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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十一章 STAR GAZER (星を仰ぐ者)
253/264

5. 強襲降下 (Assault Jump)


■ 11.5.1

 

 

「第三惑星ステーションに動きがあります。3000m級戦艦五隻、1000m級軽巡洋艦八隻、500m級駆逐艦十六隻がステーションを離れました。各級で編隊を組んでいます。」

 

 ビルハヤート達が第四惑星地表に降り、レジーナがニュートリノスキャン用プローブを撃ち出して十分も経たない内に、デブルヌイゾアッソ艦隊に動きがある事をシリュエが報告した。

 第七惑星は大型のガス惑星であり、燃料補給用と思われる大型の軌道ステーションが幾つも存在することが確認されている。

 ビルハヤート達を撃ち出した後に、星系内のデブルヌイゾアッソ艦隊の動きを掴むため、シリュオ・デスタラは通常のセンサープローブを第二から第十惑星に向けて各二機ずつ撃ち出した。

 第三惑星に向かったセンサープローブが、連中の動きを検知したという訳だった。

 

 タイミングから考えて、まず間違いなくこちらに向けてスクランブル出動をしたものと思われた。

 しかし、乗組員のいない艦は初動が早い。少々驚かされた。

 

「星系内の各惑星位置関係のマップを出してくれ。艦隊の動きをリアルタイムで反映。こっちに来るぞ。」

 

 視野中央に星系のマップが開く。

 各惑星は模擬的に大きく表示され、惑星の軌道が白い円で表示される。

 第三惑星は、俺達が今停泊している第四惑星に対して20度ほど星系内東側に存在していた。

 比較的近い位置関係の星にそれなりの規模を持った基地が存在したというのは、運が悪かったと言うしか無い。

 ガス惑星の第七惑星ステーションは、燃料補給基地だろう。

 それに対して第三惑星は、第四惑星を防衛するためのものと考えられる。

 WZDジャンプでいきなり第四惑星軌道に現れた俺達が異常なのであって、本来ならば外敵が星系外縁でジャンプアウトしてから、通常空間をゆっくりと第四惑星まで移動している間に第三惑星からスクランブルして対処出来る。

 

「デブルヌイゾアッソ防衛艦隊加速しました。戦艦五隻が約7000Gで加速中。27分後に第四惑星系に到着します。」

 

 流石列強種族の戦艦、と言ったところか。素晴らしい加速力だ。

 スクランブル用にとにかく脚の速い艦を揃えているのかも知れなかった。

 

「こっちの状態は? ニュートリノスキャンプローブは?」

 

「ニュートリノ発生器励起中です。スキャン開始まであと160秒。」

 

 余裕だ。

 スキャンに必要な時間はほんの数分。ギムレットを打ち込み、こっちもさっさとずらかる。10分もかからない。

 

「どうなることかと思ったが、何とかなりそうだ。」

 

 そう独りごちて俺は船長席の背もたれに深く身体を預けた。

 WZDDさまさまだった。

 

 

■ 11.5.2

 

 

「軌道降下。状況開始。GRG射出と同時にホールイン。ホールアウトは第四惑星、スターゲイザー上空1000m。5秒で地表に到達します。滞空中にスターゲイザーからの迎撃が予想されます。注意願います。」

 

 シリュエのアナウンスが終わると同時に、GRGによるHASの射出が始まる。

 アンサリア隊が待機しているのは左舷射出管だった。

 シリュオ・デスタラには、左舷と右舷にそれぞれ五門ずつのGRGが設けられている。

 その全てのGRGが、ホールショットを伴った軌道降下ポッド用射出管を兼ねている。

 右舷にはビルハヤート隊が同じ様にGRG射出を待っているだろう。

 

