ホットミルクケーキ
キラキラとした店内は、もうクリスマスの雰囲気で一色だった。
その中。
私は悠真君と一緒に百貨店のメンズ館にいた。
決してこれは浮気とかではなく。。
彼のクリスマスプレゼントをアドバイスして貰うためだ。
そして私はサプライズを計画しているので、彼には内緒だったりする。
「マフラーとかは?あとー……手袋とか?」
悠真君が提案してくれる。
「うーーーん。。マフラーも手袋持ってるからなぁ……なんか驚きそうなもの……」
私の言葉を聞いた悠真君は腕を組み、うーんと唸る。
「服とかはどうかな?サイズ分からなかったらあいつと体系大して変わらないし、俺が試着するよ?」
服か………。
確かに温かいものを着て欲しいかも。。
フロアを見渡して、目のついた服を手に取ってみる。
「………えーーっと……ゆいちゃん?それは確かに実用的で温かいけど……俺は試着しないからね?」
「……えっ?」
控え目に悠真君が目をそらしながら、私に言ってくる。
なんでだろう。。
手に持っている服を見たら。
それは黒で上下のヒートテックで。。
明らかに洋服の下に着るような肌着だった。
しかもワゴンセール品!
「!?すっすみません!!」
無意識に手に取っていた服をワゴンの中にパサリと落とす。
「いやいや……でも確かに温かさは必要だもんね?」
悠真君は気にしないと言う感じにワゴンの中の物に手を伸ばす。
「あっでもこれ本当に良さそうだよ?裏起毛だし温かそうだ」
にっこりと笑う悠真君をよそ目に私の顔は赤くなる。
フォローされればされるほど自分が熱くなって変な感じがした。
するとあるものに目がつく。
それは青色のお財布だった。
吸い寄せられるように、それを手に取って中を開いてみる。
中は黒ベースでカラフルな仕様になっていた。
「………これいいな……」
自然と口から言葉がこぼれる。
すると私の肩から悠真君が顔を出す。
「おっ!カッコいいね?それなら絶対持ち歩くし嬉しいと思うよ?」
その言葉に、嬉しくなってお財布から垂れ下がっている値札を見る。
えっ………。
………………。
……………………。
ゼロが多いんじゃないか?
そう思ってしまう程にそのお財布は高かった。。
それを見て呆然としている私を疑問に思ったのか悠真くんは私の後ろから、宙ぶらりんになった値札に手を伸ばす。
「うっあーー……たっか!やっぱデパートってピンキリの物多いねー……」
「………そ…だね……」
言葉が出ない。
どうしていいものってこうも高いのか。。
「……えっと…ほら!まだ見てないフロアもあるし!とにかく全部見てみよう?」
気を使ってくれた悠真君の言葉に、
「そっ……そうだよね!!」
私はなんとか元気を持ち直して敢えず違う階もまわってみた。
でも。。
やっぱり最初に見たお財布が頭から離れなくて。。
どれも霞んで見えてしまう。
そこで、ひと休みということで近くのカフェに入った。。
気付かない内に足が疲れていたのだろう、座ったとたん力が抜ける。
それと同時に付き合わせてしまった悠真君へ申し訳なさが込み上げてきた。
「………ごめんね…連れ回しちゃって……ここはおごらせて?」
「大丈夫!大丈夫!俺体力だけが取り柄みたいなとこあるし!気にしないで?それよりまわってみていいのありそうだった?」
悠真君は笑ってくれる。
「………やっぱ最初見たお財布が頭から離れなくて……」
「………お財布って……あの青のやつ?」
私がその言葉に頷こうとすると、
「お客様?御注文お伺い致しましょうか?」
と優しいウェイトレスさんがにっこりと笑って来てくれた。
そこで、注文の事をすっかり忘れていたことを思い出し、ペラペラとメニューを捲る。
「あっ!すみません!えーっと……じゃあこの本日のケーキセットで!飲み物は紅茶でお願いします!」
「じゃあ俺もそれで。あっ!俺のはオレンジジュースでお願いします」
その注文に、ウェイトレスさんはにっこりと笑って
「かしこまりました」
と伝票に注文を書き込み、軽くお辞儀をしてからキッチンへと向かっていった。
その丁寧な接客にほっこりしていると。
「ゆいちゃん?」
一瞬悠真君の存在を忘れていて、名前を呼ばれてハッとする。
「あっ!ごめんね!えーっとなんだっけ……?」
私の態度に少し驚いてから、悠真君は笑った。
「ゆいちゃんは本当に面白いね?あんなに悩んでたこと忘れちゃったの?」
そうでした!
