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ラブステップ  作者: 里兎
8/39

カステラバンビ


今日は訳あって彼の同僚の悠真君とお出掛けだ。

これは決して浮気ではない。

何故なら彼もつい先程迄いたからだ。

だけど仕事で呼ばれてしまって、泣く泣くすぐ戻るという言葉を残してだらだらとめんどくさそうに歩いていった。

走らないというところが彼らしい。


「………で当初の目的通り映画に行く?」


悠真君が首をかしげながら私に聞いてくる。

映画………。

本当はすごく見たい。

でも今回の作品は彼もすごく楽しみにしていた。

彼抜きで見るのは気が引けるが………



―――――――――。


「めっちゃ楽しかった!!まさかあの敵があそこで味方になるとは!!」


映画を観た後。

興奮が収まらず。

内容を話し合いたくなくて。

2人でカフェに入っていた。

結局私は映画を観ることを我慢できずに悠真君をつれて観てしまった。


「ふっ……!」


私が熱のこもった解説をしていると。

悠真君が口に手を当てて笑いだす。


「あっ…ごめんね?見る前はあいつが居ないことめっちゃ渋ってたのに……いざ観たらこんなに熱くなって……ゆいちゃんて面白いんだね?」


そう言われた途端に恥ずかしくなる。

私子供っぽかった!?

彼の同僚の前で恥ずかしい!!

何となく初めての人には大人な印象を

持たせようと思っていたのに……!

失敗だ!

目を泳がせながら下に俯くと。

目の前にコトン。とカットされたカステラにホイップクリームを小さく添えたお皿が現れる。


「御待たせいたしました。こちらカステラと抹茶ラテで御座います。」


匂いが。

私を誘う。

でも此処でがっつくとまた子供のようだと思われないか。。

チラリと目の前に座る悠真君を見ると目を輝かせながらカステラを見ていた。

……………。

……………あれ?


「やば……すごい美味しそう……あっと……ゆいちゃん…これ食べちゃっていい?」


「??えーっと……どうぞ?」


悠真君てこんな人だったっけ?

そう思いながら彼を見つめた。

フォークでカステラをそのまま刺して添えてあるホイップクリームを掬い付けそして大きな口でかぶりついた。

………豪快に食べるなぁ……。

もはやフォークに刺さっているカステラは、半分位しか残っていない。

しかも口の周りにカステラの細かなスポンジがついている。

だけど彼はものすごく美味しそうに食べて。

私が言うのも躊躇うくらいかわいい笑顔だった。


「うまいっ!!ゆいちゃんも食べてみなよ!すっげーうまいよ!!」


大きな子供がここにいる!!

少しキュンとくるもなんとか自分を冷静にさせて彼と同じようにフォークをカステラに刺した。


「えっ……!?」


悠真君が驚く。

それもそうだ。

私は先程の悠真君と同じ食べ方をしようとしていた。

だってあまりにも美味しそうに見えたから。

真似したくなったのだ。

ホイップクリームをつけて。

大きな口でカステラをかじる。

思ったより弾力がすごくって。

でも噛みきるとじわじわと甘いスポンジが口の中で溶けていく。

優しく溶けていく滑らかなクリームとの相性もばっちりだった。


「本当だ!!すごく美味しいね!」


そう言うと何故か悠真君の頬が赤く染まった気がした。

きっと同じ想いで嬉しかったんだ!

そう思い続けてカステラを食べていると。


「あそこのカップルかわいくない?」


そんな声に気が付く。

えっ!!

そんなカップル何処にいるの!?

私も癒されたい!

そう思いキョロキョロと辺りを見回す。


「口の周りに同じようにカステラ付けてかわいいーー!」


……………。

………………。

わたしだっ!!

しかもごめんなさい!!

この人彼氏じゃありません!!

申し訳なさと恥ずかしさで急ぎ紙ナプキンを取ると。

目の前の悠真君が私の代わりに口を拭いてくれた。


「ゆいちゃんは面白くてかわいいね?」


一瞬にして顔が赤くなるのがわかる。

煙が出てないかと心配になるくらいに。

分かってる。

これが社交辞令だということも。

本気でないということも。

でも私は言われ慣れていないから。

何を言っていいか分からなかった。

………!

そうだ!ここは目には目を!歯には歯をだっ!!

そう思い自分の握りしめて持っている紙ナプキンを勢いよく悠真君の口に当てる。


「かっかわいいのは!!私でなくて悠真君だよー!」


よしっ!

嘘はついてないし!!

きっとこれが大人の切り返しと言うものだ!

私はやった!

あゆちゃん私は大人になったよ!!

