Ⅲ-3,Operation
Ⅲ-③ Operation
相手が切るまで、電話は切らない。
彼女に指摘された、俺のクセだ。会社を始めたばかりの頃は意識していたが、いつの間にかビジネスの場以外でも染み付いてしまっていたらしい。
その話をした時、逆にあの娘は、電話が切れる音が好きじゃないと言っていた。
「おまえにはもう用はないよって言われてるみたいで」
そんなわけないのにね と笑っていた彼女が、寂しさを隠しきれていなかったのを憶えている。
無神経という表現以前に、神経なんて持ち合わせてるのかと疑いたくなるようなあの男はきっと、そんな繊細な想いになんて気づきもせず、用のある時に必要な用件だけを告げ、躊躇うことなく電源ボタンを押していたのだろう。
案の定先に切られた通信と電子音を確かめながら、そんなことを思い浮かべた。割合は違うとはいえ同じ血が流れている者同士なのに、まさに三者三様だ。
「大丈夫そうだったか、ルナちゃん」
カウンターのカップを手にとりコーヒーのお代わりを注ぎながら、シュウさんが問いかけてくる。湯気をたたせるそれを受け取り一口啜ってから、答える。
「声を聞いた限り、落ち着いてはいた。彼女のところに連れていったのは賢明だったと思います」
「余計な世話焼いちまったかとも思ったが、うまくやってくれたみたいだな」
「仕事柄ケアには適役でしょうからね」
「若え女の子相手に大人気ねえこと言っとらんか気にはなるがな」
土曜日の昼前であるせいか、平日であればこの時間帯でもちらほら見かけるサラリーマンたちの姿もなく、店内にいる客は俺と、中年の女性の二人組だけだった。シュウさんは完全に非接客モードで煙草をふかし、黒髪の若い方の店員は、フロアに背を向けて調理台に立ち、野菜の皮むきをしている。
「で?行かなくていいのか」
「十二時って言ったから、十分前になったら出ます。今出てもまだ帰ってきてないだろうし、下手すれば鉢合わせる」
「馨とか」
「一人で帰すようなことはしないでしょうから。彼女のマンションからなら、裏道もあるしどんなに混んでも二十分。車を停めてから部屋まで五分。部屋へ送り届けてから車までもう五分。さらに十分余裕を見て、ちょうどいい時間だ」
「計算通りいけばいいがな」
「彼は、どうでしょうか」
黙々とジャガイモを剥いている彼の後ろ姿に視線をやる。シュウさんがその手元を覗き込む。
「五分ってとこかな」
「ちょうどいい時間ですね」
「俺、行く必要ありますか」
腕時計を見て最後まで言い終わる前に、抑揚のない声が被った。
「家の中にいるんなら、護衛も何もないかと」
包丁を持った手は、動いたままだ。
「彼女の身の安全は保障されている。俺が行く理由はない」
「昨日みたいに敷地に入って狙われる可能性もある」
「ドクターがついてるんだ。心配ない」
「女だぞ」
「男みたいなもんだろ、あいつは」
茶々を入れたのはシュウさんだった。首を振りながら、俺の方へ視線を送る。
「こいつの言うことも一理ある。とりあえずお前だけで行ってくれ」
「俺より本人から話した方がいいと思いますが」
「コイツにとっては、だろ。ルナちゃんにしてみれば変わりはないだろうさ」
だろ?と振り向いたシュウさんに、彼はようやく手を止めて振り返った。
「呼ばれれば、すぐに行く」
そう言って皮剥きを再開させたきり、彼は何も喋ろうとはしなかった。シュウさんはやれやれと肩をすくめて料理の手を動かし始め、俺はコーヒーを味わいながら腕時計の針が動くのを待った。
「いらっしゃーい、ヒロくん」
「何でいるの」
インターホンの声がルナちゃんだったから、油断した。勢いよく開いたドアの前で目にしたのは、口元だけでの満面の笑みを浮かべた馨だった。
「だって、仲良くなっちゃったんだもん」
ねー と振り返った先で、顔を出したルナちゃんも頷く。
「征景さん、馨先生と友達だったんだね」
「友達、うん。そうだね」
