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ラブステップ  作者: 里兎
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~出会い~

―――出会いなんて何でもないものだった。

私は本屋さんにいた。

特に欲しいものがあった訳でもなく。

ただそこにいた。

ぼぅっと本棚の前で何を探すわけでもなく通りすぎる。

その刹那。


ドン!!……ドサドサ!!


誰かとぶつかり、何かが落ちる音がした。

後ろによろめいた私はすぐに体勢を立て直し、目の前に目を向ける。

そこには茫然と男の人が足元に大量の書類をばらまかせて、立っていた。

いや。違うか。

私が余所見してぶつかったせいで、ばらまかせてしまったのか。


「すみません!余所見してて!」


私はすぐにしゃがんで大量の書類をかき集める。


「………ね…い…」


「………えっ?」


今何て言ったのだろう?

小さな声過ぎて聞こえなかった。

…………。

うん。

まぁ。

気にしても仕様がないよね?

そう自分に思い込ませて、書類を再度集める。

全部集め終わって、未だに茫然と立っている男の人に集めて分厚くなった書類を渡す。


「あの…これ…余所見しててすみませんでした」


その言葉と一緒に小さく頭を下げた。


「………俺こそ…寝てて……」


「……うん?」


その言葉に不思議を覚えて、男の人を見る。

目がとろんとしていて。

今にも寝そうな勢いでゆらゆらしていた。

……正直面倒な事には関わりたくない。

そうだ。

気付かなかった事にしてこのまま行ってしまおうか。

私はその人に背を向けて先を急ごうとした。

けど。

………。

………………。


「………あーもう!歩けますか?」


ここで放っておいても夢見が悪い。

そう思い、とりあえずその人をベンチまで連れていって座らせた。

男の人は座った途端に寝息をたてる。

………寝てる。

まぁ。

ここまでしてあげたんだしもういいよね?後は本屋さんの人に任せよう。

そう思って私は、静かにその場を後にしたのだった。


その後から。。

私が同じ本屋さんに行く度に彼と出会った。

最初は。


『あの時は徹夜で…すみませんでした』


と謝ってくれた。

寝ながらも私の事は覚えていたらしい。

それからも会うたびに挨拶したり。

お薦めの本を教えてくれたり。

本屋さんのベンチでくだらない事を話した。

最初は私が行く度にいるから、この本屋に住んでるんじゃないかとか。

不思議な人。

変な人。

そう思っていた。


でも会う度にそれは変わっていって。

私の中で彼は気になる人になっていた。


そんなある日の事。


「あのね…オレ…ゆいさんに話したいことがあるんです。」


ベンチで話している時。

真剣な面持ちで私に彼が話し掛けてくる。


「……?どうしたんですか?急に」


私が首を傾げると、そのまま彼は体ごと私の方に向けて私の目を貫く。


「……実はオレ…ゆいさんの事……ぶつかる前から知っていたんです」


!?

もしかして患者さんだっただろうか。

顔を覚えてないとは……。

まさか!!

人として駄目じゃないですかと指摘される!?

えっ!?でもこんな人いたっけ!?

頭をぐるぐるといろんな事で巡らせていると。


「……この本屋さんであなたを最初に見つけた時。何かを探している訳でもなく、ただぼぅっと本棚の前を通りすぎていくあなたを不思議な人だと思っていました。」


そっちか!!


「いやっ!あれは!ぼぅっとしていたわけでなく無心というか精神統一というか……」


恥ずかしい!

でも言い訳しようとすればする程墓穴を掘ってしまっている気がする。

そんな焦っている私に、彼は優しく笑った。


「あっ違うんです。嫌な意味とかでなくて……その日から何故かあなたを見つける度に、目で追ってしまうんです。」


「えっ…………」


その言葉を言われた瞬間。

心臓が早鐘の様にドクドクとする。

あつい……。

きっと私は今顔が真っ赤になっている。

こんなことで。

そう思われたくなくて彼からすぐに顔を背けようとした。

すると。


「隠さないで?」


その言葉と一緒に彼の両手で私の頬を包まれる。

なにっ!?

何が起こってるの!?

恥ずかしい!

私がぐるぐるする中彼は話を続けた。


「ぶつかったのは本当に偶然だったけど……それからは君と又きっかけが欲しくて仕事が終わってから毎日、本屋が終わるまで通って……あっ!いやっ!気持ち悪いのも分かってます!どう見てもストーカーっぽいですよね!?……でもそれぐらい…君を…ゆいさんを諦められなかった」


その話をしている彼は今にも泣きそうな程、耳まで真っ赤で私を見据える。


「あの!オレ!ゆいさんの事すっ好きっでぁっ!?」


かんだ!

この人大事なとこでかんだ!

私はそれに耐えきれず吹いてしまう。


「……くっ……おかしっ……!」


「うぁ!すっすみません!やり直していいですか!?」


その恥ずかしそうな顔があまりにもかわいかったから


「……ふふっ!しなくていいです。私もあなたと会う度にあなたの事で頭がいっぱいになっていきました。私で良かったらお願いします!」


本屋さんのベンチで顔を赤くしながら笑ってる2人。

端から見ればおかしな人だろう。

それでも私は彼との出会えたことが、最高に幸せだと思えた瞬間だった。



―――――時は流れて今。


私は彼と同居中。



「………最初はオレの事で頭がいっぱいって言ってくれたのに…今のゆいは美味しいお菓子で頭がいっぱいだよね?」


むくれながら、彼の頭は私の肩にもたれ掛かっている。

……………。

仕様がないじゃないか。

やっと手に入った抹茶のシュークリーム。

それを貰ってすぐ食べないでいつ食べると言うのだろう?


「それ。先輩から貰ったんだっけ?じゃあ先輩はゆいの食べ物貰った時のあの幸せそうでかわいい笑顔見たんだ……。」


「!!さらっとかわいいって言わないで!別に普通だし!というかお菓子に妬かないでよ!」


かわいくない。

自分でもそう思ってしまう言い方だ。

でも。

それでも私は目の前の綺麗な抹茶色のシュークリームをどうしても口の中に入れたかった。


「………オレの分は?」


うっ………。

痛いところを突いてくる。

実は彼の分も先輩は当然と、買ってきてくれていた。

でも帰る前に我慢できなくて地下鉄のホームで食べてしまった。

………あぁ…口の中で広がるあの抹茶の味……至福の時をこのシュークリームは私に運んでくれた………!


………じゃない…!

……でも…そうだよね…独り占めは良くないもんね…

そう思った私はたっぷりの抹茶クリームの入ったシュークリームを手で半分に分ける。

あっいや…流石に全部は…やっぱり私も食べたいし………。

そして彼に手渡した。

生地からクリームがはみ出て手につきそうだ。


「……ふっ!ゆいさ?オレの分食べたでしょ?」


「ふっへっ!?なっなんの事?」


彼は吹き出して私に頭を預けたままシュークリームを食べ始めた。


「……別に?ただそういうところも好きだなぁーって思って」


「!!はっ!?」


顔を赤くした私を見て、悪戯っぽく笑う彼になんだか悔しくて私はクリームを溢さないように大きな口をあけてシュークリームを、頬張った。

甘い……。

でもこの甘さはシュークリームの甘さだけでもない気がする。

いつになったらこんな彼に慣れるのか。


慣れる時なんて来るのだろうか?




――――これはそんな2人の甘くて幸せいっぱいの恋の物語。


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