序章1 雨上がりの日に
序章
1
雨上がり。灰色の雲から太陽が地球を覗こうとしていた。辺りの寒さ、湿ったさにたいする皮肉のように。小鳥がピューピューピューピュー鳴いている。排水溝の近くでは蚊柱がたっている。雨であったためでもあって、人気はなく閑散としていた。そのため動物たちは将に自分達の自由に雀踊りせんとしていた。いやむしろ、人間の支配という名の現実から目を背け、抗おうとしているのだろう。そんな一時もほんのわずかの 須臾に過ぎず、それに邪魔なるものをするものが現れた。小鳥たちも蚊までもが飛び去る。食物連鎖下のピラミッドのような世界ではしょうがのないことだとは承知はしていてもやはり、こんな光景はみったぐない、傍ら痛しな光景である。まあ、人間の世界にもかつては、良民と賤民があったし、今もなお、貴族と奴隷の名残があり、動物のこといえないのであるが、これもまた、遺憾に思わざるをえない。
さて、突然の横入りをした邪魔ものは、海から波しぶきを上げながら、陸を上がってきた。不思議な生き物である。魚類が両生類になる過程でうまれたかのような謎の生物。あえて何かに近いとこじつけるのであれば、鮫とも言うべきものである。そのしぶきで、葉は潮たり、雨の滴とともに、流れ落ちようとしていた。その速度は物理的な速度に基づいていて、重力による斜面を降りる運動に相違なかった。実際は他のエネルギーも関与しているのは至極当然なことなのではあるが。
そして、滴が落ち………………………ない。
ぽわわわわわ~~ん
奇妙な音とともに、青い不思議な空間に包まれた。
もう物理的には考えられない。滴は止まり、いや正確には、 真綿で首を絞められるように、落ちていった。何とも神秘的な光景である。もう自由落下とはいえず、ゆっくりとゆっくりと、落ちていった。いったい何が起こったのであろうか。 何者かに時間を操られているのであろうか。でもそんな感じはしない。むしろ誰がだけ、2倍くらいの速さで動いているようだった。もはや相対速度の原理で時空を操られているともいえよう、この空間。誰のなんの目的の仕業だろうか。そして、その空間に臆することなく、 張三李四のごとく歩いてくる男がいた。姿はまだはっきりしない。あやつがこの空間の犯人ともいえよう。いったい、何をするつもりか見ていた。
そのときだった。
ぶしゅっっぶしゅっ
血の飛沫がとび、複数の鮫が次々に倒れていく。あれは剣技だ。しかも、時を操る能力をも持つ。と言ったが、少々、語弊がある。今の時代、時を操るなんて容易である。28世紀あたりの転朝の時代に人間は人工知能の研究から人間自体を強制進化させた。といっても、やはり進化は進化でその一転で急に変わったわけではなく、28世紀全体を経て、完成に至った。
その進化で出来た能力、それが時間を操れる能力である。人は時間を別の場面に移動したり、できるようになったのである。これも語弊があるかもしれない。移動といっても、できるのは未来の時間を瞬間の時間に集中することができるだけである。原理としては、心臓を一時的に早くし、回りより早く動くことによって、時間を限りなく止めるに近い状態、極限にできるということだ。その代償は未来の時間を失うすなわち、老化を早くし、寿命を短くするのである。だから、発明されたときは革命的に流行ったといえども、いま、使うものは皆無だ。今の時間を増やしてまで、寿命を縮めることにメリットがないからだ。しかし、この時代のそんな状況にも関わらず、この能力を使う男、それがここ、アメリカならあの男しかいない。国際連盟のあいつ………………
剣でのふりからの煙や飛沫、雨の後の霧もうまい具合に晴れ、太陽が照る。
そして、その全貌が明らかになる。
あ、あれは、やはり……………………