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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十章 ワイルドカーゴ
236/264

10. ドッグファイト


■ 10.10.1

 

 

 約二時間弱かけて空間を走破し、その内一時間をフル加速に使った百十八本のミサイルが海賊船団めがけて殺到する。

 

 その二時間の間に俺達輸送船団は第十二惑星から二百万kmにまで接近しており、いまだに減速加速を掛け続けていた。

 第十二惑星第六衛星表面に着床して隠遁していた海賊船団は、輸送船団の前方に布陣しつつ、第八衛星をミサイルとの間に挟んで遮蔽物として使っている。

 AIを搭載していないとは言え、銀河種族達のミサイルもそこまでバカでは無い。

 第八衛星の陰に隠れた海賊船団の発する重力波を探知しつつ、第八衛星を避けるように散開した。

 

 輸送船団の後方を追跡してきていた七隻の海賊船達は、ついに距離を百五十万kmにまで詰めて来ており、輸送船団が前方の海賊船団と接触するタイミングに合わせて襲いかかろうと待ち構えている。

 百五十万kmなど、減速加速中の俺達輸送船団に追い付こうと思えば、後方の海賊船団の性能であればものの数分で射程距離内に詰められるような近距離だ。

 

「前方海賊船団、ミサイル発射を確認。直射二四八本。接触まで220秒。シリュオ・デスタラ迎撃対応します。」

 

 レジーナの落ち着いた声が報告する。

 稼ぎの悪い海賊達は、準光ミサイルなどという高価な物を買う事が出来ないのかも知れない。

 いずれにしても、こちらが撃った準光ミサイルは今まさに前方海賊船団に襲いかからんとしており、そしてその海賊船団も二百五十本ものミサイルを発射して、戦いの火蓋は切られた。

 

 もちろんこうなることを見越しての配置だが、輸送船団の先頭を守っているのはシリュオ・デスタラだ。

 彼女が搭載している1800mmGLT(Gatling Laser Turret)x六基という過剰にも思える大口径光学兵装は、こういう時のためにある。

 射程が200万kmに迫るガトリングレーザーがその最大の特徴である空間制圧円錐を形成し、シリュオ・デスタラから伸びるレーザー光で形作られた六本の円錐が、海賊船から撃ち出されたミサイルを次々と破壊していく。

 

「前方海賊船団、準光ミサイルの回避行動に入りました。第八衛星に接近。旋回半径が小さすぎて、ミサイルは回り込めません。本船およびレジーナから発射された六十発は対応可能です。」

 

 銀河種族達が用いるミサイルは追尾性が低い。

 それに対して、搭載されたAIで目標の未来位置を予想して追尾する地球製のミサイルは高い追尾性を誇る。

 その製造者に似て、しつこく諦めが悪いミサイルなのだ。舐めてもらっては困る。

 

「シリュエ、他の三隻のミサイルは当たらない。俺達のミサイルを分散させてできるだけ多くの目標に着弾する様にしてくれ。撃破する必要はない。隠れ蓑だ。」

 

 紛れ込ませているセンサー弾頭のミサイルを中継局として、他の全てのミサイルにほぼタイムラグ無く追尾情報の指示を送ることが出来る。

 

「諒解しました。目標再設定。完了。着弾まで五秒。」

 

 第八衛星を回り込んだミサイル群が、前方の海賊船団に襲いかかる。

 ゼブアラカナ、アソルイヤ、デガージ三隻の放ったミサイルは、第八衛星を小さく避けてしまったために、衛星の陰、地表近くにまで待避した海賊船達を捉えることが出来ない。第八衛星の地表近くを回り込んで目標に向かって旋回しつつも軌道は大きく外れ、海賊船団から遙か彼方の空間を虚しく駆け抜け、亜光速で宇宙の彼方に消えていく。

 一方、第八衛星を大きく回り込んだ地球製ミサイル達は、予定航路上に海賊船をしっかりと捉えていた。

 俺達にとって有利となったのは、ミサイルが第八衛星を回り込んだ事で着弾の時間が分散し、その間にホールショットを数回斉射する為の時間が出来た事だった。

 

「GRG#1、弾種三式、統制射。発射。第二射装填、発射。第三射、発射。第四射、発射。第五射、発射。ホールショット統制射撃終了。弾着確認。目標P22、P26、P27、P31、P34、P35、P36、P37、P38撃破確認。P21、P23、P28中破確認。前方海賊船団撃破九、残九、うち中破三。」

 

