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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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想いを馳せて

 杏那たちが白虎の真実を知る一方、あの男も昨晩の光景に想いを馳せていた。


(昨日の光景、まるで女神のようだった。とても眩しかった。光は強く、でもそれでいて一切の嫌悪感を抱く余地もなく温かで、優しくて、陽だまりのように居心地が良かった。あんなに神々しい出来事は初めてだ。ずっと見ていたいほど、ずっとその場にいたいほど居心地が良くて、美しかった。何が起こっているのか分からなかったが、悪いことではないことだけは分かった。一体何が起こっていたんだ?眩しい光の中でなんとか目を開いてみるとあの神秘的な光景が広がっていたわけだが…。呆気に取られていたせいか、体が全く動かなかったな。光の中心にいたのは…僕が追っていた悪しき妖怪と見たこともない美しい女性だ。)


 男はあの時の光景が瞼から離れず、終始何が起こっていたのか記憶を頼りに理解しようと努めていた。そう、この男こそ豪の術で記憶を書き換えられなかった唯一の人物。豪の大甥にあたる月城廉、十六歳である。色白でさらさらの綺麗な茶髪を今日は結わえずおろしている。男らしいというよりはどこか中性的で整った綺麗な顔立ちをしているが、その表情はいつにも増して繊細に思い悩んでいた。


(…すごく綺麗で、いや、綺麗なんて言葉じゃ釣り合わない。もっとこう美しくて神秘的で最上級の美しさを集めて表現したような、とても上品で容易く近づいてはいけないような気高さ…あぁ、どうもあの女性のことばかり考えてしまう。あれほど美しい人間は見たことがない。光の色かすべてが金色に輝いて、まるで彼女自身から後光がさしているようだった。僕の目は追っていた悪しき妖怪よりも彼女にくぎ付けだったな。もはや妖怪の方は姿も思い出せないくらいだ。あの女性からなぜか目を逸らせなかった。すごく尊くて大切な何かを感じたんだ。魂が共鳴するようだった。ただ神々しかったからじゃない。場の雰囲気にのまれたわけでもなく、僕の魂が何かを感じたんだ。あの女性をずっと探していたような気さえしたんだ…。)


「…廉くん、廉くん?」

廉は自分の名を呼ぶ声に、ようやく話しかけられていたことに気付いた。

「は、はい。龍也さん。すみません。」

「はは、大丈夫?昨日帰ってきてからずっと塞ぎ込んでいるみたいだと他の弟子から聞いてね。心配になったから少し様子を見に来たんだ。昨日は残念だったね。」


 廉を心配して来たというこの青年は水宮龍也。陰陽道をはじめとするあらゆる呪術に精通した呪術師一族の次期当主、二十四歳である。背が高くバランスのとれた体格に綺麗な肌、切れ長で真意を悟らせない目を持つ。一見他人を寄せ付けない空気を纏うが、一般的に呪術師と聞いて連想するような陰鬱さはなく、長い黒髪を後ろで一つに結び、清廉な印象を与えている。服装も黒ではなく水色など明るい色が多い。立ち振る舞いも品があり、誰に対しても礼儀正しい。廉が髪を伸ばしているのも龍也への憧れからである。龍也は次期当主だけあって術力も高く、呪術師の世界でも一目を置かれている。実力がある分、あらゆる分野の権威からも重宝され、各界に顔が利くほどである。若くして人脈を築き、複数の弟子を持つ龍也は年齢よりもだいぶ落ち着いて見える。


 廉は豪と同じ剣士の一族の生まれであるが、子どものころに見かけた龍也の術に魅了され、呪術師の見習いとして水宮家に入り浸っていた。今、二人がいるのも水宮家の屋敷の中庭である。年が少し離れているせいか、龍也は廉のことを弟のように気にかけていた。


「ご心配をおかけし申し訳ありません。」

「その様子だとやっぱり昨日のことを考えていたの?」

「はい。せっかく任務を与えていただいたのにお役に立てず申し訳ありませんでした。」


 昨晩、廉が悪しき妖怪を捕えようと追っていたのは龍也から与えられた任務だった。力の強い妖怪がこちらの方角に近づいてきているから、この機会にこれまでの修行の成果を試し、その力の強い妖怪を確保して龍也のところに連れてきてほしい、と。

 龍也は凶暴な妖怪でも呪術によって水宮家に仕えさせることができ、各界から届く様々な依頼の解決などに活用している。人に害を成す悪しきものを捕えて周囲からは感謝されるし、水宮家の手札も増える。龍也にとって一石二鳥なのだ。弟子たちからは荒々しい妖怪さえも従わせるほどの力を持つと崇敬されている。そして従わせるものの中には時に神格や精霊もいるらしいとの噂だ。そして今回は龍也のもとで呪術の修行をしていた廉に初めて任せた任務だったのだ。その任務に失敗して落ち込んでいると思った龍也は廉を励ます。


「仕方ないよ。昨日のことは他の者も気づいたら眠ってしまっていたって言うし。力を試す機会はまたあるから、あまり落ち込まないようにね。」

龍也は他の弟子や術者同様に廉も眠ってしまったと思っているようだったが、廉はあえて否定しなかった。

「ありがとうございます。気持ちを立て直して出直してきます。」

そう言って珍しく廉は足早に家へ帰っていった。


 廉を見送った龍也は独り呟く。

「同じ夢を見ていたなど人為的だな。いずれにしても大層神秘的な力に間違いはないようだ…。」

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