番外編~カフェインドール~
なんだろう。
大切な毎日が。
大切な筈の毎日を。
ただ過ごしている。
別にそれは構わないんだけど。
私の場合は本当に適当だった。
仕事で失敗して怒られて、改善はするがそれ以上はしない。
だって。
そこ迄熱を持ってないから。
やるべき事をただ機械的にこなすだけ。
……仕事ってそういうもんでしょ?
仕事の仲間同士でも表面的な付き合いだけ。
……それ以上関わるのはめんどくさいじゃん?
ある人は言う。
どうせ仕事するなら楽しんだ方が良いじゃん。と。
それはそうだけど。
その労力疲れない?
と。
皮肉なことを思ってしまう。
『好きな仕事をしている?』
『笑って職場に行けてますか?』
テレビで流れるそんな疑問。
どうやら転職サイトのCMらしい。
「そんな人いないでしょ」
こたつに頬杖をついてテレビに話し掛ける。
まぁ極少数いるのかもしれないけど。
♪ピヨピヨ
ラインの音が鳴る。
それはゆいからのラインだった。
『あゆさん!あのね!あのね!……』
ゆいのラインを見て、ふと一息つく。
地元から離れて独り暮らしをして、友達は誰もいなくて。
話し相手はゆいだけだった。
家族は勿論いるけど。
友達にしか話せないことは結構ある。
そして私は自分の話は、信用できない人にはしたくない派なので表面上の付き合いだけの仕事場の人には絶対話したくなかった。
「ゆいさんそれはやっちまったね?」
ラインを送り返すとかわいいふわふわな女の子のスタンプが送られてきた。
それがかわいくて笑ってしまう。
♪ピヨピヨ
『あゆさんは最近大丈夫?』
大丈夫って。。
唐突だな。
でも。。。
真面目に少し考えてみる。
仕事の内容すら変わってないが、仕事場を変えて次で3つ目。
今の仕事が合ってないんじゃないかって何度も思った。
言ってしまえば1つ目は暴力のある所で。
2つ目はクビになって。
次で3つ目。
後少しで今の仕事場を離れる。
なんでこんなに同じ仕事にしがみついてるんだろう。
「新しい子入ってきたよ」
とりあえず。今の現状をゆいにラインした。
私の代わりの新しい子みたいだ。
……そういえば仕事場の人に仲良くしてねって言われたっけ……
辞めて欲しいって言われた時は、新しい子とあゆみちゃんは合わないと思うって言ってたのに?
それって矛盾してない?
だから。
どうせ後少しと言うこともあるし。
私は必要なこと以外その子とも話さなかった。
元々仲良くなろうなんて思ってないし。
『どう?どういう感じだった?』
「新しい子に、後少しでいなくなるなんて寂しいですって言われたよ?会ったばかりなのにね?」
心ではこんな取っ付きにくい先輩いなくなってラッキー!…なんじゃないですか?
まぁ別にあなたにどう思われようがどうでもいいですけどね?
そんなことを思いつつ、私はラインの返事を待ちがてらコップに注いであるコーヒー牛乳を飲む。
♪ピヨピヨ
『なんかその子信用ならぬね(ノ`△´)ノ口だけの人の予感!仲良くならなくていいよ!表面上の付き合いでいいと思う!』
…………。
だよね!?
しかも最近私の疎外感半端ないし!
引き継ぎっつっても、何もお前は教えるなオーラが上の方達から、半端なく漂っているし!
なのに仲良くとか超絶無理だから!
私……間違ってないんだよね…?
まちがって………。
……………。
「………ゆいはさ。間違いだらけで狡い私をいつも肯定してくれ……本当に救われているよ…」
知っている。
そんなの私の思い違いだと言われればそれまでだし。
ただ。。
そう思っていないと。
卑屈に考えていないと。
自分を保っていられそうになかった。
周りのせいにしないと。。
前を向けそうになかったから。
嫌なところを見つけ出して、自分は悪くないようにと思わないと。。。
♪ピヨピヨ
『あゆさんは間違ってないし、狡くないよ!だってあゆさんの話聞いてて私も同じ事思っちゃったもん!』
「……私が有利になるような捉え方で、ゆいに話しているとしても?」
人は自分勝手で。
勿論それは私にも当てはまることで。
自分が有利に話してしまうことは自然としてしまう。。
その場面を第3者が見ていた場合、私が悪いって思うこともあるわけで。。
………。
………………。
♪ピヨピヨ
『それでも!そういう風にあゆさんは感じたんでしょ?周りの人達があゆさんをなんて言おうとも、私はあゆさんの味方だから!あゆさんの気持ちを信じる!!』
…………ポタッ。。。
スマホの画面に一滴の水溜まりが出来る。
その言葉が嬉しくて。
気がついたら、目から涙が次々と溢れていた。
味方がいるのってこんなにも心強いんだなって思った。
そして、この場所には一人かもしれないけど、気持ち的には一人じゃないということを再確認する。
ゆいのこの言葉だけで渇いている毎日を頑張ろうと思える。
「……すごいな…」
一人呟く。
腕で涙を拭って返信を書いた。
「まだまだ子供だね……私はこんなにも心強い味方がいたんだ。。ゆいさんありがとう。」
♪ピヨピヨ
『子供でもいいじゃない!大人って少しづつなっていくものなんじゃないかな?私は今のままでもあゆさんが大好きだよ!』
思わず笑ってしまう。
本当にこの子はすごいな。
泣いたり笑ったり。
文章だけのやり取りの筈なのに、近くにいるような温かみを感じる。
「私だって負けない位ゆいさんが大好きで味方だからね!!ゆいさんも何かあったらなんでも言ってね!!」
ありがとうと何度言っても足りない位。
この子には助けられている。
♪ピヨピヨ
そこには可愛らしい笑顔の男の子と女の子のスタンプが送られてきた。
「ありがとう……私…逃げないでいられるのはゆいのお陰だね……」
言葉に出すと、じんわり心の中が温かくなる。
23時46分。
気付いたらこんなにも遅くまで私の愚痴に付き合わせてしまったのか。
私はそのままありがとうの言葉を添えておやすみのスタンプを送った。
スマホをベッドの上に置いて、座ったまま伸びをする。
こたつで丸くなりながらやり取りをしていたせいか、背中が延びて気持ちがいい。
「明日もゆるく仕事しますか!」
頑張らない。
それが前からのゆいと私の合言葉。
そしてこたつとエアコンの電源を切って、電気を消してベッドの布団にもぐり込む。
♪ピヨピヨ
ん?
私は暗がりの中ラインを見た。
『あゆさん!明日もゆるーくね♪おやすみなさい(*´ω`*)』
女の子がすやすや寝ているスタンプ付きで。
ゆいから今日最後のライン。
「分かってますよ?ゆいさんもゆるーくね?」
ゆいには決して届かないが、私はスマホに話し掛ける。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
遠くからは終電が走っているのだろうか、電車の走る音がした。
星の見えないこの街で。
私はまだまだ明日も歩き続ける。




