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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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月城家

 廉の家は杏那の住む神城本家の屋敷の隣、月城本家。隣同士といっても双方旧家のため敷地が大変広く、互いの正門からは馬車で十五分ほどのところにある。月城家は杏那が爺やと呼んでいる神城家の執事・月城豪にとっての実家であり、廉は豪の大甥に当たる。剣士の一族として、月城家に生まれたものは男性も女性も幼いころから一族が経営する道場で剣の腕を磨き、王族の軍や国防総院、治安部隊で国の平和を守りながら、代々神城家と助け合ってきたのが一族の歴史である。そして月城家でも選ばれたごく一部の者だけが神城家の太陽の乙女の存在を知り、守る使命を果たしてきた。先代のときにその使命を担ったのが豪、そして当代で本来その使命を担うのは廉なのである。


 廉は水宮家からの帰り道、馬車に揺られながら考えていた。

(あの光景、あの感覚、なんだか覚えがある気がする。いつどこで聞いたんだ?)


 車窓からの景色になんとなく視線を向けながら、さらに考える。そのとき、空を覆っていた雲の隙間から金色に輝く陽光が差し込んだ。その光を見て、廉の思考にふと、ある一冊の絵本が浮かぶ。


(女神を守る剣士の絵本…。そういえばあの絵本の光景に少し似ていた。それに、あの絵本は一族の子女は皆読み聞かされるものだが、他の子たちは女神を王族になぞらえて捉えていた。自分たちは剣士として国を、王族の姫を、民を守るのだと…。でも僕は違った。あの絵本を読んだとき幼いながらに僕の使命だと感じたんだ。でも他に覚えている者がいないあの光景、むやみに話せば僕がおかしいと思われ兼ねない。どうやって確証を得ればいい?あの女性が誰なのかどう調べればいいんだ?)


 廉は少しずつ答えに近づいていたが、慎重に調べる必要性を感じていた。そこで廉は月城家の屋敷に帰るとまずは月城家の歴史が記された書物が保管されている書庫に向かった。


(月城家に代々伝わるあの絵本。一族的な話なら月城家の歴史に何かヒントがあるかもしれない。)


 この時間帯、屋敷は静かだ。土曜日で学校は休みだが、一族の若者のほとんどは道場で剣の腕を磨いている。廉の弟・響も例に漏れず道場に行っている。廉の父は軍部に母は国防総院に所属しており、今日は二人とも仕事のようだ。本来は廉も道場で修行すべきなのだが、通常日中は水宮家で呪術の腕を磨きたいということで、剣術の師匠に頼み込み、剣士としての日課は毎日早朝に終わらせている。廉は必要と感じるものには人一倍頑張れる、真面目で良い子なのだ。


 廉は日が暮れるまで書庫で歴史書を読み漁ったが、肝心な女神に関する記述がない。書庫にあるのは月城家の家系図に王族と月城家との歴史、神城家とのビジネスに関する契約書や交流の歴史、そして例の絵本の原本。

(王族との歴史は普段から聞いているし、神城家との付き合いが長いことも周知の事実。ビジネスで提携しているだけでなく、定期的に婚姻して関係を深めている。)


 月城家は軍や国防総院への所属だけでなく、治安維持に欠かせない武器の製造、物資の輸出入、港湾管理など公務以外にも手広く事業を展開している。神城家には警備員を派遣したり、要人の護衛をしている一方、制服の製造や会食の設定などは神城家に特別価格で対応してもらっている。ビジネス面でも持ちつ持たれつの良い関係を築いてきたのだ。そして定期的に神城家と婚姻し関係強化を図ってきた。


(全く、なんて古いやり方なんだ。両家とも十分にビジネスで成功しているし、すでにこれだけの歴史があるんだから、形式的な婚姻で関係を保とうとする必要なんてないだろうに。なんなら当代では僕がその役目を担うよう勝手に許婚にされている。僕は自分の相手くらい自分で決めたいから少し前から婚約関係の行事は全部欠席しているが。それはそうと、唯一の手掛かりはこの絵本の原本だろうか。)


 廉は絵本の原本を手に取った。紙は古くて黄ばんでいる。ぞんざいに扱えば今にも崩れてしまいそうだ。廉は慎重にその本を調べる。


―『女神の光は人の世を照らす。陽だまりのように温かく優しき光は人々の凍てつく心を溶かし人々を正しき道へ導くのだった。』―


 廉は無意識に絵本の最後の一文を声に出して呟いていた。すると突然、絵本が廉の手を離れ宙に浮き、一人の男の幻影が現れた。端正な顔立ちに長い黒髪を持ち、額と襟のあたりには深紅の大きな丸い宝石のついた金の装飾品を身に着けている。光沢のある黒地に金糸の刺繍のはいった立ち襟の装いは昔の軍服を思わせるも優雅な印象だ。男は廉に話しかけてくる。


『やっと来たか。当代、私の力を受け継ぐのはそなたか。』

男は廉を頭の先からつま先まで品定めをするように見る。

『うむ。しっかり修行を積んできたようだな。良いだろう。』

男は人差し指を廉の額に当てる。廉は何かひんやりとでもどこか温かい不思議な感覚に包まれた。

『あとは当主に聞くがよい。健闘を祈る。』

そう言って幻影は消えた。


呆気にとられた廉はしばらく放心しその場に座り込んでいる。

「今のなに…?」

気づくと絵本は元の位置に収まっていた。まるで自らその場所に返ったように…。

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