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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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罠の気配

 夕刻、月城家当主である仁との面会を終えた廉が本家の屋敷に帰ると、両親が観月祭に向かう準備をしていた。

「廉、今帰ったのか?今日の観月祭にも顔を見せないつもりか?」

「お父様、只今帰りました。はい、観月祭には…。」

「神城家が取り仕切る行事だから行きたくないか。まぁ、無理しなくても良い。」

「……はい。」


 一方、神殿でも観月祭の準備が着々と進められていた。観月祭は収穫を神に感謝する祭事である。満月を愛でながら歌や舞、詩や俳句など収穫を題材にした芸術を神に捧げることで神への感謝を示すのが習わしだ。

 神殿の祭事には王族からも来賓があり、国務に携わる家々からも当主や次期当主、その子女たちなどが招かれる。実は杏那も神殿の巫女の一人として神に祈りを捧げ、舞を舞うことになっている。表向きには太陽の乙女としてではなく、神城家の令嬢として神事に携わっているということになっているが、実際には太陽の乙女として神に祈りを捧げる勤めを果たしているのである。


 神殿の控室には祭事用の装束に身を包んだ杏那の姿があった。白衣に緋袴、その上に千早を羽織った伝統的な巫女装束。千早は鶴の折柄の入った光沢のある素材でできている。長い黒髪も後ろに一つに結わえ、杏那の身支度は完璧に整っていた。すると控室の扉がノックされた。


「杏那?着替えは終わった?入っていい?」

杏那が返事をすると入ってきたのは青年の姿のレオである。レオは杏那の方に歩み寄りながら杏那を褒める。

「杏那、良く似合っている。とても綺麗だよ。でも杏那には巫女装束ではなく、女神の衣の方が似合うだろうな。」

「レオ様、いえ恐れ多いことでございます。」


杏那は綺麗と言われたことに内心で喜び、頬を染めながらも礼儀正しく応じる。

そして気になっていたことを聞いてみる。


「レオ様、今までどちらに?」

「レディの着替えの場にまで立ち会うわけにはいかないからね。神殿の中に怪しい動きをする者がいないか見回っていたんだ。」


(レディだなんて、レオ様ったら。)

杏那は自分をレディとして扱ってくれるレオにまた一つドキッとしながらも返事をする。


「神殿の中に怪しい動き、ですか?」

「一応、念には念を入れてね。」


すると再び扉をノックする音が響く。

「お嬢様、少しよろしいでしょうか?」

今度は豪と理世だ。


「まぁ、杏那様、なんてお美しいお姿でしょう!髪を結わえ、目鼻立ちのはっきりとしたお可愛らしいお顔が際立ちますわ!」

理世は入ってくるなり杏那を褒めると、杏那の隣にいるレオに気づいた。

「あら、お客様がおいででしたのね。大変失礼いたしました。」

そう言って理世はお辞儀をする。


「理世さん、この方は神獣のレオ様なのです。レオ様、こちらは私の世話係をしてくれている松崎理世さん。任務では主に情報収集をしてくださっています。」

杏那に紹介されたレオと理世はお互いに挨拶を交わす。

「はじめまして、理世さん。松崎といえば、有能なスパイの一族ですね。どうぞよろしく。」

「レオ様、お会いできて光栄でございます。まさか人のお姿もお持ちとは思いもよらず、大変驚いておりますわ。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。」

「杏那のおかげですっかり力が回復してね。人間界ではこの姿でいる方が多いんだ。虎の姿でも話はできるんだけど、みんなを怖がらせてしまうからね。」

「さようでございましたか、とても素敵でございますわ。おほほほ…」


「理世さん、そういえば今までどちらに?今朝も姿が見えず何かあったのかと…。」

杏那は昨日話した後から今まで不在をしていた理世に何かあったのか聞いてみた。

「杏那様、ご心配をおかけして申し訳ございませんでしたわ。早速任務に赴いておりましたの。後ほどご報告させていただきますわ。それよりも急ぎお話しなければならないことがございますの。」

理世はそう言うと豪に視線を送った。


「神殿の裏手の森で良くない気が徐々に濃くなっております。妖怪にしても複数いる気配。まずは本日の観月祭が無事に終われば良いのですが、万が一、神殿への侵入や来賓の要人に危害が加えられることがあれば一大事。お嬢様の祈りと舞までに片を付けるには時間も限られておりますし、いかがいたしましょうか。」

豪からの報告にレオは全く驚いていない。

「豪たちも気づいていたんだね。僕もさっき神殿の屋上から眺めた時に見つけたよ。豪の言う通り、良くない気を持った妖怪が三体。でも妙だと思わない?」


(神殿の屋上って人は出られる形になっていなかったと思うけど、レオ様はどう登ったのかしら?)

レオの発言に色々と聞きたいことが浮かんだ杏那だったが、まずは問題に焦点を当てて話をする。


「妙と言いますのは…?」

杏那が隣に立っているレオを見上げるとレオが説明をしてくれる。

「妖怪は単独行動をするのが普通なんだ。良くない気を持つ妖怪が偶然三体も神殿の裏手に集まっているというのは、どこか人為的な感じがするということだよ。」

レオの説明に豪は頷いている。

「ということはその妖怪たちを手引きした人間がいて、タイミングを見計らって神殿を襲わせようとしているということですか?」

「ああ、少なくとも僕はそう考えているよ、杏那。」

「でも何のために?」


杏那の質問に今度は理世が答える。

「杏那様、先ほどまでの任務の途中で耳にしたのですが、先日の一件を再現させようとしている者がいるようなのです。」

「先日の一件?もしかしてレオ様のときのこと?」

「えぇ、おそらくは。“その場に居合わせた者が全員同じ夢を見ていた、そして毒気を放つ妖怪は忽然と消えていた”、この状況に疑問を持った者がいたようなのです。」

理世の言葉に、当時術をかけた本人である豪は腕を組み思考を巡らせている。

「これほど人が集まっているときにわざわざ仕掛けるとは我々の存在に気づいて、真実を明るみに出そうとしているということなのか…?」

「月城様、相手はなんらかの神がかり的な存在が陰で動いているということまでしか気づいていないと思いますわ。もし私たちに気づき、何か目的があるのでしたら、初めからこのように大胆な接触は図らないと思いますの。」

理世が自身の推察を話すと、レオも続く。

「僕のときの一件に、もし何らかの人為的な力が作用したのだとしたら、こんなに大勢いる場で妖怪が暴走すれば、おそらくはあの時と同じ現象が起こるはず、と今回の仕掛け人は考えたということだね。でも妖怪をある意味操れる人物なんて限られているだろう。」


杏那は三人の考察を聞きながら考えを巡らせていた。すると、扉がノックされる音が響く。

「杏那様、ご準備はいかがでしょうか?」

神官で杏那の叔父にあたる周一だ。杏那は三人の顔を見渡し目配せをすると、落ち着いた様子で扉に向かって返事をした。

「叔父様、お入りください。」

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