表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブステップ  作者: 里兎
30/39

ディアカラメルプリン


―――色とりどりのパスケース。キーホルダー。バックチャーム。

ゆいちゃんから貰ったフォンダンショコラのお返しをしたくて、細谷さんと大きなショッピングモールの雑貨屋等をさ迷っていた。


『悠真と探したら、茶々入れられるのがめんどくせぇ』


と細谷さんが途中で言い出して、取り敢えずはそれぞれ別行動ということになり、今は一人でお店を見ている。


「何かお探しですか?」


棚の前で頭を抱えている俺を見かねてなのか、優しそうな雰囲気のスタッフらしき人が俺に話しかけてくる。


「……あー…ちょっとホワイトデーのお返しを……」


俺としては自分で選びたい気持ちもあったが、自分で選ぶと好きだと認めた手前、気持ち的に重いものを選んでしまいそうだったので折角の機会だしそこのスタッフの人に助言をもらおうと思った。


「そうなんですね?でしたら……此方のコロンとかいかがでしょうか?香りによって意味が変わってくるんですよ?」


コロン……。。

香水とどう違うんだ?

思わずどうでもいいことを考えてしまう。

そうするとスタッフの人が幾つか、女の子が好きそうなかわいらしい瓶を手に取り俺の目の前に持ってみせた。


「此方の白い瓶のはカモミールが基調となっておりますが黄色の水仙もほんの少し調合されてまして、意味としては私を愛して欲しいという言葉が込められています。それから……」


ぼうっとスタッフの人の言葉を聞く。

愛して……欲しい……。

きっとそれは女の子がコレをつけて、異性に向けられる意味合いなのだろうが。。。

不覚にも俺がゆいちゃんに想ってる気持ちをそのまま言われたような気がした。

………。

……………。

そういえば昔。

元彼女に香水を貰ったことがあって。


『悠真君はいろんな所に行って、私は貴方の時間を独り占めできないからせめて香りだけは、私が選んだこの香りで独り占めしたいな』


そんなことを言われて貰った小さな箱に入った香水。

その時はありがとうと言ったけど。

俺は香水をつける習慣もなく。

ラッピングされたままの箱が部屋の隅に飾られていただけだった。

………あの香水結局……どうなったんだっけ?


「………――です。……?あの?どうかなされました?」


呆然と立ってる俺に気が付いて、スタッフの人が首を傾げる。


「えっ!?あっ……!すみません…えっとじゃあその白いの下さい!」


思わずスタッフの人が手に持ってる瓶を指さす。

その言葉にスタッフの人はすぐに笑顔になって新しいものを出すと言いながら、レジへと促してくれた。


――――「ありがとうこまざいましたー!」


かわいいラッピングされた紙袋を持ってお店を後にし、少し歩いた所で俺は立ち止まる。

…………。

………………。

…………………何してるんだろ。。俺。。。

咄嗟とはいえこんな重い気持ちの乗っかったもの。。

普通に無しだろ。。。

自然とため息が出る。。。。

だけど俺の本心がそこには入ってるから。

今なら元彼女の言っていた意味が分かる気がする。。

…………。

……………。

うん。

要するにこの意味を話さなければ良いんだ。

大丈夫。きっとバレない。

俺は何とか良い方向に考えながら、細谷さんにラインをすることにした。



―――――――――。


「…………だあぁっ!!わっかんねぇ!!」


悠真と別れて探すことにした俺はイラつきながら、店を廻る。

実際女にせがまれて買い与えていた事はあるが、自分から何かをあげるという行為はしたことがなかった。

しかも女の子相手に!

30も越して俺はどんだけ恋愛経験値低いんだよ!!


「………その時は何を欲しがられた率が高かったんだっけ……」


決して甘い思い出のない昔の彼女の事を思い出す。

…………。

………………。

そういえば……鞄をよくねだられていたような?

