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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十一章 STAR GAZER (星を仰ぐ者)
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6. ゼロジャンプ


■ 11.6.1

 

 

 あとはニュートリノスキャンが終わり、その結果をもってスターゲイザーコアをギムレットでどこか星系の外まで吹っ飛ばし、小うるさいデブルヌイゾアッソの星系駐留艦隊をWZDで撒いたあとにコアをのんびり回収したら、晴れて任務達成で地球に帰れる筈だった。

 そう。当初の予定ではその筈だったのだ。

 

「ニュートリノスキャン用プローブ#1、#3破壊されました。シード突撃によるものと思われます。」

 

 第四惑星ルクステの反対側に陣取って、スキャン用のニュートリノビームを照射し続けるプローブを制御していたシリュエが、突然警告を発した。

 

「なんだって? 破壊された? シードに? 話が違うぞ。」

 

 シードはその見てくれに反して、随分頭が良い事が判っている。

 宇宙空間である程度の質量を持つ物体を発見すると通常空間に戻って突撃するものと思われていたが、恒星やガス惑星の様な大質量の天体は無視し、岩石惑星の様なものに対しては着床してスターゲイザーへと進化し、そして船舶の様な小さな質量であればただ単に襲いかかって船や乗員を喰らい尽くして情報収集を行うのだと、アデールは言った。

 小さな質量であっても、数十mに満たない様な小型の船は無視されることが実績として判っている。多分効率が悪いからだろう。

 

 しかしシードかスターゲイザーのどちらか、或いはその両方は、こちらの予想を上回る頭の良さを持っている様だった。

 

「プローブは小さすぎて無視されるんじゃ無かったのか?」

 

 俺はコクピットで船長席に座ったまま、自室で待機しているアデールに聞いた。

 

「推測でしかないが。多分、スターゲイザーはニュートリノビームをも感知出来るのだろう。ビームを当てられて、自分が攻撃されている、もしくは調査されていると理解したスターゲイザーは、プローブに向けて弾丸代わりにシードを撃ち出したのだろう。シードの方はシードの方で、親から指示された言いつけを守ってプローブに喰らい付いたのだと思う。」

 

「ニュートリノスキャン、プローブ#2、#4に引き継ぎます。スキャン残り時間二分。」

 

 こちらから指示することも無く、シリュエが気を利かしてスキャンを継続する。

 

「プローブ#2、#4破壊されました。追加プローブ射出します。励起に五分必要です。」

 

「シリュエ、プローブをさらに追加で十機撃ち出してくれ。消耗が相当激しくなるだろう。射出直後から励起開始だ。追加で三十機ほどプローブを調製しておいてくれ。」

 

 アデールがシリュエに追加注文を出す。

 撃破される度に新しいプローブを投入するという、物量の力技で突破するつもりの様だ。

 果たしてプローブは予想した通り次から次へと破壊され、スキャンが終了する頃には残り三機となっていた。

 

「ニュートリノスキャン終了。スターゲイザーコア発見出来ません。」

 

 シリュエからの思いも寄らない報告に眉根が寄るのが自分でも分かった。

 

「シリュエ、プローブを追加で二十機だ。何てことだ。コアは奴の体内で動き回れるのか。」

 

「スターゲイザーにコアが無い可能性は?」

 

 思わず口を挟んでしまった。

 

「無い。コアは奴等の脳であり心臓でもある。船舶に必ずMPUとリアクタがある様に、奴等には必ずコアがある。

「最初のプローブがやられて、追加プローブが励起するまで五分あった。その間にコアが動いたとしか考えられない。」

 

「レジーナ。駐留艦隊の動きは?」

 

 余裕だと思っていたが、時間がかかれば奴等がやって来る。

 

「現在距離1300万km。到着まで730秒。真っ直ぐこちらに向かってきます。」

 

「スキャン終了までどれ位かかる?」

 

「約500秒です。現在プローブ励起中です。」

 

 レジーナに代わってシリュエが答えた。

 230秒でコアを吹き飛ばし、地上(した)のビルハヤート達を回収して逃走する。

 ギリギリだ。

 

「ドンドバック船長、ビルハヤート達を回収する準備をしておいてくれ。スターゲイザーコアを吹っ飛ばしたら、速やかに連中を回収して離脱する。」

 

「諒解した。ネルルカス、ミリアン、こっちは俺とシリュエに任せて下部ハッチに出てろ。陸戦隊が戻ってくるのを手伝ってやれ。念のためにHAS着ておけよ。少々荒っぽい操船になるぞ。急げ。余り時間がない。」

 

