マリの強心臓〜ミカエル〜
「おい、教室に戻るぞ!」
友人が何かを感じ取ったのか、この場にいるのが居た堪れなくて食器を片付けた。なぜかマリもついて来た。なんでいるんだよ……。
いつもどこからともなく湧いて出てくる。
「なんでマリも来るんだ?」
当たり前のようについてくるマリに僕は言った。
「同じ教室だもの、いいじゃない」
マリは距離を詰めるのが得意なようでクラスの男子生徒とは良好な関係。女子生徒からは少し疎まれている感じがした。
感じ? というか、実際そうなのだろう。普通の令嬢とはまったく違う、気取らない感じがいいという奴もいるけれど、明け透けな感じは好みが分かれるだろうな。
女性の友達ができない。と大声で言っていたが、そんなことを聞けば令嬢たちも相手にしないだろう……
「ミカエルはシャノン様が好きなんでしょう?」
教室に行く間、僕の隣に並んで、マリが言った。
「好きって? そりゃ好きだよ。シャノンは幼馴染で──」
「女性としてってこと! 知っているんだから。切なそうな顔してシャノン様を見ているの! 告白すればいいのに」
僕はシャノンを見てそんな顔をしていたのだろうか? 何をやっているんだろうか……。
「シャノンは殿下と婚約するんだ。僕なんかでは相手にならない」
ましてや告白なんてできっこ無い。し損なったんだよ!
「私はナセル様のこと諦めないからね! だって好きだもん」
「好き、か……」
単なる子爵家の令嬢が、王族を好きだと理由で諦めないとか、心臓に毛でも生えているのか? 僕には考えられない。
「え? 違うの?」
「幼馴染として心配しているだけだ」
このまま思いを引き摺っていても良くない。シャノンは殿下と婚約することが決まっているんだろうから。僕も相手を探すしか無い。政略結婚でも優しくて思いやりのある子だったらいいな。と思った。
「ふーん。面白くない」
ボソッと呟くマリ。何なんだよ!
「おい! 何してるんだ、急げよー。次は移動教室だぞ」
友人に言われ返事をする。
「あぁ。そうだった!」
マリを急がせた。一体こいつはなんなんだ? 人の気持ちを面白くないとか、なんとか。放っておいてほしい。
******
翌日のランチタイムに、窓の外を見ると殿下とシャノンを見た。仲良く歩いている姿をなんとなく目が離せないでいた。
するとシャノンが公爵令嬢に呼ばれて殿下が一人になり、中庭のベンチに腰をかけ、本を取り出し読み始めたところに、目ざとくマリが現れて殿下に声をかけていた。
マリはすごいな……あれだけ殿下に注意をされながらも、物怖じせずに殿下に声をかけているようだ。そこは見習った方がいいのかも知れない。
「何見てるんだ? 面白いものでもあるのか?」
友人に声をかけられた。
「いや、なんでもない。食堂へいこう」
触らぬ神になんとやら……関わってはいけない人種だ。
******
「ナセル様!」
はあ。最悪だ。
「何回も言わせないで下さい。私の名前で呼ぶのは控えるようにと言ったはずですよ」
またこの娘か……いい加減にしてほしい。
「えぇー。だって同じ学園に通っている者同士ですよ。私のことはマリって呼んで下さい!」
「ロルシー嬢はなにか私に用事でもあるんですか?」
「良かったら一緒にランチをしませんか?」
「私には先約があるのです」
「私、料理が趣味でこう見えて結構腕が立つんですよ!」
会話にならない。私は断っているんだ。言葉が通じているのだろうか?
「この場所が好みならばお譲りしましょう。私は失礼しますね」
シャノンとルイズに言いに行こう。ここは危険地帯だと。
「もう! ちゃんとお話は最後まで聞いてください」
「何なんですか、貴女は……?」
しつこい……これは子爵家に抗議だな。そう思った。
「はい! アップルパイです。私が作ったんですよ。リンゴをたくさんいただいたので、作ってみました。ナセル様アップルパイ好きですか? 好きですよね!」
アップルパイは好物だ。私に近づくための口実とは言え流石に容認はできない。貰ったリンゴとはルイズが送りつけたあのリンゴか?
子爵はこの娘にどういう教育をしているのだろうか? マナーの教師をつけることになった。と報告を受けたのだが……
「そうですか。リンゴをたくさん。しかし知らない人が作ったものを、口にするわけにはいきません」
「知らない人だなんて! もうっ! 美味しいのに!」
確かに見た目は美味そうだ。シナモンが入っているのか香りも良い。だが怪しすぎるだろ。なんでこうもリンゴに拘るのか……。まさか毒でも?
「気持ちだけ受け取ります」
「ナセル様はお優しいですよね!」
喧嘩を売るような言い方に聞こえた。振り向くと顎を上げて私を見ている。
「はぁ。なんなんですか、貴女は。良い加減に、」
「だって、小さいころにシャノン様が王宮で賊に襲われたのに──」
「何のことかな?」
この話は一部の者しか知らない。王家に関わるあの件は一切口外出来ない!
「なんでだと思いますかぁ? ふふ。私は異世界から来たんですよ。って言っても記憶だけですけど!」
「異世界……」
私の思考が停止をしていると、勝ち誇った顔をしていた。