 一番目に射出されるエルピナのHASが射出されたことを示す表示が明滅する。

 ガチャリ、と音を立ててローディングコンベアが動いた。

 何度軌道降下を行おうと、射出前のこの時間は緊張する。

 長さ4mほどのポッドに包まれ、宇宙空間から惑星の地表、或いは敵性のステーションに向けて発射される。

 当然敵もこちらのポッド群を迎撃してくる。

 運が悪ければ、目的地に到達すること無く、降下中のポッドの中で自分に何が起こったのかさえ理解する間も無く死ぬ。

 

 そんな死に方をすれば、痛みなど感じる暇も無いことは分かっている。

 だがそれでも、死ぬのは怖い。

 第2883小隊に転属するより前。しかしまだ数年しか経っていない記憶だ。

 

 ガチャリ。

 

 死ぬのを怖がること自体は、悪いことでは無い。

 死にたくないから、戦う。死にたくないから、どうにかして生き延びようと頭を働かせる。足掻く。

 そして戦場という場所に何重にも塗り付けられた死と死の狭間にかすかに見え隠れする生を必死で掴み取る。

 まずいのは、死の恐怖に捕らえられて頭と身体が動かなくなることだ。

 死にたくなければ、最低限頭か身体のどちらかが動いていなければならない。

 両方ともが止まった時、確実に死ぬ。

 死を恐れる事は構わないが、死の恐怖に取り憑かれれば、そこには死が待っている。

 

 ガチャリ。

 

 それでも今は以前よりは随分マシになった・・・筈だ。と、自分に言い聞かせる。

 狭いポッドに閉じ込められ、被発見率を少しでも落とすために、一切の通信を禁じられ、動くことさえ出来ない。

 目立つことを避けるため、一度撃ち出されたら進路変更もままならない。

 上層部が考えるのは、軍や軍団全体の勝ち負けであって、一兵士の身の安全や戦術的優位性では無い。

 自分が射出されたところが、たまたま敵の密度が最も濃い場所という事もありうる。

 射出された次の瞬間、大口径のレーザーを喰らって蒸発するかも知れない。

 地表に降り立って周りを見回すと、見渡す限りの敵の群れに囲まれており、友軍の姿は一機として視野の中に存在しないなどという状況は、実際に体験したことがある。

 後から考えても生き延びる事が出来たのが不思議だった。

 あれ程酷い経験はもう二度としたくはない。

 

「アンサリア。射出5秒前です。幸運を。」

 

 ガチャリ。

 

 シリュエの声が射出準備を告げた後、ローディングコンベアが動き、アンサリアは巨大な筒状のレールガンチャンバー内に放り出される。

 ポッドを使っていないので周囲の視野は良好である筈なのだが、レールガンのチャンバー内壁には何の突起物も無く、結局視野には何も映らない。

 視野の片隅で激しく明滅する「射出」の文字が点滅を止めた次の瞬間、アンサリアのHASはレールガンの砲身の中で一気に加速されて方向から飛び出した。

 

 砲口の僅か10m先にはホールジャンプのホールが口を開けており、アンサリアのHASはそこに1000m/secもの高速で足先から突入した。

 肉眼でホール空間を確認することが出来ないほどに僅か一瞬の間、彼女はこの宇宙空間から切り離され、そして次の瞬間には惑星ルクステ地上1000mの空間に100m/secという速度でホールアウトした。

 

 瞬間、真っ暗だった視野が光で溢れる。

 少し紫がかった青い空に、刷毛で殴り書きした様な白い雲がたなびく。

 地表に衝突する警告音が鳴り、アンサリアはジェネレータ出力を上げて速度を殺しにかかる。

 

 足元に赤茶けた地表。

 そして、全ての光を吸収して黒く蠢く異形の存在。

 麾下の陸戦隊兵士達は既に武器を構え、まるでそこには物質さえも存在しないかの様な暗黒の小山に向けて白熱する弾丸を大量に浴びせかけていた。

 彼女も高度100mから射撃を始め、着陸は自動操縦に任せる。

 彼女のHASのジェネレータが発する重力に反応したのか、または自分に近付いてくる敵性の存在に反応したのか、スターゲイザーから驚くほどの速度で黒い触手が伸びてくる。

 