「腐れ縁よ、腐れ縁」
いちいち棘のある言い方をしてくるあたり、どうやらこの間の猿芝居を根に持っているらしい。念には念を入れてさらに十分、時間を空けての訪問だったが、全ての予測を裏切り堂々と上り込んでいたのは、頭で考える前に浮かんだ予感通りだった。
「コーヒーでいい?」
「おかまいなく。コーヒーはさっき飲んできちゃったから」
「じゃあ、馨先生直伝のホットミルクにしよう」
通されたリビングは前に来たときとほとんど変わっておらず、小奇麗に掃除されていた。十九歳の女の子の部屋にしてはこざっぱりしすぎの、華やかさやかわいらしさとはかけ離れたインテリアも変わらない。唯一、半年前までは部屋中に染みついていた煙草のにおいだけが、柔らかく、でも薬品を思わせるようなアロマの匂いに変わっていた。
「ホットミルク、ダメなんじゃなかったっけ?」
隣に座って脚を組んだ馨が、流し目で睨んでくる。
「私が淹れても飲まないくせに」
「ダメなんじゃないよ。ミルクは冷たい奴の方が好きなだけさ」
「あの娘には言わないのね」
「いつもはコーヒーもらってるからね」
「優しいお兄様だこと」
「もう卒業しなきゃと思ってるところさ」
そのために今日は来たんだから、と付け加える。ようやく茶色の瞳がこちらを見た。
「丸投げされたのを、また丸投げするの」
「冷たいかもしれないけど、たぶんそれが一番いいんだ。あいつも俺も、やらなきゃいけないことがある」
「だから手伝うって言ってるのに」
「まだ怒ってるの?あれ」
「当然じゃない。邪魔者扱いされたうえに、なんで私がフラれ役なのよ」
「思いっきりひっぱたいた分あいこだろう」
「馨先生、征景さんのことひっぱたいたの?」
マグカップとお菓子を載せたトレイを運んできたルナちゃんが、目を光らせながら食いついてきた。馨が勝ち誇ったように表情だけで笑い、脚を組みかえる。
「話せば長いんだけどね。知りたい?」
「知りたい!教えて」
さも興味深そうに催促してきたが、空元気であることはすぐにわかった。あんなに願った笑みは、今では綺麗なその顔に貼りついてしまっている。
「よかった、もう大丈夫そうで」
マグカップを持った手が、一瞬宙で止まる。
「この間は階段から落とされて、昨日はマンションの入り口で襲われて。心配したよ」
ことん とテーブルで置かれた音と、知ってたんだ とつぶやく声が混じった。
「聞いたよ。相模君から」
今度が彼女の手が止まることはなかった。俺と馨、自分用のマグカップを配り、テーブルの中央に盛り合わせた菓子の皿を置いて、俺の角隣の隣の一人掛け用ソファに腰かける。
「ヒロくんは何でも知ってるね」
俺にではなく、口元で両手のひらに握ったマグカップに話しかけているようだった。ふう と真っ白なミルクを冷ますため息が続く。
「どんなに距離を置こうとしても、黒羽の家に生まれた以上、危害を加えようとする連中に付け狙われることがある。自分の身は自分で護れ」
似てこそはいなかったものの、芝居がかったスカした口調で、すぐに物真似とわかった。
「ハルくんの言ったとおりだ。結局護れてなんてないけど」
「だけど、結果的に無傷だった」
「あれは、晃斗くんが」
言葉が終わらないうちに、彼女はその大きな目を見開いて俺をとらえた。
「ヒロくん、もしかして」
「相模君が、どうして君のところに行ったと思う?知り合ってから数日も経っていないにも関わらず、どうして事あるごとに君の近くに現れた?」
「ちょっと、ユキ」
「君は頭の回転が速いから、うすうすは感づいていたよね。もちろん偶然も重なってはいたけど、見えないところで筋書きを作った脚本家がいて、脚本通りに動く役者がいたんだ」
馨の制止を無視し、瞬きも忘れた彼女をじっと見据えて、告げる。
「俺が相模君に依頼したんだ。君の、ルナちゃんの護衛をしてほしいって」
