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ラブステップ  作者: 里兎
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オレンジコンシェルジュ

冬も近くなってきて、寒くなってきた今日この頃。

私達は冬に欠かせないあるものを出していた。


「………っと!これでよしっ!」


彼がソファの前にあったテーブルを片付けて、代わりに私の大好きなものを出した。

私は設置されたそれにすぐさまもぐり込む。


「あっ!まだ今から電源入れるから温かくないよ?」


その様子を見た彼がテーブルを収納クローゼットに仕舞いながら私に声をかける。

いいのだ。

いいのだ。

私はそれでも。

だってそれに入ってるだけで心癒されるから。。


パチン。


電源を入れてくれた彼はそのまま私の隣でそれにもぐり込む。


「ゆいは本当に好きだよねー?こたつ。」


そう。

私達が冬に向けて出したのはこたつ!

私が必要だと思う家電の中でもコレは上位にくる。

そして、じわじわと温かさが足に伝わってきた。


「あったかーい」


コレが私の温かいこたつライフの始まりだった。。




――――――「………こたつ亀?」


彼は同僚の悠真とお昼に外でご飯を食べに来ていた。

彼の話を聞きながら天ぷら蕎麦を口に運ぶ手が止まる。


「……そ。こたつを出して以来。帰ると必ずこたつにもぐってる。」


悠真はその話がノロケにしか、聞こえなくてため息をついて蕎麦をすすった。


「……なにかと思えば……こたつなんだからあれば誰だってもぐるだろ?」


「………ご飯がみかんなんだよ。」


「………はっ?」


彼の突拍子もない返しに思わず目を見開く。


「こたつを出した次の日段ボールでみかんを買ってきて、、その日から夜ご飯はこたつの上に乗ってるみかんなんだよ」


少しの沈黙。

彼の言葉を悠真がやっと理解した時。

込み上げる笑いを我慢できなくて、悠真は吹き出していた。


「やっばっ!!何だよそれ!?ゆいちゃんおもしろっ!!うける!!」


「……こっちは死活問題なんだよ…仕事に疲れた後のゆいの料理が楽しみなのに……連日みかんって…嫌いじゃないけど……」


笑う悠真を軽く睨んで、深くため息をつきながら頭をくしゃっとかいた。

ひとしきり笑った後、悠真は少し考えた様子ですぐに指をパチンと鳴らした。


「うん!俺にいい考えがある!」


にっこり笑うその笑顔は、彼にはとても不気味に見えて。あまりいい予感はしなかった。



―――数日後。



こたつの上にはカセットコンロが置かれていて、土鍋の中でグツグツと出汁をとる。

今日はお客さんが来ているということで、流石にゆいはお鍋用の具材を用意していた。

そう。

悠真の提案というのは、ゆいと彼と3人でこたつの上で食べる料理は美味しいということを思い出してもらうべく、鍋会を実施しようということだった。

彼は勿論待機組で何もさせてもらえず、主にゆいと悠真が準備をしていた。


「はい!全部切れたよー後は具材を入れるだけー」


ドサッと火のついた鍋の横に具材の入ったボールを置く。


「じゃあ後は俺が順に入れてくから、2人は休んでてー?」


悠真が菜箸をパチパチと音を鳴らしながらにっこりと笑い、次々と具材をだし汁に、入れていく。

そしてお鍋を囲むようにそれぞれこたつに足を入れて鍋が出来上がるのを待つ。

ゆいと彼が向かい合って座り、そして悠真とテレビが向かい合った。


「今日は何鍋なの?」


それすら知らない彼はゆいに問いかける。

その問いに答えるようにゆいはにっこり笑ってあるものをこたつの上に乗せた。


「和風キムチ鍋!和風だから最初に少し昆布で出汁をとって、キムチ鍋の素を入れるんだよ」


「………それって具材を入れてから入れるものなの?」


彼の疑問に思わずゆいと悠真が目を合わせる。


「「……あっ……!!」」


それから慌てて、キムチ鍋の素を入れたり、具材を入れたりしてなんとか出来上がりまで持っていくことが出来た。


「まさかの料理できないやつからのキラーパスに助けられたのは不本意だけど、、、うまく出来て良かった。。」


その言葉にゆいも自然に頷いてしまう。


「………失礼じゃないか?」


