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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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少女の正体

とある大きなお屋敷の一室。ぱっちりとした黒い瞳に真珠のような白い肌、長く艶のある黒髪が印象的な一人の少女が腕に何かを大切そうに抱えている。そう、この少女こそがさきほど山奥で妖怪を浄化した少女、神城杏那、十六歳である。その腕の中には連れ帰った妖怪、白く小さな子猫、いやよく見ると背に縞模様のある白い子虎が抱えられている。2.5mもあった体調は今や50㎝。先ほどまでの悪しき獣の姿の見る影もなくなったその白い子虎は神聖な気を纏い杏那の腕の中で気持ちよさそうに寝息を立てている。


「良かった。これがあなたの本来の姿なのね。」


杏那はそう呟くと子虎をふかふかのベッドに休ませ、子虎の額のあたりをなでる。


「あなたは神力が高いからきっと数日、いえ、明日には元の大きさに戻るかしらね。ゆっくり休むのよ。」


杏那はベッドの横のソファに腰かけ、内心で思った。


(あぁ、なんてかわいらしいのかしら!小さくて白くてふわふわ、幼気な寝顔がなんとも愛らしいわ!もうずっと抱っこしていたいほどかわいい!でも回復のためにはそっとして、ゆっくり休ませてあげないとだめよね。元々神力が強いはずのこの子があれほどの毒気を放つようになってしまったのだから、回復には少し時間がかかるかもしれないわね。回復したら何があったのかちゃんと聞かないと…)


ほどなくして部屋の扉の向こうから声がした。


「お嬢様、紅茶をお持ちしました。」

「はい、どうぞ入って。」


杏那が返事をすると執事兼護衛の月城豪(通称・爺や)と世話係の松崎理世がお茶セットを持って入ってきた。


理世が淹れてくれるのは少女が神力を使ったあとに必ず飲むラベンダーティー。少し薬のような香りがするが、慣れると心地よく、力が充足されるようで少女のお気に入りである。


「杏那様、ラベンダーティーでございます。」


理世がティーカップにラベンダーティーを注ぐと、杏那はカップとソーサーを手に取り、ラベンダーティーを口にした。いつもと変わらぬその様子を確認し豪が話しかける。


「お嬢様、本日もお見事でございました。太陽を思わせる神聖且つ強力な浄化の力。邪気を清め、悪霊と化した霊魂を元の姿に戻すなど正に神の御業でございます。力をお使いになるときの陽だまりのような温かな光、神々しいその光景を目の当たりにでき大変光栄にございました。」


豪は嬉しそうに目を細めながらそう言った。少女は少しだけ頬を染め、内心褒められて嬉しいのだが、平静を装って返事をする。


「爺や、いつものお世辞は不要よ!それより本題よ!」

「はい、ええそうですね。早速本題ですが、あまり人目の多いところで力をお使いになるのはお控えいただきますよう…」

「爺や、そっちじゃないわ。まあ、そっちの話も言われるとは思っていたけど、今日の場合は仕方なくってよ。少しでも遅れれば、あの方にあの子を消されてしまうか取られてしまうところだったのだから。」


普段であればあまり人目の多いところでは力を使わないものの、今回ばかりは致し方なかった。一手でも遅れれば、あの男に消滅させられてしまったか、あの男の実験対象もしくは使役対象となってしまうところだったのだ。


「それで爺や、周りにいた者の記憶は?」

「はい、いつも通り、皆で同じ夢を見ていた、ということになっております。皆おそらく神聖な土地に足を踏み入れたせいとでも解釈したことでしょう。ただ…」


豪が眉尻を下げ少し困惑したように言葉を詰まらせると杏那ははっとして爺やを見上げた。


「あの方の記憶には干渉できなかったのね?」

「おそらくは…。あの場にいた者たちに等しく術をかけましたが、あれだけは。本来は私の力を引き継ぐ者。元々この力への耐性がありますので…」

「私だと気づいたかしら?」

「大変まぶしい光の中でしたし、神力を使われているときは瞳の色も髪の色も変わりますので、太陽の乙女がお嬢様だとは気づいてはいないでしょう。」

「そう。そうよね。まぁ、今隠してもあの方にはいずれ分かることだし…」


杏那はあの方の顔を思い浮かべ、ため息をついた。その瞳はどこを見るでもなく、ただ空を見るようにぼんやりしていた。


(なぜこうも拗れてしまったのかしら…)


杏那の表情を見て豪が言う。

「お嬢様、本日はお疲れでしょう。明日は土曜日で学校もお休みですし、本題については明日の日中に神官を交えてお話することといたしましょう。湯殿の準備もできておりますので、疲れを癒しお休みください。」

「…ええ、そうね。そうしましょう。爺やも理世さんも今日もありがとう。二人もゆっくり休んでね。」

杏那は二人に向かってほほ笑んだ。


豪と理世が下がった後、別のメイドを呼んで屋敷内の湯殿に行こうかと思った杏那だったが、子虎一匹残すのも心配になり、今日は部屋に備え付けられている少々コンパクトなバスルームで済ませることにした。


(部屋のバスルームなら何かあれば気配ですぐに分かるし安心ね。今日は自分専用のバスルームで身を清めることにしましょう。)


少々コンパクトといっても、杏那が十分足を延ばせるバスタブに水圧強めのシャワーにお気に入りのシャンプー、お清め用・お楽しみ用など様々な入浴剤といろいろ揃っているので少女にとっては湯殿とあまり大きくは変わらない。違いと言えばこのタイミングでメイドを呼ぶのも申し訳ないので、自分で準備をしないといけないことぐらいだ。だが、元々大のお風呂好きで自分の部屋にまでお風呂を特別に設置してもらっているくらいなので、杏那は慣れた様子でバスルームを整え、湯浴みを始めた。神力を使った日なのでお清め用入浴剤を入れた湯に浸かり力を回復させながら杏那はあの男のことを考える。


(さっきの話。あの方の記憶は変えられなかった。あの光景をあの方は覚えている。どう思ったかしら…妖怪を追うあの方の瞳、昔の清廉なあの方の本当の感情を抑えているようだったわ。やりたくてやっているというよりは、何かやらないといけない理由があるような…。考え過ぎかなぁ。)


杏那は思いを巡らせたが、良い考えも思い浮かばず、湯から上がることにした。


(考え事をしていたらすっかり長風呂になってしまったわ。あの子はまだ眠ったままかしら。)


杏那は肌触りが良く光沢のある白い生地で、袖口と裾に繊細なレースのあしらわれた上品なナイトウェアに着替えると、子虎の眠っているベッドに腰かけた。


気持ちよさそうに眠る子虎の寝顔を見ていると、杏那の心は癒され次第に不安も消えていった。杏那は子虎に身を寄せて、そのまま眠りについたのだった。

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