表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第十章 ワイルドカーゴ
234/264

8. 弾種三式、管制射撃


■ 10.8.1

 

 

 重水輸送船二隻を中心として、護衛船五隻を加えて計七隻の輸送船団は、第十二惑星に進路を取りつつ、800Gでの減速加速を掛け続けている。

 海賊船団が俺達に追い付いてくるまで約十四時間と算出されているが、この十四時間何もせずに焦れながら待ち惚けも馬鹿馬鹿しい話だ。

 レジーナとシリュオ・デスタラには折角ホールショットという強力且つ有効な武装があるのだ。

 これを活用しない手は無かった。

 

 問題は、二隻がホールショットを撃てると云う事、即ちホールドライヴデバイスを装備しているという事を輸送船団の他の船に極力知られたくないという事情がある点だ。

 誰にとっても、とりわけ後ろ暗い商売をしている連中にとって特に、ホールドライヴデバイスは喉から手が出るほどに手に入れたいものの筈だった。

 現在のジャンプ航法では絶対に実施出来ない星系内での超光速航法の使用は、物流や軍事の常識を一気にひっくり返すものとなる。

 後ろ暗い商売をしている組織にしてみれば、星系内の通常空間を何十時間もダラダラと航行して、時間と共にヤバイ事になっていく問題を一気に解決出来る。

 

 その様な巨大な利益が眼の前に存在している時、人の命の重さなどあって無きが如しであり、厚い友情と信頼関係もまるでシャボン玉の様に、薄く一瞬で弾けて消えるものとなり有ると承知している。

 面倒な言い方をした。

 要するに、俺達がホールドライヴデバイスを持っていると知ったこの輸送船団の誰かが、その情報を誰かに売ったり、事によると本人が直接襲いかかって来たりしないか心配している、という事だ。

 

 もう既に何度か人目があるところでホールドライヴを使ってしまっていた。

 だから今更という話ではあるのだが、かと言ってわざわざ自分から宣伝して事態をより悪化させる必要など無い。

 

 それが、先にゼブアラカナで各護衛船の船長会議を行った時に、俺がホールドライヴデバイスについて一切言及しなかった理由であり、そして海賊と思しき船団が現れて既に数時間経過しているにも関わらず、一隻の船も撃沈されていない事の理由でもあった。

 

 俺はシリュエとレジーナ、ニュクスとアデールに声をかけてその点について話し合った。

 問題は、ホールを開いた時にどうしても発生する重力波であり、これを隠す方法は今のところ存在しない。

 人間二人が色々と提案し、機械知性体達がその案を次々にシミュレートして、相変わらず重力波を隠しきる事は出来ないが、しかし現時点での最善策であろうと云う対策を編み出すに至った。

 そして俺達はそれを実行に移した。

 

 

■ 10.8.2

 

 

 海賊船団と思しき十八隻の船が、俺達輸送船団に追い付くまであと八時間の距離まで迫ってきた時に、ドンドバック船長が定型の誰何を行った。

 相手方が確実に受信できるように拡散性の高い電磁波を使用しているので、通信には数十分のタイムラグがある。

 

「こちら貨物船ゼブアラカナ、ドンドバック船長だ。当船団の進路後方より接近する船団に問う。貴船の帰属を明らかにせよ。」

 

 勿論返答など期待していない。

 だがこの誰何を怠ると、海賊と同定されていない船舶を問答無用で攻撃したと、後々面倒な事になりかねない。

 

「繰り返す。こちら貨物船ゼブアラカナ、船長のドンドバックだ。当船団の進路後方より接近する船団に問う。貴船の帰属を明らかにせよ。貴船団の進路は当船団の脅威となり得る。また貴船団は、当船団を襲撃する為と取られかねない航路を取っている。直ちに進路変更されたし。」

 

 勿論返事も無ければ、進路変更もない。

 

「この呼びかけに返答が無ければ、海賊と断定する。繰り返す。こちら貨物船ゼブアラカナ、ドンドバック船長。当船団の進路後方より接近する船団に問う。貴船の帰属を明らかにせよ。また、現在の進路では当船団への襲撃の意志有りと判断する。直ちに進路変更されたし。」

 

 その後たっぷり一時間ほど返答を待ってから、ドンドバック船長が言った。

 

「やるぞ。」

 

 通信をしている間に相当の時間が経っており、海賊達が輸送船団に追い付くまであと六時間を切っていた。

 勿論、これもダンマリを決め込む海賊の手口だ。

 獲物が混乱して色々と対応している間に距離を詰める。

 だからドンドバック船長は、気が早すぎる様にも見えたが、まだ充分余裕のある内から海賊達に誰何を行ったのだ。

 

「現時点で後方から接近する船団のマーカー識別ラベルをU (Unknown:不明)からP (Pirates:海賊)に変更します。ナンバリングは同一です。」

 

 感情のこもっていないレジーナの冷ややかな声が、まるで敵を排除する酷薄で冷徹な意思を示したかの様にシステム上に響き渡る。

 

