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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第一章 危険に見合った報酬
10/264

10. 襲撃


■ 1.10.1

 

 

 その部屋の中には、ハフォン軍制式の黒に近い緑色の軽装甲スーツ(LAS)(Light Armored Suit)を着込んだ二十名の兵士が並んでいた。

 兵士達は身動きすること無く、まるで部屋の中に誰も居ないかの様に静まりかえっていた。

 天井の高い部屋に、鋭く男の声が響く。

 

「注目! すでに情報を受け取っているかと思うが、イスアナ市内にテロリストが潜伏しているとの情報を得た。今回の制圧出動の目的は、このテロリストの身柄の確保だ。

「テロリストは二名。一名は外国人の男、もう一名はハフォン人の女だ。男は実行犯、女の方はこの男を国内に招き入れた手引き係だ。逃走もしくは抵抗が予想される。第一目標はこの2名の身柄の確保だが、抵抗するようであれば撃って構わん。

「ドゥライミヤ班は1号車、アルベクル班は2号車に搭乗。3号車は指揮車となり、私が搭乗する。目標の外見的特徴等の詳細は車中で共有する。全員HMD回線がオープンになっていることを確認しろ。装備は屋内戦C11。作戦指示番号は610949。諸君のコマンドボックスの最上位に特先で表示されているはずだ。宮城を出発後、現地到着までは約二十分を見込んでいる。その間に作戦内容を確認し、装備を全て起動して相互確認を忘れるな。質問は?」

 

 誰も何も言わなかった。そこに居る兵士達は皆、何もかも分かっているといった自信に満ちた顔でキュロブに注目していた。

 

「無ければ、以上。搭乗開始!」

 

 全員が部屋の出入り口に向けて早足で進み始める。

 キュロブが作戦概要を説明している間は静かだった室内に、二十名の兵士達の立てる銃器類の金属音と軽装ブーツの足音が渦巻く。

 部屋を出ると左に曲がり、通路はすぐに広い格納庫に通じていた。

 

 格納庫の中はさすがに真っ白ではなかったが、軍用車両や貴賓用車両に混ざって小型の大気圏外用シャトルまでが駐機してあるのには驚いた。

 俺たちが乗り込む黒い軍用の兵員輸送用ビークルが三台、格納庫入り口近くに並んで横付けしてあり、兵士達がすばらしい勢いでその中に駆け込んでいく。

 この様子を見る限り、ハフォン軍の部隊はなんら地球軍に劣っていないように見える。

 それくらい彼らの動きは統率がとれており、手際が良かった。

 

「おまえは私と一緒に3号車だ。いくらテランでも、戦闘に参加してもらっては困る。」

 

 キュロブはそう言うと、他の2台よりも一回り大きいビークルに向けて歩いていく。

 そういうキュロブも、そしてもちろん俺も、兵士達と同じ黒っぽい緑のLASに身を包んでいる。

 俺が3号車に辿り着く頃には、他の二台は車体後部の搭乗用ハッチを閉め、すでに空中に浮いていた。

 格納庫の屋根が一部開きはじめ、薄暗かった格納庫の中に明かりが差し込み始める。

 なるほど、あそこから発進するのか、と眺めていたら車の中からキュロブに早く乗れとせかされたので、あわててハッチをくぐる。

 

「出撃。」

 

 キュロブが短く力強い声で指示を出す。

 三台の軍用ビークルはすばらしい勢いで上昇し、格納庫の屋根を飛び越えた。

 

 

■ 1.10.2

 

 

 惑星ハフォンの環状ステーション「ハフォネミナ」に存在する、群体サーバの集団に格納されているファイル群のチェックを行っているとき、突然ブラソンの目の前に警告メッセージの真っ赤なウィンドウが開いた。

 

 ハフォネミナ群体サーバの画像は、チップが視覚神経に介入して展開しているイメージだが、その前面に彼の生来の眼球を通して外部から視覚入力されたHMDコマンド画面のウィンドウが開いたのだった。