 陸戦隊ではなく、警備部なんだが。

 陸戦小隊を二小隊丸ごと組み込んだお陰で、そもそも連中の雰囲気は民間の警備会社なのか軍の部隊なのか分からない様な所がある。

 しかもその上、ビルハヤートの小隊はハフォン軍の中でも少々はっちゃけた問題児として扱われていた連中だ。

 最初から、軍の部隊と言うよりも傭兵団の様な雰囲気を持っていた。

 それが軍から切り離されて自由を得て、さらに船に乗り込んだことで、まるで海賊の突撃部隊の様な、荒くれ者の集団の雰囲気を醸し出している。

 そんな連中だからドンドバック船長と上手くやっていけている、というところもあるのだが。

 呼び名は・・・もうどうでもいいか。

 

「プローブ全機ニュートリノ発生器(ジェネレータ)励起完了。スキャン開始。」

 

「駐留艦隊、準光ミサイルと思しき飛翔体を発射。数五百四十六。加速15000G。距離890万。着弾まで245秒。」

 

 どうやら、スキャンが終了するよりもミサイルが到着する方が早そうだ。

 

「レジーナ、シリュエ、着弾直前で第四惑星を盾にしろ。15000Gで250秒も加速して、惑星を回り込めるとは思えん。回避後はすぐにスキャン作業に戻る。」

 

「諒解しました。」

 

「諒解です。」

 

 ニュートリノスキャンプローブから発せられたニュートリノビームがスターゲイザーを透過し、その検知器(レシーバ)となっているレジーナとシリュエは、スキャン中現在位置を動くことが出来ない。

 多少危険だが、着弾寸前に一瞬だけ回避運動をするしか無いだろう。

 長時間ビームから外れていては、またコアに逃げられる。

 

「緊急。駐留艦隊発射のミサイル、大きく散開しました。全弾惑星を回り込める軌道に移行。着弾時間変わって320秒。」

 

 常に表示されているマップ上で、ミサイルを示す大量の白い三角がまるで漏斗の口を形成するかの様に散開していた。

 まるでこっちの会話を聞いていたかの様だ。

 当然と言えば当然の動きか。デブルヌイゾアッソも馬鹿じゃ無い。

 

「ホールショットで撃墜は可能か?」

 

「目標が小さ過ぎます。精密観測が必要です。軌道予測射撃では誤差が大きすぎて無理です。」

 

「シリュエ、GLT(ガトリングレーザー砲)での迎撃は?」

 

「可能ですが、カバー出来るのは八割程度と予想されます。五十発程は抜かれます。」

 

 空間制圧兵器とは言え、所詮はレーザーで空間をスキャンしているだけのGLTだ。特に目標が小型の場合は、何割かはスキャンの間隙を偶然かいくぐって抜けてくる。

 

「仕方ない。ぶっつけ本番になるが、ミサイル着弾直前にホールインする。ホールアウトは同座標。ホール空間に五秒滞在。」

 

 太陽系外縁での試運転時にWZDを利用した加速は行ったが、ゼロ加速ゼロ距離、つまりホールインした後にホール内空間に滞在し、その場所から全く動かずホールアウトする運動については試運転を実施していない。

 理屈の上では出来る筈だ。そういう説明だった。

 

「諒解。ホールイン後、ホール空間に五秒滞在、同座標にてホールアウト。」

 

「シリュオ・デスタラ、コピー。GLTにてミサイル迎撃開始。」

 

 漏斗状に広がって、第四惑星ごと俺達を包む様な航路を取っているミサイル群の動きをマップ上で確認する。

 シリュオ・デスタラは、六基ある1800mmGLTで全方位に向けてミサイルを迎撃し始めた。

 

「アンサリア隊長から補給要請。リロードパックを射出します。」

 

 GLTでミサイルを迎撃する傍ら、シリュオ・デスタラはアンサリアやビルハヤート達の地上部隊の要請に応えて、彼等に届けるリロードパックを立て続けに発射した。

 撃ち出されたリロードパックは瞬時にホールに突入して消える。

 

 彼女たちはスターゲイザーを相手にして、毎分千発を超える発射能力のある重アサルトライフルを惜しげもなく撃ちまくっているのだ。

 数百発撃てるブレットタブを持てるだけ持って降りているとは言え、十分も撃ち続けていれば残弾が心許なくなりもするだろう。

 

 リロードパックは、換えのライフルや弾薬を大量に詰め込んだ小型の降下用ポッド、もしくは砲弾と思えば良い。

 戦場で戦う軌道降下兵の眼の前に、一人一個ずつ撃ち込まれる。

 陸戦隊兵士達はリロードパック本体を遮蔽体として利用しながら、短期間で弾薬を補充することが可能だ。

 もっとも、HASの装甲さえ食い破るあの触手に対して、パックの外壁がどれだけ遮蔽物として有効なのかは少々疑問が残るが。

 

