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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十一章 STAR GAZER (星を仰ぐ者)
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13. 空間構造走査システム


■ 11.13.1

 

 

目標SGスターゲイザーは分体を放出。分体推定数六百五十万。ターゲットマージ。ジョリー・ロジャーから迎撃要請。要請に基づいて連合艦隊はマスドライバを使用。ホールショット重力擾乱によりターゲットマージ拡大。連合艦隊は迎撃のためミサイル発射。生成デブリによりターゲットマージさらに拡大。推定百五十万の分体が包囲網を突破。」

(Target SG discharged child. Estimated number of child are 6.5 million. Target Merge. Request for Interception from Jolly Roger. United Fleet used Mass Driver. Target Merge increasing by Gravity Disterbance. United Fleet launched missile. Target Marge more increasing by debris. Estimated 1.5 million of child are through interception.)

 

 駆逐艦神風の管制AIであるナーシャ(アナスタシア)が、感情のこもらない声で淡々と状況を報告する。

 もちろん報告を受けるまでも無く、キャノピ内スクリーンと視覚へ投影される画像情報とを合わせれば、今ナーシャが読み上げた程度の情報であればすぐに読み取ることが出来る。

 戦場では、僅かな変化の兆候も見落とす事は出来ない。

 何かに気付かなければ、事の起こりは小さくとも後に大きな事態となって自分の身に降りかかってくることがある。

 死にたくなければ小さな事でも見落とさない事だ。

 だから無駄にも思えるナーシャの読み上げは、万が一にも状況を見落とさない様に、自分達の生存確率を上げるための大切な保険であると彼女は認識していた。

 

 駆逐艦神風の艦長であるカトリン・クラウム少佐は、ST部隊司令からの指示通りに第2衛星スヴォートから50万kmほど離れた場所で事態を監視していた。

 神風を始め第1313駆逐戦隊に所属する四隻の駆逐艦は、衛星スヴォートのスターゲイザーを炙り出す作業から離れ、作業の間第四惑星系全体を監視する任務をST部隊長であるキャリー・ルアン中佐から指示されていた。

 まさか中佐が、このようにスターゲイザーが数百万の分体を囮に放出して、どさくさに紛れてコアを脱出させるような計略を使ってくることを予想していたとは思えないが、いずれにしても作戦宙域を一歩離れた場所から俯瞰する監視役を設けたことは、案外基本に忠実な中佐の用心深さを物語っていた。

 

 勿論ただ単に第四惑星系を監視するように命じられたわけでは無い。

 彼女たち第1313駆逐戦隊に属する四隻の駆逐艦は、ほんの十日ほど前に新型の装備を受け取ったばかりだった。

 その装備を試用するために最適な役割だと、中佐は彼女たちにこの監視任務を命じたのだった。

 

「ナーシャ、空間(Space )構造(Structure )走査(Scanning )システム(System)(SSSS;FS(Four S))画像投影。」

 

「FS画像中央ホロモニタに投影します。」

 

 ナーシャの声が終わると共に、ブリッジの中央でゆっくりと回っていた第二衛星近傍の空間マップが消え、その代わりにグレイを基調として全体に大量の赤や青の微細な点が散りばめられた空間が投影された。

 

 コアを含む分体もしくはデブリは、他のものに較べてコアの分だけ体積当たりの質量、即ち密度が異なる筈であり、FSと重力波探知を併用してこの密度差をチェックしている。

 確認が終わり、コア無しと判断されたものが青いマーカーで、未確認のものが赤いマーカーで表示されている。

 

 今回試験的にST艦に搭載されたこのFour Sフォーエスと呼ばれるシステムは、電磁波やレーザーなど多くの探知媒体に対してステルス性を持つシードやスターゲイザーを探知するために開発されたものだった。

 WZDDを開発する過程でスピンオフ技術として生まれたこの探知システムは、空間の構造自体を走査し、僅かな歪みをも見逃すこと無く探知する。

 空間の歪みを探知すると云うと、重力波を検知する従来の探知方法と似通っているようにも聞こえるが、実際の所全く異なる原理で動作している。

 

 重力探知は、重力波を探知媒体として空間の歪みを認識するのに対して、FSは空間構造そのものを走査し、そこに存在する物体を探知することが可能である。

 即ち、重力探知では捉えることが出来ない質量ゼロの物体であっても、そこに存在する限りFSはそれを探知できる。

 さらに対象が質量を伴っていたり、重力推進を行っていたりする場合には、重力波探知から導かれる空間歪曲情報を重ねることで、より精度の高い探知が可能となる。

 

