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異世界最強冒険者は希望となるか

 冒険者協会のメンバーが複数人、岩山に向かっていた。

 先に向かったアスロのパーティが予定時間を過ぎても帰還しないため、状況確認に向かったのだった。

 

「いくらアスロさんのギルドが強いっていっても、相手は魔王だろ?時間がかかるのは当たり前じゃないのか?」

「そうだけど、万一のこともあるからなぁ。」

 

 それでも、彼らはアスロ達が魔王を討伐できることを疑ってはいなかった。


「おい、こっちに来てみろ!」

 

 一番先頭を歩いていたメンバーが声を上げる。

 

「おい、こいつはアスロさんのギルドにいたゼオンじゃないか!」

 

 意識を失ったまま河原に流れ着いていたゼオンをメンバーが見つけて駆け寄る。

 

「おい、どうする?」

「状況を説明させるのが先決だ。ポーションでも使ってやれば、口ぐらいは動かせるようになるだろう。」

 

 メンバー達は応急処置だけ済ませて、ゼオンが意識を取り戻すのを待った。

 


 

 アイリスの家。

 アイリスはベッドに腰かけたままじっとしていた。

 

「アイリス?まだ起きてたの?」

 

 アイリスの母親、マリンが心配そうに声をかけた。

 

「うん。お父さんが帰ってくるまで待ってようと思って。」

「そう。あの人も大変よね。こんな時間に魔王討伐だなんて。でも、きっとお父さんなら無事に魔王を討伐して帰ってくるわ。だから、ほどほどにして寝なさい。」

「分かった。そうするわ。」

 

 アイリスはそう答えたものの、きっとベッドに入っても眠れないだろうなと思った。

 そこに、マリンのコールが点滅し、連絡が来たことを知らせる。

 

「はい、もしもし。冒険者協会の方ですか?」

 

 マリンはお辞儀をしながら丁寧に応対した。しかし、


「えっ!?主人が!?それは、本当に……?何かの間違いじゃありませんか!?」

 

 マリンの態度の急変に、アイリスも只事でないと悟った。

 それでも、今はマリンの連絡が終わるのを待つしかなかった。

 

「はい、分かりました。」

 

 やがて、マリンは沈んだ顔でコールの通信を切った。

 

「お母さん!?今の、冒険者協会の人!?お父さんのことで連絡があったんでしょ!?ねえ、何て言ってたの!?」

 

 アイリスは必至でマリンから聞き出そうとする。

 マリンは青い顔で言葉に困っている様子だった。

 やや間を置いて、マリンは絞り出すように言った。

 

「お父さんが魔王討伐で……、亡くなったそうよ。」

 

 やがて消え入るようにマリンはそれだけ呟いた。

 薄々感じていた嫌な予感が的中してしまい、アイリスは言葉を失った。

 


 

 翌日。

 冒険者養成学校に来ていた玲人だったが、その日はアイリスの姿が見えなかった。

 実技の講義も終え、そして術式の座学も終えたところだった。

 

「凄いわね。あんな複雑な術式、どうして解けるの?」

 

 セレアを始めとして、女子生徒数人が玲人を感心した様子で眺めている。

 

「特に勉強したわけでもないんだけど、なんとなく頭の中に式や図形が湧いて出てきてさ。」

 

 術式を使うには、それに対応した魔法の陣形をイメージする必要がある。

 属性、射程距離、威力、方向、それらをイメージすることで調整が可能ではあるが、鮮明にイメージしなければ目的のスキルを発動することはできない。

 高度なスキルになるほど、魔法の陣形も難しくなる。

 

「まあ、こんな術式で良ければ、いつでも教えるよ。」

「こんな術式って、あんたねぇ……、真面目に勉強してる私達にだって解けない難問よ。」

 

 自らの才能に無自覚な玲人に、セレアは呆気にとられる。そこに、

 

「号外!号外だよ!」

 

 一人の黒髪で背の低い少年、クロムが走ってきた。

 冒険者協会の中には、クエストの状況、魔物の情報などを集める専門の部門があり、それに役立つスキルも存在する。

 クロムはその部門を希望していた。

 それだけに、本人は常に最新の情報を仕入れられるよう努力していた。

 

「どうしたの?」

 

 セレアが尋ねると、クロムは息を整えて続けた。

 

「大事件なんだ!魔王の討伐に向かったアスロさんのギルドのパーティーが全滅したそうだ!」

 

 クラス中がどよめく。

 アスロのギルドは冒険者協会が管理するギルドの中でも最高の成果を上げているギルドだった。

 その事実にも驚いたが、セレアは更に気になることがあった。

 