「ミサイル残百十七。着弾まであと30秒。相対速度2万km/sec。シリュオ・デスタラ迎撃を継続します。」

 

 マップ上では、第四惑星系を大きく迂回したミサイル群が、俺達がいる場所一点に向けて大きく回頭して集中してきている様子が映し出されている。

 シリュオ・デスタラの迎撃行動は継続しており、軌跡は間引かれたかの様に少しずつ消えていく。

 

「着弾20秒前、ミサイル残五十六。10秒前、8、7、6、5、4、3、ホールイン。」

 

 瞬間、視野に映し出されている宇宙空間が殆ど黒のダークグレイのホール空間に変わる。

 ホール空間はダークグレイ一色で、遠近感もなければ、自分が動いているのか止まっているのか指標になる様なものも存在しない。

 ホールインは上手くいったようだ。あとはホールアウトだが。

 

「3、2、1、ホールアウト。第四惑星相対位置確認。ホールイン時との差0.05m。ほぼ成功しました。」

 

 レジーナがゼロ距離ホールジャンプ成功と言う声を聞いて、無意識のうちに止めていた息を吐く。

 マップ上では、目標を見失ったミサイル群がてんでバラバラの方向に向けて迷走しながら遠ざかっていく軌跡が表示されている。

 

「シリュオ・デスタラはどうだ?」

 

 レジーナのほんの数十km先にシリュオ・デスタラを示す青いマーカーが表示されているのは確認出来るが、それでも聞かずにはいられない。

 

「シリュオ・デスタラ、同じく成功しました。ホールイン時との差0.08m。勝ちました。」

 

 3cmの差はどうでも良い。

 いずれにしても、両船ともに成功したならば一安心だ。

 

「駐留艦隊接近。距離250万km、加速7500Gにて減速中。約150秒で有効射程に入ります。」

 

 レジーナの声が、もう一つの現実を突き付ける。

 

「ニュートリノスキャンはどうなってる?」

 

「スキャン終了予想は120秒後です。ニュートリノスキャンプローブ残六機です。」

 

 デブルヌイゾアッソの戦艦は刻一刻と接近してくる。

 有効射程距離まで近付かれて、レーザーを斉射されてしまえばレジーナなど一瞬で消し炭に変わる。

 ジリジリとスキャンが終わるのを待っているくらいならばいっそ。

 

「アデール、スターゲイザー丸ごと星系外に飛ばして、後でゆっくりコアを抜き取るのはどうだ?」

 

「駄目だ。本体ごと飛ばすとそのままホールジャンプでどこかに逃げられてしまう可能性が高い。ホールジャンプさせないためには極力コアだけを抜き出す必要がある。シードと同じだ。」

 

 つくづく面倒な奴等だ。

 

 マップの上でじわりじわりと第四惑星系に近付いてくるデブルヌイゾアッソの駐留艦隊の動きと、プローブの残り数を睨み付け、焦れながらスキャンが終わるのを待つ。

 

「駐留艦隊、距離80万km、加速7500Gにて減速中。70秒で有効射程。」

 

 まだか。

 せめてシリュオ・デスタラだけでもビルハヤート達を回収に送っておくか。

 

「駐留艦隊、距離50万km。45秒で有効射程。」

 

 デブルヌイゾアッソの艦隊は、既にこの第四惑星系に入ってきている。

 地球と月との距離より少し遠いくらいしか離れていない。

 

 幾らWZDDがあるからとは言え、戦艦が艦砲射撃を行う中でビルハヤート達を回収する訳にはいかない。

 レジーナだけなら何とかなる。

 

「船長、ビルハヤート達を・・・」

 

「スキャン完了。スターゲイザーコアを特定。スキャンビーム継続照射。ロックオン。」

 

「ギムレット展開。スターゲイザーコア消失を確認。スターゲイザーコアを回収します。ホールイン。」

 

 レジーナが再びホール空間に飛び込む。

 一瞬のホール空間通過の後、レジーナはヴェヘキシャー星系南方外縁に到達していた。

 

「ホールアウト。スターゲイザーコアを確認。回収作業に入ります。アデール、ニュクス、準備を。」

 

 特定したコアをギムレットで星系外縁に飛ばし、ゆっくりと回収出来る様になった。

 しかし、ビルハヤート達を回収しなければならないシリュオ・デスタラはまだ、第四惑星系内をうろついている。

 シリュエとドンドバック船長のことだ。余程のことが無い限りやられる様なことはないだろうが。

 

 ・・・死ぬなよ。

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。

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