(2)
走り出しは、とても気持ちがいい。快調、快調。そもそも道は一本で、迷いようがないし。石畳の道は、郵便局員や交易商や様々な人が行き交っていて賑やかだ。すれ違った馬車から、小さな女の子が手をふっていた。
途中、自転車を止めてお弁当のサンドイッチを頬張る。
美味い。
わたしが余裕ぶっていられたのは、ここまで。途中から、街道はゆっくりとした上り坂となった。流石に息があがり、ペダルを漕ぐ足も重くなってくる。側を駆ける馬車に紐をくくりつけて、引っ張っていって欲しい。
そんな妄想が、思わず脳裏を巡る。やっぱり、辞めて置けばよかったという、後悔とかも。
その頃にはもう三分の二は走っていたから、引き返す事も出来ない。行くっきゃないのだ。
こんちくしょう。
悪態はついたりしるけれど、なんだかんだ言って、わたしは根性がある方だと思う。あくまで、学校の学生内で比較した時の話だけれど。十五の女の子としては、なかなかのものなのだ。
……ホントだよ。
自分を騙してる気もするけど、引き返せないのは現実。わたしは、自転車を漕ぎ続けた。不思議というか、必然だけれど、道の終わりが見えてきた。赤から群青へのグラデーション。星より近く、力強い人の作る灯かり。ゴールだ。胸が高鳴る。
「ゴール!」
思わず声に出してしまった。えへへ、やったぜ。とりあえず、宿を探して、体力を取り戻して、明日朝一で帰る準備を……。
だめじゃん。
その前にやんなきゃいけない事があった。わたしはふらふらとグラスヘイムの中心を目指す。そびえ立つ一際大きな、重厚な建物。世界最古の図書館だ。
遠いとこからでも目立つので、迷わずにたどり着く事が出来た。自転車を置いて中に入る。学校の図書館とは違う。遥かに広い場所だった。人も多いし。とりあえず、一番近いカウンターに座っている、年配の司書に聞いてみる事にした。
「ケイ?いいえ、そういうスタッフはいませんよ」
首を傾げて彼女は言った。
「そんなはずはないです。……司書って、沢山いるんですか?」
「司書自体は、そんなにはいないわ。それに、わたしは此所の責任者なの。だから、知らないスタッフとは考えにくいわ。司書ではないんじゃないかしら。この場所は、いろんな人が出入りするから……」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とすわたしに、女性は気遣うように優しく言った。
「他に、何かその人について、知っている事はある?」
「いいえ」
考えてみれば、顔もよく見た事がなかった。
「そう。力になれなくて、ごめんなさいね。さあ、もう少しで、一般の閲覧時間が終わるわ。もう暗いし、気をつけて帰りなさい」
司書の言う通り、館内放送が流れ、人々は身支度を整え始めた。しょうがない、わたしも出るか。
お礼を言って、外出る。自転車のとこまで行って、再び図書館を振り返る。外へと向かう人と、逆流して中へと入る人。僅かながら、この時間に図書館に吸い込まれる人がいる。
何でだろう。
わたしは、再び自転車を離れて入口へと向かった。