3. 原住知的生命体
■ 11.3.1
「ホールアウト。ヴェヘキシャー星系外縁まで約3光年です。シリュオ・デスタラホールアウト確認。距離本船から1.5光秒。」
レジーナの声がシステム内に響く。
太陽系外縁での一連のWZDD試運転を終えた二隻は、そのままデブルヌイゾアッソ領域内である目標のヴェヘキシャー星系外縁近傍にジャンプした。
地球から3万光年近く離れたヴェヘキシャー星系であっても、新型のWZDによるジャンプであれば、僅か1秒足らずという驚愕の性能だった。
「光学および重力観察完了。星系外縁に補給基地とみられる施設を確認。軌道計算から、現在の第四惑星ルクステ位置は、ヴェヘキシャー主星に対して補給基地に対して183度東方、ほぼ反対側になります。現位置情報では星系内に大型艦船は確認出来ません。」
レジーナに続いて、シリュエの声がヴェヘキシャー星系内の状況を伝える。
もっともその情報は約三年前のものであり、三年の間に大きな変化があった可能性はもちろんある。
「OK。予定通り、第四惑星近傍にセンサープローブを打ち出してくれ。」
「諒解しました。ホールショット。目標第四惑星近傍空間。GRG-A、B、F、Gからプローブ射出。四機。完了。」
センサープローブは、第四惑星ルクステの第二衛星スヴォートを囲む様に打ち出された。
小型のセンサープローブであるので直径2m程度の小さなホールだ。
ホールアウト時の重力擾乱はごく僅かなものとなる。バックグラウンドノイズに紛れてしまい、周囲1億km以内にそれなりのセンサーを持った艦船が居なければ、発見されることは無いだろう。
「センサープローブ、スキャン開始。」
今回目標としているスターゲイザーは、地球軍の小型無人偵察機が存在を確認し、近傍にマーカーユニットが打ち込んであるとの事だった。
まずはそのマーカーを発見し、それからレジーナが接近してニュートリノスキャンを行ってスターゲイザーコアの位置を特定する。
コア位置が特定出来れば、あとはギムレットを打ち込んでコアを星系外に飛ばし、デブルヌイゾアッソの目の届かないところで落ち着いてコア回収を行えば良い。
ST部隊からの要求は、第一にスターゲイザーコアの回収だった。
但し、デブルヌイゾアッソの妨害激しく、回収が難しい場合には最低でもスターゲイザーを破壊することが求められている。
スターゲイザーの破壊自体はさほど難しいことではない。
レジーナもシリュオ・デスタラも装備している分解フィールドを叩き付ければ、確実に消滅させることが出来る。
最大の懸念点は、デブルヌイゾアッソがどれだけ妨害してくるか、という点だ。
「マーカー反応確認しました。スターゲイザーが近傍に見当たりません。」
シリュエが少し戸惑った様な声を発した。
「アデール?」
俺は、発見されたスターゲイザー近くにマーカーを打ち込んだ、というST部隊からの情報を俺達にもたらしたアデールの名を呼んだ。
「マーカーは確実に打ち込んだという話だった。幾ら無人の偵察機とは言え、そんな初歩的なミスをするとは思えない。」
地球軍にしてもST部隊にしても、信用は出来ないが信頼は出来る連中だ。
「シリュエ、マーカーから数百km圏内で、衛星の表面に大穴が開いていたりしないか? 要するに、スターゲイザーが引っ越ししたんじゃ無いかと思うんだが。」
「そんな馬鹿な。シードは一度着床してスターゲイザーになった後は、移動能力を失う。」
「マーカーから北東に約120kmの地点の衛星表面に不自然な凹みを発見しました。表面状態と組成から、最近出来た凹みのようです。」
アデールの主張を遮るかの様に、シリュエが報告した。
俺達人間も、脚があっても座ってじっとしていることは出来るのだ。
問題は、どこに行ったか、だが。
たいした時間はかかっていないとは言え、ここまで来て無駄足はあまり気分の良いものでは無い。
