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~過去と懺悔~

更新がずるずると遅くなる……

しかもわけがわからない……


 「敵だぁぁぁっ! テメエぇら起きろっっ!」

そう言うやジルは腰に下げていた剣を右手で抜きだらりと下に向けたまま前方を睨みつけた。周りでは慌てたようにテントから飛び出してくる音がする。物音が静まるのを確認してから

「馬車を中心に円陣を組めっ! ザークとドンは俺の反対側だっ! レティは円の中心でネオス氏の傍にいろっ! 絶対に離れるなっ!」

戦闘になると人が変わった様に突っ込んでいくレティに釘を刺すと同時に暗闇から周りを取り囲みじりじりと間合いを詰めてくる盗賊達の姿が見え出した。口の端にいやらしい笑みを浮かべている。その間にレティはネオスの腕を取り馬車の方へ下がっていく。賊の中の一人が一歩前へ出て声を上げた。

「ずいぶんと夜目の利く奴がいたもんだな、おかげで奇襲が台無しだ……まぁいい。積荷を置いてさっさと消えなっ!そうすりゃ命だけは見逃してやるっ。あとそこの女も置いてってもらうぜ」

数はこちらの三倍弱……。 その差からか敵には余裕がある。まだ襲ってくる気配がない。その様子を見つめながらジルは右手に握っている抜き身の剣を強く握り締めた。

「……三流が……」

そう呟くと同時に大きい体を前に倒しこみそのまま駆け出していた……






 出発の朝、ジル達は城門の前にいた。そこには出立の最終確認をしているネオス達の姿が慌しく動いている。さすがは大陸屈指の商会といったところか、二頭引きの馬車が五台、荷台には荷物が満載だった。そのほとんどが保存食や衣料品、薬草や薬などだ。これを辺境の村々にばら撒きに行く。供の物は商会の人間が五人、荷物の管理と馬車の運行から普段の雑用まで何でもこなし最低限の自衛も心得ている。それにネオス個人で雇った傭兵が五人。ジルの見立てでは腕は中の上。もともと大陸の方で戦っていたのをネオスに雇われたらしい。それにネオスを入れた十一人にジル達四人、総勢十五名が旅のメンバーだ。この面子でこれからの約二ヶ月の予定の旅程をこなすことになる。


「すげぇ荷物だな……」

仕事の邪魔にならないようにと城壁に背中を預け、頭の後ろに腕を組んでいたジルが呟いた。他の三人もそれぞれに作業を眺めていた。

「運べる荷物は限られています…… いくらあっても足りることはありません…… ですので途中何度か補給しながらになります」

そう言いながらネオスがジルの方に歩いて来た。

「おっ、出立か?」

城壁から背中を離したジルにネオスは聞いた。

「えぇ、準備が整いましたので出立します。 ……しかし本当によろしいのですか?」

「あぁ、構わない。万が一のときは挨拶なしでトンズラさせてもらうし、ただの傭兵にそこまで目くじら立てないだろ?」

「そうだとよろしいのですが……」

まだ心配そうにこちらを見つめるネオスに

「この人は一度言い出したら聞きませんよ。それに……危険に対してはやたら鼻が利きますから心配ないと思います」

ザークが横槍を入れてきた。それを聞いたジルが肩を竦めてみせ

「そういうこった…… んじゃさっさと出発しようぜ」

そういうと城壁に立てかけてあった剣を持って歩き出した。ドンとレティもそれに続く。

「けっして裏切ったりしませんし契約金以上の仕事はできると思いますよ」

ザークはネオスを見てそれだけ言った。それからジルの背中に向かって

「雇い主より先に出発してどこ行くんですかっ!? まったく締まらない人だ……」

そう言ってジルのほうへと歩き出した。振り返ってヘラヘラしながら頭を掻くジルになにやら説教をはじめたザーク達を眺めながらネオスは口元を緩めていた。

「面白い人たちだ……」

一人呟き歩き出した。




 この時代、国とはいっても所詮は点と線だ。街と街。それを繋ぐ街道。メインの街道を旅していても襲われることもある。その程度の治安なのだから街道を外れれば当然危険の度合いは跳ね上がる。昼は盗賊や山賊。名前は違えど結局は襲い殺し奪う。その類が目を光らせ、夜になればなったで今度は狼の群れが動き出す。こちらは火を絶やさなければさほど怖くはないがそれでも飢えた狼は火を見ても襲ってくる場合があるという。当然それらの脅威が辺境の村々へ向くこともある。野党に襲われ地図から消えた村もあるほどだ。いくら小さな村にだって自警団ぐらいはある。それでも数で圧倒されるか、元傭兵などある程度腕の立つ物がいれば自警団など時間稼ぎ位にしかならないだろう。

