リンゴドロップ
沢山の声。
眩しい程の光。
そして何より。。
廻りきれない程ある露店!
私達は大きな公園で開催されている秋祭りにやって来ている。
「………ねぇ…何で浴衣じゃないの?」
彼は不満そうに私の服を引っ張る。
「何言ってるの?お祭りといったら`食´!浴衣なんて着たら帯がキツくなってあんまり食べられないんだよ?第一私自分で着付けられないし」
彼は私の答えに不満そうに、手を握ってきた。
………申し訳ないがこれじゃあ両手に食べ物が持てない。
でもはぐれない為になのだろう。
致し方あるまい。。。
「よしっ!行こうか!」
と歩き出そうとしたその時だった。
遠くに見たことのある顔を見つける。
……………!!
「あんなちゃん!!」
そこには私のお姉さん的な友達のあんなちゃんがいた。
しかも彼氏と一緒で。
かわいい浴衣姿だ!!
これは近くで見ないわけにはいかない!そう思いすぐにあんなちゃんに駆け寄る。
「!?あっ!コラッ!ゆいっ!!」
彼は慌てて私を見失わないようについてきてくれた。
「……あなたはいつも元気だね?」
少し呆れ顔のあんなちゃんが私を迎えてくれる。
それにしても!
水色で大きなお花が所々にある浴衣はとてもあんなちゃんに似合っている。
しかも髪も少しアレンジされている。
「写真!写真!あんなちゃん!写真撮っていい!?」
興奮する私を余所にあんなちゃんは私の彼に丁寧に挨拶をしていた。
「いつもこの子がお世話になってます。至らない所がある子ですが根はいい子なので……」
なんだろう。
お姉さんを通り越して、お母さんになってしまってる気がする。
彼もいえいえと軽くお辞儀をした。
というか。。
私が子供過ぎるのだろうか。。
そうか。
ここは私もあんなちゃんを見習って……。
そう思い1つ咳払いをしてあんなちゃんの彼氏さんと向き合った。
背が高くて、優しそうな顔付き。私と目が合うとニコッと笑ってくれた。
「………どっどうぞ……よろしくお願いします……」
…………。
………………。
しまった!!
私は人見知りだった!!
しかもこんな背が高くてかっこいい人目の前にしたらうまく話せないよ!
そんな時。
助け船を出してくれたのか。
あんなちゃんが私の口の中に唐揚げを放り込む。
「お裾分け。これから廻るんだよね?美味しいのなくなるよ?ほらいってらっしゃい?」
私の大好きな笑顔でぽんっと背中を押してくれる。
私はそれにおされる様にして彼と手を繋いだ。
……。
……………。
「~~~~写メね!帰ったら浴衣姿!写メだからね!?」
これは誰がなんと言おうと譲れない!
大きく手を降りながら、あんなちゃんに聞こえるように言った。
―――――――――――
「写メ送ってあげるの?」
ゆいを見送った後あんなの彼氏が聞いてくる。
「…………送ってあげないよ?」
ふんわりと優しく微笑むあんなに。
何故か怖さを覚えるも。
あんならしいな。
と思ったのだった。
――――――――――――
「……ゆい……唐揚げ買おうか?」
彼女に提案をする。
すると輝くような顔で頷いてきた。
やっぱり。
さっき友達に唐揚げを食べさせてもらってからそわそわしていた。
ゆいは食べ物が絡むと分かりやすくなる。
そして急に自由度が増すから、どんなことがあっても手は離しちゃいけないと思った。
「あっ!私!あそこの日本一長いフランクフルト買ってくる!お互い買ってきたらここに集合ね!」
そう思った側から彼女は手を離してそそくさと行ってしまう。
オレはふぅっと息を吐きつつも。
何処かその姿が面白くて笑ってしまった。
そう思いつつ。
揚げたての唐揚げを買って、ゆいの言った集合場所に戻ろうとすると。
後ろから背中ををつつかれる。
「あのっ……もしかして…」
その声に振り向くと。
そこには、背が高くてさらさらのロングヘアーの女の人が立っていた。
「あっ!やっぱり!!私!覚えてない?」
………。
見たことあるような…無いような…。
首をかしげつつ彼女を見つめる。
そうすると彼女は手で1本に髪を束ねてみせた。
……………。
………………!!
