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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第一章 危険に見合った報酬
30/264

30. 戦の作法


■ 1.30.1

 

 

 (Anti)重力(Gravity)装置(Generator)、もしくはただ単に重力ジェネレータ。

 接触戦争の折りに撃墜されたファラゾア戦闘機械の残骸をあさり、次から次へとオーバーテクノロジーを吸収していた時代、重力ジェネレータのコピーと応用開発の任を託された日本の関東平野北部に存在した国立研究機関と民間重工メーカーとの間では、まさに「反重力装置」の名で呼ばれていたらしい。

 その名前には、SFや科学好きが高じて技術者になった者達の長年の夢が詰まっている。

 

 最終的にGravitiy Generator(重力ジェネレータ)、もしくはただのジェネレータという名に落ち着いたこの装置の動作原理は、実はまだ謎の部分が残っている。

 開発し実用化をした銀河種族達にしても、だ。

 特に模倣で開発された事で、銀河種族達のジェネレータとは少々別の枝の技術となっている地球製のジェネレータには、本来あり得ない能力が付与されているのだが、これはまた別の話だ。

 

 重力ジェネレータを使用して船を推進する方法にはいくつかある。

 ①前方に重力焦点を生成しそこに向けて落下していく方法、②後方に斥点を生成してはじき飛ばされる方法、③船の質量を打ち消してジェット噴射での加速を増加させる方法、そして④船の周囲の一定空間に平行重力場を生成し、進行方向に向けて落ち続けていく方法。

 ①と②は最も単純な重力航法であり、重力ジェネレータ黎明期に実際に使用されたものだ。

 ただこの方法には致命的な欠陥があった。

 重力焦点もしくは斥点から発生する潮汐力だ。

 重力は、焦点もしくは斥点からの距離の二乗に反比例して小さくなる。

 大型船舶では、船尾と船首では受ける重力の強さが大きく異なることになり、その差が船体に歪みを発生させるか、もしくは船体を引き裂く力を発生する。

 船が大型化すればする程潮汐力の問題は無視できない程に深刻化した。

 そのため、大型船による大量輸送の時代を迎える前に、結局この航法は一掃された。

 

 ③の方法は潮汐力の問題を解決した。

 物質の質量が重力を発生させる、という基本原理を逆手に取ったこの推進法は、一時期主流となった。

 何せ、船の質量を限りなくゼロに近づければ、加速力は限りなく無限大に近づくという、夢のような推進方法だったからだ。

 

 ところがこの方法にも致命的な欠陥があった。

 船の質量を低下させるという事はすなわち、船の構成物質の質量を低下させるという事に他ならなかった。

 質量の低下した陽子や中性子は引力を失うことになる。

 大量の電磁波や放射線の飛び交う戦場で戦わねばならない軍艦にとって、これは看過できない致命的な欠陥となった。

 

 ほとんどの電磁波や放射線は、船とその乗員を守るための電磁シールドによって弾き返される。

 しかし、戦場のような異常な空間において、高濃度の放射線が電磁シールドを突き抜けて船の一部を通過するという事態は幾らでも起こり得る。

 強烈な放射線が、質量が低下し素粒子間引力が低下した船体を貫いたとき、運悪く放射線粒子と激突した原子核は一瞬にして崩壊する。

 原子核崩壊で発生した各種粒子は、同様に近傍の原子核にぶち当たってこれを崩壊させ、連鎖的核崩壊反応を引き起こす。

 

 巨大な一隻の戦艦の質量がまるまる、核分裂よりもより激しい核崩壊反応燃料に変わり、連鎖反応がごく一瞬の内に誰にも止める事が出来ずに完結し、そしてその船が文字通り塵も残さぬ大爆発を起こしたとき、人々はこの推進方法の危うさを理解した。

 電磁波と放射線渦巻く戦場にて、生き残るために限界ギリギリの運動性を発揮させようとして船の質量を下げれば下げる程、核崩壊による自爆の可能性が飛躍的に上昇する。

 これほど危険で、矛盾に満ちた推進法を戦場に持ち込む訳にはいかなかった。

 

 結局、宇宙船を平行重力線で取り囲みむ推進方法が採用された。

 この推進法の原理はそれほど難しくない。

 