シュウさんの下で働いているという身の上、それに最初に対面した時に直感した、素人には纏えない緊張した雰囲気からの推測は当たっていた。要人の護衛経験があるという彼に我らがお嬢様を尾行して見張らせるのではなく、ボディガードとしてつけるという俺の提案に、祖父征成に異論はなかった。
「今日話したいことって言ったのは、このことだよ。黒羽の身内として君の身が狙われていること。そして、相模君が君のボディガードをすること」
当事者の相模君がこの場にいない代わりに、部外者の馨が神妙な面持ちをしているという奇妙な状況ではあったが、訪問の目的は果たすことはできた。
マグカップを抱えたまま俯いたルナちゃんは、伏し目のまま何も言わずにいた。馨も黙ったまま、話題が進むのを待っている。俺にはこれ以上言うことはなかった。言いたいことがあったら聞くよ と、沈黙を破ろうとした時だった。
「よかった」
ぽつり とつぶやき、ルナちゃんはミルクで喉を潤してから続ける。
「なんとなくだけど感じてはいたんだ。征景さん前よりも構ってくれるようになったし、晃斗さんはどう見てもただのカフェのお兄さんじゃないし」
ハルくんだって と口にしたところで、言葉は途切れた。続きを待ってみる。
「とにかく、晃斗さんが変な人、なのかもしれないけど、悪意のあるというか、敵対する人じゃないならよかった」
「そうはいっても、ヘンな奴らに狙われてるのは変わらないんでしょう?」
意図的になのか、考えなしでなのか、馨が斬りこんでくる。
「さっきから危険な目に合うとか、狙われるとか言ってるけど、誰が、何の目的でルナちゃんを狙ってるわけ?聞いてると、今まではそんなことなかったみたいだけど、どうしてここに来てそんな危ない話になってるの?」
矢継ぎ早の詰問に、確信した。完全にこちら側ではなく、ルナちゃんの肩を持っている。
「あの「Wing」のお嬢様だもんね?よろしくないことをたくらむ連中に狙われる理由は想像できるわ。だけど、話聞くと二回とも危害を加えられそうになったて言うじゃない。仮に誘拐が目的だったら、人の多い駅で階段から突き落としたりしないでしょうし」
「お嬢様なんかじゃないよ、私」
「あら、もしかして嫌?言われるの」
「そんなキャラじゃないじゃないですか」
「そうでもないわよ?見てると育ちいいんだなってわかるわ」
放っておけば横道に逸れてくれる女性同士の会話に救われた。訪れた束の間の休息の間に、放置していたホットミルクをいただく。ぬるまった甘い牛乳は、一口で十分だった。
「で、どうなのよユキ。貴方はどのくらい把握してるの」
逸れたはずの球が戻ってくるのもまた突然だ。どうも二対一で分が悪い。
「正直ほぼ何もわかってない。社や家の方で不審な出来事があったわけでもないし」
用意していた答えを、用意していた口調で吐き出す。嘘半分、本当半分だ。
「駅の階段での件はともかく、二件目では家を突き止められて、待ち伏せまでされている。犯人の目的は、おそらくルナちゃん個人だ」
「私?」
「一件目と同一犯の可能性は?」
「ないと思うな。そこらへんの中年のおじさんじゃありえない動きだったもん」
「ありえない動き?」
「映画みたいな派手な動きでも、格闘技みたいなのでもなくて、警察とか軍隊の人が押さえつけにくるような」
「そんな状況でよく分析できたわね」
「襲われる、殺されるっていう怖さはなかったの。でも」
「でも?」
「すごく、圧倒された。私じゃ敵わないって思った」
悔しかったなー とミルクを豪快に飲み干して、ルナちゃんはソファに凭れ天井を見上げた。馨が視線だけで合図してくる。言いたいことはわかった。長いつきあいの俺も、つくづく変わった子だと思い知らされる。
「もう一回ちゃんと護身術習おうかな」
「護身術なんて使えるの」
「中学校のときに習ったの。簡単なやつだけど」
再び話が脱線した女性陣をそのままに、俺は携帯電話を手に席を立った。リビングを出て玄関に通じる廊下で、履歴から番号を呼び出し通話アイコンをタップする。