 海賊に対して、俺達防衛側が絶対的に有利な点が一つだけある。

 海賊は、こちらの積み荷が目的である為に、獲物を爆沈させたり消滅させる様な全力の攻撃は出来ない。

 逆に防衛側は、とにかく海賊を排除すれば良いので、何の遠慮も無く全力の攻撃を叩き付ける事が出来る。

 勿論それも、海賊を叩き潰せるだけの武装あっての話ではあるが。

 

 シリュオ・デスタラを含めた全五隻の護衛船から、百を超えるミサイルが一斉に放たれる。勿論、レジーナもだ。

 発射されたミサイルは、一旦輸送船団からも海賊からも離れる様な進路を取って直進する。

 ある程度離れた所で向きを変え、全力加速で海賊船団に襲いかかる。

 準光速ミサイルの最大の武器である速度を稼ぐためと、比較的シールド強度の弱い船体側面を狙って食らいつくためだ。

 一斉発射の後、約二十分ほど経ってから再び全護衛船から同数のミサイルが斉射される。これを三回繰り返した。

 

 レジーナとシリュオ・デスタラから発射したミサイルの中には、弾頭をセンサーに取り替えたミサイルが幾つか混ざっている。

 ドンドバック船長達には言っていない。

 

 第一射発射後一時間ほど経ち、ミサイルが方向転換する。

 シリュオ・デスタラのものと併せて五本ほど混ぜてあるセンサー弾頭から、リアルタイムで情報が送られてくる。

 ミサイルが向きを変えて最大加速に入った事を感知し、海賊船団も回避行動を取り始めた。

 逃げ切る事など出来ない。

 海賊船は全力で加速して二時間もかかっても0.2光速に到達するかどうか。

 対して準光速ミサイルは一時間の加速で0.5光速に達する。

 

 奴らに可能な事は、超高速で接近するミサイルをギリギリのところまで引きつけ、タイミングを合わせて避けるという一か八かの大博打しか無い。

 或いは全シールドを最大にして、秒速二十万kmに近い速度にものを言わせてシールドを突き抜けてくるミサイルが、どうか船体に当たらず、近接信管も作動しませんようにと祈るぐらいしかない。

 

 準光速ミサイルの最大の難点は、「それ」が案外有効な事だ。

 実はレジーナが装備している準光速ミサイルの命中率は三割を切る。

 地球製の異常に追尾性が高いものでその程度であるので、銀河種族達が使っている「諦めの早い」ミサイルの命中率など言わぬが華、惨憺たるものだ。

 要するに、ミサイルの速度が速すぎて、眼の前でひょいとかわされると追尾出来ずにすり抜けてしまう。

 マタドールにひらりとかわされた暴れ牛の様なもの、とでも言えば想像し易いだろうか。

 

 都合の悪い事に、光速の半分ほどまでスピードが乗り切っているミサイルが、速度を殺し向きを変えて再度目標を追いかける頃には、今度は燃料が尽きてしまっている。

 一度目標に避けられてしまったミサイルが再び目標を捉える事は無い。

 実際のところ三斉射で船団合計四百発近いミサイルを撃っておきながら、たった十八隻の海賊船の内、数隻沈める事が出来れば良い方だ。

 

 それでもゼロでは無いので撃ったのだ。

 十数時間何もせずに海賊の接近を手を拱いて待っているよりは、例え命中率は哀しいほどに低くとも、一隻でも二隻でも数を削れるならばその手を講じる。

 それがドンドバック船長の判断だっただろうし、そしてそれはまったく正しいと俺も思う。

 だが、俺達、レジーナとシリュオ・デスタラの思惑はそれとはまったく異なっていた。

 

「第一ミサイル群、着弾まであと300秒。」

 

 一回目の斉射から二時間近く経った頃、レジーナの声が再びシステム上に響いた。

 俺達には、センサー弾頭ミサイルから送られてくる、青方偏移を強引に画像処理したノイズの多い海賊達の映像が見えている。

 全ての海賊船はミサイルが突入してくる方向に船首を向け、投影面積が最小となる様な姿勢を取っている。

 多分、船首シールドもジェネレータが悲鳴を上げる程まで最大強度で展開しているだろう。

 

「第一ミサイル群、着弾まであと200秒。ホールショット射撃体勢に入ります。目標選択、シリュオ・デスタラと統一射撃管制。弾種三式。本船はGRG-Aを射撃用に、GRG-B用のHDD (Hole Drive Device)を重力波ダンパーに使用します。

「シリュオ・デスタラは、GRG-AからEの五門を射撃用に、同FからJまでのHDDをダンパーに使用します。

「目標選定優先順位一番P08は、払下げ軽巡洋艦と推定されます。以下P11、P06の優先順位三位までを第一斉射目標とします。」

 

 射撃管制は、その道に長けたシリュエが行う。

 レジーナの一門と合わせて六門。

 一隻の海賊船に二門割り当てて、三隻を同時に狙う。

 

「第一ミサイル群、着弾まで50秒。」

 

