表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

~王と父と~


 リトスが王都に着いたのは戦場を発って3日後の事だった。

「リトス様、王都が見えてきました」

馬車の隣に付き従う兵士が報告してきた。

「はぁ…… やっと着いた…… お尻いたい……」

ただただ馬車に揺られ続けた為、流石に愚痴も出る。


 王都アージェント……。  海岸線にある小高い丘の上に城を頂き背後は断崖。城から半円を描くように街並みが広がっている。街のはずれには港も整備されており倉庫も立ち並んでいる。前途したように航路の中継地点のため様々な人種、物資などが行き交うにぎやかな港町だ。


 走る馬車から顔を出し久しぶりの王都を眺めるリトス。時間はちょうどお昼前。曇天ながらも水平線に浮かぶ綺麗な城と街並みに自然と笑顔を浮かべながら

「昼食の時間の前に王様に報告します。まっすぐにお城に向かってください。私を置いたらみなさんは兵舎に戻り後続の負傷兵の回収。それが終わったら次の指示があるまでゆっくり休んで下さい。 あっ、ちゃんとご飯食べてくださいね」

そう言うと外の兵士は少し心配そうに

「共は必要ありませんか?」

そう訊ねるとリトスは拗ねたように

「一人で平気ですっ!!」

それだけ言って馬車の中に引っ込んでしまった。兵士は苦笑しながら

「了解です」

と言うなり馬車を離れていった。

「もうっ…… みんなして人のこと子ども扱いなんだから……」

馬車の中ではリトスが体育座りでぼやいていた……。






 リトスは城に着くとすぐに王の執務室に向かった。途中、城の窓から中庭が見えた。何気なく眺めてると流石に寒いらしく誰もいない。中央に噴水があり、中庭と呼ぶにはやや広すぎる感は否めないが、春になればそこにある花壇には色とりどりの花々が咲き乱れる。それを管理するおじいさんによって秋までの間、種類を変え、色を変えそれが維持される。

 リトスはその綺麗な景色を眺めながらベンチに座って読書をするのが趣味だった。だがこの季節ではそれも適わず春の訪れを待つことしか出来ないことにため息が零れた。

「リトス、どうした?」

 自然と立ち止まり窓の外を眺めながら呆けていたリトスに後ろから誰かが声を掛けた。突然、声を掛けられた事に驚きながら我に返り振り返る。そこには赤いマントを羽織った初老の男が立っていた。昔は綺麗な金髪だったらしいが今では限りなく白に近い銀色になり、同じ色の髭が口の周りと顎に蓄えられている。目尻は少し下がり深い皺が幾重にも刻まれていた。歳のわりには背筋がまっすぐ伸びてる。目つきは優しく覆っている雰囲気もまた優しかった。

「王様……」

明るい声でそれだけ言うとリトスは王に近づき抱きついた。しばらく抱き合った後、王はリトスの肩に手を置き離れると

「二人のときは父と呼べと言っているだろう?」

そういっていたずらっぽく笑った。

「こんな誰が通るかわからない廊下で呼べるわけないじゃないですか。それと今、報告に伺うところだったんです」

微笑みながら話したリトスに王は

「そうだな……。 一緒に昼食を食べながら報告を聞こう。そのあとに少し休め。せっかくの顔が疲れで台無しだ……」

そういってリトスの頬に優しく手を当てた。

「ありがとうございます。 ……でも大丈夫ですっ! まだまだやれますっ!! それに海賊討伐の指示も出さなきゃいけないし……」

そこまで言うと王は頬に当てていた手で頬をつまみ横に引っ張った。そして浮かべた笑顔をそのままに

「王の命令だ…… わかりましたか?」

「ふぁい…… ふぁかふぃふぁふぃふぁ…… ひぃたひぃでふ…………」

王は満足そうに一つ頷き食堂に向かって歩き出した。

「サラといい王様といい、リトスに対してヒドすぎる……」

引っ張られた頬を擦りながら王に続いて歩き出した。ふと王の背中を見上げた。広くて大きくてやさしい背中……。 悪戯っぽく笑い立ち止まり、周りを見渡し人気のないのを確認すると突然走り出し王の左腕にダイブした。王は落ち着いた様子でリトスを見下ろし微笑んでいた。

「へへへっ…… お父様…………」

そう言いながら腕に頬ずりしながら歩くリトス。二人の姿はまるで本当の親子のように微笑ましいものだった。 






 リトスは歩いていた。立ち並ぶ建物は半壊の物、全壊の物様々で、完全に建ったままの物を探す方が難しいような有様だった。まだ所々で火が燻っているのか煙が立ち昇っている。 道と呼ぶのもおこがましい位に瓦礫が散らばっているため足元に注意しながらでないとなかなか前に進めない。

 (何故だろう微かに見覚えがある…… ずっと昔に見た事がある気がする……)

 そんな事をボンヤリと考えながら歩いていた。ふと目線を前に向けると女の子がしゃがみ込んで啜り泣いていた。近づき頭を撫でながら

「どうしたの?何があったの?」

 と尋ねた。

 自分と同じ栗色のクリクリした髪の毛。その下のぱっちりした大きい瞳を真っ赤にし、涙をボロボロ零しながらようやく聞き取れるぐらいのか細い声で呟いた。

「みんないなくなっちゃったの……

たくさんのへいたいさんがきてみんなをいじめてたの……

わたしはおかあさんにかくされてたから……

でてきたらみんないないの……

おっきいこえでよんだんだよ

けどだれもいないの……

だれもむかえにきてくれないの…………」

「……大変だったね。 でももう大丈夫だよ……」

そう言って優しく、強く抱きしめてあげた。震える肩をさすりしばらくじっとしていると女の子が呟く。

「…………っ」

「えっ、何?」

肩を押さえ優しく少し引き離してからリトスは聞き直した。

「はやくむかえにきてっ!

…………っ!!」

女の子は叫んだ。

大きい声で叫んでいるはずの声がリトスには聞き取れず戸惑った。 次の瞬間、後ろからけたたましい幾つもの蹄の音が聞こえた。振り返るとすぐ後ろに馬の前足が見え、

「危ないっ!」

そう叫びながら女の子を庇いながら地面に伏せていた……。






「リトス様……」

はっと目覚めるとそこは自分の執務室だった。誰かのノックと呼びかけで目が覚めたようだ。

夢と現実の区別がつかず何も答えられなかった。

(そっか…… 王様と食事して…… 部屋に戻ってきて机に向かってすぐ寝ちゃったんだ……)

口から机に垂れ流しになっていた涎を見つめぼんやりとさっきまでの行動を思い出していた。

するとまた扉を叩く音が聞こえ

「リトス様、会議の時間です。王が呼んでくるようにと……」

「わかりました。準備をしてすぐに向かいます。王に伝えてください」

「はっ」

扉の向こうから掛けていく兵士の足音が聞こえた。窓の外はすでに薄暗く夕方近いことをリトスに教えてくれた。

(会議は1時間後って言ってたのに…… 王様が気を使ってくれたのかな……)

口の周りについている涎を拭いながらまだぼんやりする頭でそんなことを考えながら立ち上がり一つ伸びをした。そして両手で自分の頬を二度叩き、部屋に備え付けてある洗面器に水を張り顔を洗った。

(海賊討伐の最後の詰めだからしっかりしないとね……)

数冊の書物と書類を持ち会議室へ向かうリトスの顔にはもうさっきまでの夢の記憶はなかった……。

 先は長いのに……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