アクセサリーも多かった気がするが、流石に彼氏でもなんでもない俺から貰うには重すぎる代物だろう。

取り敢えずと思って、鞄が置いていそうな雑貨屋を覗く。

そこには色々と肩掛けやら、リュックやらトートやらと色々とあった。

そして見ていく内にあるものに目が止まる。

それはスターウォーズのトートバックで、いろんなキャラクターが可愛らしく描かれている。


「……スターウォーズ好きとか言ってたっけか…」


でも。

実際どうなんだろう。。

コーヒー好きな人にコーヒーをプレゼントすると痛い目をみるように。

スターウォーズが好きな人にスターウォーズをあげたら痛い目みるんじゃないか?

だけれども他に良い案が思い浮かばないし………。

散々悩みに悩みまくった結果。

俺はそのトートバックを手にしてレジに持っていった。



――華やかにラッピングしてもらったそれを紙袋で持ち下げて俺は上を見上げる。

元々は地下街にいたが、1階から外の出口で出てしまった為、寒さで思わず身震いをしてしまう。

息を吐くと真っ黒な夜空に白く遠くモヤがかかった。

ぼんやりと考えてしまう。

きっと俺がコレをあげたら、ゆいちゃんは笑顔で喜んでくれるだろう。

………今までプレゼントをあげてきた歴代の彼女達だってそうだった。

俺はプレゼントをあげる毎に嬉しそうに喜んでくれる笑顔が好きで。

それだけで充分だったし、頑張ろうと思えた。

だから無理してでも、彼女の理由で少ししかいれない俺との時間を笑顔で過ごしてほしくって、会う度にねだられた物を買い与えてきた。

今考えれば馬鹿だと思う。

そんなモノでしか笑顔にできない俺もだし、それでしか笑えない彼女もそうだ。

ただ。

それでも。

あの時の俺は確実に毎日が充実していた。

彼女達の笑顔を見る度に温かい気持ちになれた。

こみ上げるものがあった。

結果騙されてただけだったとしても。


「……幸せ…か…」


ゆっくりと目を開けるとキラキラと街路灯があちこちで光っている。

やっと認めることが出来た気がする。

俺は確かに幸せだった。

彼女達と出会って。

……というか今さらこんなことに気が付くなんて。。。

チラリと手提げの紙袋に目をやる。

久しぶりに頭を悩まされたこのお返しは、良いきっかけだったのかもしれない。

そう思っていると。


♪ポン


携帯に1通のラインが入る。


『悠真


買えましたよーどうします?