ついウェイトレスさんがかわいくて………
「お財布にしちゃえば?」
「えっ?」
目の前の悠真君は相変わらずにっこりと笑っている。
「気になるんでしょ?だってよく言うじゃない?行動しない後悔よりも、行動した後悔の方がいいって?」
そして私の頭を大きな手で優しく撫でる。
その手は温かくて。
私の心の中にある迷いの氷をゆっくり溶かしてくれた。
「……そうだね…金額は高いけどあれを買わなかったら後悔する気がする……!うん!やっぱあのお財布にする!」
私は決意を新たに意気込んでいると。
先程のウェイトレスさんがケーキセットを運んできてくれた。
丁寧に運ばれて来たその内容は。
白く雪化粧されている、クリーム色のしたミルクケーキ。
ふわふわのホイップクリームが、横に添えられている。
「じゃあ……君の応援ついでにここはおごらせて?」
「!?えっ!?いいよ!!今日は私に付き合ってもらっちゃったし……!!!?」
私が断ろうとした刹那。
口の中に優しい甘さが広がる。
悠真君が自分のミルクケーキを、小さく切って私の口の中に入れていた。
「どう?美味しい?」
「………えっと…?…え…?」
混乱している私をよそに、同じフォークで悠真君は自分のケーキを食べ始めた。
幸せそうな笑顔で。
美味しいねと私に笑いかけてくる。
……この人の笑顔はかわいいなぁ……
…………。
………………。
……!?って違う!
これって世間で言う間接キス!?
………でも。
悠真君は全く気にしていない様子だし……
しかも私をよく妹と勘違いする悠真君。
………完全に他意は無いんだろうな。
私は自然にそれを受け入れ、自分のケーキにフォークをさした。
――――――カフェで俺がおごってから(ゆいちゃんは物凄い勢いで払おうとしていたけど)2人で最初に訪れたデパートの階に来ていた。
そこでゆいちゃんはお目当てのお財布を、頬を朱色にほんのり染めながら手に取った。
その姿を見ていると心がチクチクと痛む気がする。
「………あっ!これ……悠真君に似合いそう……!!」
ゆいちゃんが空いてる片方の手で取り上げたのは、鮮やかなオレンジ色をした革のパスケース。
黒色の小さなYのチャームがついている。
それをおもむろに俺の隣に持ってきて見比べる。
「ほらっ!やっぱりぴったりだ!このチャームも悠真君のイニシャルだし!」
俺だけに向けてくれた笑顔。
心臓がどくんと跳ね上がる。
「………?どうしたの?悠真君顔赤いけど……お店の中暑い?」
そして言われて気が付く。
全身が熱くなってることに。
慌てて顔をそむけて、平然と装う。
「だっ……大丈夫!ほらほら!俺の事は気にしないで買っておいで?」
ゆいちゃんは不思議な顔をしつつも、持ってたパスケースを棚に戻してレジへと向かった。
そして。。
改めて。
そのパスケースを横目で見て、手に取ってみる。
……これは俺のイニシャル……でもそれと同時に君の名前でも……。。
…………。
………………。
いやいやいや!!
ってか普通にキモいだろ!!
こんなんストーカーみたいじゃないか。。
棚に戻そうとするが、手が止まる。
「行動しない後悔よりも行動した後悔か……………。」
さっき自分が言ったばかりの言葉がよみがえる。。
…………あーもう!
どうにでもなってしまえ!
そうして俺はパスケースを手にレジへと向かった。
ゆいちゃんのは包装に手が掛かるのか俺は座ってゆいちゃんを待っていた。
「ごめんね!!遅くなって!!」
手には2つ袋を下げている。
???
何か自分のでも買ったのか?
そう思っているとゆいちゃんは大きい方の袋を俺に差し出した。
「………これ?」
俺が聞くと。
「これは今日付き合ってくれたお礼!ヒートテック上下セット!」
にこにこと楽しそうに笑うゆいちゃんに俺は吹き出してしまう。
「ワゴンセール品の?」
その言葉にかっと顔を真っ赤にして目を泳がせる。
「あっ!いやっ!ごめん!!」
やっぱり面白いな。
そして………かわいいな。
………ダメだ……。
きっと……これ以上はダメなんだ…。
じんわりと温かくなる心を無視して俺はゆいちゃんへと笑顔を作る。
それは精一杯の虚勢だった。
「うそうそ!ありがとうね。これで俺は温かい冬を過ごせるよ?」
その言葉にゆいちゃんは花が咲いたようにぱぁっと笑顔になった。
「こちらこそ!ありがとう!」
………せめて。
この気持ちが消えるまで。
それまで大事にしたいから。。
どうか。
どうかそれまでは。
このパスケースを鞄に付けることを許してほしい。。
そうして、俺はぎゅっと袋を持つ手に力を込めたのだった。