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打倒魔王

 玲人は自らの衣服を整えていた。

 アイリスはベッドの布団に包まっていた。

 改めて思い返して、つい勢いで玲人と行為に及んでしまったことを若干ながら恥ずかしく思っていた。

 

「あの?玲人君?勘違いはしないでほしいんだけど、私がこんなことお願いするのは、本当に玲人君しかいないから。」

「分かっているよ。」

 

 アイリスとの行為に満足した玲人は晴れ晴れとした笑顔を見せる。

 

「じゃ、俺はそろそろ行くよ。」

「玲人君、もう一つお願いがあるの。」

 

 思いつめた表情でアイリスは言った。

 

「玲人君は、絶対にいなくならないで。」

 

 アイリスの言葉に、玲人は噴き出す。

 

「大丈夫だって。俺はこう見えても強いから。でも、まあ、約束はするよ。」

「うん。」

 

 玲人はアイリスと指切りをした。

 

「じゃあね。」

 

 玲人はアイリスの部屋を後にした。

 


 

 玲人がアイリスの家から出た時には、大分日は傾いていた。

 アイリスの家から少し離れた冒険者協会の前。

 そこでは複数人のギルドメンバーらしき人々が集まっていた。

 

「ほ、本気ですか?アスロさんのギルドでも敵わなかった魔王を討伐しようだなんて。」

 

 若い男性が頼りなさげな声を上げる。

 

「当然だ。彼のギルドが勝てなかったからと言って諦めるようでは冒険者の名折れというもの。」

 

 年齢で言うと三十代程、黒くて長い髪をオールバックにした男性が話す。

 彼がギルド長のようだった。

 

「もしかして、これから魔王を討伐しに行くんですか?それなら、俺も参加して良いですか?」

 

 玲人は彼らによって声をかける。

 

「な、なんだ。これは子供が受けられるようなクエストじゃないんだ。あっち行った、行った。」

 

 ギルドメンバーの男性が玲人を追い払おうとする。

 

「待て。この少年が誰だか分からないか?」

 

 ギルド長が制止する。

 追い払おうとした男性はそこで気付いた。

 

「ま、まさか、冒険者養成学校に最近入った、とんでもないスキルを持ったっていうあの……!?」

「そういうことだ。」

 

 ギルド長は玲人の前に出る。

 

「初にお目にかかる。私はライゼン・ヴァン・テイラー。曲がりなりにもギルド長をやっている。」

「天府玲人です。」

「さて、玲人君。聞いての通り我々はこれより魔王討伐のクエストに向かう。実をいうと、私はアスロさんのギルドにはかつて所属していたことがある。今はこうして独立してギルド長をやっているが、当時は大変世話になった。アスロさんの無念を晴らすためにも、魔王討伐を成功させたいと思っている。君さえよければ是非参加してほしいが、どうだろうか。」

 

 周囲がどよめく。

 

「し、しかしライゼンさん!このクエストはプラチナ級の冒険者か、相当の実績を残しているギルドしか受けられないのですよ!?」

 メンバー数名は納得できないようだった。

 

「ならば話は早い。玲人君。君をこのギルドのメンバーに任命しよう。こう見えても、我々のギルドはそれなりの実績を残しているから、魔王討伐のクエストを受ける資格を有している。」

「ライゼンさん!?」


 メンバー達は驚愕する。

 

「良いんですか?」

 

 玲人も少し困惑する。

 

「構わんよ。人を見る目はあるつもりだ。何にしても、まず君の装備から整えた方が良さそうだ。」

 

 玲人の学校帰りの服装を見たライゼンはそうアドバイスした。

 

「で、ですよね。」

「それと、君はどんなスキルでも使えるのだろう?ならば、君が扱えそうなスキルを数点教えておこう。」

 

 ライゼンはすっかり乗り気だった。

 

「ほ、本当に大丈夫なのかな?」

「さあ?でもギルド長の言うことは何だかんだでうまくいくから。」

 

 メンバー達は不安を拭えなかった。

 