 点が三つあれば面が出来る。

 同じ形状の面を二つ向かい合わせれば三角柱が出来る。

 船を取り囲むようにこの三角柱を形成する。

 面Aの三点には引力を、他方の面Bの三点には斥力を与える。

 三角柱内には、面Bから面Aに向けて平行重力線が発生する。

 これが基本原理だ。

 

 もちろん実際は三角柱などという単純な構造ではないし、合成重力と分解重力の間の微妙なバランスに関する複雑な計算は必要になるし、そもそも、1つのジェネレータから複数の焦点・斥点を発生させてコントロールする、という技術が必要になる。

 しかしこれらはあくまで技術的問題点であって、核崩壊などの原理的問題点とは異なり、解決可能なものだった。

 船は三角柱内を重力線に沿って落下する。

 どれほど大きなGをかけようと、所詮は平行重力線中での自由落下でしか無いため、船の構造に無理がかかる事はない。

 

 ここで一つ大前提の定義が必要となる。

 重力ジェネレータと、そこから発生させられた重力焦点の間には、作用反作用の関係が存在しない、という点だ。

 重力焦点はあくまで疑似質量であるため、ここに引き寄せられる船体との間に作用反作用が発生する。

 二つの質量は重力(引力)によって互いに引き合うためだ。

 ジェネレータを搭載した船が重力焦点に引き寄せられるとき、重力焦点も同様に船に向けて引き寄せられる事になる。

 この引力が重力焦点からジェネレータに伝わってしまえば、船の中で二つの力のバランスが成り立ってしまって、推進する事が出来なくなる。

 

 この問題を解決する方法が、重力焦点の絶対座標化と言われる技術だ。

 重力焦点をジェネレータからの相対座標で発生させると、焦点が受けた作用がそのままジェネレータ本体に送り込まれてしまう。

 ジェネレータから「硬い棒」を伸ばし、その先に焦点を発生させるようなものだからだ。

 焦点が押されれば、その力は棒を通ってジェネレータに伝わる。

 

 これに対して、重力焦点を絶対座標に対して生成すれば、ジェネレータと焦点の間の「硬い棒」による関係は消滅する。

 焦点がどれだけ力を受けようとも、ジェネレータにはその力は伝わらない。

 しかし、宇宙空間に絶対座標など存在しない。

 そのため、絶対座標の項にジェネレータからの相対座標に関わる複雑な座標式を代入して数学的に処理する。

 こうする事で、重力焦点は宇宙空間の仮想絶対座標上に断続的に移動しながら生成され、ジェネレータはその反作用を受ける事無く、船は重力焦点に向けていつまでも落ち続ける事が出来、前に進む、という訳だ。

 

 数学的処理云々のところの説明を俺に求められても困る。

 俺は子供の頃から算数が苦手なのだ。

 算数が出来なくても、軌道計算はシステムがやってくれる。

 

 さて延々と重力推進方式について解説したが、何が言いたかったかというと、現在の推進方式は「重力焦点の絶対座標化」技術の上に成り立っているという所だ。

 絶対座標に対して重力焦点を生成する、つまり、焦点を生成したい座標と、自分との間にどれだけの空間の歪みや断層があろうが、焦点を任意の場所に発生させる事が出来る、というのが現代のジェネレータだ。

 この原理を応用するとどうなるか。

 

 ベレエヘメミナご自慢の空間転移シールドだが、要するに空間の断層だ。

 船で真っ直ぐベレエヘメミナに近寄っていっても、断層から転がり落ちて、どこか遠い空間に吹っ飛ばされる。

 しかしこの空間断層は一方通行であり、ベレエヘメミナから発進した船は、断層など存在しないかの様にシールドを通り抜けて外に出てくる事が出来る。

 即ちベレエヘメミナは、空間的にそこに存在する。

 つまり、重力ジェネレータ内で処理されている絶対座標で表される空間内にベレエヘメミナは存在するということだ。

 

