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Eclipse  作者: 楪美
【2】-Ⅰ
23/41

【2】Ⅰ-3,Drowsy





高いところから急降下したような衝撃で、目が覚めた。




身体の奥から、じわりと寒気がした。十秒くらいぼーっとしてから、くしゃみが出たのだとようやくわかった。



部屋は真っ暗で、明かりはばらばらに三つ、小さく見えるだけだった。



一つはカーテンの隙間に映る遠くの高層ビルのライトで、二つ目は、デスクの上でスリープモードになっているパソコンの電源ランプが点滅している。



もうひとつの明かりは、スマートフォンを枕の下に押し込んで消した。着信とメール受信のライトが交互に光っていて、覚めきっていない目がちかちか眩んだ。




あれから着たままだったダウンを脱ぎ、ぐちゃぐちゃになっていた毛布と布団を頭から被ってまた横になる。そのまま壁際まで転がって、ベッドの隅っこで丸まった。体温で温まっていないシーツが、冷たかった。



涙は出なかった。情けなさ過ぎて、自分を殴りたかった。



いっそのこと、本当に窓から飛び降りて思いきり頭でも打った方が、この捻じ曲がった性根でも少しはまともになるかもしれない。




今のこの状況を変えるのは、簡単。



枕の下に埋まった携帯を開いて、彼にメールを送ればいい。




「さっきはごめんなさい。



外に出られないのとレポートのせいでイライラしていました。



明日からまたよろしくお願いします」




彼はきっとすぐに返信をくれる。



もしかしたら、電話をくれるかもしれない。



そして明日になれば、A4のコピー用紙を手に、部屋まで迎えに来てくれるだろう。




考えただけで、思いっきり自分をひっぱたきたくなった。



きちんと自分の思いを伝えなければ、同じことが繰り返されるだけ。



我儘で、甘ったれで、そのうえ意地っ張りな、どうしようもない私を知ってもらわないといけない。



だけどきっと彼は、甘ったれでそのうえ意地っ張りなどうしようもない女とわかったうえで、扱い方を考えながら接してくれていた。



私の機嫌を伺い、くだらないお願いを聞き入れ、行きたいところにはいつでも一緒についてきてくれる。



それが役目だと、彼は言っていた。



彼にとって役目が義務であるのなら、他に優先する何かがあって当然で。



彼にも、他の誰にも、私を縛り付ける権利なんてないのと同じように。




自分だけでは何一つできずに粋がっていた私をそばに置いてくれていたあの人にとっても、誰よりも近い存在として過ごしたのは、ただ義務だったから?



誰よりも近くにいたその人が私を置いていなくなるなんて、あの日までは想像したこともなかった。



真意がわからない以上、短い間でも「特別」でいたなんて、思い上がりも甚だしい。




そして、懲りずにその思い上がりを繰り返した結果が、この有り様だ。



親切にされて調子に乗って、思い通りにならなければ不貞腐れて、挙句嫌味と皮肉で自虐する。



大人の真似事に酔う生意気な子供そのもの、それが今の私。




くるまっていた布団を剥いで、枕の下のスマートフォンを引っ張り出した。着信は三件、メールは二通だった。どちらも、晃斗さんからだった。



中身を確認しようとアイコンに触れる寸前で、指を止める。




もしも、彼が私にうんざりしているのなら、今のままでいた方がいいのかもしれない。



いつかさよならするのなら、この距離を保って、少しずつ離れて行けば、これ以上気まずくなることも、悩むこともなくなる。



私がまた、耐えられさえすればの話だけれども。




携帯を枕元に放り、温い布団に戻って、目を瞑る。




ありのままを伝えて、嫌われるのは嫌。



突き放して、お別れするのも嫌。



曖昧なまま気まずいのも、嫌。




嫌だいやだばかりで、大人になんて少しもなれていない



見放されて、置いていかれてあたりまえ




願ったって、きっと、変わることなんてない










少し意識が霞んだあと、また生暖かい布団の感触が戻ってきた。




しばらく漂ってから沈みそうになったところで、寝返りをうって身体の居所を変える。先の見えない堂々巡りを、夢の中にまで引きずりたくなかった。



頭から埋まって真っ暗な中から、腕だけを伸ばす。




今何時だろう



時計、見なきゃ



だけど、どうせ全然進んでなんていない




頭の端っこに、ワープロソフトで打ったみたいに文字が浮かんだと思ったら、波にさらわれるようにかき消されていく。引っ込めようとする指先への神経の伝達すら感じられるほど、脳が鈍っている。




明日、彼が来たら何を言おう



ごめんなさい だけじゃ足りない



もっとちゃんと、言わなきゃいけないことがあるのに




もう、遅いかもしれない



戻れないかもしれない





なのに、私は




「自分のことばっかり」





寝言か、空耳か、それとも心の声だったのかは、わからなかった。






眠れない夜って時計見るの怖いよね

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