに十連射。

 すぐにニーリング姿勢を解き、ジェネレータを使って浮かび上がる。

 ビルハヤートの姿を見つけ、その左後ろに占位する。ブラソンは右後ろだ。

 ビルハヤートの前方をレイハンシャール班の三人が飛ぶ。俺達の後ろをミリが付いてくる。

 七体のHASが天井近くを飛行しながら加速していく。

 7km先のスモークはあっという間に目の前に来た。減速することなくスモークを抜ける。

 スモークを抜けると、敵陣地は目の前だった。

 ビルハヤート達のライフルから、雨のように光の弾が敵陣に降り注ぐ。

 俺も地上で動くスーツをめがけてライフルを発射する。

 味方のスーツには緑色のタグ、それ以外にはすべて赤いタグが振られている。もし味方のHASが地上に降りていても、間違って味方を誤射することはない。

 急激な大気の断熱圧縮で白く光る尾を引く実弾体が、敵のスーツに向かってぶちまけられる。

 かなりの弾が装甲で弾かれるが、それでもまだ大量の弾が装甲に穴を穿ってスーツの中に吸い込まれる。

 

 突然、ガンと横殴りの衝撃があり、僅かに空中でふらつく。赤く被弾のサイン。

 狙われている恐怖が湧き上がるが、ここで恐怖に駆られて編隊を乱すと徹底的に狙われるだけだ。作戦前に飲んだ戦闘薬の助けも有り、無理矢理に落ち着いてビルハヤートの左後ろをキープする。

 地上で動くスーツを見つけ、狙いを付けてまた引き金を引く。

 しかし高速で飛行している俺達は、すぐに俺達は防衛陣地の上を飛び抜ける。

 ミリが編隊から脱落する。

 違う。

 脱落したと思ったミリは空中で向きを変え、敵陣に後背から攻撃を加えている。

 その間に、俺達は全員が敵陣を完全に抜ける。

 

 敵陣で大爆発。白い火球が膨れ上がり、天井や床をめくり上げながら大きくなっていく。

 俺達を衝撃波が襲い、派手に吹き飛ばされて天井に叩き付けられるが、すぐにジェネレータの慣性制御で姿勢を取り戻す。

 あの女、また何をしやがった?

 爆発の衝撃波で吹き飛ばされた空気が、猛烈な勢いで元に戻ろうとする気流に揉まれながらも俺達は天井近くを飛行し続ける。

 システムメンテナンスルームまであと60km。

 

 突然、ビルハヤート達が速度と高度を落とす。

 そのまま床面に着地し、遮蔽物の陰に隠れる。俺達も後に続いて同じ遮蔽物の陰に入る。

 ビルハヤート達には敵の姿が見えているのだろうが、俺のスーツのセンサーは何も捕らえていない。

 電磁波、光学、重力、熱源、どのセンサーもきれいにフラットだ。同じスーツの筈なのだが。

 

「敵か?」

 

 外部音声で訊ねる。通信は傍受されたり、位置を特定されたりする。近距離であれば音声を使うのが一番手っ取り早く、傍受されない。音声は1km先まで届いたりしない。

 

「いる。高度光学迷彩とセンサーリダクションを掛けて、大体5km先の壁に張り付いている。隠遁用の特殊スーツだ。何体いるか分からん。十機前後だとは思うが。そんなところで待ち伏せするくらいだ、何か妙な武器を持っていやがる可能性が高い。しかしそれが何だか分からん。」

 

「何であんたには見えるんだ。」

 

「見えるわけがねえだろう。俺ならそうする、ってえ勘と、さっきセンサーの数値が白々しく安定しやがった。俺の部下どもがそこら中で暴れてるんだ。電磁波勾配がこんなに安定しているわけがねえ。隠遁用のイレイザーの効果だ。」

 

 なるほどな。さすが特殊部隊次点の親分だ。

 

「ブラソン、何か情報あるか?」

 

 先ほどネットワークに一時的に接続したブラソンなら何か知っているかと思い、訊ねる。

 