このまま解散にします?』


……………。

…………………。


『待ち合わせんのもめんどくせぇし、そうすっか。明日遅刻すんなよ』


1文打ってスマホをポケットに仕舞いこんだ。

大きく風が吹く。

冷たいと思っていた風は意外にも暖かく。

春がすぐそこまで来ていることを教えてくれた気がした。。。



――――――――――。



「………何?そのノート。。」


ファミレスで勉強中。向かいの蓮が怪訝そうな面持ちでこちらを見てきた。


「…………創作料理考えてるんだよね。。チョコさんへホワイトデーのお返しにさ」


色んなのを考えているけど、中々決まらない。

折角あげるんだからとってきおきを食べてもらいたいと思ってしまうから。。


「……ホワイトデーっていったらお菓子とかだと思っていたんだが。」


そう言いながら、蓮はレポートの為にパソコンのキーボードを打つ。

そう。

俺のノートにはお菓子だけでなくガッツリとした料理のアイディアも多数書かれていた。

………だってチョコさんを想いながら書いていたら色々なメニューが、思い浮かんだから。。。


「そんなんなら、弁当でも作ってあげたらどうだ?チョコって人、職場で弁当なんだろ?」


弁当…………。

確かに……それは良いんだと思うが。。。


「……それ。。やること女子っぽくない?」


「……俺は手作りを手渡そうとしていること事態が女子っぽいと思うが?」


うっ。。。確かに…。。。。

そうだけど。

俺は蓮から目をそらしつつ、ノートを書いていった。。



――――蓮と別れて俺は暗くなった空を見上げる。

頬を触る風は暖かくて心地良い。


「………ホワイトデーどーしようかなぁー……」


料理にする気満々だったけど。。

蓮にあぁ言われてしまったら、、、

でも。。。

男らしいプレゼントなんて、恋愛初心者の俺が分かる筈もないし。

しかも相手は歳上だ。

変なものをプレゼントするわけにはいかないし。。。

ぼぅっと歩いていると、1つの店の前で足が止まる。

ショウウィンドウに飾られているそれは俺にとって特別なものに見えた。

気がついたら俺はすぐにお店に入って、それをレジに持っていきラッピングしてもらっていた。


「ありがとうございました~」


店を出て一息つく。

ついつい買ってしまったのは、動物がモチーフになっていたブックカバー。

チョコさんがいつもの席で、本をよく読んでいた事は知っていたから。

沢山手に取る本を、取る度に俺を思い出してくれると嬉しいな………。

なんて。

そんなことを思ってしまった。

……それと。。。

チョコさんの物語に、これから関われていけたのならば。。

欲張りかもしれないけど。

そんな気持ちを込めたブックカバーのプレゼント。

どうかこの気持ちが、彼女に伝わりますように。

何も言わずに伝わるはずがないと分かっていても、そう願わずにはいられなかった。


「………弁当も作るかな……」


自然と出た言葉に。

ふと俺の心に温かさが灯る。

やっぱりどう思われたって、料理を作るのが俺だから。

その料理で彼女を笑顔にしたいのも俺だから。

それと。。

お弁当箱を返してもらうって口実でまた会えるし。。。


「よしっ!そうと決まればメニュー考えないとな!!」


俺は息込んで前へと1歩を踏み出した。





―――――――。


「だだいまー」


ゆいの声が玄関から聞こえる。


「……おかえりー」


俺は元気なく、それでもなるたけゆいに聞こえるように声を返した。

トントンとこちらに向かってくる足音が聞こえる。


ガチャ。


「ごめんねー?ご飯まだだよね?お弁当買ってきたから食べて?」


白いビニール袋をガサッと俺の目の前のテーブルに置いた。

そして、ゆいはそそくさと寝室に着替えに行く。

俺は自分の隣にあるいくつかの袋をチラリと見ると、ため息しか出てこなかった。


「お待たせー!お腹すいちゃった!食べよ食べよー!」


パタパタとゆいが俺の隣に座ると、手に持っていた紙袋から大きなお弁当を取り出す。


「…………?えっ?あれっ?何そのでかい弁当。。」


よく見ればビニール袋の中には、お弁当とお総菜が1人分しかない。

………にしてもでかいな……これは2人分あるんじゃないか?


「今日はホワイトデーでしょ?大樹君から連絡来てね?お返しにってお弁当貰ってさ、お昼に食べきれなかったから夜ご飯にって思って。後ね!かわいい動物のブックカバー貰ったんだよ?」


