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ラブステップ  作者: 里兎
13/39

ポップコーンキネマ

今回で何本目なのだろうか。

休みの度についついと映画館へと足を運んでしまう。

……家に帰ってもたいしてやることないし。。

先週から彼が出張で、家にいない。

久しぶりの自由たから、のびのび過ごそうと思ったのだけれども……長いこと2人暮らしだったので、1人でいる時間をもて余して結局は映画を見てしまっていた。

……寂しくはない。。

別に元々見たかった映画だし。。


『とかなんとか言っちゃってー寂しいくせにー?』


あゆとの電話。

久しぶりの長電話だった。


「だから!そうじゃないよ!……たぶん……」


受話器越しにクスクスと笑う声が聞こえる。


『別に寂しいとか思うことはいけないことじゃないし?そんなに否定しなさんな?ってかラインしてみれば?』


「………あっちは仕事中だろーし…疲れてるかもしれないし……面倒だなんて思われたら…ずるいし……」


もやもやとする気持ちを抑えると徐々に声が小さくなる。

私はいつからこんなに弱くなってしまったのだろう。

彼がいないと……なんて。。


『まぁゆいさんなりに気を使ってるわけね?でもさ?その気って逆の立場になったら使ってほしい?』


……えっ?


『例えば。彼がゆいは疲れてるかもしれない。ライン返すの面倒かもしれないって思って連絡しないの。どう?』


「……そんな気…要らないし、使ってほしくない……」


あゆの言いたいことが。

理解できた気がした。


『じゃあ彼の気持ちもわかるよね?映画館ばっかり行ってないで連絡してあげな?』


彼女の答えを聞いたとき。

私の心は少しもやが晴れ、勇気が湧いてきた。


『……で。正直な話。スターウォーズ何回見たの?』


あゆの疑問におずおずと答える。


「………3回…。でっでも!吹き替えと字幕版見て、本当は4回見てもいい位な素敵な内容なんだよ!」


私の必死の弁明にも聞かず、あゆの驚きが伝わってくる。


『!!どら様!どら様にチクらなければ!ゆいさんが!同じ映画を何回も観てるーー!』


「わっ!わっ!どら様には内緒にして!?あゆさんの意地悪!!」


久し振りに沢山笑いあって。

電話をし終えたあと、心が落ち着いていた。

ふと。

スマートフォンの画面を操って、ラインを開く。

そして私は彼とのトークをタップした。

その時。


♪ポロン


ラインが届く音がする。


『疲れたー……ゆいのご飯が食べたい(´・c_・`)』


…………。

…………………。


「ふっ……!」


気が付いたら。

笑っていた。

1週間振りの彼のなんともない1文に。

彼が出張に行ってから初めてのライン。

どうして今まで送らなかったんだろう。そう思ってしまう。


『お疲れさま(*´ω`*)帰ってきたら、好きなもの作るね?』


♪ポロン


『ロールキャベツの入ったおでんが食べたい』


「うっわっ!手のかかるやつ!」


その文を読んで思わず声が出る。

ライン越しなのに。

彼が側にいるようでくすぐったかった。


『りょーかいっ!久し振りだから腕によりをかけちゃうよ(*^▽^)/★*☆♪』


『楽しみにしてる。寒くなってきたから温かくして寝るよーに!そして夜更かしもしないよーに!またラインする!おやすみ』


既に私の心の中のもやもやした気持ちが無くなっていて。


「おやすみなさい」


つい彼に向けて言葉を紡ぐ。

こたつの上の無造作に置いてあるレンタルしたブルーレイに目をやる。

見ようと思っていたスターウォーズのアニメ。

………。

……………。

……………うん。

今日は彼のいう通り大人しく寝よう。

これだけで嬉しくなっている単純な自分に少し笑いながら、私は寝室へと向かった。。





――「なーにスマホ見てんだよ?」


電車の中。

一緒に来ていた隣に座ってる悠真に携帯を覗かれる。


「あれ?待ち受けゆいちゃんにしてないんだ?」


俺はその言葉に悠真を睨んだ。

するわけないだろう。

待ち受けにしたら、俺だけが知ってる顔を独り占め出来なくなってしまう。

その言葉を無視して携帯を見つめた。


「連絡してないんだよ…」


「………はっ?」


鈍いのか?こいつは。


「だから出張に来てからゆいと連絡してないんだよ。。」


「はっ?なんで?連絡すれば?」


悠真は意味が分からないというように顔をしかめている。


「久し振りの一人の時間なのに、俺が連絡したら邪魔だろ?」


「………えーっと…お前普通にめんどくせぇな。。」


悠真はそれだけいうと自分のタブレットを取り出して、ゲームを起動させた。

本当にこいつは。。

聞くだけ聞いてそれだけか。

まぁ元より期待はしてないが。

そう思い。

俺は携帯を鞄に仕舞う。


「もしかしたらゆいちゃんも同じ気持ちだったりして?」


悠真がゲームから目をそらさずに話しかけてくる。


「………意味わかんないんだけど。」


「………お前を疲れてるとか気遣って連絡とれなかったりして?」


はっ?

