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ラブステップ  作者: 里兎
17/39

番外編~ジンジャーループ~



「お金ないならもう別れよ?ばいばい!」


俺の前からブランドのコート、ブランドのバッグ、ブランドのアクセサリーを身に付けた女が去っていく。

それらは全部俺が買ってあげたものだった。


「……これで3人目……。」


白い息を吐きながらぼそりと呟く。

俺は昔から女に引っ掛かりやすいタイプらしくて、1人目の彼女は3股されて、2人めの彼女には俺を財布代わりされ、たった今の彼女は俺に散々物を買わせ、何故かめっちゃ高い教材を売ってきた。。

俺が金がないと言うと、さっきの言葉を吐かれた。

………いわゆる恋愛商法というやつだったのだろう。。


細谷ほそや 幸人ゆきと

俺は名前の通りには幸せになれないらしい。。。




――――「やっばっ!!細谷さんマジウケるんですけど!!」


昼休みの社食で、隣の後輩が遠慮なしに涙を流しながら笑う。


「……悠真遠慮しろ。。」


向かいではもう1人の後輩が半ば呆れながら、カレーを口に運んでいた。


「……お前らな…先輩を慰めようとは思わないのか?」


俺の言葉を聞いた後輩2人はキョトンとした顔でお互いを見て


「「……全然?」」


と声を合わせた。


「慰めて欲しかったら、俺達に話すの間違ってますよー!鈴城さんとか大輔辺りに話さないとー!でも俺達に話したってことは笑って欲しかったんですよね!?」


悠真。。

こいつは中々いい性格をしている。。

勿論。

別の意味でだが。。

だがあっけらかんというか、無邪気な性格が幸を為してこいつを嫌うやつは殆んどいない。


「……お前って空気読む気全く無いよね?」


そしてこいつ。。

誰に対しても冷たい。

悠真とは反対で仕事でしか人と関わらないし、仕事もそつなくこなしてしまうから同僚や先輩に嫌がられるタイプだ。

何故かこの2人は仲良く。

俺もこの2人の空気は何故か嫌いじゃない。


「……お前らさ、今日の夕飯どーすんの?」


「……細谷さんの奢りなら!」


悠真は少し考えすぐに、にっこりと笑う。


「……俺は…」


「………来るよな?」


威圧的な笑顔を俺が作ると、そいつは諦めたように溜め息を吐いた。


「……断る権利無いじゃないですか…」


これでいい。

こいつは無理強いしないと絶対断る事は分かっていた。

でも。。

何で俺は、こいつらと飲みたいんだ?