「移動した? それとも地中に潜ったか?」
アデールが困惑気味に言った。
スターゲイザーの役割を考えると、地中に潜ったというのは考えにくいことだが。
「衛星スヴォート地表面スキャン終了しました。スヴォート上に異物は見当たりません。精密スキャンしますか? 分解能が現在の0.5mから二桁向上します。90分必要です。」
「いや、分解能は充分だ。地中探査は可能か?」
「可能です。が、地中探査用のセンサープローブが必要です。外惑星開発開拓公社が使用する地中探査用プローブのブループリントがあります。生成には25分かかります。」
外惑星開発開拓公社とは、ガニメデやタイタンを人類が居住可能な星にテラフォーミングしようと頑張っている連中のことだ。
「頼む。」
「諒解。モールプローブ三機生成します。」
シリュエは地中用のプローブの作成に入った様だった。
「地中は無いんじゃないのか? シードを打ち出すのがスターゲイザーの役割だろう? 地中からじゃ都合が悪いだろう?」
俺はアデールに素直な疑問をぶつけてみた。
もちろん、シードはホールジャンプの様な機能を持っているのだ。その気になれば地中からだろうがどこからだろうが、宇宙空間に向けて飛び出すことは出来るのだろう。
それにしてもわざわざ地中に潜るのは違和感を感じる。
「その通りだ。だが例えば、充分に大きくなったスターゲイザーは、発見されない様に地中に潜るのかも知れない。もちろん、お前が言った様にどこか他の星に引っ越したのかも知れない。奴等のことはまだよく分かっていないのだ。可能性として探っておく必要がある。」
何をしでかしてくるか予想も付かない敵、という訳だ。
難儀な話だ。
数分経った頃だろうか。
シリュエが製作している地中用プローブの完成を待ち、誰も言葉を発していない静かなネットワーク上にシリュエの声が響いた。
「質量消失を検知。微少な変動ですが、シードに相当する質量消失による連続的重力変動を検知しました。第四惑星表面近傍です」
やはり移動していたか。
「シリュエ、第二衛星スヴォートへのモールプローブ打ち込みは継続してくれ。新たなセンサープローブ四機を第四惑星ルクステに向けて発射。重力変動地点近傍を中心に地上スキャンだ。」
「諒解しました。センサープローブ#5~#8発射。ホールショット第四惑星近傍に展開。完了。
「惑星ルクステ地表に異物確認。映像で確認。直径約100mの本体の周囲地表に直径800m程度で触手状構造物を展開している模様。確認のためX線レーザースキャンを実施します。」
センサープローブが捉えた第四惑星ルクステ地表の映像が、シリュエによって中継されて俺達に届く。
X線レーザーは大気や雲などの途中の障害物を殆ど透過出来る上に、通常の惑星表面からは励起散乱光が発生するが、シード表面で吸収される。
シードやスターゲイザーを識別するのに有用な方法だが・・・
「「待て!」」
俺が思わず声を上げるのと、アデールの鋭い指示が重なった。
「スターゲイザー周辺の画像を拡大。可視光と赤外光で画像を展開。」
「諒解。可視光と赤外光で画像展開。」
視野中央に二つウィンドウが開き、左側は可視光のカラー映像、右側は赤外光のモノクロイメージが表示された。
30℃前後と思われる惑星表面に、放射状に伸びるスターゲイザーの触手が黒く抜けた様に表示される。
左の可視光ウィンドウには、触手から少し離れた所にまるでシードでもばら撒いたかの様なおびただしい数のくすんだ灰色や茶色の点が表示されており、その点は右側の赤外光ウィンドウ上では地表よりも温度の高い明るい点になっている。
シードもスターゲイザーも基本的には周囲の熱を吸収する。実際、シードの触手は赤外イメージで黒く表示されている。
では、この点はシードではない。
