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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十一章 STAR GAZER (星を仰ぐ者)
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14. 支援要請


■ 11.14.1

 

 

「マサシ、駆逐艦神風AIアナスタシアより支援要請。索敵解析システム容量不足により、タスクシェアの要請です。」

 

「なんだそれは?」

 

 唐突なレジーナの報告に思わず聞き返した。

 索敵解析システムというからには、何を助けて欲しいのか分からないでもないが。

 六百万個もの囮を一斉に打ち出され、緊急で応射したのは良いが、大量の囮の上にさらにデブリを発生する事になって、どれが囮でどれが本命か分からなくなっているに違いない。

 どういう技術を使っているのか知らないが、いずれにしても本命のコアが入っている当たりくじを引くために、第四惑星周辺宙域に存在するありとあらゆるものを虱潰しに調べていっているのだろう。

 

「ST部隊の駆逐艦四隻が、新型の探知システムを用いてコアの同定を行っているようですが、システムリソースを随分消費するシステムのようです。駆逐艦のキャパシティだけでは足りなくなって、こちらにも支援要請が回ってきたようです。」

 

 デブルヌイゾアッソとの交渉が終わった今、レジーナや俺達ができる事は余りない。

 第二衛星上のスターゲイザーや、奴が出血大サービスで見せてくれた一発芸への対応は、それが本職の軍艦や機械達に任せてしまうべきだ。

 物理的攻撃や、統制射撃を専門としない貨物船がしゃしゃり出ても、場を乱し混乱を発生させるだけで、たかが2000mmGRG二門ではたいした戦力になる訳でも無い。

 地球軍や機械達の戦艦の中でも特にマスドライバー攻撃に特化した戦艦は、一隻当たり数十門の大口径GRGを搭載している。

 シリュオ・デスタラが十門ものGRGを搭載しているとは言っても、そんなショボい火力は、この様な本気で手数と威力を求められている場面ではお呼びではないのだ。

 

「諒解した。他に手伝えることもない。ブラソン、監視しておいてくれるか? どさくさに紛れて何を仕掛けてくるか分からない。」

 

 地球軍がシードやスターゲイザー潰しに躍起になっているのは理解している。

 だから今回の要請も、スターゲイザーに対処するために正しく必要なものなのだろう。

 だが、連中が本業の脇でちょっとした内職を行うかどうかまでは分からない。

 要請された仕事はする。だが余計な情報まで持っていってもらっては困る。

 

「勿論だ。俺を誰だと思ってる。キャパシティの数値は適当に誤魔化しておいた。」

 

 釈迦に説法だったか。

 

「解析用データ来ました。かなりの量です。データだけでは何を解析させられているのか分かりません。」

 

 それは向こうとしても当然の処置だろうと思う。

 

「レジーナ、データ受入れと処理量を絞れ。連中、大量のデータを突っ込んできて、こっちの処理能力を測るつもりだぞ。データ処理こっちに回してくれ。メイエラにやらせる。」

 

 データの流入が始まってすぐにブラソンから鋭く警告が飛んだ。

 流石ブラソンと言うべきか。俺ではそこまで思いつかない。

 

「諒解しました。全データ回します。メイエラ、お願いします。」

 

「諒解。なにこれ。ワケわかんないデータね。」

 

「マサシ、シリュオ・デスタラにも同様の要求があり、受諾した模様です。」

 

「ああ、シリュオ・デスタラはそんな破格なシステム性能持ってないから隠す必要ないぞ。普通に処理して協力してやれば良い。悪戯対策はこっちでやっておく。」

 

 メイエラとブラソンがそれぞれネットワーク上で声を発している。

 

「ブラソン。レジーナのシステムは、それ程破格なのか?」

 

 ブラソンがさっきから言っている、レジーナのシステムキャパシティというものが気になった。奴の言い方だと、相当破格な容量(キャパシティ)を持っているようだが。

 

「ああ、そうだな。お前から、システム関連はプラスになる事なら好きにして良いと云われたんでね。好きにやらせてもらった。半分以上俺の趣味みたいなもんだから、俺の金でやらせてもらったよ。なに、船本体に較べれば、全然たいした金額じゃない。」