 船でシールドのすぐ外まで近づいて、ベレエヘメミナに向けて重力焦点を発生させれば、ベレエヘメミナを攻撃する事が出来るだろう。

 先に述べた様に、重力焦点は空間断層などに影響されず、絶対座標に対して生成されるからだ。

 高重力焦点を生成し、その歪みでベレエヘメミナ内部のジェネレータを破壊すれば、この厄介な空間転移シールドを解除する事が出来るだろう。

 もちろんこれは「重力で敵を直接攻撃する兵器を用いてはならない」という汎銀河戦争の交戦規定に抵触する。

 だから、外種族がベレエヘメミナをこの方法で攻撃する事は出来ない。

 

 だが、ハフォン人同士が、ハフォンの内乱の中で使用するのはどうだ? そこに適用されるのはただ単にハフォンの国内法だけだ。

 もちろん、使用したとあればその後ハフォンの政治家は色々と脂汗をかきながら、使用に関しての釈明を他種族にしなければならないだろう。

 だが、禁止されている訳ではない。

 限りなく黒に近くとも、グレーはグレーであって、黒ではないのだ。

 こいつをグレーと言い切り、他種族の追及をかわして逃げ切るのが、政治家の仕事だ。

 

 会議そっちのけで、チップ間の音声通話機能を使ってこの作戦案についてブラソンと議論する。

 最適な作戦開始地点、突入方法、必要な艦艇、必要な支援、攻撃目標、そして諸々のタイミング。

 もちろん、これら全てはシミュレーションでしかないし、俺もブラソンも従軍した経験は無いので実際の作戦行動などした事はない。

 連中に言えば馬鹿にされるかも知れないが、戦術級、戦技級でのゲームで得た経験でしかない。

 ただ、地球製のゲームの中には極めてリアルに出来ていて、軍で新兵の教練に制式採用されているものや、スコアや内容を評価して軍が採用活動の参考とするものも多く含まれている。

 昔は軍の教練用のシミュレータといえば軍が独自に開発するものだったが、民間のゲームの質があまりに高いため、最近ではその手のソフトウェアは全て民間にアウトソーシングされている。

 そうしてゲームのリアリティがさらに向上し、それをまた軍が利用する、という循環の構図ができあがっている。

 だから、俺たちの議論はそれほど大きく的外れにはなっていない筈だ、という自信も多少はあった。

 

 一通り議論が終わり、大筋が決まったところで二人とも意識を会議に戻した。

 会議では、ハフォン星系内の60%もの戦力が反乱軍に回ってしまった現状で、いかにベレエヘメミナを攻略するか、という議論が行われていた。

 

 艦隊戦力比だけを考えても、かなり高い確率で敗北する事が明らかなところにもってきて、相手側にはベレエヘメミナという難攻不落の要塞があった。

 真っ正面から攻め込んでは、何がどう間違っても絶対に勝てるものではない。

 しかも、反乱を抑えた後の事後処理を考えると、ベレエヘメミナを使用不能になるまで破壊する訳にはいかず、反乱軍艦隊も出来るだけ破壊せずに残しておきたいという手枷足枷がついて回った。

 

 反乱が長期になってしまった場合、もしくは短期で収束したとしても内戦で戦力が大きく削がれてしまった場合、いずれも国力が低下してしまい、汎銀河戦争の中で弱体して磨り潰されてしまう運命が待っている。

 汎銀河戦争はなんとか凌げたとしても、すぐ隣にいてハフォン占領を虎視眈々と狙っているフィコンレイドが、こんなチャンスを見逃すはずはなかった。

 フィコンレイドによる占領の後には、隷属化が待っている。

 これだけは絶対に避けたい、というのが彼らの本音だった。

 

「いいかな。」

 

 そもそも最初から出口のない中で、なんとかしようと議論を重ねても全く打開策が見つからない重い雰囲気が煮詰まって、ほぼ焦げ付き始めたところで俺が挙手した。

 全員の視線が俺の方を向く。

 視線が場の空気を薙ぐ音が聞こえそうだった。

 

「俺たちは戦術の専門家じゃない。従軍経験も無い。ただ、ちょっとした特技はある。その特技が役に立ちそうなんだが、いいかな?」

 

 言ったとたん、会議の面々の半数以上が渋い顔になる。

 まあ、そうだろうな。

 議長役のサベスの顔を見ると面白そうに笑いながら言った。

 

「どんな事でも良い。現状を打開するヒントになるかも知れない。言ってくれ。」

 