「はい、ルーチェ」
篭った声が応答したのは、十回以上コールしてからだった。
「黒羽です。シュウさんは」
「接客中」
「忙しいのかい」
「一段落して、客のばあさんの相手してるところだ」
食器が触れ合う音と水の音が聞こえる。洗い物をしながら、電話対応しているようだ。
「君は、まだやることが?」
「来い ってことか」
「伝えるべきことは彼女に伝えた。あとは君たちで直接話し合って欲しい。一応「契約」の話なんだから、電話でというわけにも行かないだろう」
「今日、このあとの彼女の予定は」
「聞いていない」
「なら、確認してからもう一度連絡してくれ。外出しないなら俺の出番はないだろ」
「相模君」
「俺の仕事は彼女の身を守ることなはずだ。必要以上にくっついてまわったところで......痛えな!!」
それまで淡々と話していた彼が突如、大声で叫んだ。直後、このバカタレが と同じく大声が響く。
「悪いな征景。十分で行かせる。頼むわ」
「ざけんな、十分で行けるわけ」
「じゃ、あとよろしくな」
続きを話そうとした声を届ける間もなく、無感情に電話は切れた。息をつきポケットにしまおうとしたところで、手の中で携帯電話が震える。店ではなく、携帯電話からの着信だった。
「今店から出した。面倒かけるな」
切るのも突然なら、話し出すのも突然だ。シュウさんと通話する際に、「もしもし」という単語を使うのを聞いた記憶はあまりない。
「彼には彼なりのスタイルがあるんでしょう」
「そんなシャレたもんじゃねえよ。つまらんこだわりだ」
「仕事を遂行していくには、ある程度必要だと思いますよ」
「奴の場合は、それが枷になるんだろうな」
ふう っと、シュウさんは電話の向こうで煙草とため息を一緒に吐き出す。
「あいつ、やけに「身を守る」のが仕事だってこだわってたろ。家にいりゃ安全だろうとかも抜かしてたし」
「明らかに必要以上に関わるのを避けてますね」
「ビビってるだけだ。あの娘に入れ込み過ぎて万一何かあったときに、自分へのダメージを最小限にするように」
「自己防衛、ですか」
「トラウマってやつさ。いい加減吹っ切ってもらわねえと困るんだがな」
あの不思議なクラッカーの青年との、電話での会話を思い出す。
「何か、事情があるんですね」
「周りにケツひっぱたかれれば動かざる得ないんだろうが、そうやって荒療治してくのが一番いいのさ」
「こちらとしては、彼女の安全が保障されるなら敢えて問いません。細かい要求も出すつもりもないんで、あとは彼ら同士で話し合ってもらえば」
「過保護なのか放任主義なのかよくわからんな、おまえは」
「馨にも同じようなこと言われました」
「いい機会なんじゃないのか、自立の」
「ですね。奴も俺も、ルナちゃんも」
ここに来て何度もそれを口にしているのは、意識していないと引き戻されそうだからだとわかっていた。俺よりも早くに気付いたあいつは、ルナちゃんから離れることを選んだ。そして今俺も、譲り受けた鳥籠の鍵を手放そうとしている。
「あとは、本当に彼女の身に何も起きないことを祈るだけです。万一、「奴ら」の手が彼女に伸びているとしたら」
「俺たちだけじゃ役者不足になるだろうな。まあそん時はそん時だ。ウチのバカに身を挺してお護りさせるよ」
そろそろ着くころだな と残し、シュウさんは挨拶もせず通話を切ってしまった。やはり彼の潔いまでの切り方は、俺にはとても真似できそうにはない。
リビングへ戻ると、女性二人は声を潜めて何やらくすくすと笑っていた。
「何の話?」
「女同士の内緒話よ」
「俺の悪口でも言ってたわけ」
「貴方の話じゃないわよ」
ねー と、今度は息ぴったりに揃えた彼女たちは、まるでカフェで談笑する女子高生だ。
先のシュウさんの電話からもすでに十分以上経っていたが、インターホンが鳴ることはなかった。相模君の連絡先は知らなかったので、再びルーチェに電話をしたが今度は繋がらなかった。