 

 確かに言った。

 俺はネットワークやシステム関係はいまいち苦手なので、その辺りはそっちが専門のブラソンに丸投げした。レジーナが進水してすぐの頃の事だ。

 

「で、どれ位の能力になるんだ?」

 

 問いに対する答えをまだブラソンからもらっていなかった。

 

「総キャパシティなら、戦艦三十隻分くらいか。利用可能リソースという意味なら、戦艦五十隻分は下らないと思うぞ。」

 

 思わず絶句する。

 

「キャパ上がってレジーナが使えるリソースはふんだんにあるし、いざとなったらノバグやメイエラがフルサポートするからな。処理能力で言えば戦艦五十隻分は軽く超える。メイエラの並列処理があるのがでかい。さらに裏技もあるしな。」

 

 いつの間に俺の船はそんな化け物じみた性能になっていたんだ。

 

「裏技?」

 

「ニュクスの権限で、この船のシステムを機械達のネットワークに繋いでしまえば良い。ほぼ無限のリソースと、銀河最強最速の演算処理が手に入る。非常時にしかやらんがね。

「ああ、アデールが居る時点でこの話も筒抜けか。ま、いずれはばれることだ。気にするな。アデール、あんまし吹いて回んじゃねえぞ。」

 

 アデールからの応答はない。多分俺と同じ様に驚き呆れているのだろう。

 

「ブラソン、早速お客さんが来たわ。転送データ用の処理モジュールに紛れ込んでる。」

 

「ったく。これだから軍関係は嫌なんだ。右手で握手しながら左手のナイフで刺してきやがる。状況は?」

 

「数は四。コピーじゃないわね。それぞれ別PG。これは、隠す気がないわね。侵入ではなくて、わざと足跡を残して挨拶するためだと思うわ。

「ダミーストラクチャを展開して対抗。多重障壁展開。侵入PGは誘導に沿ってダミーストラクチャ内に移動し、ダミーストラクチャを解析中。ダミーカーネルにフットプリント。」

 

 緊迫した状況ではないのだろう。メイエラが普段の口調で喋っている。

 状況が緊迫してくると、彼女は口調を変えてごく真面目な喋り方をするという案外律儀な性格をしている。

 

「PG発信元のサインは、サミ、ジェイン、ナーシャ、リン。それぞれST部隊の四隻の駆逐艦の管制AIね。暇なのかしら。そんな訳無いのに。」

 

 メイエラがサービス良く、それぞれのAIがどの駆逐艦のものか対比表を表示した。

 サミ(Sami)は雪風、ジェイン(Jain)はジャーヴィス、ナーシャ(Nasia)が神風で、リン(Rynn)がライラ。

 

「接触戦争時の英雄達の名前ですね。全員空母テラナー・ドリームで火星戦線に参加しています。ナーシャは最後まで生き残って地球に戻っていますね。」

 

 メイエラの情報にレジーナが捕捉を入れた。

 神風という名の付いた駆逐艦のAIが、最後まで生き抜いた兵士の名前というのは、皮肉なのか偶然なのか。

 

「攻撃の意思が無いなら無視するか。いや、こっちも挨拶ついでに、奴等の新型探知システムを探るPGを突っ込んでおくか。結果をリアルタイムでモニタする機能も付けておいてくれ。」

 

 一瞬色めき立ったネットワーク上の雰囲気が弛緩して、ブラソンが半ば投げやりにメイエラに指示を出す。

 

「諒解。次のデータセット返信に潜り込ませるわ。」

 

 二人は気軽に会話しているが、要するに軍の駆逐艦にハッキングを掛けるという話だろう。

 普通なら、そんな事をすれば当然大ごとになる。

 

「大丈夫なのか?」

 

「ん? ああ、PGを打ち込む方か。問題無い。プロが見れば全く無害なPGをやりとりしてるだけだ。ビジネスカード(名刺)を交換してる様なもんだ。挨拶だよ。逆に何も対策を打たなかったりすれば、見くびられることになる。」

