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ラブステップ  作者: 里兎
18/39

コーヒービター



「えっ!?出張が長引いた!?」


それは仕事場での事。

あいつからの電話だった。


『悪いんだけど悠真。ゆいに、そうやって連絡しておいてくれない?』


「はっ!?何で俺が…!!……お前自分で連絡すりゃあいいだろ!?」


その声が余程大きかったのか、周りの視線が俺に向いている。

そして慌てて声のボリュームを抑えた。


『携帯の電源が入らなくなったんだよ……。。でも仕事用は生きてるからなんとかお前の番号は分かったけど……私用のアドレス帳はパァ……』


あーそういうこと。。

それでゆいちゃんとの連絡手段が着かないのか。。。

ゆいちゃんの電話番号だけでも教えたくとも、俺はラインしか知らないし。


「はいはい。。分かったから。ゆいちゃんに伝えとくからあんま落ち込むな?」


溜め息と共に悪いと奴が言う。

電話越しでも分かるくらいこいつは疲れている様子だった。


「何?そんなに大変な事になってんの?」


なんとなしに聞いてみると。


『プロジェクトのリーダーに逆指名されて、やらないといけないことが増えてくいっぽうなんだよ……年末迄に帰れれば良いけど……』


年末か……。

相当大変な目にあってんな。。

自分が仕事が出来る方でなくて良かったと、心から思った。

…………。

………………。

……!?

はっ!?年末!?

クリスマスぶっ飛ばして!?

それはヤバくないか!?


「ちょっ!おまっ!くり……」


俺の言葉が遮られるように、受話器越しに遠くから奴の名前を呼ぶ声がする。


『あっ!ごめん呼ばれてるから行くわ。。悪いけど頼んだ。。』


ブッッツ。。


………。

……………。

クリスマス………。

忘れてるのか……?

いや……忘れる訳……でも……あいつなら有り得る。。

忙しさと相まって忘れているのだろう。


「………ラインの内容…どーしよ。。」


俺は取り敢えず携帯をデスクの上に置いて。

途中だった仕事に手をつけることにした。




―――――――――。


「………えっ……」


仕事終わり。

そのラインを見たのは帰り道だった。


『アイツから連絡が来て、出張が長引いたらしく、いつ帰って来れるか分からないらしい。。私用の携帯は壊れちゃって連絡出来ないみたいだから、代わりに俺が伝言頼まれてさ………』


それは悠真君からのラインだった。

長引く………。

長引くっていつまで?

私はなんとか波打つ心を持ち直して悠真君にラインを打つ。


『彼が迷惑かけてごめんね?わかる範囲で良いんだけど、それっていつまでか分かるかな?』


♪ポロン


『そこら辺は気にしないで?俺の方があいつに迷惑かけてるし。。………だよね…そこ気になるよね……言いづらいんだけど。。その時年末迄にはって言ってたんだよね』


…………。

…………年末?

えっと。。。

それって。。。

私が文章を読んで放心していると。


♪ポロン


『でも!まだ分からないから!あいつ忙しいらしくて途中で話終わっちゃったから、また連絡取ってみる』


携帯を下ろして空を見上げる。

吐く度に出る息は白くて。

真っ暗な空の背景は。

とても寂しく思えた。


喧嘩したままクリスマスを迎えて。

しかもひとりぼっちで。

私は。。

サプライズを用意するつもりでいて。

でもそれも。

意味がなくなって。。

頭では仕事じゃ仕方無いと思っていても。。

心がついていく事が出来なかった。


「……会いたいよ…」


ぽそりと自然と出た言葉は。

嘘偽りのない素直な言葉で。

このまま彼に伝えれば良かったんだと。

今更ながら。

気が付いたのだった。。。





――――――――――。



「――………さん!こちらのデータもよろしくお願いします!」


ハッと気が付くとそこは何処かの会議室で、目の前には後輩がUSBメモリーを差し出している。

……やば。。

今俺は寝てたのか。

そう思い、片手でメモリーを受け取った。


「悪い。見ておくからこっちのデータも集計しといて。」


「分かりました!やっておきます!」


その後輩は元気よく応えて、すぐに座業に取りかかる。

………。

元気だな。。

これが若さというモノなのか。

まぁ俺も細谷さん辺りからしたら、若くて羨ましいと言われる歳だろうけど。

ここまでの体力は無いと、言いきれる自信しかなかった。

ちらりと電源の付かなくなった携帯を見る。

画面が真っ黒で。

動く気配が全く感じられない。


「はぁー………」


思わず漏れた溜め息に先程の後輩が顔を上げる。


「お疲れ様です!……先輩全然休んでないようですが大丈夫ですか!?」


元気がよすぎるだろ。

大きい声が頭に響く。


「お前ちょっと声デカイ。。近いんだからボリューム落として話してくれる?」


「あっ!すみません!……っと。それで……休んだらどうですか?」


次はヒソヒソ声って。

こいつには中間が無いのか?

まぁデカイよりはいいけど。


「大丈夫だから。これやったら休憩するし。。」


俺はパソコンから目を離さず答える。

そうするとその後輩が大きく息を吐いた。


「巷ではもうそろそろクリスマスなのに俺達はその日もきっと仕事なんでしょうね………」


そいつの方に目を向けてみると、そいつは頬杖を付きながら遠くを見ていた。


「………お前彼女いたっけ?」


「いや全然!あっでも同期の横井ちゃんは彼氏いるみたいですよ?」


俺はお前の話を聞いているんだが。

横井って誰だよ。。

違う部署の奴か?

そんな事を考えていると。


「でも元々クリボッチの俺らにはクリスマスなんて関係無いですかねー?」


………。

…………。

……………?


「クリボッチってなに?」


「えっ!?先輩知らないんですか!?クリスマスにひとりぼっちってことですよ!」


だから!

声デカイって!

俺は顔をしかめつつ、パソコンに目を戻した。

……ほんと。

最近の若い奴の言葉にはついていけない。

何でも略せば良いって問題じゃないだろ。

そんなひねくれた事を思っていると。

自然と手が止まる。


「?先輩?どうしたんですか?……!!あっ!また俺声でかかったですか!?」


それもあるが……。

って違う!

……………。

クリスマス……。

すっかり忘れてた。。

喧嘩とか仕事とか色々重なってプレゼントすら買うの忘れてた。

仕事用のガラケーのカレンダーを開いて見ると、クリスマスは来週。

ちょうど1週間後だった。


「……ヤバイ。。」


思わず声が出る。


「!?何がですか!?まさか!なんかアクシデントでもありました!?」


「……いやっ!何でもない!いいからとっととこの仕事明日にでも終わらすぞ!」


はぁ!?っと大きな声で驚いている後輩を余所に、俺は兎に角やるべき仕事を早くこなす事にした。


「明日って!?こんな膨大の量をですか!?まぁ……確かにプロジェクト迄時間が無いですし……分かりました!その勢いで頑張ります!」


そして後輩も仕事に取りかかる。

出来れば。。

願わくば。。。

プレゼントを買える時間を作れれば。。

最低でもクリスマス迄には帰ることが出来れば。

そんな事を思いながら。

その日は休憩することなくパソコンのキーボードを打ち続けたのだった。





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