「アスロさんは!?ギルド長のアスロさんはどうなったの!?」

「な、亡くなっていたそうだ。」

 

 その勢いに気圧されながらも、クロムは慎重に言葉を選びながら答えた。

 セレアの顔が青ざめる。

 

「どうしたの?」

 

 ただならない様子のセレアが気になり、玲人が尋ねる。

 

「アスロさんのギルドは、現時点では最強よ。そのパーティーが全滅したっていうのも驚きだけど、そこのギルド長のアスロさんは、アイリスのお父さんなのよ。」

「えっ!?」

 

 ここにきて、玲人はセレアの態度が急変したことも、アイリスが学校に来ない理由も理解できた。

 

「ごめん、俺、先に帰るよ!」

 

 言うが早いか、玲人は荷物を背負うと、すぐに教室を飛び出した。

 

「ちょっと、玲人!?」

 

 セレアが呼び止めようとしたが、玲人は振り返りもしなかった。

 


 

 アイリスは自室のベッドの上に座り込んでいた。

 葬式は既に終わったが、母親のマリンは葬式に出席した親戚や、アスロが世話になった人へ挨拶回りに行っていた。

 アイリスも一緒に行く予定だったが、アイリスが疲れた様子だったので、マリンは一人で行くことにしたのだった。

 

「アイリス!」

 

 玄関の方から声がして、消えていたアイリスの目に光が戻る。

 ゆっくりとベッドから起きて、玄関に向かった。

 アイリスが扉を開けると、その向こうに玲人の顔があった。

 

「アイリス!学校でお父さんのこと聞いたよ。大変だったね。」

 

 玲人はアイリスの顔が見えるや否や、声をかけた。

 

「もしかして、今一人?」

 

 玲人は尋ねるが、それに対してアイリスは否定も肯定もせず、

 

「上がって。」

 

 それだけ言って、玲人を中へと促した。

 玲人が通された部屋はアイリスの部屋だった。

 窓際に一人分の洋服棚があり、その上には植木。

 草花の模様のあるベッドの上には抱き枕らしいぬいぐるみがあった。

 部屋の真ん中の卓袱台には、何も置いていなかった。

 初めて上がる女の子の部屋に、玲人は内心ドキドキしていた。


「ベッドの上、座っていいよ。」


 アイリスに言われるがまま、玲人はアイリスとベッドの端に腰を下ろした。

 

「お葬式はもう終わった?」

「うん。」

 

 玲人は話しかけてみるが、すぐに会話が途切れてしまう。

 ただ、アイリスの訴えかけるような瞳から、玲人にここに留まってほしいことは察せられた。

 

「嘘みたいよね。昨日いつもと同じようにお仕事に行ったお父さんが、もう帰ってこないなんて。」

 

 アイリスは笑って見せようとした。

 しかし、できなかった。

 口に出すことで余計に気持ちが抑えられなくなり、瞳から大粒の涙が零れた。


「アイリス?大丈夫?」

 

 玲人は心配してアイリスに身を寄せる。

 

 涙を手で拭きながら、アイリスは目の前の玲人の首筋に両手を回す。

 彼女がやろうとしていることに気が付いた玲人であったが、そのまま彼女のするがままにしておいた。

 そして、アイリスは玲人の唇にキスを落として、囁いた。

 

「お願い、全部忘れさせて。こんなことお願いできるのは、玲人君しかいないから。」

 

 玲人は優しく微笑んで頷き、アイリスをベッドの上にそっと横たえる。

 そして、彼女に覆いかぶさるようにキスをする。

 先程よりもっと深く、情熱的に。

 それと同時にアイリスの全身を愛撫していく。

 こういった経験は初めてな玲人であったが、本能が教えてくれた。

 やがて、玲人の意図に気付いたアイリスは頬を赤く染めながらも頷く。玲人はゆっくりとアイリスの衣服を脱がしていった。

 


 

 日が傾きかけている中、ゼオンは暗い室内で机の上の紙にしきりにペンを走らせていた。

 もうかれこれ1時間になる。

 

「先立つ不孝をお許しください…いや、違う。両親に読んでもらいたいわけじゃない。弱ったな、これが人生最後に書く文章だと考えると、いい言葉が急に浮かんでこなくなる。」

 

 床には、既にくしゃくしゃになった紙が大量に落ちていた。

 

「いっそのこと、遺書は書かないでもいいか?いや、駄目だ。遺書も書かずに死んだら変死扱いになって、捜査員の人に迷惑だ。」


 ゼオンは再び遺書の作成に取り掛かった。

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