「原住生物・・・いや、戦っているのか。色の差は着衣の差か。原住民だ。」
呟く様にアデールが言った。
第四惑星ルクステの原住民と思しき群れは、スターゲイザーを囲んで戦いを挑んでいる様だった。
画像で見える限りでも、その総数は数千を超えるだろう。
徹甲弾や振動ナイフでなければダメージを与えることさえ出来ないシード表面と同じかそれ以上の固さを持つスターゲイザーには、彼等が持っていると思しき古代の武具では傷を付けることさえ出来ないだろう。
実際、蠢く触手になぎ倒され吹き飛ばされて、地面に赤い染みが次々と増えている。
「シリュエ、ピンポイントでスターゲイザーに絞ってX線レーザー照射。外すな。レーザー光吸収をもってスターゲイザーと断定する。」
アデールが指示を飛ばした。
外せば、レーザーが当たった地表が爆発的蒸発を発生するか、直接原住民をレーザーで焼いてしまう。
いずれにしても原住民を相当数殺してしまうのは確かだ。
「諒解。目標まで距離8200km。X線レーザーピンポイント照射。目標からの散乱光、確認出来ません。
「目標、レーザー照射に反応して動きを止めました。索敵中と思われます。」
「諒解。目標をスターゲイザーと断定。衛星スヴォートの方のモールプローブは?」
「目標、スターゲイザーとしてマーク。モールプローブ生成まであと9分です。」
「モールの方はそのまま継続。マーカーと例の窪み近傍の地中をスキャンして結果報告を頼む。」
「諒解。」
アデールの溜息が聞こえた。
「まずいな。これは想定していなかった。」
「ああ。まずい。最悪だ。」
俺の一言に、アデールは疲れた声で応えた。
この星系を補給基地にしているデブルヌイゾアッソが、第四惑星に原生する知的生命体の存在を知らない筈は無かった。
むしろ知っているので、星系の領有権を主張するために補給基地を設置したと考えるべきだろう。
それはつまり今俺達が映像で確認した、剣や斧の様な原始的武器しか持たないままスターゲイザーに挑みかかるこの勇猛な第四惑星の原住民達は、デブルヌイゾアッソの従族である可能性が極めて高い、という事だった。
それは、ファラゾアと地球人との関係と同じだ。
汎銀河戦争に投入する兵士として、ファラゾアは地球人を育てた。
色々あって今現在地球人はファラゾアから独立しているが、そうでなければ本来地球人はファラゾア軍の一員として汎銀河戦争に送り込まれる運命にあった。
それと同じ事を、デブルヌイゾアッソがこの第四惑星原住民のルクステ人に行っていると想像出来る。
画像で見る限り、ルクステ人は数千から数万の集団を組織し戦っている。
明確な陣形の様なものは確認出来ない軍だったが、しかし動員されている人数はいわゆる原始人には為し得ない大きさの集団だ。
地球で言えば、古代エジプト文明、メソポタミア文明よりももう少し前の段階に当たるだろう。
不連続に途切れた資料から推測されているだけだが、ファラゾアは本来、地球人が文明を築き上げる直前のタイミングで刈り取りを行おうとしていた、と云うのが現在の通説になっている。
つまり、まさに今のルクステ人の状態だ。
ファラゾアとデブルヌイゾアッソではやり方は異なるだろうが、しかし刈り取りのタイミングにそれほど大きな差は無いだろう。
刈り取り時期が早すぎれば、脳がまだ未発達で、主族からの要求に応える能力の無い兵隊が出来上がってしまう。
遅すぎれば、まさに地球人の場合の様に、刈り取りにやってきた主族が返り討ちに遭う、そうはならないまでも従順でない従族の扱いに多大な労力を必要とするだろう。
刈り取り直前、もしくはまさに刈り取り中の従族とその惑星に対して、デブルヌイゾアッソは強く所有権を主張し、他者が接近することを許しはしないだろう。
当然のことだ。
俺達が穏便にスターゲイザーコアを回収しようとしても、デブルヌイゾアッソは過敏に反応するに違いなかった。