 感情がこもらない声でレジーナが状況を読み上げる。

 結局最終的に、第八衛星からは十八隻の海賊船が出撃してきた。

 その内のちょうど半数を撃破できたことになる。

 まだ第八衛星上に隠れている伏兵が残っているかも知れない。油断は禁物だ。

 そして後方から七隻が追い縋ってきている事も忘れてはならない。

 

 しかし流石に、ミサイル六十発の着弾だけで撃破九、中破三は戦果がありすぎた。

 ドンドバック船長は確実に気付いただろう。

 後の二人も不審に思うかも知れない。

 だが、ホールドライヴデバイスの存在を極力隠しつつも、生き残るためにはこうするしか無い。

 

「前方海賊船九、後方七、加速しました。接近してきます。」

 

「レジーナ、ゼブアラカナに繋いでくれ。それと、操縦をもらう。」

 

 これからは本格的な乱戦になる。足の遅い輸送船と同航していては、お互い的になるだけだ。

 

「諒解です。You have。ゼブアラカナ繋がりました。」

 

「どうした、マサシ。忙しいんだ。あんまり邪魔するな。」

 

 ドンドバック船長は、明らかに他の作業をしながらの片手間と言った口調で返答した。

 

「その話だ。面倒はこれで最後だ。シリュオ・デスタラは現位置を維持、レジーナは脚を生かして遊撃する。良いな?」

 

「それで良い。デガージも同じ行動をとらせる。お前は前だ。死ぬなよ。」

 

 流石の判断だ。

 

「あんたもな、船長。」

 

 足の速さで言えば、多数のジェネレータを搭載するシリュオ・デスタラはレジーナと同等以上の足回りを持つ。

 しかし、レジーナよりも遥かに重武装であるシリュオ・デスタラは、その重武装を生かして船団に貼り付いていた方が良いだろう。

 

 ドンドバック船長との会話を終えると同時に、レジーナは弾かれたように前方に飛び出した。

 2500Gの加速で一気に輸送船団を追い抜き、船団の前に出る。

 さらにそのまま海賊船団に向けて突き進む。

 

「前方海賊船団接触まで20秒。本船のレーザー射程距離まで8秒。」

 

「ニュクス、ミサイル、反応弾頭、目標任意、全弾発射。」

 

 ニュクスの返事が聞こえる代わりに、レジーナから二十発のミサイルが放たれ、前方に広がって行く。

 

「海賊船ミサイル発射。数94。迎撃します。」

 

「迎撃しなくて良い。避ける。レーザーは敵船を集中して一隻ずつ狙っていけ。」

 

「諒解。A、B、C砲塔目標P29。距離62万。射撃開始。」

 

 レジーナが、海賊船が放ったミサイルを半ば自動的に迎撃しようとするのを止める。

 そんな必要など無い。

 避ければ良い。

 万が一当たっても、分解フィールドと電磁シールドで弾ける筈だ。

 後ろに流れたミサイルは、シリュオ・デスタラの防空装備の餌食だ。

 気にする必要は無い。

 

「ニュクス、遷移運動の重力変化で誤魔化してホールショット撃てるか?」

 

「タイミングを合わせる事は可能じゃ。誤魔化しきれぬと思うがの。」

 

「それで良い。発射はこっちから指示する。タイミング合わせを頼む。弾種三式。」

 

「諒解じゃ。」

 

 その気になれば、センサープローブを幾つか撃ち出して、シリュオ・デスタラとの統制射撃で瞬く間に全ての海賊船を撃破する事も可能だ。

 だが、ホールショット時の重力波の問題と、余りに効率よく撃破し過ぎるのも拙い、という二つの理由でそれは出来ない。

 お互いレーザー回避のための遷移運動を行うので、距離があればあるほどレーザーは命中しにくくなる。

 レーザーの射程距離自体は百万から二百万kmにも及ぶが、それに対して必中距離など、十万kmを切るほどだ。

 所詮は光の速度でのんびりと「弾体」が飛んで行くレーザー砲でしか無いのだ。

 

 輸送船団から突出して前方海賊船団に向かって突き進むレジーナを、迎え撃ち包囲する形で海賊達が陣形を変えつつある。

 このまま真っ直ぐ突っ込めば、数万kmの距離で包囲されて袋叩きに遭う。

 勿論そんなバカな航路は取らない。

 第十二惑星反対方向に旋回し、海賊船P30の脇をすり抜けるコースを取る。

 

「P30、相対速度28000。」

 

「P30はホールショットで片付ける。レーザーは他の目標に照準。ホールショット用意。」

 

