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~鬼畜と泣き虫と~

 戦闘のあった場所から後退し、今はケートを背にし陣を敷いていたガメントス。 その野営地の中、傭兵達は各々にグループを作り焚火を囲んでいた。

「負けたねぇ、惨敗だったね……」

「うむっ。」

 呟くザークにドンが答える。

 焚火を囲むのは十名、全員「隊長」と呼ばれていた男の部下だ。皆が皆、押し黙り場の空気が重い。酒場だと盆と正月が一緒に来たようなドンチャン騒ぎをするような連中なのにこうも暗くなれるものかと呆れるザークは試しに言ってみたのだが、場の空気は更に重くなっただけだった。

答えたドンは丸太の様な筋肉の塊、細目の坊主頭。見た目通り一番前で壁の様に下がらずに戦う男だ。元々寡黙な性格なのか、ほとんど喋らない。たまに喋っては回りを驚かす。

 そんなドンが喋ったのに誰も反応しない。 そんな様子にザークはため息を漏らした。 まぁ空気が重いのは此処だけではなくガメントスの陣全体にいえる事なのだが……。

「しっかし、隊長の勘、あれ人間技じゃないね。まぁあれが無かったら俺らも無事じゃ無かったんだろうけど…… でもあれはもう動物の類だよ完全に」

 そう明るく言うザークに今度は誰も反応を示さず場は重いままだった。

 たっぷり沈黙が続いた後に

「……ケダモノ」

そうレティは呟いた。


 女性でありながら傭兵をしている珍しい部類(皆無ではなく数が少ない)で、腕っ節は強くはないがとにかく器用で何より速い。そしてドンと同じ程度の寡黙さを持っていた。


 そんな彼女が腰程まである長い金髪の毛先を指で弄びながら無表情に、そして退屈そうに言った。 全員顔を上げ一様にレティを見つめ一瞬ポカンとした後、誰かが噴き出しその後大爆笑が起こった。 そんな一連の様子を眺めていたザークはこの二人なりに気を使ったのかな、などと考えながら微笑んでいた。

 そんな時、後ろから隊長が歩いて来た。

「おいおい、誰がケダモノだよ、誰が。お前ら笑いすぎっ」

 そう言いながら隊長が会議から戻って来た。どうやら今後の行動が決まったらしい。

「レティ、それはちょっとひどい。せめて肉食獣ぐらいにしとけ」

 真顔で言う隊長にレティは明後日の方を向いたまま、

「…………鬼畜」

 また爆笑が起こり隊長を茶化すのまで出てきた。

 苦笑しながら肩を竦めてみせてから、ため息一つつき焚火の輪に加わり座り込む。

「……んじゃ報告」

 そう言うとそれまで笑ったりにやけたりしていた連中が真顔に戻った。

 一人一人の目を見てから焚火に目を向け

「戦果は知っての通りだ。敵の追撃がそれほどじゃなかったから被害は思った程でもなかった様だ。しかしワーグナーが戦死した。流石に上は混乱してる」

 そこまで話して炎を眺めながら黙りこむ。


 ワーグナーは王の従兄弟の息子だ。誰にでも優しく、どんな戦でも最前列に出て直接指揮を取り、一般の兵士達にも気さくに話し掛ける様な人物で部下達の信頼に厚かった。

 そのうえ次期王の信頼にも厚く良き補佐役になるだろうと目される程でまだ30を2、3過ぎたばかりだった。 だから余計に陣地全ての士気が落ちているのだ。


 ザークはため息をつきながら

「でしょうね。何せ過去に例の無い戦術、 そしてこの戦のナンバー2の戦死…… それでこれからどうするんですか?」

隊長はまたため息をつき、

「まだ決まってない。上の連中、弔い合戦するか、一度城に戻るかで意見が真っ二つなんだと。どこまで行っても平行線だから一旦休憩。 ってのがラウルの中間報告。全く呑気な連中だねぇ……」


 ラウルとは傭兵隊の大将だ。他にもそれぞれの部隊の大将がおり、そのうえに王族、貴族がいる。


「まっ、悩んでも仕方ないしそろそろ私達は休みましょう。所詮、雇われ。言われた時に言われた事をやるだけ、そうでしょ?」

 ザークがそう言うと隊長は微笑を浮かべながら

「ザーク、金の事以外でもたまにまともな事言うんだな…… ちょっとだけ見直した」

 そういいながらザークの肩に腕を回した。

「だから気持ち悪いですって……」

 本気で気持ち悪そうにザークは言う。


 このザーク、肩位までの癖のある茶髪を後ろで一つにまとめている。童顔で人触りの良さと面倒みの良さで戦闘時以外はほとんど隊の取り纏め役になっている。 隊長もそれを黙認している。