汎銀河戦争を戦う種族が、自分達の軍に組み込むための兵士を得る方法として、従族を擁護育成することは一般的に行われていた。
主に、今俺達の眼の前に居るルクステ人の様な未文明化段階の知的生命体を、教育や洗脳、その他の何らかの方法で教化して自軍の兵士として組み込むのだ。
ファラゾアが地球人に対して行った様に、進化段階の知的生命体に対して身体や脳を強化する為の遺伝子操作などを行う事も多い。
その様にして「手塩に掛けて」育て上げた従族に対して、外部からの干渉を歓迎する種族など居はしないだろう。
地球政府は、銀河種族達を軍事的な分類として大きく三種類に分けている。
A:明確に敵対している種族
B:交戦経験は無い、または殆ど無いが、同盟を組んでいないため潜在的敵と分類される種族
C:直接的、もしくは間接的に同盟を組んでおり友軍の関係にある種族
ファラゾアの様に見敵必戦扱いの特Aランクなど、細かく分ければもっと色々な条件が付くのだが、大分類としてはこの三種だ。
デブルヌイゾアッソは、ランクBの敵に分類される。
交戦経験は殆ど無く、「味方ではないので敵」と認識されているだけである為、他種族に対して比較的理知的な対応を取ると言われているデブルヌイゾアッソであるので、ST部隊、つまり連邦地球政府は民間船であるレジーナにスターゲイザーコアの回収を依頼してきたのだ。
即ち、潜在的な敵であるデブルヌイゾアッソ領域に軍艦で押しかけ、領域内惑星表面から飛来物の断片を回収したいと申し出ても彼等がそれを承諾する見込は無い。
だが、民間船がこれを申し出た場合、色々な制限を付けられたとしても、回収自体は認められる可能性が高い、と連邦地球政府は判断したのだ。
スターゲイザーコアは速やかに回収したい、かといって藪をつついて蛇を出す様な真似はしたくない地球政府が考え出した言わば苦肉の策だった。
だが、目指すスターゲイザーコアが存在する第四惑星ルクステに、デブルヌイゾアッソの従族と思しき知的生命体が存在していたのでは、この見込みが根底から覆る。
この従族が刈り取り直前や、刈り取り中であればなおの事だ。
例え民間の船であろうが、飛来物の回収目的であろうが、彼等がそれを認めることは絶対に無いだろう。
「どうするかな。」
頼りない台詞が、思わず口をついて出る。
「元々の計画通りやるしかなかろう。その為に代替案を幾つも用意している。」
聞かれていたらしい。アデールが当然の様に返してきた。
アデールの言うとおりだった。
半ば外交儀礼の様なものになってしまうが、まずは当初の計画通り取りかかるしかあるまい。
「ドンドバック船長。計画通り、ヴェヘキシャー星系外縁に移動する。ジャンプ航法、ジャンプアウト位置変更無し。警備部両課はHAS着用。軌道降下待機。レジーナ、頼む。」
「おう。諒解だ。」
「諒解しました。」
「諒解した。既に待機中だ。」
「諒解。二課同じ。」
それぞれの受令確認がネットワーク越しに届く。
レジーナとシリュオ・デスタラはWZDを利用して瞬時に0.2光速に加速した後、ありきたりのジャンプ航法に突入した。
いつも拙作お読み戴きありがとうございます。
やっと出てきました原住知的生命体。
まだ科学が殆ど発達していない星と思いきや、実は高度に発達した魔法文明が存在し、外敵に対して剣と魔法で戦う原住民。
マサシはビルハヤート達と共に第四惑星に降下し、剣と魔法の世界にパワードスーツで殴り込み!
唸るレールガン、飛び交うレーザー! マサシは勇者まっしぐらで、ブラソンはホントに魔法使いに!
これでこの作品もとうとう異世界チート俺TUEEE! の仲間入りか!?
爆発的に増えるブックマークとページビュー!
うなぎ登りの日間ランキング!!
作者ウハウハで大笑い!!!
・・・嘘ですよ? (多分