「そろそろお暇する?」
たびたび席を立つ俺を気にしてか、馨が声をかけてきた。できればこの場で彼と二、三話をしたかったが、これ以上待っても状況は変わりそうになかった。
「じゃあ、あまり無茶しちゃだめだよ」
「何を?」
玄関まで送ってくれたルナちゃんに忠告すると、案の定暢気な返事が返ってきた。あえて目は見なかった。顔を見れば、その内側に隠れた彼女の不安と葛藤までも見えてしまう気がした。
「近いうちに相模君からコンタクトがあると思うけど、もしまた何かトラブったら」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「妹離れできないのは、お兄ちゃんの方みたいね」
バイバイ とルナちゃんと別れたあと、エレベーターの中でも散々馨にブラコン扱いをされた。
「いとこだからbrotherじゃないわね。Cousin complex?」
「本当にあったりしてね、カズコン」
「寂しいんじゃないの?アキトにルナちゃんとられちゃうの」
「かもね。そういう間柄になるかどうかはわからないけど」
「片や淡い憧れがかき消せない乙女ちゃんと、不器用で恋愛経験ほぼゼロのカタブツ男。面白い組み合わせじゃないの」
「さっきの話はそれか」
「当たり前でしょう。女子二人集まれば恋バナ以外何するっていうの」
自らを女子と称する遠慮のなさは、指摘するとただではすまされないので触れないでおいた。
「とりあえず、私は決めたわ。ルナちゃんを応援する」
「本気で言ってるの?」
「当たり前でしょう。貴方には悪いけど、私はまだまだ足を洗うわけにはいかないの」
愛車のキーを片手で弄びながら、馨は不敵に笑って見せる。
「貴方もシンちゃんもどうあっても私を除け者にしたいみたいだけど、こうなったらあの娘を利用してでもなんでも探ってやるわ。「世界の闇」とやらをね」
「結局こうなるのか」
「貴方たちがやりたいようにやるなら、私だって」
「馨」
昔の名残で決して細くはない、だけども華奢な肩に、薄いシャツ越しにそっと触れる。
「頼むから、無謀な真似だけはしないでくれ」
彼女の追い求めているものを知る身としては、止めることはできないのだと悟った。俺にそんな権利などないことも承知の上だった。それでも、みすみす危ない橋を渡らせるわけにはいかない。
「見つける前にもしものことがあったら、元も子もない」
「私の心配もしてくれるのね」
「君も同じだよ。俺にとっては」
「その言葉だけで十分よ」
続きを遮り肩に置いた手をとって降ろすと、ヒールの音を響かせ到着したエントランスに颯爽と向かっていった。扉が閉まる前に、その少し後ろを追った。
この世の中は、どうにも思うようにいかないことだらけだ。緻密に計画をたて、シナリオを描き、いくつものケースをシミュレーションしたって、ハプニングは
いつだって予期せずやってきて、積み上げてきたものを壊していく。
這いつくばるか、流されるか、はたまた乗りこなして操り、愉しむか。
俺に、選ぶ力はあるのか。
同じ血を持つあいつのように。
目の前をまっすぐ歩く、彼女のように。
「あら」
先を歩いていた馨が脚を止めた。その視線の先を追う。
「やあ、来てたんだね」
マンションの壁に背を預けた黒ずくめの青年は、俺の挨拶に小さく顎をひいて応えた。
ごきげんよう、ちゃみです。
策士征景さんが女子二人に手を焼くおはなしでした。
頭の中には綿密な作戦(Operation)を描いているのに、なんやかんやうまくいっているんだけど思い通りにはいってない、そんなもんだよね っていうのを書きたくて書きました。
次回は、ボディガードに任命された背負っちゃってる系男子晃斗くんのお話。果たしてルナちゃんと何かを進展させることはできるのか...
ありがとうございました!!