 議長の許可が出たのだ。発言させて貰おうか。

 

「反乱軍の布陣は、明らかに同一平面上からの攻撃に備えている。この陣形に連中を釘付けした上で、上下方向から、ごく少数の機動性の高い船であればベレエヘメミナに接近できる。ベレエヘメミナの内側、転移シールドギリギリの所なら、反乱軍からの攻撃はほとんど受ける事はない。

「高重力焦点をベレエヘメミナの内部に生成して、内側シールドギリギリの所を舐めるように飛ぶ。シールド発生器がどれくらい重複してるのかは良く分からないが、1万kmも潰せば十分なのじゃないか?

「シールドに穴が出来たところで、シールドの内側に潜り込む。陸戦隊を組織しておいてベレエヘメミナに強行突入する。突入したところで、橋頭堡の確保と、ベレエヘメミナのシステムへのハッキングをかける。ベレエヘメミナを乗っ取ってしまえば、反乱軍艦隊は補給拠点を失う事になる。まともな頭のある指揮官なら、降伏するだろう。」

「本格的な攻撃にさらされるのは、転移シールド発生器を重力焦点で潰している間に、ベレエヘメミナ固定砲台からのレーザーとミサイルだけだ。これも先にセンサープローブを潰しておけば、攻撃精度を相当下げる事が出来る。」

 

 もちろん、この作戦概要にはまだ穴が多いので詰める必要がある。が、基本的な流れはこれでいけるはずだ。

 

 俺の発言が終わるや否や、何人もの情報軍士官が顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。

 

「重力焦点で攻撃など許される訳がないだろう!」

「守りの要であるベレエヘメミナを破壊するというのか!」

「ベレエヘメミナを攻撃するのか! 中に我が軍の兵士も居るのだぞ!」

「システムをハッキングした程度で連中が投降するとは思えん!」

「ベレエヘメミナは鎮圧できても、エセメムかエデナッムが呼応したらどうするのだ!」

「そんな曲芸飛行を誰がやるのだ! 出来るはずがないだろう!」

 

 何人か、アホかお前は、と言ってやりたくなる事を口走っているが、それは無視する。

 サベスの顔を見てみる。相変わらず面白そうに笑っている。

 少なくとも、皮肉な笑いの表情は見て取れない。

 ならば、続けよう。

 

「曲芸飛行に関しては、俺がやる。駆逐艦を一隻貸してもらえないか? 他にもハフォン軍の中に腕に覚えがある連中が居れば、一緒に飛んでくれれば助かる。成功の可能性が上がるだろう。」

 

 さらに顔を真っ赤にして、もうすぐ血圧で頭部が破裂するのではないかと思える程の発言を手で制して続ける。

 

「重力焦点でベレエヘメミナを攻撃する事についてだが。ハフォン国内法で禁止されているのか? 俺の知る限り、そんな法律はない筈だ。銀河種族連合(SGA)への説明は、政治家に任せれば良い。奴らもたまには額に汗して働けば良い。」

 

 ハフォンに到着するまでの二週間の間、俺とブラソンはハフォンの基礎知識を頭に叩き込んだ。

 その教科書となった文書はまだチップの中に残っている。

 ハフォンの法律は全て網羅されており、先ほどブラソンと話し合いながら重力兵器に関する項目を検索した。

 ハフォン国内法で重力兵器に関する禁止事項は、ブラックホール爆弾系の重力兵器製造の規制に関するものだけであり、ジェネレータの焦点による攻撃に関しては禁止されては居なかった。

 だから重力焦点による攻撃は、ハフォン国内でハフォンの艦船・施設に対して行使する限りは法律違反では無いのだ。

 ただしそのためには、ハフォンの立法院か皇王による「ハフォン領域内では、銀河交戦規定よりもハフォン国内法が優先する」という明確な政治的判断を下して貰う必要がある。

 なに問題は無い。先にやっちまえばいい。

 それから、「もうやっちゃったんですけどー、こう言う公式見解出してくれれば全部チャラに出来るんですけどー?」と云う感じで前述の両者にお願いすれば良い。

 よほどの大馬鹿で無い限りは、その通り言ってくれるだろう。

 