 隊長は苦笑しながら立ち上がり

「まっ、そんな感じで解散って事で。なんか急転あったらザークたたき起こすから休めるうちに休んどけ」

 そう言うと焚火を背にして手をヒラヒラさせながらさっさと歩きだした。

「隊長は?」

ザークが背中に尋ねると

「ラウルん所で寝る。レティは添い寝してくれそうにないし、野郎共と寝る趣味はない」

 それだけ言うとさっさと闇に消えていった。

 ザークは肩をすぼめ

「あの人、本気で寝起き悪いからなぁ……」

そんな事を一人呟き自分に宛がわれたテントに戻るために歩き出した。

 夜空を見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。季節は晩秋。朝晩の冷え込みは厳しくなりつつある。もうすぐ雪も降り出すだろう。ザークは今回の戦いの終了を予感した……










 ザクラスは昼間の戦場に程近い場所に陣を構えていた。

 ガメントスと違いこちらは兵士達が世話しなく働いていた。

 その中に一際大きな幕舎がある。入れ代わり立ち代わり兵士が出入りするそこはクリストファーの執務を執り行う場所だった。そこにサラをともなってリトスが入って来た。

「クリスちゃ『リトスっ!』

っあぅぅぅ……

 ……クリストファー様、一通り指示は終わりました」

 喋り出した瞬間にサラのげんこつ一閃。 サラを涙目で睨み、頭を摩りながら報告するリトス。

サラは不動のまま目を閉じている。

「なんでお前達はそんなに面白いんだ?」

笑いを堪えながら尋ねるクリストファー。

 リトスはふて腐れながら

「面白くありませんっ! それよりも首尾の方は?」

「滞りない。 ……ただ一部の貴族には反対する者もいてね、困ったものだ」

クリストファーが渋い顔で言うと

「無理もないでしょう、ワーグナーを討ったのですからここは一気に攻勢に出るのが常套。まさか引き上げるなんて……」

サラも今回はリトスの護衛として戦闘に参加していないために少しばかり不満げにいう。

「ぶぅ……。だからあまり敵を追い詰めると折れる物も折れなくなりますよ。

崖っぷちの相手は押せば死に物狂いで押し返して来ます。それに今は目の前の敵より海賊の方が優先です。敵の混乱が落ち着く前に撤収した方が被害も出ないしそれに…………」

その後もブツブツ呟いているリトス。両手の人差し指をつんつん合わせながら涙目で俯いている。

「あぁ、わかった。わかってるから、凹むなリトス…… その通りだ。すまなかった」

「わ、私もちょっと言い過ぎた、すまん」

壁に向かって体育座りしだしたリトスを慌てて宥める二人。

 そんな二人をジト目で見つめながらお尻についた埃を払いながら立ち上がり、

「んじゃ予定通り、私は急ぎ王都に戻り海賊討伐の指揮をとります。二人は北と南の街道沿いの町や村を廻って下さい」

 真っ赤な目で二人を交互に見ながら話す。

 サラは短すぎるぐらいに刈り込んである赤い髪を右手で梳きながら

「了解です、リトス。だから涙を拭きなさい」

 そう言いながら今度は右手を皮の鎧の中に入れ白い布を取り出しリトスに差し出す。

「……ありがと」

それを受け取ったリトスは涙を拭き、ついでに鼻もかんだ。

「……っん」

それを綺麗にたたむとおもむろに再びサラに差し出した。

「いらんっ!

返すなら洗って返せっ!」

リトスの頭を手で叩きながら叫んだ。

 そんな様子を椅子に座ったまま頬杖を付きながら

「お前達はホンっトに仲の良い姉妹みたいだな……」

そう呟くクリストファー。

『姉妹じゃないっ!』

 ハモる二人の声を肩を竦めて聞き流し微笑しながら、肩まで伸びたウェーブしている金色の髪をうっとおしいそうに両手で後頭部辺りでまとめながら立ち上がった。

「計画はわかったがリトス、一人で大丈夫か?」

 その髪の色と同じ色の瞳は愛する女性を気遣うような心配げな瞳だった。

 サラに頭を押さえつけられながらも腕を振り回してサラを叩こうと悪戦苦闘していたリトスはその腕を止める事なく、

「子供扱いしないでっ!? っっきゃおぉぉっ!!」

と訳の分からない悲鳴を上げた。当然クリストファーの瞳に気付く事はない。

 溜息を付きながら様子を見てみるとリトスを掴んでいるサラの手は青筋が出る程力が篭っていた。

「下さいはぁぁっあ?」

 リトスは手を振り回すのを止め頭を掴んでいるサラの手を両手で外そうともがいている。さらにサラとリトスの身長差は20センチ近くあり、気が付くとリトスの足は地面を離れ今度は足を振り回していた。

それを見ていたクリストファーはリトスの腕がだらんと落ちるのを見て慌てて

「サラっ! やり過ぎだっ!」

 そう叫ぶのと、リトスが白目を剥き痙攣を始めるのは同時だった……。

『りっ、リトスゥゥゥゥ!?』

 ザクラスの陣内に二人の悲鳴が響き渡った……。


謹賀新年

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