 今行っている作業を完全に邪魔する形で開く緊急の真っ赤なウィンドウなど、ろくなものではない事は容易に想像できた。

 もちろん自分で設定したものだ。そう言う類の緊急性の非常に高いものを設定したのだ。

 素早く警告メッセージに眼を走らせる。

 マサシが王宮を出て高速で移動している事を通知する内容だった。

 

 ミリやマサシに何かあったときのために、理論空間内での彼らの位置情報にはタグを付け、常に状況を見張るPGプログラムを張り付けてあった。

 特にマサシについては、敵性の組織に接触しその内部に潜入する工作を行うため、何が起こるか分からないという理由から、少しでも奇妙な動きが発生したらすぐに警告を発するように仕込んでいた。

 今、まさにそのPGがブラソンの作業に割り込み、メッセージを送ってきているのだった。

 一瞬、今日の仕事が早く終わったのでホテルに帰ってきているのではないか、などと考えたが、そんな事がある筈はないと自分でも分かっていた。

 ブラソンは、今取りかかっていた作業を即座に終了し、首都イスアナに瞬間的に移動した。

 急激な仮視画像の切り替えは脳による認識が状況に追従できず目眩を起こす事があり、普段は移動を実感できるように画像を動かして目的にまで移動する。

 しかし赤色の警告ウィンドウが出た時点で、そのような悠長なことを言っている場合ではないことは分かっている。

 

 イスアナ市内でマサシの輝点を探すと同時に、イスアナ市の現実世界の地図に各アクセスポイントの位置を重ねたマップを生成する。

 マサシの輝点は王宮からホテルに向かって猛スピードで一直線に動いていた。

 このままあと十分もすればホテル周辺に到着するだろう。

 市街地内を移動するビークルは、基本的に地上の道路沿いか、空中ハイウェイと呼ばれる眼には見えないがシステム的に規定された飛行路を必ず通る。

 それがイスアナ市内での都市型ビークル運用条例だからだ。

 

 しかし今、マサシの輝点はそのような通路を全て無視して王宮とホテルを直線で結んだ経路を真っ直ぐに動いている。

 嫌な予感がした。

 ブラソンは、すでに手に入れているイスアナ市内の安全保障関連のマスタIDを用いて、マサシの移動する経路上にある市街監視カメラにアクセスした。

 本来地上を監視する役目のカメラの仰角を調整して空に向けたちょうどその時、カメラの目の前を三台の黒い軍用ビークルが高速で飛び去ったのが見えた。

 

 ホテルに一番手近なところを飛んでいた都市型ビークルを乗っ取り、ホテルの裏口に横付けしてコマンド待機状態になるように指示する。

 同時に緊急離脱シーケンスを起動し、最短時間でネットから離脱する。

 ミリの携帯端末を呼び出す。応答しない。

 これだからチップ無しどもは、と罵りながらミリのIDに向けてメッセージを打つ。「襲撃。逃げろ」と。

 

 緊急自爆シーケンスを一分に設定して起動する。

 目の前に大きな赤い円が開き、円の中の巨大な文字がカウントダウンを開始する。

 これで1分後には、ブラソンが時間をかけてネット上に構築した防護壁やアクセスポイントへの入り口などは跡形もなく消滅する。

 もちろん、あちこちに仕込んだ仕掛けはそのまま仕掛けられたままだ。

 先に起動した離脱シーケンスが完了し、HMDコマンドウィンドウ以外の全ての画像が視野から消滅した。

 HMDをかなぐり捨て、ベッドから跳ね起きる。

 そのまま、部屋の入り口に突進してドアを叩き開け、廊下に飛び出す。

 右手で大きな音がする。

 そちらに眼を向けると、三つ向こうのドアからちょうどミリが飛び出してきた。

 

「なにが起きたの!?」

 

 着替えの最中だったのか、廊下に飛び出したミリの上半身は下着姿のままだった。

 こいつ結構着やせするタイプだったのか、と悠長なことを考えた。

 

「王宮軍が来る。マサシも一緒だ。ビークル三台。逃げるぞ。」

 

 着替えの途中だろうが何だろうが、命に勝るものはない。

 セミヌードは見られても減りはしないが、命は撃たれれば無くなる。

 