そう感動しながら小さくガッツポーズをしていると。


「やー!めっちゃラブラブー!口をふきあってるーー!」


「本当だー!私達も早く彼氏欲しいねぇー?」


……………。

………どうやら私の作戦は裏目に出たらしい。

そして私は恥ずかしすぎて。

逃げるようにカフェを後にした。



外に出ると冷たい風が火照った頬を冷やしてくれて気持ちがいい。

1つ大きく深呼吸する。


「……あーごめんね?オレのせいで彼氏に間違われて…気分悪くしたよね?」


振り向くと悠真君が申し訳そうに立っていた。


「ううん!!違うの!!私こそ!相手が私なんかでごめんね!?えっと……それよりも!!悠真君は食べるの好きなんだね!」


なんとか元気になるように。

悠真君の好きそうな話題を振ってみることにした。


「えーっと……そうなんだよねー俺さ食べるのには目がなくて……でもゆいちゃんもあいつには聞いてたけど、食べるの好きそうでよかった」


表情が優しくなって。

私の前に1歩先に出た。


「そうだ!すげー美味しい焼き肉屋さんあるんだよね!あいつ来たら夕飯そこ行かね?」


焼き肉!!

しかも美味しい所とは!!


「うん!!絶対行く!!」


私は満面の笑みで悠真君に答えた。

そうすると。

何故か悠真君はくしゃくしゃと乱暴に頭を撫でる。

……………。

これは……………。

いくら彼の同僚だからといって。。

あまりよくない事なのではないか…。

でも他意は無いのかもしれないし…。

と。

ぐるぐるとそのまま悩んでいると。

不意に。

息を切らした彼が私を抱き寄せる。


「…はぁっ…はぁっ……んっ…。悠真…何のつもり……?」


そういえばさっきのカフェで彼から連絡が来てたな………。

……………。

って!!

そうじゃなくて!!

人前で!!

きっと顔が赤くなってるだろう顔で彼を見上げる。

彼の顔は真剣で。

悠真君を睨んでいた。

すると突然。

悠真君は堪えきれなくなったように笑い始めた。


「………あっはっ!!ごめんごめん!ゆいちゃんかわいくってなんか妹みたいでさっ!!つうかお前がこんなに必死な姿貴重だな!!」


妹!?

やっぱり言動が子供っぽかったのか……!

………っていうか………!!

いつまで抱きつかれたままなの私!!

なんとか身をよじって彼の腕の中から逃れる。


「変なところばかり見せてすみませんでした!えっと……取り敢えず顔洗ってくる!!」


と。

そのまま。

恥ずかしさでどうにかなりそうだった私は、その場から逃げるように全速力でトイレに向かった。



―――――――――。


ゆいちゃんが猛ダッシュで走っていく中。

奴はまだ怒ったように俺を睨んでいた。


「妹っぽかったとしても…気安くゆいに触らないでもらえる?」


ふぅん。

仕事だけでなくいつも怠そうにしているこいつがこんなこと言うなんて。


「………ふっ!だからごめんって!」


面白すぎて笑いが止まらなくなってしまう。

奴はそんな俺の姿を見て近くのベンチに座った。


「まぁ……悠真は入社当時から男女関係なく接するのを知ってるんだけど……」


「焦ったってか?」


「………五月蝿い。。」


まぁ彼女持ちとしては普通の反応だろ。そう思って俺もベンチに腰掛ける。


「そういえば今日の夕飯焼き肉だってよ?」


俺がそういうと。

大きなため息が聞こえる。

そう。

こいつはゆいちゃんには内緒らしいが焼き肉は苦手らしい。

味とかでなくて。

焼く前の赤身の肉を見るのが好きじゃないとか。

だからこいつが前作っていた弁当にも肉が入ってなかった。


「今度覚えとけ……」


そう言って奴は俺をまた睨んだ。

………やり過ぎたかも…。

笑顔で大量の仕事をまわされそうだ。

そうすると。

遠くから。

トイレから帰ってきたのか。

ゆいちゃんが急いで走ってくる。

あーあ。

危なっかしいなぁ。

……………。

………さっき本当は妹みたいだなんて思わなかった。

ただ気が付いたら。

頭を撫でていた。

何でだろう?

うーん。と考えてみても。

答えはわかりそうになかった。

まぁいいか。

2人が幸せそうなら。

そう思って。

先程の甘いカステラの味を思い出しながら。

空を見上げた。




~おまけ~


焼肉屋。

店内には沢山のお客さんが入っていて。

賑わいの声と白い煙が充満している。


「よぅしっ!!どんどん焼いてくからゆいちゃんもどんどん食べろな?」


悠真が焼けた肉からどんどんゆいのご飯の上に乗っけていった。


「うん!!」


満面の笑顔のゆいの隣で彼は壁の方に顔を背けている。


「………あれぇっ?お前どうしたんだよ顔なんて背けて」


にやにやと笑う悠真に対して彼は黒く震えながら


「………まじで……覚えとけ…」


とゆいに聞こえないように小さい声で呟いたのだった。。




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