彼が不満そうに2人を見やると、悠真は気を取り直すという意味で、ぱんっと手を叩いた。


「取り敢えず!出来た事だし!お腹すいたし!食おーぜ!!」


その言葉を合図に。


「いただきます!」


「いただきまーす。。」


「いっただっきまーす!」


と各々が箸を取り鍋に手を伸ばした。

ゆいは、はじめに煮汁で味の染み込んだほんのりと赤く色付いている、白菜と椎茸と肉団子を器に取り、熱いので息を吹きかけながら口に運んでいく。

程よい辛さには、ご飯を掻き込みたくなるような美味しさがあった。


「~~~うーん!!美味しい!こたつでお鍋は最高だね!」


幸せそうなゆいの顔に思わず悠真が見とれてしまう。

その目線に気がついたゆいが首をかしげた。


「……?どうしたの?私の顔に何かついてる?」


「!!ううん?何でもない!俺も食べる!」


「……悠真加減しろよ…俺達の分まで食ったらデザート抜きだから。」


さらっと言う彼に悠真は大丈夫。大丈夫。と、次々と鍋に手をつけていった。

それを見たゆいはなんだか楽しくてお鍋をつつきながら終始笑っていた。


――〆も食べ終わって。

せめて洗い物はということで彼がキッチンで食器を洗う。

ゆいと悠真は満足感に満たされながらテレビを見つつ、話していた。


「……ねぇ?ゆいちゃん。今日楽しかった?」


「うん!やっぱり皆で食べるご飯って美味しいね」


幸せそうに笑うゆいを見て、何故だかこころが温かくなる。


「……皆で…もそうだけど…料理を作って食べるっていうのはいいよね?……嘆いていたよ?君の彼氏。ゆいちゃんの料理が食べたいって?」


その言葉に思うところがあるのか、ゆいは驚いた後少し反省したように下を向く。


「………そうだね…みかんだけじゃ流石にだよね……うん!悠真君!ありがとう!」


顔をあげたゆいの顔は何処か清々しくて、無邪気で。

ドキン。と。

何かが鳴る音が悠真に聞こえた。

それを隠すように、両手でゆいの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。


「えっ!?わっ!?悠真くんっ!?」


訳もわからず驚いているゆいの頭にこつんと、悠真は自分のおでこを乗せる。


「……よくできました…。」


「……えっ?えっ?」


明らかにこれは近すぎるのではないかと、ゆいが頭をぐるぐるとさせていると。


「デザート持ってくよー?」


とキッチンから彼の声が聞こえる。

その言葉で反射的に悠真はゆいを離した。


「あっ……えっと…ごめん…ゆいちゃん聞き分けのいい子だからつい…」


悠真の困ったような声にゆいがはっと気が付いた。


「……もしかしてまた、妹さんみたいに思った?」


「えっ!?あっ……そっそうそう!ゆいちゃんみたいに妹も聞き分けよかったら良かったのになー!」


焦ったような言葉にゆいは気が付くことなく、拗ねたような目で悠真を見た。

そこに彼が一口シュークリームを器に沢山乗せてこたつの上にコトンと置く。


「……?ゆい?どうしたの?なんか言われた?」


「……いやっもっと大人になろうと思って…」


彼はその言葉を聞いて、微笑みながらゆいの向かいに腰かける。


「そう?俺は今のままでも充分だと思うけどっ……♪」


そしてゆいの口にシュークリームを入れた。

薄い生地にたっぷりのマロンクリームが入っていて、まろやかな秋の甘さが口いっぱいに広がる。


「!!美味しい!」


先程の拗ねたような顔から一転して、へにゃりと崩れたような笑顔が戻ってくる。


「ね?悠真も食べたら?全部食べたら承知しないけど。。」


彼が笑う。


「……あっ!あぁ…………うっまっ!!何コレ!?何処の!?」


それからも3人でマロンシュークリームを食べながら、次の日も休みなことをいいことに遅くまで楽しく話した。


ただ悠真は分からなかった。

確実に。

さっきは。

ゆいの笑顔をもっと見たい。

離したくないと思った。

この気持ちはなんなのか。。

だが本能的に気づいちゃいけないと頭が警告する。


……知りたいという気持ちを押し殺してシュークリームを口に運ぶ。

甘いシュークリームが少し苦く感じたのは悠真だけの秘密だった。。。




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