「ふざけるな貴様、そんな交戦規定に抵触するような事が出来るか! 戦いというのは正々堂々と正面から挑んだ上で敵を打ち負かすからこそ、負けた敵も禍根を残す事無く勝者に・・・」

 

 情報軍のオヤジの頭からそろそろ高圧蒸気が噴き出してきそうだ。

 今席を蹴り立ったオヤジだけではない。地球人的な戦争観がそれほど気に入らないのだろうか。

 会議の参加者の半分以上は、明らかに敵意のこもった眼で俺を睨み付けている。

 

 言っている内容も意味不明だ。

 戦いというものは、勝たねばならない。例えどんな手を使っても。

 勝てば官軍という。

 負けてしまえば、どれほど正々堂々としていようと生き残る事は出来ないのだ。

 サベスの顔色をちょっと伺ってみる。

 笑ってはいないが、かといって他の会議参加者達のように真っ赤な顔をして憤慨している訳でもない。

 さすが情報軍の本部長、と云ったところか。

 とりあえず俺はこの調子で喋っていて良いようだ。

 

「戦争ってのは、勝ってナンボのもんだろう? あんたは二倍以上の戦力の敵に正面から突っ込んで行って勝てると思っているのか? こちらからのどんな攻撃もベレエヘメミナには届かず、ベレエヘメミナからの攻撃はこちらの射程よりも外から届くのだろう? どうやったって負けるじゃないか。素人の俺でも分かるぞ。

「絶対負けると分かっている戦に突っ込まされる兵士の事を考えた事があるか? あんたの仕事は、どうにかして勝つ事を考える事じゃないのか?」

 

 何故俺が、いい年をした軍人のオヤジに戦いに対する心構えを説教せねばならんのだ。

 いくら汎銀河戦争がまるでスポーツのようであっても、そこで流れる血は現実のものだし、死んだ兵士はリスポーンするゲームのデータではない。

 正々堂々と正面から、などという軍上層部の自己満足でしかないくだらない理由で、死ぬ以外の選択肢のない袋小路な戦いに赴かされる兵士は大迷惑だ。

 

「それは違うぞ。正々堂々とした戦いでなければ、戦いの後に禍根を残す。いつまでも続く報復の応酬の始まりとなってしまう。」

 

 別のオッサンが喚く。ここにも居たか。

 

「生きてりゃ、な。死んでしまえば、禍根もクソもないだろう。じゃぁ、正々堂々と戦っている汎銀河戦争は、なんで百万年も終わって無いんだ? 正々堂々と戦ってるあんた達は、なんでお隣のフィコンレイドとこれほど酷い事になってるんだ?」

 

「それは奴らが卑怯千万な手を使って・・」

 

「違うね。あんた達が勝ってないからだよ。短期間で、圧倒的にあんた達が勝ちを取ってたら、こんな事にはなってないはずだ。あんた達は、一つの戦いを百万年も続けてきた。俺たち地球人は、ほんの十万年の間で、何百万という戦いをしてきた。いろんなパターンで戦った結果、最も禍根を残さないのは、出来るだけ短期間で、出来るだけ犠牲者を出さず、圧倒的に勝敗が決まった場合だ。」

 

 オッサンどもが真っ赤な顔をしてぐぬぬと黙る。

 地球人なら子供でも知っている事が、何故こいつらには判らないのだろう。

 喧嘩はするな。だが、どうしても喧嘩が避けられないときには、絶対負けるな。

 地球人の男の子なら、小さな頃から必ず父親に教わる簡単な事だ。ただそれだけの事なのだが。

 

「さて、時間だ。とりあえず結論は出ていないが、有益な情報は得られた。先ほどのマサシの戦術だが、軍との会議に持ち込むつもりだ。少なくとも今すぐ採れる手の中では、最も勝ちに近い手だ、という事は理解している。では三時間後にまたここで。」

 

 そう言ってサベスは席を立った。

 立ち上がったサベスと眼が合った。

 サベスは、口の端に僅かに笑みを浮かべてこちらを見ると、部屋を出て行った。

 

 

いつも拙作お読み戴きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー、竜の卵で出てた重力補償体と同じ原理かな? 重力制御にマジメに理屈つけてる作品久し振りに見ました
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