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 少年の名前はファイと言った。

 ファイの案内してくれた宿は、本当にこじんまりとしていて、扉をくぐるとびっくりするぐらい小さなおばあちゃんが出迎えてくれた。

「おやおや、ぼっちゃん。さっそく女の子をひっかけたのかい?」

 くちゃっとした顔でおばあちゃんがいった。そんなおばあちゃんに、ファイはしーっと人差し指を口につけて言った。

「この子は、お忍びでこの街に偵察に来たお姫様だよ。身分が違うから、紳士な俺は手を出したりしない。ばあちゃんも、この事は内緒にしてくれよ。ところで、このお姫様。長旅でお疲れなんだけど、部屋空いてるかな?」

「おやまぁ、勇者様も大変だね。でも残念。お姫様に案内できる部屋は今埋まってしまったよ。どうしようかねぇ」

「あ、あの。何だったら、物置とか納屋とかでもいいですよ」

 屋根があればありがたいし、食事を出してくれれば尚ありがたい。夕食時なのだ。先程から、宿の中には美味しそうな匂いが充満して、鼻をくすぐっている。

 うん、この美味しそうな匂いの食事さえ食べられれば、もう野宿でもいいかも。

 自分でもびっくりなほどの、空腹度合い。

「そうはいかないよ。お姫様。さぁ、勇者様、このお姫様のために、部屋をあけておくれ」

「げ、マジかよ」

「あいにく家には納屋はないけど、きっちんに布団しいて寝てくれればいいよ」

「風邪ひくだろ」

 怒るファイを横目に、それって明暗かもとかちょっと思ってしまう。もちろん、口には出せないけど。それぐらいの慎みは持っています。

「なら、間をとって一緒の部屋に泊まるってどうでしょう。もちろん私は床に寝るよ」

 ここが落としどころだろうと思って言ったら、意外なことにおばあちゃんもファイも渋い顔をしている。五秒くらいして、ようやく私も失敗に気づいた。早くフォローしなければ。

「あの、安心して。私、ファイ君襲わないし」

 二人の顔がますます複雑に歪んだ。今度は十秒待ってもどうしてか分からない。

「……しょうがない。今日だけ俺はキッチンで寝る」

 結局そうなった。

 なんだかちょっと、いや結構申し訳なくなって、『別の宿を探すから』といったけど、もう夜も更けてきたから、今から出ると危ないと止められてしまった。

 で、今はファイ君の泊まっていた部屋のベットに腰をかけてぼんやりとしている。

 ファイ君はここの宿に一ヶ月も泊まっているらしい。

 荷物が沢山あって、今日分の着替えなどはキッチンに持っていったけれど、この部屋には、それ以上に沢山のファイ君の私物が溢れている。

 一か月分の荷物とはとても思えないほど、部屋がファイ君の色に染まっている。

 もちろん、この量を最初から持ち込んだとは考えられないから、ここに泊まり始めてから持ち込んだと予想する。床に広がる大量の本でできたトーテムポール。

 ファイ君はとんでもない読書家だ。ちなみに私はちっとも読書家ではない。


 なんだかとても緊張した。

 なんだかとても、活字に襲われる悪夢を見る予感がした。


 夜が更けて、街の明かりも乏しくなり、部屋のランプも絞ったのだけれど、それでもベットに寝転ばずに、腰をかけているのはそんな訳だったりする。

 どうしたものかと途方にくれていると、がたりと建物が響く音がした。

 草木も眠る時間帯。

 ちょっとした音でも響く、響く。

 あれは扉の開いた音だと当たりをつけて、窓の外に目をやった。

 予想的中。

 遠ざかる姿は、見覚えのある小さい少年の背中。

(……何やってるんだろ、ファイ)

 私はとっても暇だった。活字のお化けは怖いので、明日の朝までがんばろうと決めていたから。

 やることが出来たんだよね。

 この状況がちょっと嬉しいと思ったのは内緒。

 他人の後をつけるって、本当に下衆な行為だよね、とか思いつつ、私はその背を追うことにした。

思い出して続きを書きました。

前回までと整合性が取れてなさそうでちょっと不安;

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