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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十一章 STAR GAZER (星を仰ぐ者)
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11. 提案 (Proposal)


■ 11.11.1

 

 

 デブルヌイゾアッソの領域深部に有るヴェヘキシャー星系第四惑星ルクステの第二衛星スヴォートに着床し、超巨大化したスターゲイザーを目の当たりにして、シードやスターゲイザーといった未知の脅威からの尖兵のヤバさを知り、未だ何者か見当も付かないそれらの偵察デバイスを送り込んできた連中による脅威を、俺は地球軍や地球政府と認識を共有することが出来た、と言っても良い。

 

 元々は俺達がよく使うセンサープローブと似たような大きさの小さな偵察デバイスでしかなかったシードが、星の表面に着床し、その星を構成する物質を喰らい再構成して己を増殖させていった結果、直径1000kmに迫る大きさの天体をほぼまるごと飲み込むほどにまで成長した姿が今俺達の目の前にある。

 巨大化したとは言えスターゲイザーとしての機能に変わりは無く、衛星スヴォートをほぼ喰らい尽くしたその巨大スターゲイザーは絶え間なくシードを宇宙空間に向けて放出し、そして近寄るものを攻撃し捕食してこれも喰らい尽くす。

 続々と撃ち出されるシードはホールドライヴと似たような超光速航行で恒星間宇宙を越え、次に犠牲となる星に辿り着いて同じ行動を繰り返す。

 

 近隣の星系に向けて狙い澄まして撃ち出されたシードが運良く惑星などの固形物を捕まえる事が出来る確率は相当に低いとはいえども、無数に撃ち出されたシードの数と、万が一着床した場合の事態の重大さを想像すると、確かにアデールが言ったとおり俺達は一刻も早くこの目の前に存在する不気味な物体を無力化し排除しなければならないというのは容易く理解できる。

 

 しかしその手段が無かった。

 

 全長5000mにも達し、光を超える速度で銀河狭しと飛び回り、数十門もの大口径レーザー砲や数千発もの熱核融合弾頭を備えたミサイルを擁する巨大戦艦でさえ手玉に取ることが出来るようになった今のレジーナとシリュオ・デスタラではあっても、直径1000kmにも達しようかという天体サイズの物体を破壊し尽くすことは出来ない。

 

 有効な打撃力はある。

 だがどれだけの実体弾を撃ち込もうと、天体サイズの目標を破壊し尽くすよりも遙か前に、間違いなくこちらの弾が尽きる。

 まさに象に立ち向かう蟻といった戦いにしかならない。

 

 そしてそれはただ破壊すれば良いというわけではない。

 いくらその不気味な漆黒の本体を削ろうとも、コアと呼ばれる部分が生き残っていれば、長い時間が掛かったとしてもスターゲイザーは再生する。

 破壊が不十分でないまま、途中でジャンプして逃げられるかも知れない。

 天体サイズのスターゲイザーの中のどこにコアがあるのかを特定し、そしてそれを確実に破壊しなければならない。

 

 ニュートリノスキャンはコア位置特定に有効だ。

 しかし、たかだか数百mサイズのスターゲイザーのコアを特定するために何百秒もの時間がかかった。

 500kmを超えようというサイズのスターゲイザーでは、とても現実的な方法であるとは言えない。

 同じやり方は使えない。コア位置特定法も何か別のより速く実行出来る方法が必要だった。

 

「お主、何ぞ忘れては居らぬかや?」

 

 腕を組み、船長席に座って天井の一点を睨み付けて悩み続けている俺に、操縦士席に座るニュクスが振り向いて声を掛けてきた。

 

 もちろんその可能性は考えた。

 

 だが、アリョンッラ星系でのジャキョセクション艦隊排除の時においても、銀河種族への心証の悪化を恐れて参加を辞退した機械達だ。

 列強種族の一翼であるデブルヌイゾアッソ領域内の、彼等の従族が生息する星系の天体に対する攻撃など、機械に依頼しようという考えには至らなかった。

 

「スターゲイザー破壊に加勢してくれるというのか? ジャキョセクションの時よりも、より直接的に銀河種族に対する攻撃行動を行うのだぞ?」

 

 俺達地球船籍の民間船であればどうとでもなる。

 どのみちデブルヌイゾアッソは同盟国ではないのだ。

 だが、どうにかして銀河種族と友好関係を醸成したいと願う機械達は俺達と同じ立場では無いし、他の全ての銀河種族達の反応も異なるものとなるだろう。

 

「状況をひっくり返してしまえば良いのではないかの?」

 

「ひっくり返す? どういう意味だ?」

 

「お主、もうちっと脳味噌を使わぬとどんどん筋肉に置き換わっていってしまうぞえ?