 何者をも見逃すことのない素晴らしい探知技術に思えるが、最大の問題は艦のシステムにかかる負荷だった。

 直径僅か百万kmの球体内を走査するだけで、5000m級戦艦のシステム速度を低下させるほどの負荷がかかる。

 雪風のような駆逐艦が搭載するMPUでは、ほんの数十万kmの空間を走査するのが精一杯だった。

 

 もちろんその様な運用上の難点を地球軍が放置する訳もなく、負荷を軽くする恒久的対策としての改善を行う傍らで、現有資材で如何にして効率的に運用するか短期的な対策も打ち出していた。

 軍の技術チームが打ち出した答えが、探知システムのネットワーク化であった。

 一隻では僅か数十万kmの小さなキャパシティしか持たない駆逐艦であっても、駆逐艦に搭載されたFS同士をネットワークで結ぶことで、一隻で探査する何倍もの領域をカバーすることが出来る様になる。

 実は何のことはない、小さな球を数珠つなぎにしているだけのことなのだが、今回第1313駆逐戦隊の駆逐艦四隻はこのFSネットワークの実証試験用の機材を搭載しており、まさに今、うってつけの場面においてFSネットワークを展開して第二衛星周辺宙域を監視していたのだった。

 

 現在第四惑星周辺の宙域は酷いことになっていた。

 スターゲイザーが放出した針状の分体のうち、地球-機械連合艦隊の迎撃が撃ち漏らしたものは数百Gという加速を行って既に第四惑星周辺宙域から離脱しているが、その迎撃によって発生した大小様々な大きさの大量のデブリが辺り一面に撒き散らされ、それぞれてんでバラバラの方向に向けて漂っている。

 幸い第四惑星に対するデブリの相対速度はそれ程大きいものでは無く、連合艦隊から百隻ほどの戦艦が隊列を離れて第四惑星を取り囲み、薄い重力場を発生させて重力シールドとして、第四惑星にデブリが落下しないように守っている。

 

 最低限第四惑星の安全は確保出来てはいるものの、それ以外のところではスターゲイザーの分体が破壊されて発生した超大量のデブリが、想定される限りのありとあらゆる障害を発生させ、事態を最悪の状態に追い込んでいた。

 光学的にも電磁的にも捕捉出来ないスターゲイザーの分体から発生したデブリは、重力センサーによってのみ存在を把握出来る。

 ところが、他センサーの補強情報を得られない重力センサーは大小様々かつ超大量のデブリを個別に分離することが出来ず、センサーから得られる探知情報は第二衛星を中心として第四惑星系全体に薄くまだらに質量が存在するという事を示すのみであった。

 

 もちろん地球-機械連合艦隊はこの事態を放置している訳ではなく、第二衛星のニュートリノスキャンを完了させる傍らで、数千隻の艦を割いて重力焦点あるいは斥点を操り、辺り一面にぶちまけられた状態の大量のデブリの回収作業を進めていた。

 

「最悪だな。これは片付けるのに時間がかかる。」

 

 カトリンは投映されたFS探知映像を見ながら思わず独りごちた。

 

「これはあっちに任せときゃいいさ。四十万隻も居るんだ。その気になりゃ、すぐに片付く。」

 

 カトリンの独り言を聞いていたらしい、駆逐艦ジャーヴィス艦長であるジェームス・イン大尉が他人事のように言った。

 FSから送られてくる大量のデータを分散処理する関係上、第1313駆逐艦隊の四隻の駆逐艦のシステムは完全に連結されており会話なども共有されるが、もとよりST部隊として共同作戦中は常にリンク状態にあるため特に違和感は無い。

 確かにジェームスの言うとおりだと納得したカトリンは、再びFSによるスターゲイザーコア同定作業の結果報告に意識を戻した。

 FSのデータを処理するためにシステムが重くなっているところに、さらにコア同定の処理を上乗せしているので、同定作業に思いの外時間がかかっている。

 

「なかなか進まんな。これでは逃げられてしまうかも知れん。」

 

 大量の分体放出に紛れて脱出したはずのコアはまだ見つかっていなかった。

 第二衛星を包囲している地球-機械連合艦隊の初期迎撃を免れ、第四惑星系の外に逃れつつある数百万の分体は、機械達が放出したセンサープローブに追跡された上でホールショットによる追撃で徐々にその数を減らしつつある。

 これは機械達の物量に助けられている面が大きい。

 だがそれらの分体や、分体が破壊されたことによって発生したデブリは、徐々にFSの走査範囲から外れようとしていた。

 

 もっとも第二衛星のニュートリノスキャンはまだ完了して居らず、コアが第二衛星内部に存在しないと断言することは出来ない。

 しかし、あのどさくさに紛れて脱出するのでなければあのような分体大放出をする必要は無い。

 コアは既に第二衛星から脱出しているであろう事をカトリンは確信していた。

 