 

 そういうものなのか。

 確かに彼等の会話を聞いている限りでは、わざと見つかりやすいハッキングプログラムをやりとりしているだけと聞こえた。

 蛇の道は蛇、餅は餅屋。システムのことはネットジャンキーに任せよう。

 

「あら。」

 

 しばらく経って、メイエラが驚いたような声を上げる。

 

「どうした?」

 

 と、ブラソン。

 

「潜り込ませたPGから応答。解析結果画像を掴んで帰ってきたわ。リアルタイムで中継中。投映します。」

 

 視野の中に新しいウインドウが開き、グレイを背景にして赤や青のマーカーが大量に散っているマップのような映像が表示された。

 

「これは、PGを使ってわざとこちらに映像を流してるわね。新型システムの情報は取れてない。キャプション(注釈)が付いてるわ。

「マップは、第四惑星系を中心とした200万km周辺宙域。目的はスターゲイザーコア有無の確認。マーカーは第二衛星スターゲイザー起因の物体。赤は未解析の分体及びデブリ。青は解析が終了したもの。黄色は連合艦隊およびその関連艦船。」

 

「わざわざキャプション付けて寄越したのか? 要するに、こっちにも一緒になって頭を捻れ、という意味か。ちゃっかりしていやがる。」

 

 ブラソンが笑いながら言った。

 

 映像では、半分ほどが青色のマーカーで表示され、ほぼ同数くらいの赤いマーカーがまだ多量に散っている。

 よく見ていると、赤いマーカーが少しずつ青く色を変えていっているが、デブリも合わせて一千万を大きく超える数の目標に対して、その進行速度は明らかに遅い。

 全てを青に変えるには、相当な時間がかかるだろう。

 

 連中は、この解析マップを俺達に見せて、何を言えと云っているのだろうか。

 

 しばらく眺めていると、マーカーの動きには大きく分けて三つのグループがある事に気付いた。

 ひとつは、第四惑星系から急速に遠ざかっていくもの。

 これは、第二衛星スターゲイザーが放出した分体を中心にして、連合艦隊の包囲網を突破した後で撃破された分体から発生したデブリだろう。

 分体と思しき物は既に殆どが撃破され、加速状態にある物は殆ど無い。

 撃破されたときに発生したデブリが、ゆっくりと第四惑星系から遠ざかっていく。

 

 二つ目は、第四惑星系の周りを自由落下状態で浮遊している物だ。分体として打ち出され、その直後に連合艦隊によって撃破されたもののデブリだろう。

 

 三つめは、同じく第四惑星系近傍にあって、不自然な動きをするもの。

 デブリが第四惑星に落下しないよう、連合艦隊の艦船数百隻が重力アンカーやシールドを展開しつつそこら中を走り回って、第四惑星に落下しそうな軌道を取っているデブリをかき集めている。

 

 第二衛星スヴォートのニュートリノスキャンは既に終わっている。予想通り、第二衛星にはスターゲイザーコアは確認されなかった。

 つまり今第四惑星系近傍宙域に展開している地球-機械連合艦隊は、より正確にはST部隊は、これらの一斉放出された数百万個の分体が破壊された大量のデブリの中に、第二衛星を逃げ出したスターゲイザーコアが混ざっていると考えている訳だ。

 

 第二衛星にコアがないという事は当然そう推論される訳だが。

 ・・・果たしてそうか?

 

「レジーナ。戦艦ジョリー・ロジャーのキャリー・ルアン艦長に繋いでくれ。」

 

「諒解。通信要求。キュー入ります。優先順位変更。先方応答しました。」

 

「なに? 何か分かったの? 流石私が見込んだ男ね。」

 

 どうやら本当にブラソンが言ったとおり、わざとこちらに映像を流して意見を求めていたようだ。

 

「おだてても何も出ないぞ。第二衛星から逃げ出したスターゲイザーコアを探している、で間違いないな? コアは一個か?」

 

「何も出なくても良いわ。答えさえ出してくれれば。コアは一個よ。どんな大きなスターゲイザーでもそれは変わらない。」

 

