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『我々はこの人生が永遠でないと知っている。それは希望だ。』
これは、今は亡き先生の言葉。
二十八の若さで死んでしまった先生は、沢山の人を悲しませたのだけれど、わたしは葬儀の最中もずっとその事を考えていた。この世界が生まれて五百年あまり。五百年以上前の事は誰も知らない。一説によれば、この世界とは別の世界があったとか。とても似ていて、少し違う世界。その少しの違いがなにかと言うと、『死』という概念、というか『死』自体がなかったのだという。人は、ひたすら生き続け、ある日その世界は終わりを告げた。
その時にはなかった希望が、今はある。そう先生は言った。
本当だろうか。
先生は、こんなに早く死んでしまって、本当にそんな事を信じてたのだろうか。この世界の前の方が、よっぽど良かったのじゃないのかな。だって、死ぬのは怖い。
うん、わたしは怖い。
そう思ったのが一週間前の話だ。
「ね、知ってる?先生の恋人の話」
放課後。人の教室に入るなり、シーシーが言った。彼女の話には、すぐに察しかついた。わたしのクラスでも、その噂で持ちきりだったから。先生の恋人、ケイ。グラスヘイムの図書館司書だ。最古の図書館であるだけでなく、最古の建造物の一つでもあるその図書館に勤めるためには、それはそれは難しい試験にパスしなければいけないという。つまりは、超インテリ。こう言っては何だかとても、あのどんくさい先生の恋人とは思えない。美人だし。
彼女は、葬儀に来ていた。恋人だもの。当然だ。けれど、彼女は涙を流さなかったのだという。恋人なのに。
それが直接の原因かは知らないけれど、彼女は形見分けを断られた。なおかつ、二度と来るなと追い出され、持参した花を捨てられたとか。
そこまで嫌われる恋人とは、一体……。みんな、興味津々なのだ。
わたしだって、もちろん。
さて。
わたしは、気になると居てもたってもいられなくなる性分だ。今回だって、例外ではない。わたしは、ケイという女性に会ってみたくなった。会って、話してみたい。
幸運にも、彼女の職場は割れている。問題は、グラスヘイムまで行くには、ちょっとした小旅行になることだ。時間とお金。どうやって捻出したらいいか。考えどころだな。
交通手段は、考えた末に自転車にした。馬車で移動するほどお金はない。徒歩で移動するには時間がかかりすぎる。自転車なら、レンタルでも高くないし、一日かければ到着する。
再来週、祝日と創立記念日で連休があるのだ。
シーシーにその計画を話すと、大喜びで協力してくれると言ってくれた。本人は、ラクロス部の試合が近くてついて行けないのをとても残念がっていたけど、聞き出した事の真相を全て教えるという条件で、レンタサイクル代を半分持ってくれた。
奨学金で学校に通っているわたしには、とても助かる申し出だった。
「いい、先生と付き合うきっかけも忘れずに聞き出してよ」
「了解」
わたしが、恭しく敬礼してみせると、シーシーはうむうむと大袈裟にうなずいた。夜明けを合図にわたしは自転車をこぎ出した。まっすぐに伸びた一本の道をグラスヘイムへと向かって。