何言って………。

そんな気遣い今更………。

………………。

……………………。

ゆいならありえるのか?

そう考えてた時。

目的の駅に着いてしまったので、直ぐ様悠真と電車から出た。


「あっ!俺売店で食べるもの買ってくる!」


悠真は電車から降りるなり売店を見つけると、走ってその場に行ってしまう。

あいつの食い意地はどうなってるんだ。

ため息をつきながらホームのベンチに座って待つことにした。


「とにかく!考える前にすぐ行動!連絡するんだよ?えっ?大丈夫だって!彼も待ってるから!」


隣に座っている女性がわりと大きな声で電話をしている。

話している内容が分かってしまってるが……これは不可抗力だよな?


「うん。うん。。よしっ!じゃあまたね!おやすみー」


電話をし終えたのか、隣の女性は携帯を耳から離し鞄に仕舞おうとすると


……ガシャン!!


俺の目の前に携帯がスライディングしてきた。

取り敢えず携帯を拾い、隣の女性に手渡す。


「あっ……すみません…」


女性は申し訳なさそうに、携帯を受け取ってくれた。


「連絡してもいいんですかね……。」


「………はい?」


思わず口から出てしまった言葉。

自分でもそれに驚いて、手の甲で自分の口を塞いだ。

こんな全然知らない人に聞くことじゃないだろ!

自分に嫌気がさしてくる。


「………えーっと…よくわかりませんが……よっぽどの事がない限り連絡してもらって嫌だなって思う人はいないと思います。。」


その女性は俺に疑問を持ちながらも、丁寧に答えてくれた。


「仕事でもプライベートでも連絡をもらった人は安心。ですよ?」


その女性はにっこりと笑ってくれる。

その言葉にその笑顔に。

心の霧が薄くなっていく気がした。


「……急に…すみません…ありがとうございます。」


俺は座ったままだったが頭を下げる。


「!?そんな!こちらこそ突然偉そうな事言ってすみません!!……あっ!電車来た!!すみませんがこれで!!」


そういうと、その女性はバタバタと世話しなく電車の中に乗り込んでいった。

………世の中捨てたものじゃないな。

ふとそう思ってしまう。

すると、ようやく悠真が売店から白いビニール袋を満足そうに持ちながら帰ってきた。


「いやーー!迷ったね!菓子パンにするかおにぎりにするか!迷った挙げ句どっちも買っちゃったね!」


それを見た俺はベンチから立ち上がり、歩き出した。


「あっ!待てよ!待たせて悪かったって!クリームパン分けてやるから!」


…………。

そうだ。

一応こいつにも言っておくか。


「……ありがとな?」


「………どうかしたのか?クリームパンそんなに嬉しかったのか?」


俺が礼を言うなんて不気味だというのがひしひしと伝わってくる。

なんだかそれがイラついたのと。

説明も面倒だったので。

取り敢えず悠真は放っておいて。

帰ったら、ゆいに連絡をしよう。

なんて連絡しようか。

そう考えるだけで。。

テンションが上がってしまう自分が単純だと自覚して、笑ってしまった。。




――――あーー……携帯ケースしてないと本当私の携帯今頃破壊されてるよー……ってか私携帯落としすぎ!

そう思っているとポケットにいれていた携帯からラインの音がする。

取り出して画面を見てみると、ゆいからのメールだった。


『あゆさん!連絡したよ♪ヽ(´▽`)/相談ありがとうね!おやすみ!』


それはかわいいスタンプ付きだった。

だから私も微妙な顔をしているウサギのスタンプを送る。

そして今度は落とさないように、携帯をポケットにしまいこんだ。

……………さっきの人もちゃんと連絡出来たらいいな。。

そう思いながら。

暗くなった街並みを。

電車に揺られつつ小さい窓から、ぼぅっと眺めたのだった。



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