「コアが乗った分体は、脱出と同時にホールジャンプしたのでは?」

 

「それは無いわ。スターゲイザーは、ホールショットしか出来ないの。つまり打ち出すシードをホールジャンプさせる事は出来ても、自分自身がジャンプは出来ないの。ホール空間内を航行中に自身の周辺のホール空間を内側から安定化して維持する機能を持っていないのよ。」

 

 それもなんだか片手落ちの機能の様な気もするが。

 漂着した先で着床し、シードをとにかく打ち出すというスターゲイザーの役割を考えれば、確かにそれで充分か。

 

「なら、コアは分体の中には居ないだろう。他に居る筈だ。」

 

「どういう事?」

 

「分体を打ち出せば、当然目立つ。目立つなんてもんじゃない。数百万も打ち出せば、どんな馬鹿でも気付くし、皆分体を追いかけるだろう。」

 

「あの六百万もの分体が全て囮だったと?」

 

「考えてもみろ。今回打ち出した六百万の分体は結局どうなった?」

 

「初動で六割、最終的には全て私達が撃ち落としたわ。」

 

「だろう? 逃げ出した途端に六割の確率で破壊される分体に乗って逃げ出そうと思うか? 六割が三割でも同じだ。自分自身が乗った分体が、たまたまその三割に含まれないという保証などどこにも無い。」

 

「じゃあ、どこに? 第二衛星は二回通りスキャンした。コアは残っていないわ。」

 

「分体を発射するときに、まるで滴のように千切れた本体が大量に出ていただろう。ただのゴミだと思って、誰も相手にしなかった。その中で、スターゲイザーコアを乗せるのに充分な大きさを持った上で、さらに第五惑星に到達出来るだけの速度と軌道を取っているものは無いか?」

 

 第四惑星には原住民がいる。

 連合艦隊やデブルヌイゾアッソがその原住民を守ろうと動くことは予想が付いただろう。

 第三惑星にはデブルヌイゾアッソの駐留艦隊基地がある。

 位置エネルギーがある分第三惑星に接近する方が楽だろうが、わざわざデブルヌイゾアッソの基地がある場所を選ぶ筈は無い。

 とすると、比較的容易に到達出来る第五惑星しかない。

 第六惑星では、軌道の位置エネルギーに差がありすぎて、相当目立つ加速をしなければ軌道に到達出来ないだろう。

 第四惑星での一回のスイングバイで第五惑星の引力圏に到達できるコースを採ればいい。

 スターゲイザーは、多分俺が思っていたよりも遙かに頭が良い。ただの触手お化けでは無いだろうという気がしてきていた。

 巨大化すればするほど頭が良くなる、というのも有りそうだ。。

 

「待って。調査するわ。」

 

 キャリーがしばらく黙る。

 

「該当1682件。」

 

「そいつらから調べた方が効率が良くないか?」

 

「その通りよ。よく気付いたわね。」

 

「俺達はあんた達みたいに武装に恵まれてないんでね。何かに出会ったときにはまず、いの一番にどうやって逃げるかを考える。生き延びるために必要なことだ。尻尾を巻いて逃げ出す方法を考えるなら任せろ。」

 

「・・・それって、そんなに偉そうに自慢出来ることなの?」

 

 キャリーが呆れ声で呟いた。

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 ジェインのスペルは、もちろん正しくは「Jane」です。

 接触戦争当時、非英語圏の兵士がスペルを間違えて「Jain」として、悪戯好きのジェインが面白がってそのスペルを使い続けた、という背景があります。

 各艦のAIは、基本的な人格設定(性格の傾向)をそれぞれのオリジナルに似せて作ってあります。

 サミ(沙美)=大人な常識人、ジェイン=明るい悪戯娘、ナーシャ=クールな暴走系、リン=ちょっと暗いめ、マリニー=ノリノリ~、とまあ大体そんな感じです。

 ちなみにジェインはサウスブロンクス出身の米国人です。

 

 ・・・って、こんなところで三百年前のサイドストーリー言われたって・・・という話でした。すんません。

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