「10秒待って。」

 

 そう言ってミリは自室に引っ込んだ。これだから女は。

 ブラソンは駆け出し、ミリの部屋のドアを力任せに開く。

 着替え中だろうが何だろうが知ったことか。このバカ女、引きずり出してやる。

 部屋の中では下着姿のままのミリが黒いバッグの中からアサルトライフルを引っ張り出し、実体弾初弾を装填したところだった。

 

「これくらいなら使えるでしょ。」

 

 そう言って同じバッグの中からサブマシンガンをブラソンに向けて放って寄越す。

 見覚えがあるタイプだった。銀河系中でよく使われている実体弾とレーザーを切り替えられるタイプだ。

 ヤクザの実力抗争御用達品だった。弾速はさして高くないが、とにかく多量の実体弾をばらまき、短銃身なので屋内での取り回しが良い。

 ミリはクローゼットから黒いジャンパーを引っ張り出している。

 

「早くしろ。服なんてどうでもいい。」

 

「違うわ。これは弾薬庫よ。」

 

 ジャンパーをひっかけただけのミリが部屋を飛び出す。

 

「敵が到着するまでどれくらい?」

 

 そこで初めてミリが状況を尋ねた。

 状況確認よりもとにかく武装を優先する辺り、さすがプロフェッショナルと感嘆すべきか、ただ単にミリ個人の性格なのか。

 

「5分もあれば到着する。黒い軍用兵員輸送車が三台。兵員数は判らん。」

 

 ブラソンがそう言うのと同時に、部屋と廊下の明かりが全て落ちる。

 窓は廊下の両端にしかない。

 外は昼間だが、廊下は何とかものが判別できる程度に真っ暗になった。

 連中が到着するにはまだ早すぎる。王宮軍がライフラインシステムに介入し、このホテルへのパワー供給を切ったのだろう。

 シーケンスを起動してから数分経っている。自爆は成功したはずだ、とブラソンは僅かに安心する。

 

「やられたわね。リフトは使えない。階段はこっちよ。」

 

 ミリはリフトから少し離れた壁に備え付けられた取っ手を引く。

 壁のパネルの継ぎ目だと思っていた部分が開き、ドアとなってその向こうに真っ暗な空間が広がる。

 ミリは躊躇い無くその暗闇に飛び込んだ。

 

「ちょっと待て。お前は慣れてるかも知れんが、俺は初めてだぞ。階段はどこだ?」

 

 真っ暗な空間の中でブラソンが喚く。

 

「階段を踏み外しても死にはしないわ。死にたくなければつべこべ言わず走りなさい。」

 

「上か? 下に降りるのか?」

 

 真っ暗で、ミリの足音は聞こえるものの、階段を昇っていったのか、降りていったのかさえ判らない。

 

「降りるに決まってるでしょ、バカ!」

 

「裏口だ! 裏口に乗っ取った都市ビークルが一台いるはずだ。」

 

 ブラソンが真っ暗な中を手探りで進みながら叫ぶ。

 叫んだとたん、足を踏み外して階段を転げ落ちる。

 

「キャッ!?」

 

 転げ落ちた先で何かに当たったと思ったら、上から何かが落ちてきた。

 どうやらミリの脚に当たり、ミリがブラソンの上に尻餅をついたらしい。

 

「痛っ! もうなにやってんのよ!」

 

 ブラソンは何か言い返してやろうと思ったが、階段を転げ落ちた痛みの上にミリの尻餅で止めを刺され、息が止まるほどの痛みに耐えるのが精一杯だった。

 突然暗闇に光が射す。ミリが携帯端末をライト代わりに灯したのだった。

 痛みに顔をしかめながらブラソンが立ち上がる。

 

「あなた状況分かってる? バカなことやってる場合じゃないのよ?」


「う・・・るせ、え。文句、言ってな・・・いで、階段照らせ。降りるぞ。クソ。」

 

 打ち付けたらしく、痛む右足を引きずりながら、ブラソンは階段を下り始める。

 ミリもその後を付いて降りる。

 

