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ラブステップ  作者: 里兎
20/39

セブラリーカヌレ



――――――――12月26日。


彼は出張先で仕事を頑張ったお陰か、早めのお正月休暇に入って家でくつろいでいた。


「ただいまー」


家から帰ってくると、彼がエプロンをつけてぱたぱたと迎えに来る。


「おかえりなさい」


彼のその笑顔に癒されて。

幸せだなと思ってしまう。

…………。

……………ん?

エプロン?

そういえば何か焦げ臭い匂いが……

……。

…………!?


「料理したの!?」


私はすぐにエプロン姿の彼を押し退けて、台所に走った。

そこにあった光景は。。

真っ黒にあるドロッとした液体が、鍋の中でグツグツと煮だっている。

それを見て立ち尽くしていると。

彼がおずおずと私の後ろから顔を覗かせる。


「シチュー作ったんだ?でも…隠し味にチョコ入れたら黒くなっちゃって……取り敢えずこのまま煮たたせようかなーって……」


うん。

これは………。

私は彼に振り向き笑う。


ゴチン!


「いたっ!!」


私のげんこつが、彼の頭に命中する。


「だからぁ!作れない内にオリジナリティー出そうとしないの!!そういうのはちゃんと作れてから!」


「ごっ……ごめん…。。」


冷蔵庫の食材を無駄にした彼に、怒りは中々収まらず。

そのまま1時間程度私のお説教は続いた。


―――――1時間後。


シチューは勿体無いけど、あまりにも食べれるようなものでは無かったので捨て、私は焦げ付いた鍋を洗った。

それが終わって振り向くと。

怒られて完全に落ち込んだ彼が捨てられた犬の様な背中でソファーで丸くなる。

……まぁ。

彼も悪気は無かったんだよね?

私の為に作ってくれようとしたわけだし……。

だから私は。

しゅんとしている彼の隣に座って、1つの提案をした。


「……お腹すいちゃったなー……久し振りに外に食べに行きたいなー…そうしたら機嫌も治っちゃうんだけどなー…」


そう言って彼をちらりと見る。


「じゃあ食べに行こう!!」


さっきの落ち込みようとはうってかわって、彼はキラキラと目を輝かせながら尻尾を振ってくる。

思わずその姿にキュンと来て、頭をくしゃくしゃと撫でてしまう。


「ちょっ!これから出掛けるのに頭ぼさぼさになっちゃうんだけど!?」


彼の困った声もやっぱりかわいくて、撫でる手を止めることが出来なかった。。



―――――そして家から出て落ち着いた雰囲気の小料理屋に入る。

前々から行こうと言っていたが、中々外食する機会がなくて行けなかったところだった。


「じゃあ唐揚げと肉じゃがとお刺身の盛り合わせで!飲み物は……」


私が店員さんに伝えていると


「飲み物は柚子みつサワーとハイボールください」


彼は私の続きを店員さんに続ける。

店員さんが元気よくかしこまりましたと、厨房の方に消えていった。


「……よくわかったね?私の飲みたい物。。」


「ん?だってゆいは甘い系の酒が好きでしょ?後ハチミツ好きだし選ぶならこれかなって」


彼の考えは的確で。

自然と分かってくれたことに嬉しくなる。


「………今年はいろんな人と出会ったなぁー」


「どうしたの?急に」


彼は机に両腕を組んで置いた。


「あなた絡みの人と沢山会えたなっと思って」


「……え?悠真と細谷さんと……2人だけじゃない?」


………確かにそうかもだけど…。

………。

……………あっ!


「お祭りで志穂さんにも会ったよ!」


その名前を聞くと彼の顔は嫌な風に歪んで、店員さんが丁度持ってきたハイボールに口をつける。

あまり仲良くなかったのかな?

そう思いつつも私も飲み物を飲もうとして、


「あっ!待って!乾杯してない!もう飲んじゃった!?」


私の突然の大きな声に少しむせた。


「…ケホッ!ごっ… ごめ……忘れてた。。ちょっと飲んじゃったけど乾杯しようか?」


全く!

いつも肝心なところが抜けてる!

私は1つ咳払いをして。


「……じゃあ…改めまして…今年1年お疲れ様でした!」


コツン!