ゆいが顔を綻ばせながら俺にそのブックカバーを見せる。

きっとその笑顔をその大樹ってやつにも見せたのだろうと思うと、なんだかイラつく。

モヤモヤした気持ちを抑えた為か、俺は隣にある紙袋を少し雑に渡した。


「わわっ!えっ!?何!?コレ??」


混乱してるゆいから目をそらして、


「悠真と細谷さんからホワイトデーのお返しだって。。大きい袋のが細谷さんので小さいのが悠真。」


「えっ!?何それ!?気を使わなくて良かったのに……」


困った風な声が聞こえる。

うーん。。っと唸った後、彼女はがさごそと袋を開けているようだった。

2人して俺に渡して来る辺り律儀で(仕事の関係もあるのだろうけど)、下心がないのはわかっているがやっぱり嫌なものは嫌だった。


「うそっ!なんで!?ねぇ!!見て見て!!」


ゆいの弾んだ声に渋々目をやると、ゆいは輝いた目でスターウォーズのトートバッグを持っていた。

何度も表裏とくるくる回して嬉しそうに眺めている。

くそぅ。。

かわいい。。。

俺はそんな気持ちをグッとこらえながら、彼女の嬉しそうな姿から目をそらした。

そうするともうひとつガサガサと袋を開ける音がする。

するとすぐに


「かわいい!!」


という声が聞こえた。

悠真がゆいに何をあげたか気になるが、俺はそれを気にする余裕がなかった。


シュッ。


すると。

1つの音と共に甘すぎない優しい花の匂いがしてきた。


「すごいい香りー!」


その香りに誘われて、おずおずとゆいの方に目をやると真っ白な可愛らしい小瓶がゆいの手の中にあった。


「悠真君おしゃれだね!………よしっ!早速明日からこのトートバック使って、ブックカバーも変えてコロンつけていこうかな!」


にこにこと笑うゆいが隣にいる。

いつもなら、笑顔を見れたら嬉しい筈なのに。。

この笑顔を俺が作ったものでないとなるとやっぱり面白くない。


「………ゆい。。目瞑って。。」


「………え?」


「いいから瞑って!」


ゆいは俺の言葉に困惑しながらも、目を瞑る。

俺はなるべく丁寧に、ゆいに唇を重ねる。

そしてそのまま後ろに手をまわして、ゆいの首に俺からのホワイトデーのお返しをつけた。


「……俺からのホワイトデーのプレゼント。。この瞬間だけで良いから俺だけのゆいでいて?」


そうしてもう1度それを確認するように口づけをした。

目を開けて少し離れると、そこには真っ赤な顔をしたゆいがいる。

きっとこんな表情をさせられるのは俺だけだろう。

照れ隠しなのか彼女は目を泳がせながら、目の前にあるお弁当を手に取った。


「あっ……えっと……ありがとう…」


そうしてそのままゆいは、ご飯とおかずを食べ始めた。

いつもならご飯を食べる時は幸せそうな顔をするが、この時ばかりは頬を真っ赤に染めながら黙々と食べていた。


「……ふっ!!ゆいは変わらないなぁ!!」


あまりにもその仕草がかわいすぎて、嬉しくてお弁当を食べているゆいに抱きつく。

慌てながらお弁当箱をしっかり持つ所とかほんと彼女らしい。


「!?ちょっ!!ご飯食べてるんだからやめて!!」


「やーだ。離れない。」


ゆいの抱き心地を確かめながら、彼女を必要以上に束縛しないように。。

心にゆとりを持てるように。。。

その日のホワイトデーはゆいに甘えまくった。




~おまけ~


ある日の夜。

1つの小包が家に届く。

差出人の書いていない小包に彼は首をかしげながらゆいに聞いた。


「えっと。。それ怪しくない?大丈夫?」


ゆいは差出人を知っているのか、笑顔で首をふって小包を開けた。

そして小さな箱を開けると黒い物体の塊が透明のラッピング袋に包まれていた。


「…………それっ、、何物?」


彼は顔をひきつらせながらゆいに聞く。


「ふふふっ!!あゆさんらしい!!これはあゆさんの手作りクッキーだよ!!」


確かによく見れば一枚のカードに`ホワイトデーおめでとう´と書かれている。


「!?くっ……クッキー!?」


驚きを隠せないでいる彼を他所に、ゆいは嬉しそうに携帯を手に取る。


「あゆさんにお礼のラインしなくっちゃ♪♪」


「………これ……食べるのか……」


流石にこんな黒炭の物をゆいに全部食べさせるわけにはいかないと、自分も食べる覚悟を決めてかわいくラッピングされた黒炭クッキーを見つめたのだった。。。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