(カシラ)、FSに振り分けるシステム容量(キャパシティ)が足りない。処理に時間がかかっている間に分体がどんどん離れていく。走査範囲外に出そうだ。そっちの容量も借りたい。」

 

 カトリンは戦艦ジョリー・ロジャー艦長のキャリー・ルアン中佐に、FSデータ解析にジョリー・ロジャーの手も借りたい旨を申し入れる。

 正式な軍ではなく政府外郭団体の形態を取るST部隊内では、軍に較べて上下関係が曖昧になっており、上官に対する言葉遣いがなっていないのは三百年前のST部隊創立当時からの伝統のようなものだった。

 

「カシラ言うな。キャパ足りないのね。良いわよ。でもウチのキャパだけじゃたかが知れてるから、あそこで暇そうにしてる貨物船と強襲揚陸艦にも頼むと良いわ。機械達も乗務しているし、半ば身内みたいなものだから大丈夫。特に貨物船の方は戦艦数隻分のキャパ持ってる筈よ。」

 

「諒解。相変わらず色々と破格な船だな。

「ナーシャ、貨物船のレジーナと強襲揚陸艦のシリュエにコンタクト。データ解析の分担を依頼。受諾されたらそのまま処理に移ってくれ。」

 

「良いけど? カトリン、あの船長苦手なの?」

 

 普段の口調に戻ったナーシャが不審げな声で尋ねる。

 

「ああ。民間の人間は損得勘定とか煩くて面倒だ。軍人の方が話していて楽だ。」 

 

 なぜばれた、と思いつつカトリンはナーシャの問いに答えた。

 生まれた後二百年も年齢を重ねた機械知性体は、色々察するという面でもヒトと変わりない。

 いや、ヒト以上かも知れない。

 長く付き合っていれば、こちらの考えていることを見透かしてきたり、先回りした行動をとったりもする。

 ヒトよりも遥かに高い演算能力を持つだけに、一度馴染んでしまえばヒトのそれよりも遥かに高い確率でこちらの行動を予測してくる。

 

 相手は太陽系外で活躍する民間船の船長の中でも、飛び抜けて荒事に強いと噂される船長だ。

 噂だけではなく実力も備えており、そこを認められて最近では軍情報部やST部隊から直接依頼を持ち掛けられるほどにまでなっている。

 いかにも面倒そうで、実際に言葉を交わす前から苦手意識を持っていた。

 

「諒解。ジョリー・ロジャー回線開きました。シェイクハンド。完了。データシェア開始します。キャパシティ18.5%アップ。

「貨物船レジーナ・メンシスII、強襲揚陸艦シリュオ・デスタラ、コンタクト。量子回線。プロトコル認証。完了。先方は依頼を受諾。回線開きます。シェイクハンド。完了。データシェア開始。キャパシティ402.6%アップ。」

 

「なんだって? 402.6と言ったか?」

 

 ナーシャの報告の中で聞こえた異常な数字に、カトリンは思わず聞き返す。

 

「はい。貨物船レジーナ・メンシスIIは、船内に多数の機械知性体を乗務させており、また多岐にわたるシステム的攻撃防衛手段を備えた電子戦闘艦に分類されています。巨大なキャパシティを持つものと予想されます。

「強襲揚陸艦シリュオ・デスタラのシステム的攻撃防御性能は一般の戦艦クラスですが、機械達のネットワークに常時接続する関係上、システムキャパシティは戦艦のそれを大きく上回るものと考えられます。」

 

 つい面倒に思ってしまったが、これは案外心強い助っ人を得たのかも知れない、と相変わらずコクピット中央でゆっくりと回転しつつも、走査空間が数倍に広がったFS走査画像を眺めながら思った。

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 またひとつトンデモ兵器が。

 余りに強烈な性能で、際限なく使ったらただの「俺TUEE」にしかならないので、馬鹿みたいにシステムキャパシティを喰う設定にしました。

 空間そのものを走査するという事は、「そこ」がこの宇宙に存在する限り、建物の中でも、恒星の中でも、ブラックホール表面でも(事象の地平線上)、探知可能ということです。

 ファンタジーで言うところの「気配探知」そのもので、こんなもんあったらパワーバランス崩れるなんてモンじゃないです。(じゃあ出すなよ、という突っ込みは無しの方向で・・・)


 ところで、冒頭のナーシャの台詞の英語部分に色々と「間違い」があります。人称とか複数とかですが。

 何話か前の後書きで書いた、「簡略化された英語」がこれです。


 ・・・自分で書いていて気持ち悪いので、現代英語に戻しましょうか・・・(笑)

 

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