 

 魔王城。

 城の周囲は黒い霧に包まれ、蝙蝠が飛び交う等、いかにもな雰囲気を醸し出していた。

 その雰囲気とは裏腹に、この屋敷に入ったライゼンのギルドメンバー達は今一つ恐怖を感じてはいなかった。

 

「やっぱり凄いな、この剣。軽くて扱いやすいし、切れ味も抜群だ。」

 

 現れた魔王の使い、デーモンを一刀両断し、玲人はその剣の切れ味に感心していた。

 玲人はライゼンに道具屋で武器、防具を新調してもらった。

 青光りする柄の大剣。

 それに、紫色の剣士用の装備はぱっと見では強そうには見えないものの、布地は丈夫で、下手に鎧を着こむよりも防御性能が高かった。

 そもそも玲人自身が敵の攻撃を全く受けていないため、あまり気にする必要もなかった。

 

「なんてことだ、魔王の使いをあんなにあっさりと。」

 

 メンバー達も玲人の実力に気が付き、感嘆する。

 

「さて、この先だ。」

 

 ライゼンは禍々しい巨大な扉を見上げる。

 全員がその扉の前に立つと、扉は中へと誘うかのようにゆっくりと開いた。

 

 室内に入ると、そこは部屋と呼ぶには巨大すぎる空間だった。

 そしてその奥にある大きな玉座には、一人の魔物が座っていた。

 髑髏の顔に二本の角、黒いマントといった風貌で、周囲の魔物とは一線を画す威厳を持っていた。

 

「よくぞここまできた。矮小な人間ども。」

 

 魔物は重々しく口を開く。

 

「あれが、魔王?」

 

 玲人は隣にいたライゼンに尋ねる。

 

「ああ。奴こそが魔王、ランサムだ。」

 

 ライゼンは緊張した面もちで答えた。

 

「そっか。前から聞きたかったんだけどさ。魔王はどうしてこの世界を支配しようとしてるんだ?」

 

 玲人は臆面もなくランサムに聞いた。

 

「人間は我々魔族に劣る貧弱な生き物。そのような者達がこの世界を支配することなど、あってはならぬこと。この世界をあるべき姿に直す。それが我々の目的だ。」

「強ければ何をやってもいいってことか。やっぱり同情の余地なんてないな。退治する。」

「できるものなら、やってみるが良い。」

 

 ランサムが玉座から立ち上がる。

 ギルドメンバーは全員構える。

 

「わが雷を喰らうがいい!」

 

 ランサムが剣を掲げると、空中に光の球が集結し、大量の落雷が発生する。

 

「うわああ!よけられない!」

 

 ギルドメンバー達は迫る落雷に成す術もなく、次々と倒れる。

 しかし、玲人にとっては十分見切れる早さだった。

 ランサムと間合いを詰めると、そのまま剣で切り付けた。


「うぐっ!?」

 

 ランサムも驚愕する。

 

「舐めた真似を!遊びは終わりだ!我が火炎魔術を受けるがいい!」

 

 ランサムは後方に飛び退って息を吸い込むと、玲人めがけて燃え盛る炎を放った。

 

「ファイアウェーブ。」

 

 玲人が手を突き出すと、そこから炎が放たれる。

 炎は見る間に、玲人のスキルで押されていった。

 

「ば、馬鹿な!うおおおお!!」

 

 ランサムは自分の炎と玲人の炎を喰らい、体中炎上する。

 

「す、すごい!あのランサムを一方的に!」

 

 ギルドメンバー達がざわめく。

 

「くそう!図に乗るな!小僧!」

 

 ランサムは魔力を風の力に変換して炎を消し飛ばすと、大剣を抜いて玲人に襲い掛かる。。

 玲人も同じく剣で応戦する。

 ランサムが横に薙ぎ払った剣を跳躍してかわしながら、剣先にエネルギーを集中させた。

 

「オメガブレード!」

 