 自分に向かって真っ直ぐに伸びてくる槍の様な触手を、空中で僅かに右に逸らせて躱す。

 触手に巻き付かれる前にライフルで撃ち抜いて引き千切る。

 高さ100m以上はあるであろう小山の様なスターゲイザー本体中央に緑色のレティクルが合い、光る。

 左肩の重粒子ビームが火を噴き、大気の壁を大パワーで強引に突き破ってスターゲイザー本体に着弾する。

 ビームの着弾ポイントに後追いでライフル弾を叩き込む。

 その間もビームはエネルギー状態を変え続け、薄紅色だったビームが青味がかり、紫からまばゆい白に変わる。

 

 右肩に乗せられたミサイルランチャーから六発のミサイルが発射された。

 役目を終えたランチャーが肩から外れて右に吹き飛ぶ。

 断熱圧縮の炎の尾を引いて、目にも止まらぬ速さでミサイルは突き進み、黒い小山の様な巨体に着弾した。

 六発のミサイルにはそれぞれ異なる弾頭が装備されていたと聞いていた。

 シリュエとレジーナがその結果をモニターし解析する。

 その結果を今彼女が聞かされることは無い。聞いている暇も無い。

 

 彼女だけでは無かった。

 実は今、この場は対スターゲイザー攻撃の実験場と化している。

 アンサリアのHASだけでは無く、全員のHASに様々なエネルギー兵器や、ありとあらゆる弾頭を搭載したミサイルが取り付けられていた。

 現在のところ、シードとスターゲイザーには物理弾頭と高振動のブレードのみが有効である事が分かっているが、それ以外にダメージを与えられる手段が無いか探っているのだった。

 

 無数に伸びてくる触手の内、自分の守備範囲のものに丁寧に一つずつ狙いを付け、ライフル弾を叩き込んで吹き飛ばす。

 総勢四十二人で横並びになって迎え撃っているため、今のところ触手は捌き切れている。

 だがいつか弾切れになる。

 ブレットタブを補給する方法はあらかじめ取り決めてあるが、当然その補給の間に隙が生まれる。それが心配だった。

 願わくば、弾切れを起こす前にスターゲイザーコアの確認と回収が終わる様に。

 アンサリアは意識の端で残弾数を気にしながら、半ば自動機械と化したかの様に触手を迎撃し続けた。

 

 

■ 11.5.3

 

 

 その黒い戦士達は突然空から現れた。

 

 都市と都市を結ぶ交易路のすぐ脇に、ある日突然闇の様に黒い山の様なものが現れた事を知らせたのは、その不気味な黒い山を警戒して慎重に大きく迂回した隊商だった。

 隊商や旅人の宿も兼ねる街道脇の砦では、ここ数日南からやって来るはずの隊商の到着が少なく、警備の者達が不審に思い始めたところへの報告であった。

 隊商がその不気味な黒い山が原因で行方不明になった可能性がある、という事で、砦は戦士五名ほどの部隊を派遣した。

 その戦士達が砦に戻ってくることは無かった。

 

 砦の長は事態を重く見て、さらに五十名程からなる部隊を派遣した。

 果たして五日後、右手を失い、失血で意識さえ朦朧とした戦士がただ一人だけ砦に帰り着き、部隊が一瞬で全滅したこと、黒い山は生きており、近付けば問答無用で攻撃してくることを告げて、警備の兵士達に看取られながら息絶えた。

 長は、砦の兵力では太刀打ち出来ないと判断し、事態を至近の街に住む上司に連絡した。

 街の長は砦からの報告を受け、正体不明の化け物に交易路を分断される事態であることを重く受け止め、二百名ほどの屈強な戦士からなる部隊を組織して送り込んだ。

 そして、一人の戦士も戻ってくることは無かった。

 