私と彼のグラスが音を響かせる。

そして注文していた料理も次々と運ばれてきた。

運ばれてきた料理はどれも美味しそうに白い湯気がゆらゆらと揺れている。

私は頭の中で何から手をつけようか迷っていると。


「ゆいの来年の目標は美味しいもの制覇?」


彼がそんな私を察したのだろう。

ニコニコと笑っている。

私を何処まで食いしん坊だと思っているのだろうか。

そう思いつつ。


「来年の目標は腹七分目にする!」


「……七分目?」


首を傾げた彼にずいっと人差し指をたてて前に突き出した。


「ついでにダイエット!一石二鳥作戦なの!」


そしてその言葉と一緒にもう1つ中指も立たせる。

彼は一瞬驚いたような顔をしてすぐにへらっと笑った。


「…ゆいらしいね?」


なんだかバカにされてる気がする…。

そんな風に思いながら肉じゃがをつまむ。

ジャガイモが程よくトロトロしていて、濃いという位の汁の色で味が中迄染み込みんでるのにも関わらずしょっぱすぎず、素材の甘さを引き立てていた。


「ん!おいしっ!」


私が思わず唸ると。


「そう?良かった」


彼は相変わらずニコニコと私を見ていた。

なんだかその視線が悔しくて。


「………そういうあなたは来年の目標は何なの?」


「俺?…うーん。。料理を…―」


「きゃっか!!!」


最後まで言われる前に間髪入れずに、彼の言葉を遮る。


「……じゃあ…ゆいと出掛ける時間を増やす?」


何故そこをはっきり言わないで私に聞いてくるのだろう。

きっとまた却下されるとでも思ったのだろうか?

私はそう思いつつガーリックトーストの上に肉じゃがを乗せて食べる。


「……今年はなんだかんだ仕事に振り回されたし。。来年は旅行とか行きたいなぁ」


彼も私の真似をしてガーリックトーストに肉じゃがを乗せていった。


「温泉とか?テーマパークとか?」


……のビュッフェとか……。

案を出しつつも、私の頭の中は食べ物の雑念でいっぱいだった。


「……遠くにいる友達……確かあゆみさん…だっけ?その子の所に行けば、その子とも遊べるよね?」


「……!!そっそうだね!!」


違う違う!

占領された頭を振って、彼の話に頭を戻す。

というか!!

その話は魅力的過ぎる!!


「いいね!!それ!!前からね!ダブルデート出来たらいいねって話したんだ!!来年はあゆの所に行こう!そして一緒にテーマパークに行こう!」


思わず声の大きくなった私を彼が見つめる。


「……えーっと?あゆみさんは彼氏いるんだ?」


「?まだいないよ?」


疑問があるのか彼は首を傾げた。


「いやだって…ダブルデートって…」


「うん?言ったけど?」


私の答えに彼は諦めたようにため息をついて、何でもないとハイボールを飲んだ。

どうしたんだろう?

……まぁいいか!

来年楽しみだな!

海の日辺りの連休で行けたらいいな!


「そうだ!全く本決まりでないけど何処行きたいかとか話し合おうよ!!」


「……そうだね?」


彼はふわりと笑う。

そして私達は来年の事をご飯を食べなから、、そして飲みながら話し合ったのだった。




――――――――12月29日。


一口に言っても俺にとってはただの年末。

特にこれといってやることもないし。

そう思いながら、ホットカーペットの上でゴロゴロしながらテレビを見ていた。

すると1本の電話がかかってくる。

俺は手を伸ばしてスマホの通話ボタンをスライドさせた。


『悠真!!あんた帰ってこんのかい!?』


突然の大声。

思わず耳からスマホを離してしまう。


「何!?急に!?母さん!?」


母さんは俺の話なんか無視して話続けた。


『去年も帰ってこんで!!今年こそ帰ってきんさいな!!』


無理だろ……。

今何日だと思ってんだ?

後2日程度で年明けちゃいますけど?


「飛行機のチケット取れなかったんだよねー…夏には帰るから」


まぁ最初から取る気なかったけど。。

そんなこと言ってるとスマホ越しから大きなため息が聞こえる。


『……まぁあんたがそう言うの予想してたけ。母さん単独でそっち行くから。。案内しんさいよ?』


………。

……………。


「はぁ!!??」


俺の驚きを他所に母さんは話を進めていく。


『今から飛行機乗るけ3時半に着く予定じゃけ、お迎えよろしくー!』


プツン。

ツーツーツー。。。


「………マジかよ!!」


切れたスマホに俺はつい言葉を返してしまう。

…………。

たまには親孝行しろってことなのか?