「お主は、デブルヌイゾアッソの所有物を破壊すると考えて居るから行き詰まるのじゃ。見方を変えてみよ。未知の種族の尖兵に侵略されつつあるデブルヌイゾアッソを助けるのであれば、どうじゃ?」

 

 成る程、確かにそれはニュクスの言うとおりだ。

 だがそれは、デブルヌイゾアッソがどう受け止めるかであって、俺達の側の屁理屈では無い。

 

「まあその辺りは政治の話でもあるしのう。ただ、お主がデブルヌイゾアッソを助けるのだと宣言して行動するならば、それは確かに救難活動じゃろうが。連中があとで何を文句付けようが、お主の行動は善意の救難活動じゃ。その点については連中も否定することは出来ぬし、連中がなんと言おうがお主はそう言い張れる。

「そしてその様に連中を説得するのがお主の仕事じゃろう?」

 

 と、ニュクスが笑う。

 ふむ・・・確かにその通りだ。

 

 その後、ニュクスを交えてあの巨大スターゲイザーへの対処法を協議する。

 俺が考えていたものと似通っていたが、流石機械達の考える事はスケールが違う。

 そういう意味では少々引いてしまうようなニュクス、つまり機械達からの提案だったが、最終的にはそれを大きく採用した形で落ち着く。

 

 そして俺はそれをデブルヌイゾアッソに伝え、出来るならば連中と合意に至らなければならない。

 

「レジーナ、センサープローブ射出。第三惑星系。中継器として使用する。出力は通常電磁波域。」

 

「諒解しました。射出しました。利用可能です。」

 

「こちら地球船籍貨物船Regina Mensis II、船長のマサシだ。本ヴェヘキシャー星系に駐留するデブルヌイゾアッソ駐留艦隊、応答願う。至急の要件だ。繰り返す。こちら地球船籍貨物船Regina Mensis II、船長のマサシだ。本ヴェヘキシャー星系に駐留するデブルヌイゾアッソ駐留艦隊、応答願う。至急の・・・」

 

「応答来ました。繋ぎます。」

 

「何の用だテラン。第四惑星で暴れたのに飽き足らず、まだ何か面倒を起こす気か。」

 

 相変わらず金属を引っ掻くような耳障りな合成音声だったが、今度応答してきた相手は少し話が出来そうな雰囲気の話し方だった。

 外縁のフリゲート艦隊はまるで台詞を切って捨てるような話し方をしたが、今度の相手は文章として成り立っている。

 

「応答感謝する。地球船籍貨物船Regina Mensis II、船長のマサシだ。

「提案がある。つい先ほど、本星系の第四惑星ルクステの第二衛星スヴォートで、貴国の駐留艦隊が、第二衛星表面に着床したスターゲイザーに殲滅されたことはこちらでも確認している。

「あの物体の危険性について、貴国は既によく認識しているものと思う。そこで提案がある。第二衛星に着床しているスターゲイザーを無力化する手段を持っている。もちろん、第四惑星に居住する貴国の従族や、この星系自体に損害を与えるような方法では無い。

「スターゲイザーはシードを飛ばして他の星系に着床して増殖する。この問題は貴国だけのものでは無い。この提案を受け入れて欲しい。」

 

 嫌味は無視してこちらの要件を告げる。

 話しながら思った。

 俺はなんでこんなところで、敵性とされる国家の軍を相手にまるで外交官のような台詞を喋っているのだろう。

 なんで俺は、まるで銀河の未来を救う英雄でもあるかのように、多国間の脅威と利益について悩み交渉を行っているのだろう。

 俺はただの貨物船の船長だったはずだ。

 

「つい先ほど、第四惑星地表で散々暴れていた者達の話など信じられると思っているのか。」

 

 相手は喰い付いてくる素振りを見せている。

 正確には、こちらに水を向け、しかしつまらないことを言ったらすぐに通信は切ってしまうぞという脅し込み、と云ったところだが。

 やはり最初の印象通り、今の交渉相手は、外縁で出会ったフリゲート艦隊よりも話しやすい。

 こちらの言うことを理解しようという姿勢を見せている。

 

「我々の降下部隊は貴国の従族を守り戦った。攻撃目標はスターゲイザーに絞り、従族達にも惑星にも殆ど被害を出していないはずだ。」

 

「八千人が死んだ。一部第四惑星の地形が変わるほどの損害が発生した。」

 

 どうやら相手は言葉遊びが好きな質のようだった。

 こちらの話を聞く用意がある、という意思表示だろう。

 