「あぁ!!山崎………!…………。」
思い出した瞬間。
俺は思わず目を反らした。
この女の人は高校の同級生。
山崎 志穂
そして。。
オレの元彼女だったりする。
「本当に久しぶり!何?1人?」
山崎が目をそらした事を無視して話しかけてくる。
何となく気まずいと思ったが。
そうか。
もう終わった事だし、気にしてもしょうがないものなのか。
……だったら普通通りにしよう。
「違うけど……山崎は?」
彼女はニコニコと答える。
「私も1人じゃないんだけど……相手とはぐれちゃって!携帯の電池もないしどうしようか迷ってたとこなの」
さして興味もなかったオレは相槌をうち、話を切り上げようと
「あー……じゃあ俺待たせてる人いるから…じゃな。」
歩き出そうとすると。
山崎が腕を掴んできた。
驚いた俺は危うく唐揚げのカップを落としそうになる。
「!?なにっ!?」
「折角なんだから一緒に探してくれても良くない?だって私達元恋人なんだし?」
彼女は俺を上目遣いで見てくる。
腕を振りほどこうにも。
離れてくれそうにない。
強く腕を絡められている。
しかも片手には唐揚げを持っていて。
…………。
此れは面倒だが、言う通りにした方がいいのか………。
「……わかったから…手は離して。待たせてるの彼女だから嫌な思いさせたくない」
そう言うと。
何故か山崎はよりいっそう俺に笑いかけ、腕を離してくれた。
女の人の考えてる事はよくわからないが。
見たいという好奇心なのだろうか。
はぁっ。
とため息をついて。
ゆいが待ってるであろう待ち合わせ場所へと向かった。
―――その場所に着くと。
何故かキュウリの浅漬け1本にフランクフルトを待ちきれなかったのだろう、それをモグモグと食べているゆいがいた。
あんなにほっぺに食べ物を詰めて。
ハムスターかという程かわいく見えた。
「ゆい?」
声をかけると嬉しそうに振り向き、フランクフルトを差し出してくれる。
「これすごい美味しいよ!それとね!買った時はすごく長かったんだ!」
ゆいが手に持ってるまま、食べると昔よく食べた懐かしい味がする。
コショウ味。。
なんとなく何故ゆいがケチャップを選ばなかったのか想像できた。
大方ケチャップを口のはしに付けて歩いたら恥ずかしいという理由なのだろう。
「うん。美味しいね?」
俺が笑うと後ろから
「へぇ?おアツいのね?こんにちは!私この人の元同級生の山崎志穂って言います」
山崎がひょっこり顔を出す。
ゆいはビックリして俺を見た。
「………えーっと。一緒に廻ってた人とはぐれちゃったんだって。。それで探してくれって頼まれて………」
後ろめたいことは無いのに。
なんとなくしどろもどろな俺の説明は怪しさ満載な感じになってしまった。
「そう!私が無理矢理この人に頼んで!2人っきりの所悪いんだけどいいかな?」
手を合わせるその姿は、俺にはまるっきり悪気の微塵も感じなかった。
………腕も離してもらったことだし……。
適当に理由をつけて何処か言ってもらおうか。
そう考えていた時。
「そうなんだ……困った時はお互い様だから!気にしないで!あっ!よかったらこのキュウリ食べます?きっと美味しいから元気でるよ!」
ゆいは励ますように手に持っていたキュウリを山崎に渡した。
……人がよすぎるにも程がある。。
折角の2人でお祭りデートなのに。。
……まぁそんな優しいところも好きなのだけれども。。
「……じゃあ、、ゆいはこっち。」
俺はゆいの手を持ち、自分の手に持ってるカップを渡した。
熱々とまではいかないが、温かい唐揚げが入っている。
それを受け取ると幸せそうに笑ってくれる。
「そうだ!待ち合わせ場所とか決まってないの?携帯で連絡してみるとか!」