ふぅとため息を付きつつ。。

財布とスマホをポッケに突っ込んで、コートを羽織った。

取り敢えず。

遅刻しないようにしよう。

そして。

どんな結果であれ、母さんのおかげで賑やかな年越しと正月を過ごせそうだ。

俺は早足で家から出て、空港に向かった。。




――――――――――12月31日。


ぎりぎり迄仕事だった。

帰り道。

上を見上げると空が暗くなりかかっている。

これでも仕事が早く終わった方なのに。。。

普通の仕事をしている人はとっくに休みで、家族で過ごしてるのかななんて思うと独り身で待ってるのは寒い部屋だけなのが虚しくなってくる。

だが。

実家から離れて早数年。

こんな気持ちも、もう慣れた。


「今年は色々あったな。。」


誰も答えてくれる筈無いのに、口から言葉が漏れる。

すると。


♪ピヨピヨ


ラインの音がなる。

スマホを取り出してメッセージを見てみると。


『ゆい


あゆさん!今年1年お仕事お疲れ様!今年は色々あったけど私なりに充実していた気がするよ!

新年も、楽しく過ごそうね!』


………そういえば。

知らない人の相談に乗って好き勝手言ったこともあったな。。

うん。

振り替えると、色々大変な事があったけど悪くない1年……むしろ私らしい1年だったのかもしれない。

そうだ!

帰りにスーパー寄って、お寿司でも買おうかな?

こういう時位贅沢な食べ物食べてもいいよね?

ご飯食べて、テレビ見て、ゲームして、お正月には福袋買いに行って、その次の日には初売り行って。。

そうだ!初詣にも行かないと。。

なんだ。

やることいっぱいあるじゃん!


「よぅっし!!遊ぶぞー!!」


周りが驚こうがお構いなしに、私は大きな声で宣言して駅まで走った。




――――――同日。


家でテレビを見ている。

折角の年越しはゆっくりくつろぐものだろう?

そう思って実家に帰省して横になっていると。


「幸人はいつ結婚するんだろうねー」


という母の小言だとか。


「お前の孫の顔が見たいな……」


という父の悲しそうな目とか。


「お兄ちゃん結婚の波に乗り遅れたねー!!」


という既に結婚している妹の嫌味とか。。

………。

つぅか!!俺の横を通る度に結婚、結婚言うんじゃねぇよ!!

全然ゆっくりできねーし!!

仕方なく居間を後にして自分の部屋だった場所に行く。

そこはがらんとしていて。

小さな荷物がいくつかあるだけだった。

明かりを付けると、俺の部屋だった名残が今でも少し残されている。

窓を開けて、夜空を見上げた。


「結婚が全てじゃないだろ……。」


確かにしないよりした方が良いに決まってるが、急いでするもんでもないし。

だって一生の事だろ?

それこそゆっくり相手を見極めるものじゃないのか?

分かってる。

こういう言葉は若いやつが言える特権だって。

30越えてる俺はどんどん選択肢が無くなってるって。。。

だからって。。

そんなに上手く切り替えたり。

年相応に考えれる事は出来そうに無かった。


冷たい風が頬を撫でる。

そこまで厚着をしていなかった俺は、軽く身震いをして急いで窓を閉めた。


「幸人ーー?年越蕎麦食べるーー?それとあんたの好きなアーティスト出てるわよー!!」


母親の大きな声が階段下から聞こえてくる。

分かってる。

家族なりに心配してくれてるのだろう。

決して俺を追い詰めたい訳じゃない。


パン!!


俺は両頬を叩いた。

気にすることはない!

まだ諦めた訳じゃないんだし!

来年こそ相手を連れて、家族を驚かせよう!


「おぅ!今行く!!」


そのまま開けたカーテンを閉め、俺は自分の部屋を後にした。。




――――1月1日/0時0分。


「「あけましておめでとーー!」」


ゆいと年越蕎麦を食べてテレビの前で言い合う。


「初詣は明日行こうか?」


「うん!……あっ!冷蔵庫にカヌレ入ってたよね!?食べよ!!」


年越蕎麦食べたばかりな気もするけど……まぁそれもゆいらしいといえばゆいらしいか。

俺はこたつから立ち上がって、冷蔵庫にカヌレを取りに行く。

というかカヌレって冷やすものだっけ?

そう思いつつも、カヌレの入った袋を取り出した。

手掴みでいいかと思い、そのままこたつに持っていく。


「食いしん坊のゆいさん?カヌレ持ってきたよ?」


俺は少し皮肉めいた事を言う。


「…………すーっ…」


うん?

返事の無いゆいの顔を除き混むと、彼女はかわいい寝息をたてながら眠っていた。

………だよね……。

11時位から船こいでたもんな。

俺は肩にソファにかかっていた毛布をかけてやる。

隣に座って。

今にもこたつの上に頭をぶつけそうだったので、そっと自分の肩へと誘導した。


「今年も俺の隣でかわいい笑顔たくさん見せてね?」


聞こえないゆいへ小さく呟く。

そして起こさないようにとさらさらな髪の毛を手で優しく撫でながら、俺はテレビの続きを見ることにした。。






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