 一階まで降りると階段は終わり、またドアがあった。

 ドアの向こうは多分ホテルのエントランスだろうな、とブラソンは思った。

 ミリがドアに手をかけて開くのと、ホテルの外に黒いビークルが手荒く着地するのがエントランスの窓から見えるのが同時だった。

 

「なんて事。もうやってきた。ここで迎え撃つわよ。ロビーに出たんじゃ遮蔽物が無い。あなたは上からの物音に警戒して。」

 

 すぐに、ホテルの正面からLASを着込んだ数人の兵士が突入してくるのが見えた。

 ミリがアサルトライフルを構えて数発ぶっ放す。

 バレル中に生成した重力焦点で実体弾を加速し、音もなく超高速の実体弾を打ち出す重力式のレールガンだ。

 発砲時の音がほとんどせずほぼ無反動である代わりに、重力異常を発生するため重力探知されやすく、また重力ジェネレータの他にパワーユニットが組み込まれているため重量がかなりある。

 しかしミリは細い腕でそれを軽く振り回している。

 

 ミリが発砲したとたん、突入してきた兵士達は個々に遮蔽物の陰に飛び込んだ。

 様子をうかがうためか、ミリも連続では撃たずに壁の陰に身を隠している。

 明かりの落ちたロビーは物音もなく薄暗い。

 ミリが右手をジャンパーの中に突っ込んで何かを探っている。

 目的のものを捜し当てたらしく、懐から引き抜いた手には黒く丸い物体が握られている。

 すぐにそれをロビーに向けて投げた。

 黒い物体はロビーの真ん中あたりで床に落ち、バチン!と鋭い音を立てた。

 ミリが投げたのはEMP (Electro Magnetic Pulse)グレネードで、周囲数十m以内のシールドされていない電子デバイスをバーストさせた上で、当分の間付近での電磁的通信を妨害するものだ。

 敵が量子通信デバイスを使用していれば全く効果はないが、少しでも役に立てばと投げたものだった。

 運良く敵側が電磁通信を使っていれば、これで部隊内の通信はできなくなる。

 

 今の投擲でミリの位置を特定した敵が、階段のドアに向けて射撃を始める。

 多数の実弾体が壁に当たる振動がミリの背中を揺さぶる。

 敵は一人をホテル入り口に残し、四人がロビー内に突入してきたのをミリは確認していた。ビークルはもう二台ある。最大三十名の部隊か、一台が指揮車ならば二十名の部隊か、と見当をつける。

 一部隊はホテル正面から突入してきて、今目の前にいる。

 もう一部隊は多分裏口で、屋上にも一台止まっているだろう。

 

 いずれにしても、時間が経つほどどんどん絶望的に不利になるのは間違いなかった。

 ミリはしゃがみ込んだ姿勢のまま銃を構えてロビーを探る。

 ちょうど正面右のソファの陰に一人いる。

 黒いヘルメットの端が少し見えている。

 ヘルメット上部に内蔵されたカメラでこちらを見ているのだろう。

 狙いを付け、トリガーを引いた。

 弾は見事ヘルメットに着弾するが、角度が浅く弾かれた。

 しかしその衝撃で一瞬体勢が崩れる。

 追い打ちをかけるように数秒の連射。

 弾丸に削り取られたソファの破片が宙に舞う。

 敵が身を丸めてソファの陰に固まったのを確認して、三発のみ炸裂弾に弾種変更する。

 一発目がソファの1/3を吹き飛ばし、二発目がソファの陰から敵兵を弾き出す。三発目が敵兵に直撃し、その身体を数m弾き飛ばす。

 軽装甲スーツとは言え、しばらくは動けないだけのダメージは与えたはずだ。

 

 ミリが使用しているアサルトライフルは、インゴット状のブレットタブと呼ばれる高密度弾体源を差し込み、これを少しずつ切り出して物理弾体に転換しながら撃ち出す。

 弾体転換時にAP弾、炸裂弾、ソフトポイント弾など弾種を瞬時に選択変更できる。

 銃に内蔵されているパワーユニットはこの弾体の物質変換にも用いられる。

 物質変換が可能であるので、その辺りに転がっているゴミを突っ込んでも弾丸は作成できるのだが、質量が足りないため、ブレットタブと比べて冗談のような量のゴミを食わせてやらなければ弾が出ない。

