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くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない  作者: 藤烏あや@『ヤンデレ皇王のつがい様』発売中


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第十話

 侍女たちに着替えを手伝ってもらったアイビーは早足で城門前へ向かう。

 歩みを進めるたびに貴族のお忍びですと言わんばかりのワンピースが揺れ、足首が少しくすぐったい。

 普段はパンツスタイルが多く、ドレスすら鬱陶しいと感じてしまうアイビーに、デートだからと張り切る侍女たちを止めるすべはなかった。

 ひとまとめにしていたはずの長い髪も、今は可愛らしく編み込まれている。


(さて、これで魔王がどうなるか、だな)


 城門前に近づけばすでに来ていたライが顔を上げる。

 そして、アイビーの足音に気がついたのかぱっと振り向き――固まった。

 それはもう石像になったかと見紛うほどで、アイビーは喉の奥で笑ってしまった。


「待たせたな」

「……へ? ちょっと待って、全然心の準備できてない」


 どうにか動くようになったライが今度はへたり込みそうになっている。

 しかもアイビーから目を逸らしては戻しを繰り返しており、挙動不審だ。

 そんなライに、アイビーはくつくつと笑う。


「そんなに見たいならちゃんと見ればいいだろう?」

「えっ」

「なんだ、嫌なのか?」


 アイビーが挑発するように首を傾げると、ライの顔がじわじわと赤くなった。

 ライはごくりと喉を鳴らしたあと、ゆっくりとアイビーの服装を確認しはじめる。

 つま先から頭の上まで視線が上りきった瞬間。

 ぽんっと聞き慣れた音がした。


「なんで」


 うわごとのようにライの口から零れた。

 彼は心底青年の姿に戻った意味が理解できないと言わんばかりの表情をしている。

 しかし、困惑するライとは反対にアイビーは内心ほくそ笑んでいた。


(よし、ちゃんと変わったな。あとはこれで何分もつかだ)


 清楚にまとめられたアイビーの装いはライの心を揺さぶるには十分だったようで、見事彼を青年の姿にすることができた。

 自身よりも高くなったライの顔を見上げながらアイビーは手を差し出す。

 きょとんと一拍間があったが、ライがようやく意図に気がついたのか差し出されたアイビーの手を握った。


「エスコート、ちゃんとしてくれよ」

「うん、気が利かなくてごめんね。僕がちゃんと君をエスコートするよ」

「あぁ。頼んだ」

「それと」

「え、ちょっ」


 繋がれた手を引かれ、肩と肩が触れあう。

 ライの肩口にアイビーの頭が当たり、抗議しようと顔を上げる。

 しかし僅かに上がった顎はそれ以上上がらなかった。なぜなら、こぶし一つ分まで近づいたライの顔があったからだ。


「僕のために着飾ってくれてありがとう。すっごく可愛いよ」


 代わる代わる出てくるような賛辞ではなく、じっくり噛み締めるような声色で告げられる。

 身構えていたはずの言葉ではなかったことにアイビーは驚き、目を見開いた。

 ライの頬がやわらぎ、とろける。

 その笑みは今までと同じ完璧な微笑みではなく、社交界で意中の相手と目が合った時のような甘さがあった。

 喉まで出かかった情けない悲鳴はなんとか飲み込み、アイビーは慌ててそっぽを向く。

 そんな仕草ですらくすくすと笑われてしまい、アイビーの頬に熱が集まった。


「いいから早く行こう。デート、なんだろう?」

「もちろん。アイビーの好きな物、嫌いな物、たくさん教えてくれたら嬉しいな」


 恥ずかしさを誤魔化すために口に出した言葉にも律儀に返されてしまう。

 ライと繋いだ手がじんわりと熱を持っているのは気のせいではないはずだ。

 アイビーは繋がれた手に引かれるがまま、城下町へと足を進めた。

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