 シリュオ・デスタラともリンクされたシステム上で、声を発するものはいない。

 重水輸送船に分乗しているファデッラ隊とカスファ隊にもこの映像は共有されている。

 しかし、普段なら軽口の一つも叩くビルハヤートやブラソンでさえ、今は声を発する事は無かった。

 全力でいけば叩き潰せる相手とは言え、やはり自分達が獲物として狙われる立場になるのは、なんとも嫌な緊張感を引き起こす。

 

「第一ミサイル群、着弾まで20秒・・・10秒・・・ダンパー同時動作GRG斉射5秒前、3、2、1、斉射。」

 

 センサー弾頭ミサイルは、わざと目標を外して海賊船団のど真ん中を通過した。

 その途中、ミサイルの着弾と海賊船の撃破の様子を詳細に観察してデータを送信してくる。

 

 海賊船に無数のミサイルが群がり、爆発する。

 相手が相手だけに一切の容赦など無く、どのミサイルも反応弾頭を搭載している。

 漆黒の宇宙空間に、白い核融合プラズマの火球が無数に膨れあがった。

 海賊船のシールドに弾かれつつも、近接信管が作動して爆発したものの、シールドにいなされてあらぬ方向に吹き飛ばされるもの、見当違いの場所で爆発してしまっているもの、そもそも目標に上手く逃げられて見当違いの空間を突っ切り、爆発さえしないもの。

 

「P08、P06撃破。P02、P17はミサイルが撃破しました。海賊船残十四隻。」

 

 感情を込めずにレジーナが第一斉射の成果を報告する。

 

 レジーナとシリュオ・デスタラは、ミサイル着弾のタイミングに合わせて、六発のホールショットを三隻の目標に対して放っていた。

 俺達がホールショットを行った事を他の船には勘付かれたくは無い。

 しかし、ホール形成時の特徴的な重力波は消しようが無い。

 苦肉の策で、ホールショットと同時にホール近傍に別ホールを形成し、極力重力波を打ち消す様に、打ち消しきる事が出来ずともホールドライヴ特有の波形を掻き乱し、他の護衛船達がそれと気付く事が出来ない様にした。

 

 その為、レジーナもシリュオ・デスタラも持てるホールショットの半数しか発射出来なかった。

 それでも、命中率の低いミサイルだけに任せるよりも多い戦果を期待して、コソコソと隠れるようにしてホールショットを撃った。

 相手が脆弱な船体構造を持つであろう海賊船である事から、弾頭に近接信管付きの反応弾(三式弾)を使用した。

 

 徹甲弾の様に内部に喰い入り船体内部で核爆発を起こす訳ではなく、目標に接近すると爆発するタイプである為、直撃せずとも貨物船であれば大きな損傷を受ける。

 特にホールショットで三式弾を撃ち込まれた場合、爆発位置はシールドの内側、船殻から僅か数十~数百mの位置である為にその被害は甚大なものとなる。

 船体に至近の位置で解き放たれた核爆発のエネルギーは、船殻を吹き飛ばし、フレームを歪め、場合によっては船そのものを折り曲げ大穴を空けて大破させる。

 軽巡洋艦クラスの軍艦であっても、まともに行動出来なくなるだけの被害を受ける。

 そして何より、辺りで多数爆発している準光速ミサイルの爆発と区別出来ないので、レジーナとシリュオ・デスタラが何か特殊な攻撃を行ったとばれる可能性が低くなる。

 

「第二ミサイル群、着弾まで20秒・・・10秒・・・ダンパー同時動作GRG斉射5秒前、3、2、1、斉射。」 

 

 約二十分後、亜光速まで加速した準光速ミサイルが海賊船団に襲いかかるタイミングで再びホールショットを行う。

 

「P09、P13撃破。P18はミサイルが撃破。海賊船残十一隻。」

 

 その後二度、同様に準光速ミサイルの着弾のタイミングに合わせてホールショットを行う事で、俺達重水輸送船団の後方から襲いかかろうとする海賊船の数を七隻にまで減らす事が出来た。

 この数字であれば、俺達護衛船団が重水輸送船二隻を守りつつ海賊と正面切って殴り合いをしたとしても何とかなる。

 そう思えるところまで海賊船の数を減らす事が出来た。

 しかしそこで海賊達はこれまでと変わった行動を採り始める。

 あれほどしゃかりきに俺達を追いかけていた加速度を900G程度まで落としたのだ。

 それは最も奴等に取って欲しくない行動だった。

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 あれだけ使っておいて今更、という感が否めませんが、ホールドライヴは秘匿技術なのです。


 それと作中では詳細に触れませんでしたが、レジーナが量子通信でデータを共有出来ないのは、シリュオ・デスタラ以外の三隻です。

 シリュオ・デスタラとは統一管制射撃が可能であるくらいにデータ共有をしています。


 私事ですが、一週間ほど更新出来ないものと思われます。

 楽しみにして下さっている皆様には大変恐縮ですが、宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