 街の長はさらに大きな街の長、この周辺の街を傘下に収め支配する、この地域の王とでも言うべき上役に事態を報告した。

 その王は生真面目且つ慎重な性格であった。

 まず十名ほどの部隊に現地を偵察させ、その部隊が連れて行った動物を黒い小山に向けてけしかけさせた。

 動物たちの命と引き換えに、その黒い小山は、ある一定の範囲よりも内側に動物が侵入した場合に攻撃してくると云う事が分かった。

 彼等が黒山に向けて放った動物の中には、俊足のもの、獰猛な肉食獣、巨体である為に狩りに随分苦労するもの等が選ばれていた。

 しかしそのどれもが僅か一瞬で、黒山が長く延ばした腕に刺し貫かれ、目を見張る様な勢いで黒山に戻る黒い腕と共に姿を消した。

 

 王は千人ほどの武装した兵士達による部隊を組織し、黒山の元に送り込んだ。

 彼等が知るどの様な猛獣の牙にも耐え、爪も弾き返すだけの盾と鎧を装備し、数多くの狩りと戦いを経験してきた戦士達だった。

 千人の兵士達は黒山に対峙し、期待されたとおりの勇敢さを発揮して黒山に向けて挑みかかり、そして部隊の三分の二程の兵士達が為す術も無く瞬く間に殺戮されたところで逃げ出した。

 

 事態を相当に重く見た王は、自分の支配下にある全ての街や村から兵を徴集し、友好関係にある隣国からも兵の貸し出しを募った。

 万に達する人数となった大軍は、重要な交易路のど真ん中に居座り、人も動物も区別無く通りかかる全てのものを殺戮する怪物を目指して七日間の行軍の末に目的地に到達した。

 総指揮官としてこの大軍に同行した王は、初めてその黒山を目の当たりにした。

 まるで空の闇が地上に降りてきた様な漆黒の山。

 その黒山は、報告を受けたよりも幾分か大きくなっている様に見えた。

 

 全ての戦士達が戦いの支度を終え、そして武器を防具を打ち鳴らしながら一斉に黒山に向けて進撃する。

 黒山から何本もの腕が伸びてきて、先頭集団の戦士達を薙ぎ払う。

 その黒い腕が一度叩き付けられるだけで、何人もの屈強な戦士達の身体が空に舞い、引き裂かれ、赤茶けた地面にさらに赤く生々しい血の花が咲く。

 戦士達は走る。

 その走る男達を、黒い腕が次から次へと襲う。

 黒い山野怪物が伸ばす腕は長く素早く、それに対して戦士達の駆ける速度は余りにも遅かった。

 

 意気を揚げて各地より集まってきた戦士達の数が当初の半分を切ろうとした時、彼等はやってきた。

 

 轟音と共に空に穴が開き、その穴の中から黒い戦士が現れて地表に降り立った。

 彼等が知る中で最も体格の良い戦士よりも、さらに胸板厚く手足も太い戦士達は、遥か上空から地上に落ちて死なないどころか、不思議な光の槍を目にも止まらぬ速さで次から次へと撃ち出し、彼等の剣と槍では傷を付けることさえ叶わなかった黒山の怪物の触手を次から次へと切り落とした。

 黒い戦士達とその武器が生み出す目も眩む閃光、耳を聾する轟音、そして地上で狂った蛇の様にのたうち回る黒山の怪物の腕に、彼等は思わず足を止め、怪物を攻撃することも忘れて、黒い戦士達の戦いに見とれた。

 

 黒い戦士達はまるで彼等を怪物から守るかの様に、彼等と怪物との間に立って戦い続けた。

 戦い続けるだけで無く、少しずつ前に進み、怪物との距離を詰めていく。

 それは何が起こっているのか彼等が理解することさえも能わない、激しくも美しく、そして壮絶な戦いだった。

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 総合評価が2000Ptを超えました。

 これもひとえに、拙作を読んで下さる皆様のおかげです。ありがとうございます。

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