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ラブステップ  作者: 里兎
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スノーブルー


もうすぐクリスマス。

勿論ゆいの為に何かを用意するつもりだ。

だけどいつもプレゼントに頭を悩まされる。きっとゆいなら、何でも喜んでくれるんだろうけど。。。

どうせなら心から喜んで欲しい。

だから最近は会社帰りにフラフラと雑貨屋さんに入っては物色している。

だが。。

中々これだというものが見付からない。


「はぁ……どーしよ。。」


思わずため息がこぼれた。


「あの?何かお探しですか?」


急に話しかけられ隣を見ると、若い女性の店員さんがにこにこと立っていた。

………。

……この人に聞けば、参考にはなるのだろうけど……。。

どうせなら最初から最後迄自分でゆいの為に決めたい。。


「……あー……大丈夫です。」


我が儘な自分に嫌気がさしながら、取り敢えず店員さんを追い払おうとすると。


「……あれ?お前何してんの?」


もう1つの声。

振り向くと、そこには仕事場の先輩である細谷さんがいた。

何故か無愛想な俺にも優しくしてくれる珍しい先輩だ。


「……いやっ俺は……というか先輩こそ何してるんですか?」


「30代独身の俺にそんな事聞くか?ただの寄り道だよ。お前こそかわいいとこに買い物来るんだな?」


笑いを含む細谷さんの言葉に、恥ずかしくなる。


「違います!俺は彼女へのプレゼントを…………」


その言葉を言い終える前に、細谷さんにガシッと肩を組まれた。

……ヤバイ。。

そう思った時には遅かった。


「うるせぇよ?リア充め…そうだ?俺は彼女もいないし暇だから飯付き合えよ?な?」


迫力のある黒い笑顔は、俺の顔をひきつらせながら頷かせた。




――――『ごめん……先輩に捕まった……今日遅くなるから先に寝てて』

居酒屋に着いて、細谷さんにバレないようにゆいへラインをした。


「……はぁぁぁ……なんで俺には出会いが無いんだろうな」


目の前を見ると頬杖をつきながらビールを飲んでいる細谷さんの姿。

めんどくさいな。

純粋にそう思ってしまう。


「出会いが無いんじゃなくて……細谷さんの場合は騙され過ぎて、疑い癖がついちゃってるからじゃないですか?」


そう。

この人は今まで付き合った彼女に3股されてたり、お財布代わりにされていたり、恋愛商法に引っ掛かったりと散々な恋愛を繰り返した結果。

自分を好きと言ってくる女性を信じられないという性格になってしまったらしい。

元々女運が無いだけの気もするが。。

それは黙っておこう。


「どうせ俺の金が目的だろ?って思っちまうんだよなー……ってか俺むしろ金ねーし!!意味わかんねぇ!」


「 でも…1人でいる分自由に使える金は多いんでないですか?」


なんて。

俺は適当に返していた。


「………まぁ…そうなんだろうけど…騙すなら金持ち騙した方がいーだろ?……ってかお前の彼女はどういう子なんだよ?」


「…………間違いなく細谷さんの歴代の彼女みたいな子ではありません。」


「うるせぇ!!!」


それと同時にお酒を飲みきってしまった細谷さんは、店員さんに焼酎を注文する。


「……良い子ですよ。よく食べますし」


俺の言葉に刺身に箸を伸ばした細谷さんがふーんと頷く。

興味ないなら聞くなよ。

そう言いたくなったが、ここは大人なので我慢する。


「まぁ……男も女もよく食べる奴には悪いやついないしな。で?俺見たこと無いんだけど?携帯に写真あるんだろ?見せろよ?」


「え?嫌ですけど。」


即答した俺の答えをあざけ笑うように細谷さんが背もたれに寄りかかる。


「じゃあ、俺否応なしにお前ン家に着いてくから?いいよな?それで?」


はっ!??

そんなんもっと嫌に決まってる。

しかもこんな時間に連れていったりしたら、ゆいに怒られるのは確実だ。

でも。。

この人なら……。

本気でやりかねない。。

はぁっと深いため息を付きながら、携帯を取りだしアルバムを開いた。

そして海でパンケーキを食べた時の写真を見せる。


「……ちっ…なんだよ…普通にかわいいじゃねぇか…」


「舌打ちする意味が分かりませんが。かわいいんです。」


細谷さんは頬杖を付き直して携帯の写真を睨む。


「……うるせ!胃もたれするような話なんか……ってあれ?この子何処かで見たことあるな………?」


まぁ同じ地域に住んでるんだから何処かですれ違っても、おかしくないよな。

そう思って特に気にしなかった俺は、唐揚げをかじった。

一噛みする度に中から肉汁があふれでてくる。

今は少し冷めてしまっているが、それがあまり気になら無い程美味しく食べれた。


「あっ!思い出した!この子前にデパートで悠真といた子か!」


…………はっ?

俺は思わず残ってた半分の唐揚げを皿の上に落とす。


「………いや…見間違いじゃないですか?そんな話聞いてませんし。。」


ドキドキと嫌な心臓の音を落ち着かせるように、なんとか冷静に言葉を紡ぐ。


「いんや?間違えねぇよ。悠真が女の子連れてたからかなりイラついた覚えあるし。。」


はっ?

なんでだよ?

ゆいと悠真が?聞いてないし。。

俺のもやもやした感情とは裏腹に、細谷さんはその時の状況を話続ける。


「かなり仲良さそうだったから、悠真の彼女かと思ったんだけど……お前のだったんだな?いやぁー残念だね?やっぱし女って怖いわ。。」


冗談めいて笑っている細谷さんが俺の様子に気が付いたのか慌てて肩をポンポンと叩く。


「あっ!……いやっ!でも!!もしかしたら彼女なりに何か理由があったかもしれなしな?……あーー……ここは俺が持つから取り敢えず腹一杯食え!なっ?」


フォローを入れてくれる辺り細谷さんらしいな。。

そんなスキだらけの優しさがあるから女に騙されるんじゃないか?

でも。。

この人は正直に。

見間違いとは言わなかった。

ということは本当に……………。

俺の中に黒い雲が立ち込める。

でも今は。

なんとかそれを無視して、なるべくいつも通りに細谷さんと飲んだ。




―――――――パチッ。


暗がりの中。

電気を付ける。

流石にもう寝ているだろうと、ソファに座る。

自然と出るため息。

俺はどうしたら良いんだろうと。

天井を見上げた。


その刹那。


ガチャっ。


寝室の扉が開く音がして、振り向いた。

そこにはカーディガンを肩に羽織ったゆいが顔を覗かせていた。


「……おかえり。遅かったね?」


「えっと……うん。ちょっと捕まっちゃって……」


なんて言えばいいか、どんな顔をしていいのか分からなくて思わず顔をそらす。


「お風呂入って、ちゃんと髪乾かしてから寝るんだよ?」


優しいくてゆいらしい言葉。

そのまま寝室の扉が閉まる音がした。

俺は結局何も聞けなかった。。

違う。

聞くのが怖かったというのが正しいのか。

ゆいの事は勿論。

俺は悠真の事だって信じている。

だからこそ。

俺が望んだ答えじゃなかった場合。。

受け止めきれる自信が無かった。

そんな筈無いと。

わかってる筈なのにどうしても悪い方向へと考えてしまう。


「いつから俺……こんなに弱くなったんだろ………」


自然と口からこぼれるその言葉。

俺は目を瞑って。

体が疲れていたこともあり。

考えることを放棄した。



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