 そういった危険を冒してまで慈善活動を続けているネオスにジルは興味を持っていた。

旅を始めて三日になる。最初の村まで後一日程の予定だ。ここまではトラブルも襲撃もなく順調といっていいのだろう。今は深夜を過ぎて早朝といっていいぐらいの時間帯だった。辺りはまだ闇に包まれている。ジルは焚き火の番をしていた。ネオス以外の人間が順番に見張り兼火の番を交代でしている。一晩に二人。深夜までと朝までといった具合だ。ジルは炎を見つめながら呆けていた。呆けながらも木の枝を器用に動かし火の調整をしている。空気を入れるため少し持ち上げたり薪木を足したり決して火を絶やさぬように、かといって強くなりすぎないように……。それでいて見るものが見れば背中には一部の隙もない事に気付くだろう。

 東の山々が仄かに青くなり始める頃、後ろから足音が聞こえた。

「年寄りは朝が早いっていうがいくらなんでも早過ぎないかい?」

「流石ですな……」

ネオスは後ろを振り向きもせずに言うジルに少し驚いたようにたじろぎ、それからジルの背中を抜けて焚き火の反対側に腰を下ろした。しばらくは無言のまま炎を見つめていたがおもむろに口を開き話し出した。

「話の成り行きとはいえこんな事になってしまい申し訳ありません…… もともとは私のわがまま以外の何物でもなく、そのうえ多くのものに迷惑を掛けてしまっている。それでいながらこの行いが正しいことなのかどうかもわからないでいる…… 我ながらほとほと呆れます……」

呟くネオスにつまらなそうな顔でジルは答えた。

「どっちを選んでも後悔はついてくる…… だったらあんたの想った通りでいいんじゃないか?その方が後悔しても納得できる。それにあんたの歴史はあんたが語るもんじゃないよ。あんたの息子か孫あたりが語ってくれるだろうさ。素晴らしい行いだったのか、商会の恥と言うべき愚行だったのか、どっちかは知らんがそのころじいさんはあの世だ。だから……関係ないだろ?」

そう言うとジルは無邪気に笑った。ネオスも釣られたように笑顔になり、それからまた真顔に戻ると静かに語りだした。

「おっしゃる通りですな…… 私はこの戦乱でかなりの財産を生み出しました。それこそいろんなものを犠牲にして最優先に儲けを考えていました。家族、親友、商売仲間、時には国すらも騙しひたすら前へ進んできました。当然そのころの事に後悔はありません。私がしなければ他の誰かがしていたことでしょうし、実際そういう人たちを何人も蹴落としてきました。後にその人たちが自殺したと聞いたこともありましたし実際破産し路上で生活している者も見てきました。そういった者達を見ても特に何も感じることもなくただ明日はわが身とだけ心を戒め、前へ前へと走ってきました……」

そこまで言うと一つ溜息をつきさらに続けた。

「息子に跡を譲り、ふと立ち止まってしまったんです…… それがいけなかったんでしょうな。今と過去の風景が見えてしまったんですよ。一部の権力者たちとそれによって気が狂ってしまったような兵士達…… 一部の私利私欲しか考えられなくなった無慈悲で非道な商人達…… それらに踏みにじられてきた、そして今尚踏みにじられている一般の人々。吸い尽くされ破壊された村々。

 一つを目指す者の視野は極端に狭くなるのでしょう…… 私のしてきた事とはいえ全く気付かず、立ち止まってみて初めて見えた風景に愕然としました。それからです、このような事を始めたのは…… きっと心のどこかで少しでも罪滅ぼしになればという気持ちがあったのでしょう。冥土の土産にね」

そういって話を閉じたネオスはどこかすっきりしたようなそんな表情をしていた。

「なぜ俺にそんな話を?」

「なぜでしょうね? ただなんとなく誰かに話したかったのかもしれません…… それにあなたなら全てひっくるめて笑い飛ばしてくれそうな気がしました。それで少しだけでも楽になれるなら…… そんなところでしょうか」

笑顔のネオスに少しだけ困ったような笑顔で答えるジル。

「おれは他人の人生を肯定やら否定なんかできるような大層な人間じゃないよ…… ただ人より多くの後悔を背負っている。それに潰されないような考え方が身についちまった。それだけだ」

それだけいうと二人は黙ったまま炎を見つめた。しばらく薪の爆ぜる音だけが周りを支配する静寂が訪れる。

 そのとき突然ジルはまるで猫科の動物が獲物目掛けて飛び掛るように炎を飛び越えネオスに覆いかぶさった。間髪いれずに風を切る音がわずかに上を通り過ぎていく。舌打ちしながら立ち上がるジルは剣を抜き炎を背に闇を睨んだ。


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