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 逆流する人々は、入り口で係員になにかのカードを提示している。どうやら、あのカードを持っている人は時間外でも図書館を利用できるらしい。どういう理由があるのだろう。興味がわく。

「そんなところで何をしているんだ?」

 硬い声が背後からした。思わずびくりと体が飛び上がってしまった。あわてて振り返るとそこには男の子。わたしより、少し年下ぐらいの。少しつりあがった、群青の瞳がわたしを見上げている。

「ね、あの人たちは、どうして時間外にも図書館に入れるの?」

「なんだ、お前そんなことも知らないのか? あいつらは役人とか学者とか。もちろん役人や学者っていっても、そこらにいる市役所員や大学の教授とは違うぞ。その中でも上の上。各分野のヒエラルキーの頂点にたつ一部の人種だよ。昼と夜じゃ図書館のスタッフだって総入れ替えする。昼間ニゼル図書館で稼動してるのは建物の三割ほど。残りの七割は夜になってから動くんだ」

「じゃ、あの人たちは超エリートってこと?」

「ああ、今のこの世界の中心人物たちが集まる場所って感じだな」

 よく分からないが、すごい場所らしい。というか、この子なんでそんなことに詳しいのだろう。それともグラスヘイムでは常識なのかもしれない。

 その前に、一個引っかかる言葉があったな。

「ね、司書さんとかも昼と夜でいれかわるの?」

「ああ。昼の司書が中ボスなら、夜の司書は隠しボスって感じだな」

 そのたとえは、いまいちよく分からないけど。だとしたら、先程の司書の人が知らない司書は、この夜の図書館に存在するのかもしれない。

「ね、中に入れる?」

「……なんで、中に入りたいんだよ」

「夜の司書だと思われる人に、知り合いがいるの」

「なんで知り合いなのに、情報があやふやなんだ? 怪しいぞ」

「性格には知り合いの知り合い。先日、わたしの先生が亡くなって、その恋人さんがここで司書やってるの。でも、昼間探したら、そんな人はいなかった。で、今の話を聞いて、夜の司書かもってピーンときたのだよ」

「無理だよ。諦めな」

 にべもない一言だった。

「うーん、入り口の人に頼んで呼んでもらうとかでも?」

「無理だ。さっきのたとえで言うと、あの図書館をよる利用する人間がラスボスなら、夜の司書はやっぱり隠しボスだからな」

「ラスボスと隠しボスだとどっちが上なの?」

「レベルの話をしてるなら、隠しボスのほうが上だよ。物語には関係ないけどね」

 難しい。わたしはストーリーゲームはやったことがないんだよね。

「っていうか、この場合『隠し』って言う言葉がやっぱり夜の司書にはぴったりなんだよ。この図書館には、この世界にある、最大級の知識が眠ってるんだ。それを逐一把握している司書は、ある意味化け物だからな。この世界の秘密を握っているといっても過言じゃない。だから、隠れてる。トップシークレットってやつだ」

「なんか、壮大な話になってきたね」

「そうか? 俺は、お前の探している奴は夜の司書だとは思わないぞ。トップシークレットなのに、自分が司書だなんて周囲に話す筈がないんだ。一番可能性があるのはさ、司書はしているが、ニゼル図書館ではない。どっかの地方都市で働いている司書が、見栄をはって嘘をついたってことだな」

 もし夜の司書という存在が、この子のいうとおりなら、その可能性のほうが高いかも。となると、此処まできて飛んだ無駄足だということになる。悲しい。

「うーん。でもその話を聞くと、知り合い云々以前に興味がわいてきた。ちょっと覗くだけでも駄目かな?」

「駄目だよ。違法した場合は刑罰の対象。お姉ちゃんだって、その年で前科もちになりたくないだろ?」

「……脅さないでよ。わかった、おとなしく帰る。……って、そうだわたし宿も探さなきゃ」

 早くしないと野宿することになってしまう。女の子として、それは避けたい。

「なんだ。無知だと思ったら、お姉ちゃん旅行者か」

「田舎者だと思ってバカにしないでよ。これでも第一都市からだから、グラスヘイムと近いもの」

 胸を張ってから、それを中心都市の住民に言った所で田舎者は田舎者だという事実に気がついてしまった。少し、むなしくなる。

「しょうがないな、宿屋のあるところまで案内するよ。もう暗いし、道も危ないから」

「ありがと。紳士だね。でも大丈夫。子供が歩くのも危ない時間だから、場所さえ教えてくれれば自分でいけるよ。わたしは自転車だしね」

「ああ、そういう心配はいらないよ。俺も今は宿に泊まっていて、そこにある空き家を案内するつもりなんだ。質素だけど、掃除が行き届いていて、何より安い。お姉ちゃんは、そういう宿を探してるんじゃない?」

「安い。それは魅力的だな。うん、じゃあ、案内お願い」

「おう。……そういえば、お姉ちゃんが探している人って、なんていう人なんだ?」

「ケイっていう女の人」

「ケイ。ケイか……」

 少年は、手をあごに当てて考え込む。

「心当たりある?」

 藁をもつかむ思いで聞いてみたけど、答えはやっぱりノーだった。残念。

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