「いや。このエリアはまだ制圧できていない。戦術情報は得られない。」

 

「ミリは?」

 

「ニンジャね?」

 

 ヘルメットの向こうにキラキラ光る瞳が見えた気がした。

 訊いた俺が悪かった。

 

「散れ!」

 

 ビルハヤートの声が飛んだ。

 スーツのセンサーと接続しているAAR表示の右端に赤い明滅サイン。高重力飛翔体、距離200m。

 とっさに遮蔽物から飛び出し、通路の反対側に走る。

 すぐ後ろで爆発。吹き飛ばされて、床に転がる。

 ガンガンと実体弾がスーツの装甲にぶち当たる音がする。

 ジェネレータでの加速を使って反対側の壁に突っ込む。

 ブラソンとミリも俺のすぐ後から同じ遮蔽物に突っ込んでくる。

 ブラソンの移動の後を徹甲弾が跳弾する火花が散る。

 一瞬遮蔽物から身を乗り出し、前方に向けてライフルを撃つ。勿論、敵など見えていない。

 銀色の光がかすめ、ガン! と一際強い衝撃があり、左肩を後ろに持って行かれる。視野の端で火花が散る。

 慌てて遮蔽物に入る。

 見ると、ショルダープレートに大きな凹みが出来ていた。装甲の薄い上腕部だったら、腕が千切れていた。

 そうか。

 実体弾にはステルスはかかっていない。30km/secもの速度で飛ぶ実体弾は、白く輝く尾を引いて飛んでくる。

 

「弾の弾道は見えるよな。」

 

 そう言ってまた遮蔽物から身を乗り出す。

 はるか前方の壁面から、五本の銀色の線が延びてくる。

 もちろん、避けようと思って避けられるような弾速では無い。

 銀色に光る線の発生地点近くに一斉射。

 俺の右側ではブラソンが、頭上ではミリが同じようにライフルを撃っている。

 ガン! ガン! ガン!と敵弾が着弾する音と衝撃が俺のHASに走る。

 慌てて遮蔽物に身を隠す。

 

 もう一度飛び出して、先ほど敵が居ると見当を付けた辺りに向けて撃つ。

 今度はいきなり五本の銀線が俺に向かって集中する。

 右肩と、左胸に着弾。派手な火花が上がり、衝撃で少し後退する。

 だめだ。敵に当てる前にこっちのスーツの装甲の限界がくる。やっぱり敵本体が見えないというのは厳しい。

 遮蔽物の陰で壁に背中を貼り付ける。

 

 ふと、今の自分を滑稽に思った。

 横のブラソンに話しかける。

 

「俺は船乗りのつもりだったんだがな。なんでこんなところでHASなんか着てアサルトライフルぶっ放してんだろう。」

 

「は。俺なんかハッカーでネットジャンキーで、ヒキコモリでシステムエンジニアだぞ。それが何をどう間違ったらこうなるんだ。お前と一緒にいると人生波瀾万丈だ。」

 

 そう言いながら、ブラソンはアサルトライフルを叩いた。

 

「済まないな。巻き込んで悪いと思ってるよ。」

 

 例の酒場でハラナワンサの部下に声を掛けられたとき、俺がブラソンにちょっと付き合えと言わなければ、ブラソンは今ここにはいないだろう。いやそもそも、あんなどう考えても怪しい話など馬鹿馬鹿しいの一言で一蹴していれば、俺自身こんなに短期間で何度も命を危険にさらすような事態に陥らずに済んだだろう。

 

「構わねえよ。結構面白いぜ。一度、ゲームじゃなくて本物のライフル持ってFPSやってみたいとは思っていたんだ。」

 

 分かっている。俺もブラソンも、作戦開始前に飲んだ戦闘薬が効いている。恐怖を感じにくくなり、妙に前向きになって、そして身体能力も上がる。

 しかしそれを差し引いても、俺達二人はこの作戦を楽しんでいた。

 ブラソンとは長く付き合える、良い相棒になるかもしれないな、と思った。


いつも拙作お読み頂きありがとうございます。

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