 すかさずレジーナが情報を提供してきた。

 マッピング上で、レジーナから10万km、20万kmの距離を示す、薄く着色された球面の中に海賊船P30が急速に重なる。

 20万kmは、相手がこちらの動きを検知して応射してくるまでの時間が約1.5秒、10万kmが約1秒の目安ラインとなる。

 レーザー砲撃を躱すための遷移運動をしている場合、20万kmの距離があれば被弾率はさほど高くないが、10万kmを切ると急速に跳ね上がる。

 そして10万kmは、ホールショットよりも更に応答性が高く、より致命的なダメージを与えることが可能なギムレットの攻撃範囲でもある。

 

 P30との距離15万kmほどで急旋回する。

 その後数秒でP30との差異近接距離が10万km強となる。

 

「ニュクス、ホールショット。」

 

 言葉で思考したわけではない。

 まさに今ホールショットを撃ちたいという俺の意思が、レジーナの操縦管制インターフェースであるリンクシステムを通じてニュクスに伝わる。

 返答の代わりとばかりにGRG二門が質量1トンにもなる実弾体を50km/secもの速度で吐き出す。

 GRG砲門から飛び出した実弾体は、砲門直前に展開された直径僅か3mのホールに吸い込まれ、一瞬この宇宙からその存在を消した。

 実弾体二発が再びこの宇宙に姿を現したのは、海賊船P30の船体から僅か50mの位置だった。

 近接信管では動作が間に合わないため、三式弾の反応弾頭は所定の時間で爆発するようセットされている。

 

 ホールを抜けた三式弾は、反応弾頭の爆発初期段階の状態で海賊船P30の船体に突き刺さった。

 重金属の硬い殻に包まれた反応弾頭は、数億度という超高熱を発し、そのプラズマを急速に膨張させる。

 半ば蒸発しながら弾け飛んだ弾体の重金属が、膨れ上がる超高温のプラズマと共に、船体内部のあらゆるものを抉り吹き飛ばし融かして破壊しながら海賊船の内部を突き進む。

 反応弾頭が発するプラズマで完全に蒸発してしまう前に、三式弾の弾体は海賊船の船体を貫通して反対側に抜けた。

 

 しかしその頃には急速に膨れ上がる反応弾頭のプラズマは、海賊船の船体を大きく凌ぐほどに成長していた。

 内部で膨れ上がるプラズマの圧力を受け、まるで風船のように海賊船の船殻が膨れ、引き裂かれ、破裂し、融け、蒸発して消滅していく。

 次の瞬間、海賊船P30であった物質は全て、二発の反応弾頭によって発生した超高温のプラズマ球の中で蒸発するか、その圧力で周囲の空間に向けて飛び散るかの結末を辿った。

 そして海賊船P30は、大量のデブリとガスを辺りの空間に撒き散らしながら、この宇宙から消滅した。

 

「レーザー着弾多数確認。ごく短時間の着弾です。被害軽微。」

 

 前方海賊船団に接近している事で、少しずつ被弾数が上がっている。

 巨大なバレルロールを描くように旋回したレジーナは、当初レジーナを包囲しようと広がった前方海賊船団の包囲網の外側をなぞるように回り込む。

 足の速いレジーナだからこそ出来る技だ。

 包囲網の外側に出てしまえば、海賊船を個別に、多くとも一度に最大二隻程度を相手にするだけで済む。

 レジーナの動きを見た海賊船達は、包囲陣型を解いてレジーナの動きに対応しようとしているが、対応が遅い。

 

 すでに食い破られた包囲網の外側に飛び出すように転進した海賊船P33が、レジーナの進路前方に飛び出してくる。

 レジーナの船体上部から十発のミサイルが飛び出し、P33に向けて突き進む。

 レジーナはP33から再近接8万kmの位置を直角に駆け抜ける。

 P33は自船を包囲するように食らい付こうとするミサイルを迎撃するのに手一杯で、レジーナを砲撃する余裕がない。

 飛び抜けざまにレジーナが放ったギムレットが、P33の船体に直径20mもの貫通孔を開け、更に船体の何カ所をも抉り取る。

 

 ギムレットのホールによって船橋を抉られたP33は、その時点で実質的に機能を停止した。

 別のギムレット破壊孔によってリアクタ制御装置を削られ、P33が二基搭載するリアクタの内一基は制御不可能となって失火した。

 しかしもう一方のリアクタは、制御装置を失った事で燃料供給過多となり、瞬時に暴走状態に突入して爆発した。

 リアクタベッセルを吹き飛ばし膨れあがる核融合プラズマが、そのまま船体を飲み込み、そして爆散した。

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 

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