「多くの従族が亡くなったことについてお悼み申し上げる。しかしそのほとんど全てがスターゲイザーによる攻撃であり、当方の攻撃によるものでは無いと確認している。第四惑星の地形が変わったのは、貴国艦隊の攻撃の依るものだと承知しているが?」

 

「お前達の地上部隊が居なければ、あのような攻撃をする必要も無かった。」

 

「攻撃をしないという選択肢もあった。」

 

「他国の部隊が自国の惑星表面に展開しているのを黙って眺めているのはただの愚か者だ。」

 

「我々は地球軍では無い。民間企業体だ。そして我々は貴国の従族を守ろうとした。その意志は明白だったはずだ。」

 

「良かろう。貴殿の提案を聞こう。話せ。」

 

 第一段階突破、といったところか。

 

「その前に、貴方の所属を聞かせて貰えるか。」

 

「ヴェヘキシャー星系第三惑星ウラートロ軌道ステーション001管理群統括者だ。」

 

 つまり、例の直援艦隊が出撃してきた軌道ステーションの長というわけか。

 

 脳だけを身体から取出し、生体ユニットとして艦や各種機械に組み込み制御する列強種族達だが、生体ユニットが組み込まれているのは何も軍艦や戦闘機だけのことでは無い。

 それらの船舶が寄港するステーションや、燃料補給施設、工場や船舶管制など、あらゆるところに様々な形態で生体ユニットは組み込まれている。

 それは地球で言うところのAIとよく似た使い方であり、また地球ならば誰かヒトが担当すべき場所に対して、ヒトの代わりに生体ユニットが設置されている。

 つまり、例えば今返事を返してきた第三惑星の軌道ステーションだが、ステーションの中に幾つも組み込まれている生体ユニットの長、つまり地球軍でいうならば基地司令と云ったところの立場の者なのだと理解することが出来る。

 

「今からこちらの提案を伝えるが、貴方がその可否を決定する権限を持っていると理解して良いか。」

 

「構わない。この通信は共有されている。」

 

「諒解した。こちらの提案を伝える。

「今から友軍の艦隊をこの星系に呼び寄せたい。艦隊の目的はスターゲイザーのコアの特定であり、貴国への攻撃の意思は一切無い。スターゲイザーコア位置を特定した後、これを切除し、スターゲイザーを無力化する。スターゲイザーコアを切除した時点で、艦隊は速やかに本星系から離脱する。また切除したスターゲイザーコアは本星系外縁にて分解処分する。」

 

「詳細が明らかになっていない。艦隊の規模、コアとやらの特定方法、コアの切除方法、コアの分解処分方法。そして何よりその艦隊が侵略的攻撃的意志を持っていないという保証が無い。」

 

 言っている事は例のフリゲート艦隊と似たようなものだったが、明らかにこちらの話に興味を示していた。

 多分、デブルヌイゾアッソ側でもあのスターゲイザーは脅威に感じており、かと言って排除する手段は存在しなかったのだろう。

 

「詳細を回答する。艦隊の規模は四十万隻の混成艦隊。スターゲイザーコアの特定には先ほどと同じくニュートリノスキャンを用いる。コアの切除方法については詳細は明らかにしかねる。地球軍が色々と物を飛ばす方法を持っている事は、噂にでも聞いていると思う。コアの分解処分は、本星系外にて攻撃的方法を用いる。侵略的攻撃的意志を持たないことは、俺が保証する。」

 

 僅かな沈黙があった。

 

「四十万隻もの敵性艦隊が星系内に存在することは受け入れられない。侵略的攻撃的意志がないことが保証されていない。」

 

 任侠映画ではあるまいし、やはり「俺が保証するぜ!」では足りなかったようだ。

 俺は所詮民間船の船長に過ぎない。そんなどこの馬の骨とも分からないようなゴロツキが、四十万隻もの艦隊の行動を保証したところで、鼻先で嗤われるだけだろう。

 

「アデール。」

 

「少し待て。私の権限よりも効果がありそうな助っ人がもうすぐ到着する。」

 

 助っ人?

 

「マサシ、重力擾乱です。ホールアウト、距離12000。数五。」

 

 レジーナの報告が割り込んだ。

 予告もせずにいきなりホールアウトしてくる戦隊五隻。もう大体分かった。

 

「良かったわ。間に合ったみたいね。

「こちら地球軍第七基幹艦隊第13打撃戦隊旗艦ジョリー・ロジャー。戦隊司令のキャリー・ルアン中佐だ。先ほどマサシ船長が提案した調査艦隊四十万隻が、この星系内において一切の軍事的行動をとらない事を保証する。」

 

 星系主星の光も殆ど届かない星系外縁の闇の中、二本のカットラスを構えた白い髑髏が嗤っていた。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 更新遅くなり申し訳ありません。

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