悠真の言う通り慰めて欲しいなら、他のやつを誘えば良いのだが。。

なんで………。



―――居酒屋。。


悠真がどうしても此処に行きたいと言った居酒屋が、鍋フェアを丁度やっていたのでちゃんこ鍋を3人前頼んだ。


「……ん?お前……酒飲まないのか?」


後輩の飲みグラスを見るとしゅわしゅわと炭酸の気泡が上がっていた。


「……俺はこれで良いんです。明日は大事な会議がありますし。。」


その答えに悠真はそいつの肩をポンポンと叩く。


「違いますよ!なんかこいつ!本屋で好きな子出来たみたいで!その子がジンジャエール好きらしくって!それ以来これ飲んでるんですよ!」


「……俺はお前に話したこと死ぬ程後悔してる…」


そいつは悠真を睨みながらジンジャエールに口をつける。

まぁ。でも。

そんな話は俺には傷口に砂糖を塗りたくるようなもので。。

気が付けば溜め息をついていた。


「細谷さん。鍋来ましたよ。」


それをかき消すように、美味しそうに白い煙が沸き立つ熱々でかなりのボリュームのあるちゃんこ鍋が目の前に運ばれる。


「俺、仕事やりまくって腹空かしてきてよかったー!」


目を輝かせながら、悠真が早速鍋に手を出した。

大量に自分の取り皿に肉や野菜を取りすぐに口に入れる。

するとみるみるうちに幸せそうに笑う。


「うっま!細谷さん!うまいですよ!」


何度も言わなくても聞こえてるっつーの。。

そう思いつつも、俺は自分の器にグツグツと煮込まれ味の染みている鍋の具材を取る。

猫舌なので、息を吹き掛けながら冷まして白菜を口に入れた。

出汁が染み込んでいる白菜は噛む度に旨味が出てきて、荒んだ心を落ち着かせてくれた気がした。


「……うまい。。」


自然と出ていたその言葉に悠真がにんまりと笑う。


「ですよね?旨いものは人を幸せにしてくれるんっすよ?」


もしかしたら。

ここのお店を選んだのは悠真なりに気を使ったのかもしれない。

そう自惚れてしまう程鍋は美味しかった。

そして。

いつの間にかに、頼んでいたのか俺の前にジンジャエールが運ばれた。


「……えっ?俺のじゃないだろ?」


「………それは細谷さんの分です。。俺のはまだありますから。」


意図がわからず、ジンジャエールからしゅわしゅわと上がってくる炭酸の気泡を見つめる。

それは、なんとなく。。

俺と。

今迄の元カノの思い出を思い出させた。

最初の彼女は元々俺が最初の彼氏ではなく3股目だったらしい。

まだ純粋な俺は大学生なのに週1でしかも、3時間しか会えないと言うことに何も疑問を持たなかった。

それから何故か俺がそそのかしたと言う風になっていて、見ず知らずの男に急に殴られ、別れることになった。

2人目の彼女は、思えば出会った時から物をねだる彼女だった。。

新社会人としての給料をほぼ彼女に使っていたのに、気が付いたら彼女は姿を消し連絡がつかなくなった。

3人目は、2人目と同じようなもので彼女が身に付けるものを買い与えて、薄々おかしいなと思い大金を使う前に金がないと言ったら冒頭の通り。。。

思い返せば。

女にろくな思い出なんか無くて。。。

幸せには程遠くて。。

自分が情けなく思えてきた。


「………ジンジャエールは生姜で出来ているから体を温めてくれるらしいですよ」


ふいの言葉に、我に帰りそいつの顔を見る。


「……これは受け売りですが…どんな事にも必ず次があるんです。失敗して、失敗して、それを繰り返して、死ぬ間際に満足していたらそれも幸せの1つのカタチだと思うんです。」


たどたどしく、不器用ながら言葉を繋いでいく。


「人にどう言われようと、それが細谷さんなら俺はそれで良いと思います」


そいつの言葉は。

俺の心の絡まった糸を解してくれて。

年甲斐もなく。

泣きそうになった。


「……とりあえず!俺はこうして3人でうまい鍋を食べれて幸せだな!」


悠真が無邪気に笑いながら場の空気を温かくした。


「……お前は単純だな。」


呆れつつもつられて奴も笑う。

そうか。

何でこいつらといたいと思ったのか。

俺は慰めて欲しかった訳じゃなく、笑いたかったからなのか。

うん。

まだ笑える。

俺は大丈夫だ。


「よしっ!食うか!俺の慰め会だからお前ら出せよ?」


その言葉に悠真ともう1人の奴の目が見開く。


「いやっ!ちょっと待ってくださいよ!だって細谷さんの奢りだって…」


「……俺は薄々嫌な気配はしていたんだ。。」


良い後輩を持ったな。。

細谷 幸人。

俺は名前の通り。

今この瞬間幸せだ。

そしてその時既に昨日迄の彼女の事は忘れて、夕飯の時間を楽しんだ。。



だが。

それからというもの。

何度か女性と出会う機会はあるものの。

元彼女達の思い出がトラウマとなり。

俺は女性の言うことを片っ端から疑ってしまうという損な性格となってしまったのだった。。


……俺の春はまだまだ先のようだ。




~おまけ~


「細谷さんまた駄目だったんですかー?」


それは昼休みのこと。

細谷は食堂へと向かう道すがら、悠真が後ろから話しかけてきた。


「……なんの事だよ?」


細谷は分かっていながらも、敢えて悠真に聞き返した。


「鈴城さんと合コン行ったんですよね?鈴城さん嘆いてましたよー?あいつは一生涯女出来ないって!」


ニヤニヤ笑う悠真に細谷は目をそらし、早歩きで食堂へと歩き始める。


「……あいつには春が来たのに細谷さんは当分来そうにないですね?」


その言葉に驚き思わず細谷は足を止めて優真へ振り向いた。


「!?まじか!?あの本屋の子か!?」


その態度に悠真が逆に驚き仰け反いた。


「!?へっ!?細谷さん聞いてなかったんですか!?………って!!ヤベッ!!これ秘密だって言われてたんだっけ!」


悠真が口を抑えて、逃げるように細谷の横を通りすぎ


「俺ちょっと用事思い出しましたー!」


下手くそな言い訳を言いながら走り去っていった。

そしてすぐその先から上司の走るなという怒号が聞こえる。

それを聞いて細谷は込み上げる笑いを堪えきれずに軽く笑った。


「あいつの口のドアは開けっ放しだな。。」


そして当初の目的通りに食堂へと歩みを進めたのだった。。








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