 それだけ高密度のブレットタブは当然重量もあるのだが、それは内蔵された重力ジェネレータの機能で銃全体の重量を軽減している。

 

 階段の上を警戒しているブラソンは何もいわない。

 ミリの耳にも、上階から接近する敵の足音は聞こえてこない。

 ということはもう一部隊は裏口から突入したはずだ。

 そろそろ裏口の部隊が、自分達が隠れている非常階段の入り口に近づく頃だと思った。

 ミリはまたジャンパーの中に手を突っ込み、今度は対人グレネードを取り出す。

 裏口の方に投げようにも、非常階段の外開きのドアが邪魔になって直接投擲できない。

 ミリは右手のグレネードを、ロビーの中で自分達がいるのとは反対側の壁に向かって角度をつけて投げつけた。

 ミリの期待通り、緑色のグレネードは壁にぶつかって裏口の方に跳ねた。

 すぐに非常階段のドアを掴んで閉じる。

 ドアが閉まりきるかどうか、というタイミングで、ロビーの中で爆発が起こる。

 すぐにドアを開けて銃を構える。

 ロビーには埃と煙がもうもうと充満し、壁を含めてあらゆる備品がズタズタに切り裂かれていた。

 今ミリが投げた対人グレネードは、殺傷能力を高めるため本体内の爆発部分の周りに大量の金属ワイヤ片が仕込んであるタイプだった。軽装甲スーツでもそれなりの被害が発生するはずだった。

 

 脚を伸ばし、非常階段のドアを蹴り飛ばす。

 銃撃と爆発によってすでに十分に痛めつけられていたドアは、簡単に外れて向こう側に吹っ飛ぶ。

 吹っ飛ぶドアの向こうに、弾種をAP弾にして狙いも付けずフルオートで横なぎに一掃射する。

 思った通り、グレネードの爆発後に乗じて突入しようとして一人立ち上がっていた兵士が吹っ飛ぶ。

 AP弾だ。MCメタルキャップ弾ではない。

 無事ではすまないだろう。

 

「数が多い。上に逃げるわよ。ガスを使われたらおしまい。そろそろ向こうも気づく。」

 

 ブラソンは返事もなく階段を駆け上り始めた。

 ミリはジャンパーの中から透明なシート状地雷を三枚取り出し、ドア前、階段の手前、階段の三段目に張り付けて、階段を駆け上がる。

 

「地雷を仕掛けたわ! 放電に注意して!」

 

 ブラソンは呆れながら階段を駆け上がる。

 ミリはあの黒いジャンパーの事を「武器庫」と呼んでいたが、こいついったい何をどれだけ持っていやがるんだ。

 ミリは二階と三階の間でまた立ち止まる。

 今度は単分子ワイヤを1mおきに四ヶ所、階段の手すりの間に張る。

 単分子ワイヤなので強度はあまり期待できないが、何も考えずに突っ込めば、例え相手が軽装甲スーツだろうが一本で一人は始末してくれるだろう。

 

「ブラソン! 五階で止まって!」

 

 ミリに下から声をかけられ、ちょうど五階に差し掛かっていたブラソンはその場で立ち止まる。

 ミリが何を言っているかブラソンは理解した。

 裏口と共に屋上も占拠されているかも知れない。

 不用意に飛び出せば、蜂の巣にされる可能性がある。

 すぐにミリも5階に上がってきて下を気にしている。

 下の方で、バチン! と鋭い音がし、青白い光が一瞬閃く。

 

「かかった。」

 

 と、すぐ隣にいるブラソンにも聞こえるか、聞こえないかという声でつぶやく。

 あいにく灯りが落ちているので、それはブラソンには見えなかったが、優しげな鳶色の瞳の女の変装をしている今のミリにはそぐわない凄味のある笑みが一瞬、ミリの顔をよぎって消えた。

 


いつも拙作お読み戴きありがとうございます。

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