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ラブステップ  作者: 里兎
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ホットケーキとハチミツアラカルト

久しぶりの遠出。

今日はかっこうのデート日より……

……その筈だったのに………



駅から外を見上げる。

バケツをひっくり返した様な雨とは正にこの事だろう。

激しい雨が地面を叩き付ける。

今日は前々から約束していた海に2人で来ていた。

家を出る前も雨は降っていたが、もしかしたら止むかもという淡い期待を持ってなんとか目的地迄ついたのは良いが、その期待をあっさりと裏切られるような強い雨が私達の前に立ち塞がる。


「………どうしようか…」


この雨で海に行くのも危ないし。

折角だけど引き返すしかない。

そう思った私は半ば諦めたような声で彼に聞いた。

すると彼はそんな私とは、逆に私の手を取り強く握って。


「うん!じゃあ行こうか!」


と傘を開いて私を引っ張るようにして歩き出した。


「えっ!?えっ!?こんな雨の中歩いたら危ないよ!?」


私も空いている片方の手で慌てて傘を広げる。


「うん?でも折角だし。何かあってもゆいはオレが守るから大丈夫!」


その自信はどこから来るのか彼は、私へとにっこりと笑う。

だけど。

その笑顔のせいか。

言葉のせいか。

体温が熱くなる。

恥ずかしいこと言わないでよ。。

赤いであろう自分の顔を傘で隠しながら、彼の手を握り返した。



―――――暫く雨の中歩くと。

これでもかという位に雨の強さが増して。

一旦避難ということもあって、海沿いの高台にあるカフェに逃げ込んだ。

雨のせいだろう。

店内はがらんとしている。


「あらあら?いらっしゃいませ雨の中大変だったでしょう?」


中からはエプロンのした優しそうな雰囲気の女性が私達の扉の開ける鈴の音で、慌てて出てきてくれた。


「あっ……すみません…濡れちゃってて…少し休憩させてもらってもいいですか?」


「あらまぁ!礼儀正しいお嬢さんね?いいのよ?そんなこと気にしないで?さぁさぁ?好きなところに座ってちょうだいな?」


優しく微笑む女性に促されるまま、私達は窓辺の席へと座った。


「なんか雰囲気のいいお店だね?」


彼が私に耳打ちする。

私は小さく頷き、取り敢えず何か頼もうとメニューを開いた。

メニューは3つ。

ナポリタン。

オムライス。

ハチミツホットケーキ。

それとドリンクが幾つかあった。


「お腹も空いたし…オレはナポリタンにする!で……ゆいがオムライスにして、シェアしようよ?………それと食後にホットケーキーはんぶんこにしない?」


彼が提案してくれる。

その提案は、私に選ぶ権利は無いようだ。

でもメニューも元々少ないし……。

何より全部食べられるのは私にしても嬉しいことだ。

私がそうだねと相づちをうつと、すぐに彼は先程の店員さんを呼び注文をした。


「楽しみだね?」


そしてそわそわしながら彼と笑った。



―――――――少したつと。

湯気のたったナポリタンとオムライスが運ばれてきた。


「熱いから気を付けてね?」


という言葉と一緒に、店員さんはテーブルに料理を並べていく。

早速おしぼりで手を拭き、少し大きめなスプーンを手に取る。

私が一番好きなオムライスのお腹にスプーンをゆっくり刺していった。

するとふんわりと湯気が更に立ち込める。そして卵が半熟なのかトロリとオレンジ色の黄身がスプーンに流れ込んできた。

それに浸るくらいに鮮やかな色のチキンライスを掬う。

かけてあるデミグラスソースの匂いが私を更に誘い、そのまま口に含んだ。


「……美味しい!!」


自然と出た言葉は私をびっくりさせた。


「美味しいね?」


その間になのか、最早彼は口の端にケチャップソースを付けながらナポリタンを半分位まで食べていた。


「………よっぽどお腹すいてたんだね…ほぉら?口の周りにソースついてるよ?」


紙ナプキンを渡すと、彼はそれを受け取り口の周りを拭き始めた。

その後にお互いの料理をシェアしあって、あっという間にナポリタンとオムライスをたいらげた。

店員さんがお皿をさげて、その後すぐに出てきたのはほくほくと白い湯気がでている分厚いホットケーキだった。

これで1人前なのか。

かなりのボリュームがある。


「うちの看板メニューなのよー?ハチミツをかけて食べてね?」


店員さんがにっこり笑って厨房に戻っていく。

言われた通りにハチミツをたっぷりとかけていくとキラキラと店内の照明に反射してすごく綺麗だ。

それからナイフとフォークで食べやすいように、ホットケーキを切っていった。

すると彼はフォークでホットケーキを刺して、私の口元へ持ってきてくれる。


「最初の1口目はゆいがどうぞ?あーん?」


…………。

………………。

恥ずかしい!

こんな公衆の面前で!

でも幸い此処には私達以外お客さんは誰もいない。

しかも目の前に美味しそうなホットケーキ………。

良い匂い……。

意を決して私は口を開けて彼に差し出されたホットケーキにかぶりついた。

瞬間的に口いっぱいに広がるハチミツの甘さと匂い。

ふわんと弾力のあるスポンジ。

口の中は幸せだった。


「しあわせーー!」


思わず声が出る。

そして、そのままフォークが止まることなくホットケーキを食べていった。



――――――何時間いたのか。

夕暮れになって。

それでも店員の女の人は優しくて。


「また来てくださいね?」


と送ってくれた。

雨はまだ止んでいない。

彼と手を繋ぐ。


「ゆい最後のホットケーキお気に入りになったでしょ?」


「うん!!あの美味しさは私のホットケーキ1位2位を争うね!」



「………そうだよねー?ゆい沢山食べちゃってオレ、あんまり食べれなかったもん」


そこには拗ねたような顔をした彼を見付ける。

確かにあの時夢中になりすぎて、食べ過ぎた感が…否めない……。


「あぁー………ごめんね?だって美味しかったから……」


「……うーん。いいよ?オレのお気に入りは他にもあるし?」


えっ?

と声を出そうとしたその刹那。


………ちゅっ


横から彼が私の口の端にキスをした。

何が起こったのか理解しきれない私はその場で立ち止まって呆然とする。


「うん!やっぱり甘いね?……ハチミツ味……?俺にとってはこれが1番のお気に入りにで、幸せなんだよねー」


ニコニコと彼は全く悪気なんか無い様に背を向けて歩き出した。

その現状を理解しきった私の心臓は五月蝿い位に鳴って全身の体温が急上昇するようだった。


「なっなにするの!?」


私の声に反応して、彼は振り向いて手をさしだす。


「ゆいはどう?俺の唇。甘く感じた?」


私は悔しいながらも、彼の手をとる。

少し不意打ちの復讐を込めて、手を強く握った。


「うっ……~~~~うるさい!とっとにかく早く帰る為にさっさと歩く!!」


私は強引に手を引っ張りながら彼の前を歩く。

真っ赤に染まった顔なんて見られたら負けな気がして、彼の横を歩くわけにいかなかった。

それを分かっているのか、彼は笑いつつも引っ張られるままに私を追い抜かさない様に歩いてくれる。

彼に敵う時は来るのだろうか?

兎に角。

電車迄には冷やさないと。

そう思いながら。

雨の中2人で歩いたのだった。



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