 エネルギーで巨大になった刃をランサムめがけて振り下ろす。

 ランサムは防御しようとしたが、あえなく剣諸共真っ二つにされた。

 

「こ、この私があああああ!!」

 

 ランサムは断末魔と共に霧のように消滅していった。

 

「やったぞ!魔王を倒した!」

 

 パーティーメンバー達が駆け寄ってくる。

 

「中々の強さだったけど、何とかなったよ。」

 

 玲人は一仕事終えた達成感を感じていた。

 

「謙虚なことを言うのだな、君は。魔王ランサムは歴戦のパーティーが束になってかかっても敵わなかった奴だ。さらには、この街で一番強いはずのアスロのギルドでも敵わなかった。そんな奴をたった一人で倒してしまったんだぞ?」

「そ、そんな凄い奴だったんだ。」

 

 ライゼンの説明で、玲人は改めて魔王討伐がこの世界でどれほど困難なものだったか理解した。

 

「じゃあ、魔王を討伐したなら、これでこの世界は平和になるということですね。」

 

 玲人の問いに、ライゼンは少々迷って言った。

 

「まあ、しばらくはな。ただ、君も知ってるかもしれないが、魔王というのはそもそも人や魔物を問わず、大きな魔力を持ち、数多の魔物を率いて世界に害を為すものの総称だ。よって、ランサムを倒したところで、何らかの手段で大きな魔力を手に入れ、それが邪悪な者なら、新たな魔王となる。」

「そ、そんな!それじゃ魔王を倒しても意味がないじゃないですか!」

「安心するがいい。今回は魔王が強くて大きな被害があっただけ。こんな奴はそうそう生まれはしない。それに、あまりこんなことは言いたくないが、魔王にしても魔物にしても、ある種の必要悪のようなものだ。魔物の存在があるから我々冒険者の活躍の場があり、生活も成り立つ。悪事を肯定するつもりはないが、両者の間には切っても切れぬ関係があるのだよ。」

「そういうものですか。」

「あまり難しく考えるな。今の世界に我々は必要とされている、そう考えればいい。それより、だ。魔王討伐の知らせは明日にでも街に伝わる。君は英雄になれるだろう。」

「は、はい!」


 玲人は英雄と聞いてうきうきしながら、そこでアイリスのことを思い出した。

 


 

 アイリスの家の前。

 玲人が通りかかると、そこには一人の少女の人影があった。

 

「アイリス?」


 玲人は家の前で一人で佇んでいたアイリスを見つけて声をかけた。

 

「玲人君!?」


 アイリスは玲人を見るなり走り寄ってきた。

 

「もしかして、待っててくれたの?」


 玲人が言うと、アイリスは頷く。

 

「ずっと嫌な予感がしてたの。もしかして、お父さんと同じように魔王退治に行って、何かあったんじゃないかって。」


 玲人はちょっと噴き出してしまった。

 

「魔王を退治に行ったっていうのは本当だよ。でもこの通り俺はぴんぴんしてるよ。魔王を倒しちゃったからね。」

「えっ!?」


 玲人が魔王を倒しに行ったこと、そしてアスロでさえも倒せなかった魔王を倒してしまったことにアイリスは目を見張った。


「な、何でそんな危ないことを!?」

「ただ許せなかっただけだよ。アイリスのお父さんを殺して、アイリスにこんな思いをさせている魔王をね。」

 

 次の瞬間、アイリスは玲人に抱き着いた。

 

「アイリス?」

 

 玲人は少し戸惑う。

 

「良かった…!玲人君が無事で…!それに、私なんかのために!」

「アイリス…」

 

 泣きじゃくりながら言葉を発するアイリスの頭を玲人はゆっくりと撫でる。

 

「私、玲人君のこと好き。もし、玲人君が良ければ、私とお付き合いしてください。」

「うん、良いよ。」

 

 アイリスが落ち着くのを少し待ってから、アイリスと玲人はお互いの想いを伝えた。

 そして、そのままゆっくりと目を閉じ、お互いに口づけを交わした。


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