ゆいが提案をするも、
「決めてないの。。携帯も電池切れちゃって。。」
それじゃあ打つ手がない。
現実を見てこの人混みの中誰かを見つけるというのは至難の業だ。
やっぱり帰って貰うように…………。
「じゃあ!!迷子の人に呼び掛けてもらうのは!?あれは確かに子供用だけど理由を話したらきっと呼んでくれるよ!私ちょっと行ってくる!!」
そう言って早々と迷子センターの方へ走っていく。
すると。
隣で少し笑った声が聞こえた。
「何あの子?すごい子供っぽい!しかも会った時なんて両手に食べ物持っちゃって!」
…………。
俺は何も言わずにクスクス笑う山崎を見る。
昔は来るもの拒まず、去るもの追わずだった。
今となっては何で俺はこんなのと付き合っていたのか。
意味がわからない。
「ねぇ?あんなに子供らしい子と一緒に廻るより私と廻りましょう?はぐれたって事にすればバレないんじゃない?だってこの人混みだし?」
その言葉を聞いた瞬間。
俺の中の何かがキレた。
「………お前…普通にどっか行ってくんない?」
「………なにっ…」
「分かんないの?邪魔なんだよ?此処にいるお前の存在が。。」
俺は今どんな顔をしているのだろう。
分からない。
わからないが。前の女は顔をひきつらさせて1歩後ろへと下がった。
「………ふっ…ふん!なによ!昔は誰にでも着いていったくせに!!私に言ったこと絶対後悔させてあげるんだから!!」
そんな悪役のような決まり文句を言いながら、山崎は踵を返してさっさと何処かに行ってしまった。
女はめんどくさい。
その背中を見て単純に。
そう思ってしまう。
「いいって!!」
その途端。
背中をぽんっと叩かれて振り向く。
ゆいがおでこに大粒の汗をかいて見上げていた。
「…………ん?あれ?何かあったの?機嫌悪い?ってかあれ?あの女の子は?」
頭にはてなマークが浮かびそうな顔をしている。
ってか。。。
何でわかるんだろう。
俺が不機嫌とか。
しかも一瞬で。
心がぎゅうっと苦しくなって。
思わず抱きしめた。
「!?へっ!?何!?ちょっと!!離して!!」
俺の腕から逃れようと必死に身を捩るゆいを余所に俺は離す気になれなかった。
「山崎は今さっき偶然はぐれた人と会えてどっか行ったよ。」
「!!そうなの!?すごいね!よかったー………じゃあ迷子センターの人に見付かりましたって報告しないと…!!」
と勢いよく手を突っぱねて俺の腕から逃れて迷子センター迄走っていった。
……………。
……耳迄真っ赤だった。
まだまだ彼女の新鮮な姿に自然と口が緩んでしまう。
うん。
過去は過去。
今はゆいとお祭りを楽しもう。
そうして。
俺もゆいを迎えに迷子センターへと歩いていった。。
~おまけ~
「イカ焼き。お好み焼き。たこ焼き。牛串。焼き鳥。焼きそば。キュウリの1本漬け。チョコバナナ。綿飴………」
「………はいっ。りんご飴。」
彼はゆいに真っ赤なりんごをキラキラとした水飴で閉じ込められているりんご飴を渡した。
もう片方手には食べきりサイズのかき氷を持っている。
「!!ありがとう!……かき氷……何かけたの?」
かき氷は何もかかってないように見えて。真っ白のままだった。
「?練乳だけど?」
「…………えっ……」
その答えに色々言いたいことがあるがゆいはぎゅっと我慢して彼の言葉の続きを聞く。
「よくイチゴと練乳とかあるけど俺は昔から一本勝負なんだよね?」
「………!?待って!イチゴと練乳だって素晴らしいかけ算なんだよ!!」
「…………ゆい……悪いけど…それは俺も譲れない…かき氷に練乳をかけるなら……俺は練乳だけで充分だと思う……!」
そんな言い合いをしながら。
まだまだ続く長い夜を。
2人はお祭りの中、歩いていった。